118話 やる事
「……それが、レディウスの目指す……道ですか」
俺の話を黙って聞いてくれていたヴィクトリアは、俺の話が終わると、考え込んでしまった。まあ、少し急過ぎだったかもしれない。
「まあ、俺の夢はそんなところだ。髪の色なんかで差別されない世界を作りたい。ヴィクトリアは無理だ、って笑うか?」
俺は自称気味に尋ねて見ると、ヴィクトリアは真剣な顔をして首を横に振る。
「そんなわけありません。私はレディウスの夢を応援します」
「そうか。それはありがとな」
俺は思わずヴィクトリアにお礼を言ってしまった。ヴィクトリアに真剣に言われたら、自然と出てしまった。すると、ヴィクトリアは再び怖い笑顔になる。
「それで、先ほど奴隷商を見ていた理由をまだ聞いてい無いのですが?」
おっと、そうだった。取り敢えず俺の夢を話してからと思って後回しにしていたら忘れていた。直ぐに話すからその怖い笑顔をやめて欲しい。普通に笑っている方が可愛いから。
「まあ、奴隷商を見ていたのは、今話した夢のためだ」
「? 今話した夢になぜ奴隷が関係あるのですか?」
「まず、領地持ちの貴族には私兵を持つ事を許されているのは知っているよな?」
「それは勿論です。自分が治る領地を魔獣や盗賊などから守れるように王国軍とは別に領地貴族には私兵を持つ事が許されています。ただ、私兵を持つ以上、その私兵は、国ではなく、貴族が個人で雇わなくていけませんが」
ヴィクトリアはこくこくと頷きながら説明してくれる。
「その私兵を俺は領地に戻ったら作ろうと思っている」
「まさか……奴隷で?」
「そりゃあ、募集をかけていい奴が集まれば良いが、大抵のやつは他の貴族に取られているだろう。なら、それ以外で即戦力になりそうなのといえば、奴隷しか無いだろう」
俺の言葉にヴィクトリアは渋い顔をする。おお、何だか新鮮な表情だな。眉間にシワが寄っても可愛い。だけどまあ、ヴィクトリアの気持ちもわかる。
奴隷にも色々な人がいるが、大半が犯罪を犯したか借金で首が回らなくなったかで売られた人が集まるところだ。
食い扶持減らしっていうのもあり得るだろう。兎に角全員が全員犯罪者ってわけでも無い。
「……奴隷商に行く理由はわかりました。しかし、何故私兵を集めるのです? 旧グレモンド領にも兵士がいるはずでは?」
「それだけじゃあ、圧倒的に足り無いし、そいつらじゃあ行く前に逃げてしまうと思うからだ」
「……?」
ヴィクトリアは俺の言った意味がわからずに、可愛らしくコテン、と首を傾ける。
「俺の目的の1つは、大平原の開拓だからな」
「……へっ?」
ガシャンッ!
と、グラスが割れる音がする。音の発生源はヴィクトリアの足下だ。ヴィクトリアは俺の発言に驚いて、飲もうとして手に持っていたティーカップを落としてしまったのだ。
「大丈夫ですか、お客様!?」
「あっ、え、ええ、大丈夫です。すみません、カップを割ってしまって。これをお詫びに」
ヴィクトリアはそう言って持っていた鞄から銀貨を取り出す。従業員はカウンターの方を見ると、そこでこちらの様子を伺っていたダンディーな男の人が頷く。多分この店の店長なのだろう。
従業員はヴィクトリアから銀貨を受け取り、床に散ったティーカップの破片を片付ける。そして、新しい飲み物を持って来てくれると、従業員は別の机へと向かっていった。
「コホン! そ、それで、先ほどのお話は本気なのですか?」
「ああ、本気だ」
大平原
アルバスト王国の南に位置する未開の土地。俺が初めに転移したところ、ケストリア子爵領がアルバスト王国の最南端になり、その向こうが全て大平原になる。
大平原は、魔獣たちの倉庫で、中に入るものを誰彼関係無く襲ってくる。中にはSランク級の魔獣もいるらしい。
その代わり、資源の宝庫でもある。新鮮な水に、沢山の木々から生える食べ物に、全く掘り出されていない鉱物。
それらを狙って各国が兵士を出したりするが、途中で断念してしまう。理由はやはり魔獣が多いに尽きるだろう。その上、大平原にはどの国にも属さない部族がいるらしい。
他の国とは違う独特の文化を形成しているとか。見た目が違うとか。美男美女しかいないとか。色々な噂があるが実際はわからない。
「誰も成し得なかった事をする事が出来れば、俺の目的に近づく事が出来る。そのための私兵であり、奴隷商を見ていた理由だよ」
俺の言葉を聞いたヴィクトリアは下を向いてしまってどの様な表情を浮かべているかわからない。
まあ、突然の話で戸惑っている部分もあるのだろう。俺は自分が頼んだ飲み物、コビーという真っ黒な飲み物を飲む。物凄く苦いのだが、それがまた美味しい飲み物だ。
それを飲んでいると、何かを考えていたヴィクトリアは顔を上げて
「私にも手伝わせてくれませんか!?」




