115話 オークキング(2)
「レディウス、遅くなって悪かったね」
そう言って俺の横に立つのは、アルフレッドだった。だけど
「アルフレッド……顔色が悪いぞ」
そう、アルフレッドの顔色は青くなっており、頰を引きつらせて、冷や汗をかいている。それに自分の剣を握る手も震えていた。
「だ、大丈夫さ。これでも、Cランクの冒険者だから!」
そう言って剣を構えるアルフレッド。全く、無理しやがって。
「アルフレッド、水魔法は使えるか?」
「えっ? あ、ああ、使えるが」
「なら、俺の腕を治してくれ。速く!」
アルフレッドが俺の右腕を治療しようとするのと同時に、オークキングが動き出した。アルフレッドの雷魔法の麻痺が解けたようだ。
そのまま俺とアルフレッド目掛けて走ってくる。アルフレッドは俺を治療しながらも前に立つが、息が荒くなっている。このままじゃ、アルフレッドはやられる。俺の剣は離れたところに落ちているから、取りに行っている暇に、追いつかれるのがオチだ。
どうすれば? そう考えていると、俺たちの後ろから魔法がオークキングに向かって放たれる。
「レディウスにばっか戦わせられるかよ!」
その正体は、ガウェインとビーンズだ。その近くに2人を守るように女冒険者、ロンドル、シャルンが立つ。そして
「私も手伝う」
俺の側にメイリーンがやって来た。俺の剣を持って。メイリーンは骨が折れている俺の右腕に水魔法を使ってくれる。おおっ、アルフレッドとメイリーンのおかげで骨折が治った!
「ありがとう、メイリーン」
「ん」
俺はメイリーンから剣を受け取り右手で持つ。そして
「アルフレッド。お前は魔法で援護をしてくれ」
「だ、だが!」
「その代わりにお前の剣を貸して欲しい」
それでも戦おうとするアルフレッドの言葉に被せるよう、俺はアルフレッドにお願いする。剣一本じゃあ、今の俺だと、オークキングの剣戟に追いつかない。これは俺の実力不足だ。ミストレアさんだったら普通に倒せるんだろうけど。
「……くっ、わかった、レディウス」
アルフレッドから渡された剣を左手で握る。黒剣程ではないが、俺の手に馴染む。この戦いの間だけなら大丈夫だろう。
「くっ、行ったぞレディウス!」
後ろからガウェインの叫び声が。目の前には煩わしそうに魔法を剣で振り払うオークキングが。そして俺目掛けて大剣を振り下ろしてくる。
「アルフレッド、メイリーンと一緒に下がれ!」
俺は2人を下がらせ、左右の剣を構える。ふう、久し振りの感覚だ。思わずにやけてしまう。
「ブルゥア!」
思い切り振り下ろしてくるオークキング。オークキングの大剣を俺は真正面から、剣を交差させて受け止める。剣同士がぶつかる衝撃が周りに広がる。
俺は交差させた剣を
「うぉぉおおおおらぁっ!」
一気に振り上げ、大剣を弾く。オークキングは耐え切れず大きく大剣を上に上がる。俺はそのままガラ空きになった体に回し蹴りを入れる。限界まで纏をした蹴りだ。オークキングの脂肪と筋肉にある程度防がれるが、オークキングにもダメージはある。
「グブォ!?」
オークキングは数歩たたらを踏むだけだが、俺はその内にオークキングに切りかかる。左側の剣で切るが、やはり浅い。まずはこの脂肪と筋肉をどうにかしなければ。
再び振り下ろしてくるオークキングの剣を、左側の剣で逸らし、右側の黒剣でオークキングの腹を切る。オークキングは痛みで少し鳴くが、オークキングからしたらほんのかすり傷。あまり気にした様子もなく、今度は横振りに大剣を振ってくる。
俺はしゃがんで避けて、再びオークキングの腹を切る。そこからは避けては切って避けては切ってを何度も繰り返す。双剣にして手数が増えた分、オークキングに攻撃する回数が増える。本来ならオークキングにはあまり効かない攻撃。だが
「ブ、ブルァ!」
「あ、あいつ……もしかして……」
「ああ、ロンドルが思っている事は俺と同じだと思うぜ」
同じ箇所に何度も攻撃すればどうか。俺は避けては切ってを何度も繰り返し、傷の中心が全て重なるようにオークキングの腹を切って行った。
その結果、オークキングの腹は傷まみれになったが、その中でも特に傷の中心部分が、普通の人が見れば吐き気を催す程のエグさになっている。
オークキングも流石に痛むのか、血が流れる腹を空いている左手で押さえる。ここで初めてオークキングの目が覚めない恐怖に染まる。そして
「ブル、ブララララァァアアア!」
その恐怖を誤魔化すように今までの中で一番大きな声で叫びながら大剣を振り下ろしてきた。俺はその大剣に向かって、真っ向から迎え撃つ。後ろで叫ぶ声が聞こえるが、無視だ。
「烈炎流、龍閃火」
右側の黒剣に俺の限界までの魔力を込めて、下から一気に振り上げる。本来なら大剣はぶつかると弾かれるはずだが、黒剣の元々の能力の魔力を流すほど硬くなるや魔力の浸透率が高い性質を利用して、いつもの倍以上の魔力を流すと、
「ブッ!?」
オークキングの大剣は粉々に砕けた。それも当たり前だろう。オークキングがいつからこの大剣を使っているが知らないが、俺の見た限りただの大剣だ。
その上、手入れもしていないし、血糊も落としておらず、研ぐこともしていないボロボロの大剣をオークキングは力任せに振っていたのだ。大剣には既に限界が来ていたのだろう。
そこに限界まで強度を上げた黒剣をぶつければどうなるか。結果は、俺の目論見通り砕け散った。
俺はそのまま左側の剣を上段から一気に振り下ろす。黒剣は強度を上げるのに力を入れて、左側の剣には刃渡りを魔力で伸ばす。
「二連撃」
防ぐものが無くなったオークキングは両手を交差させて防ごうとするが、限界まで固めた魔力の刃だ。防ぎ切れずに
……ブシャァッ……
腕は切り落とし、体は縦半分で切れる。背中がくっついているため開きみたいになってしまった。
俺はそのまま魔力切れを起こして、後ろに寝転ぶ。物凄い血の匂いがするが、今の俺の感想は
「疲れたぁ〜〜〜〜!!」
これに尽きる。




