100話 仲間でありライバル
「グゥグゥ!」
「ふふ! 久し振りねロポ。元気にしてたかしら?」
目の前には、とても綺麗な女性が立っていました。青空のように透き通るような水色の髪をしており、女性の私でも見惚れるような綺麗な顔。
少し勝気な印象を持ちますが、今ロポさんに向けている笑顔を見ると、とても綺麗です。ロポさんも物凄く嬉しそうに擦り寄っています。
「ええっと、あなたはどなたでしょうか?」
でも、このまま、見ているわけには行きません。とりあえず、誰なのか聞かないと。女の人も、私に気が付いてくれました。
「あっ、ごめんなさいね。久し振りにロポに会ったから嬉しくなっちゃって。私の名前はヘレネー・ラグレスよ。よろしくね」
そう言って見惚れるほど綺麗な笑みを浮かべるヘレネー様。ヘレネー様……って事は、この人がレディウス様の話に出て来た恋仲っていう人なのですね。
……うぅ、エリシア様といい、ヴィクトリア様といい、どうしてレディウス様の周りにはこんな綺麗な人ばかり集まるのでしょうか? 皆さんに比べて私なんか……
「どうしたのよ、あなた? 急に考え込んじゃって」
「あ、い、いいえ、何でも無いです。私の名前はロナと言います。よろしくお願いします」
少し考え込んでしまった私は、ヘレネー様の言葉に現実に戻されます。私も自己紹介をすると、ヘレネー様も笑顔で「よろしくね」と返してくれました。それから、部屋の中をキョロキョロと覗いています。
「どうかされましたか?」
「あっ、いや、そのね? この家がレディウスの住んでいる家だって聞いたものだからさ。ロポもいたしね。今日はレディウスはいないのかしら?」
そう言って少しモジモジとするヘレネー様。そんなお姿は可愛らしいのですが、そんなヘレネー様に私は残酷な報告をしなければなりませんね。
「ヘレネー様。申し訳ないのですが、レディウス様は当分帰ってこないのですよ」
私はレディウス様が不在の理由を説明します。私の説明が進んで行くにつれて、ヘレネー様の表情はどんどん落胆して行きます。私も同じ気持ちなので、その気持ちはわかります。
「なんて運が悪いのかしら……。まさか今日出発しているなんて。……あと1ヶ月は会えないのよね?」
「はい。しかも、これは順調に進んだ状態でなので、もしかしたら伸びるかもしれません」
私の言葉にもっと落ち込みます。話している私自身もなんだか落ち込んで来ましたよ。
「はぁ、絶対昨日の盗賊のせいだわ。あんなところであいつらが襲ってこなかったら間に合ったのに。今からでも、もいであげましょうか?」
そう言うヘレネー様の背には負のオーラが漂っています。こ、怖いです! 私が内心恐怖していますと、ヘレネー様はそれじゃあと言って何処かへ行こうとします。
「へ、ヘレネー様、どちらへ行かれるのですか?」
「ん? 王都でどこか宿を探そうかと思ってね。1ヶ月は待たないといけないんだし。本当はレディウスの家にお世話になろうかと思ったのだけど、いないのに押しかけるのは悪いしね」
そう言って、あはは、と苦笑いをするヘレネー様。そんな事気にしなくても良いのに。
「ヘレネー様、もしよろしければレディウス様が帰ってくるまで一緒にここに住みませんか?」
「え? でも、それは悪いわよ。見ず知らずの私がいたら、あなたも気を使うでしょうし」
「いえ、私は大丈夫です。それに、私だけだと、どうも寂しくて、その……」
「お手洗いに行けなくなっちゃう?」
「お手洗いは行けますぅ!」
私が言い辛くしていると、ヘレネー様がそんな事を言って来ます。さすがの私でも1人でもお手洗いぐらい行けます! ……ロポさんがいるのを確認してからですけど。
「ふふ、ごめんなさいね。それならお言葉に甘えようかしら。私も離れてからのレディウスの事を聞きたいし」
「私も、出会う前のレディウス様の話を聞きたいです!」
それからは、2人で王都に買い物に行きました。ヘレネー様は最近の流行を知りたいらしいです。でも、私もあまりそういう事には疎いのでわからないと話したら、物凄く駄目出しされました。
ヘレネー様曰く、男に好かれたいのならまず自分を磨かないといけないらしいです。……これは、私がレディウス様の事を好きなのがバレていますね。
でも、ヘレネー様は良いのでしょうか? レディウス様と引っ付く人が増えても。聞いてみたいけど、聞き辛いですね。
それから、色々なお店を回って小物を買ったり、服を買ったりします。ヘレネー様は綺麗なので何を着ても似合いますね。私も色々と着させてもらいましたが、なんだか着せられているような気がしてなりません。ヘレネー様は可愛いと褒めてくれますが。
服屋でヘレネー様と私と、それぞれ何着か服を買ってから店を出ます。ま、まさか、あんな下着があったなんて……。スケスケで殆ど隠して無かったですぅ。
でも、ヘレネー様が買うので、私も負けたくないと思って買ってしまいました。うぅ、着る日は来るのでしょうか。
それから、2人でご飯の食材を買いに行きます。ヘレネー様が、家に泊めてくれるお礼に手料理を振舞ってくれるそうです。そういえば、レディウス様がヘレネー様はお料理が得意だと言っていましたね。私はまだまだですから羨ましいです。
途中、変な男たちに絡まれる事はありましたが、ヘレネー様が1発で倒していましたね。さすがです!
家に帰ってくれば、ヘレネー様が自分のエプロンを着て調理を始めます。私もお手伝いをしましたが、あまりお役に立てませんでした。
夕食どきでしたので丁度ガラナさんが今日はどうするかと、訪ねて来てくださったので、ヘレネー様がガラナさんとマリアナさんの分も作ってくださいました。
ガラナさんとマリアナさんもいらっしゃって4人で食べたのですが、とても美味しいです。私も見習わなければ。
それから、レディウス様の昔の話を聞きました。ヘレネー様の口から出て来るレディウス様の話は、私の知らない事ばかりで、とても新鮮です。
特に、昔はレディウス様も弱かったという話には私もガラナさんたちも驚いていました。昔はゴブリンからも逃げていたと聞いてもあまり信じられませんね。私たちは強いレディウス様しか知りませんから。
それからも、色々な話を聞かせてもらい、ガラナさんたちは家に帰りました。今は私とヘレネー様だけです。2人で食器を片付けていると、ヘレネー様が
「ロナ。あなたもレディウスの事が好きなのでしょ?」
と、聞いて来ました。私は驚きのあまり手が止まってしまいます。気付いているとは思っていましたが、まさか、聞かれるとは思っていませんでした。私が反応に困っていると
「ふふ、そう不安そうな顔をしないでよ。別に駄目ってわけじゃ無いのよ。この国も一夫多妻は認められているしね。ただ、あなたの口からどう思っているか聞きたくてね」
そして、真剣な表情で私を見るヘレネー様。
「私はレディウス様の事が大好きです。愛しています。あの人のためなら私はなんでもします」
そう聞かれれば、私はすぐに答えられます。この気持ちだけは変わりませんから。私の即答に呆気にとられるヘレネー様。だけど、次にはニヤリと肉食獣のような笑みを浮かべて来ます。
「ふふ。それなら、私たちはこれからレディウスを思う仲間で、レディウスを狙うライバルね。私はもう抱いてもらっているけど、それがアドバンテージだとは思わないわ。だから、真剣にレディウスに愛してもらえるように努力するわ」
「わ、私も負けません! レディウス様を思う気持ちは誰にも負けないつもりですから! しょ、勝負です、ヘレネー様!」
「ええ、勝負よロナ。それから私に様はつけなくて良いわ。これからは対等になるのだから」
「わかりました、ヘレネーさん!」
そして、私とヘレネーさんは握手を交わします。ロポさんも私達を見てぽむぽむと手を叩いてくれます。ヘレネーさん、絶対に負けませんからね!




