119話 日頃のお礼
「レディウス、次はこのお店に入りましょう!」
「お、おう、わかったから、引っ張るなって」
喫茶店を出た後、色々な店に連れて行かれる俺。ヴィクトリアは物凄い笑顔で、俺の腕をグイグイと引っ張ってくる。
何故こうなったかというと……
◇◇◇
「私にも手伝わせてくれませんか!?」
勢い良く立ち上がり、俺にそう言ってくるヴィクトリア。突然大きな声を出すヴィクトリアに、疎らながらもいた客たちや、従業員たちが、ヴィクトリアを凝視する。
「……レディウス、ダメですか?」
俺が圧倒されて黙っていると、ヴィクトリアは悲しそうな表情で俺を見てくる。
「い、いや、その前に一旦座ったらどうだ? 周りからも……」
「周り?」
ヴィクトリアは俺の言葉にようやく周りを見る。そして周りから注目されている今の状況を理解したヴィクトリアは
「…………ひゃうっ!」
顔を真っ赤にさせて座り込んでしまった。俺はヴィクトリアの代わりに周りの人たちに謝り、ヴィクトリアが落ち着くのを待つ。
ヴィクトリアは少しビクビクしながらも、周りが自分を見ていないのを確認して顔を上げる。普段はあんなに堂々としているのに。何だか面白いな。
「落ち着いたか、ヴィクトリア?」
「は、はい、ご迷惑をおかけしました」
俺の言葉に気まずそうにする。俺は苦笑いしながらも、先ほどのヴィクトリアの質問に対する、答えを言う。
「俺もヴィクトリアに手伝って欲しい」
「えっ!?」
「俺も、ヴィクトリアが側にいてくれたら嬉しいからな」
俺が正直に言うと、ヴィクトリアはへにゃ〜、とにやけた顔をする。そして、俺からそっぽを向いて
「……レディウスが側にいてくれたら嬉しいって……えへ……えへへ〜……」
と、小さい声で何かを呟いているが、俺には聞こえない。笑っているのだけはわかるのだが。そして、自分の中で何か納得したのか、ヴィクトリアは俺の方を向いて
「それじゃあ、買い物に行きましょう!」
突然、物凄い笑顔でそう言い出したのだ。
◇◇◇
「次はこのお店です!」
かなりご機嫌なヴィクトリアに腕を引っ張られて入ったのは、装飾品店だった。中ではガラスケースに宝石の付いたネックレスやイヤリングに、指輪や髪飾りなど、色々なものが揃えられていた。
俺だけなら入りづらい店だが、こう言うお店でも臆する事なく入れる辺り、ヴィクトリアはお嬢様なんだと思ってしまう。
ヴィクトリアは楽しそうにガラスケースに飾られている商品を見ていく。俺もガラスケースを覗き込んで、商品の値段を見て見ると、中々の金額がする。
普通の一般人では厳しいけど、ほんの少し無理をすれば手に届くぐらいの絶妙な金額だ。一般人も何ヶ月か貯めれば買えるぐらいになる。
……よく見れば、このお店のお客は男女のペアが多いな。やっぱり、贈ったりするのだろうか? 俺は少し離れたところでウィンドウショッピングをしているヴィクトリアはを見る。ヴィクトリアにはロナが捕まった時や武器の事で色々とお世話になっているし……
「すみません、店員さん……」
◇◇◇
「すみません、レディウス。私1人で楽しんで、色々なお店に連れ回しちゃって」
俺の隣で恥ずかしそうに笑うヴィクトリア。時刻はもう夕方になりかけており、そろそろ王宮に戻る時間となっている。
「いや、俺もヴィクトリアの楽しそうな顔を見れた嬉しかったよ」
俺がそう言うと、ヴィクトリアはまた恥ずかしそうに顔を俯かせる。可愛いな。帰りは馬車に乗らずに歩いて帰ると、御者には伝えていたので、馬車は無い。俺とヴィクトリアは隣並んで王宮に向かって歩いている。すると
「今日はありがとうございました。私のわがままに付き合って下さって」
と、ヴィクトリアがお礼を言ってきた。
「別に気にするなよ。俺も楽しかったしな」
俺が正直な感想を伝えると、ヴィクトリアはそれは良かったです、と俺に向かって微笑んでくる。夕陽に照らされて輝くヴィクトリアの笑顔は、俺を見惚れさせるには十分な破壊力を持っていた。
「レディウス?」
俺が固まっているのを見て不思議に思ったヴィクトリアはコテンと首を傾ける。それと同時にヴィクトリアの綺麗な髪がゆらりと揺れる。
「わ、悪い。ヴィクトリアが余りにも綺麗で見惚れてしまっていた」
俺がそう言うと、今度はヴィクトリアの方が固まってしまった。顔の色も夕陽に照らされるよりも赤くなっている。
「も、もう、レディウスったら! こんな街中で恥ずかしいですね!」
ヴィクトリアは照れ隠しに俺の腕をバシバシと叩いてから、無言で歩き始める。俺も何も話さないままヴィクトリアの隣を歩く。
俺もヴィクトリアも何も話さない。ただ黙々と王宮まで歩く。だけど、2人の肩は触れそうなほど近くて、この静けさが何気に心地よかった。
そして、歩く事30分ほど。夕陽が沈み切る前に王宮に辿り着いた。俺たちはそのまま王宮の門を潜り、中へと入る。そのまま離宮へ辿り着き、ここで一旦お別れだ。
「レディウス、今日は本当にありがとうございました。レディウスと色々なお店を回れて楽しかったですし、それに……レディウスの夢を聞く事も出来ました」
「ああ、俺もヴィクトリアと一緒に色々な店を回れて楽しかったよ。それでなんだが……」
俺は懐から綺麗に梱包された小さな小包を取り出す。そして、それをヴィクトリアに渡す。
「これは?」
「まあ、開けて見てくれ」
ヴィクトリアは首を傾げながらも、袋を開けると、中から細長い箱が出てくる。ヴィクトリアが無言で俺に確認してくるので頷くと、ヴィクトリアは箱を開ける。そして箱の中身を見たヴィクトリアは
「……えっ?」
と、驚きの声を上げた。そして箱の中から取り出したのは、四つ葉のクローバーにエメラルドが付いたネックレスだった。ヴィクトリアはそのネックレスと俺を交互に見て、目を白黒させる。
俺が装飾品店で、日頃のお礼にと買っておいたのだ。ヴィクトリアに似合いそうな物と思って選んだのだが
「まあ……なんて言うか……その……俺からのお礼だと思ってくれればいい」
何だが恥ずかしいな。俺は照れながらもそう言うと、ヴィクトリアは物凄い笑顔でネックレスを何故か俺に渡してくる。もしかして気に入らなかったとか? そう思ったが、どうやら違うようだ。ヴィクトリアはモジモジとしながら
「あ、あの、レディウス、私の首に付けてくれませんか?」
と、言ってきた。そう言うことか。俺はヴィクトリアの手からネックレスを受け取り、ヴィクトリアに近づく。
ヴィクトリアは髪の毛が邪魔にならないように両手でかきあげ、付けやすいように綺麗な首筋を晒してくる。
俺はゆっくりヴィクトリアの首筋に腕を伸ばして、ネックレスを付ける。目の前には、綺麗なヴィクトリアの顔があった。俺はドキドキしながらもなんとか付け終える。
「で、出来たぞ」
俺が言うと、目を瞑っていたヴィクトリアは目を開けて、胸元にあるネックレスを見る。そして
「ふふ、ありがとうございます、レディウス。大切にしますね!」
花が咲いた様な笑顔で微笑んでくれた。こうして、俺とヴィクトリアとの買い物は幕を閉じた。




