8話 不死者の王(仮) 其の1
とある魔国の領地内。
広大な敷地を抱える屋敷で有る出来事が起きていた。
荘厳な調度品が並ぶ部屋。
人を寄せ付けない程の瘴気が立ち込める室内。
薄暗く光るランプの灯に照らされ、
一人の少女と初老の男が思案に暮れている。
「また、300を超える被害が出たと言うのか?」
「は!
調査中ではありますが、
これで4日目になる事から協定破りは確実かと…」
「愚かな事だ…
自分達が何をしているのか理解しているのか?
あれでは封印が解けてしまう!
協定を結んだのは高々5代前の王とだぞ」
苦虫を噛み潰したように表情を歪める少女。
それに付き添う初老の男も一応に同じ顔をする。
事は重大な局面を迎えていた。
400年余り続いた協定は破られ、
かの封印は解かれようとしている。
不死者の王の復活が目前に迫っていた。
レクオーナ大陸を震撼させた恐怖の大帝。
当時の魔王が恐れた存在。
神王国を敗走させた化物。
レクオーナの神獣を相手に互角にわたり合い、
敗れはしたものの神獣が死ぬ原因を植え付けた規格外。
そう、彼奴は存在そのものが規格外なのだ、
それを復活させようなどと… 人間め!!!
「恐れながら、ネロ様。
かの者が復活を遂げた所で、
400年の封印が、かの者を衰えさせているかと。
何を恐れる事がありましょう?」
「お前は彼奴が封印されてから生まれた存在だから知らんのだ!
奴の恐ろしさを…」
ネロと呼ばれた少女は恐怖で顔を歪めながら反論した。
そして、
「知らん!」
「へ?」
ネロの突飛な発言に初老の男性が驚いた。
「もう知らん!
私は知らん、何も見ていない!
いいな!ケルネス!」
開き直りともとれるネロの発言に、
ケルネスと呼ばれた男は呆けて声が出せなかった。
ネロがこの様な痴態を晒す事はケルネスが仕えてこの方見た事が無い。
強さのみで立場が決まる、この魔国において今や魔王の次に偉いとされているネロ様が…
それは、有り得ない光景だった。
しかし、私もこの国で生き抜いてきた身!
全力でその意見に賛同しますぞ!!!
「は!
おっしゃる通りで!
してネロ様、我々は何を悩んでいたのですかな?」
「さーな」
「ですな」
ネロとケルネスが仲良く無かった事にした、この事案。
勿論、トールとナナシが知る由もない。
レクオーナ大陸での物語が始まりを迎えようとしていた。
:設定:
補足説明。
●魔国と神王国について
前作で名前が出ただけの国です。
双方、この世の三大地獄と呼ばれており、
人間が住める環境ではありません。
魔国が魔族が暮らす国。
神王国が悪神が住まう国。
とされています。
勿論、国力は他の国と比べて強大であり、
人間の国を飲みこむ機会を伺っています。
●神獣について
この世界には規格外の化物が住んでいます。
それらを総じて神獣と呼んでいます。
前作に登場したクフェルメキアがその1柱に当たります。
その咆哮は島を消しとばし、森を砂漠化させました。
もはや存在そのものが天災であり、
各国、神獣を刺激しない様に距離を置いています。
●地理について
今作の舞台になっているレクオーナ大陸は、
前作の大陸とは別の大陸です。
世界には4つの大きな大陸があり、
前作の大陸とレクオーナ大陸は、
この4つの中に入っています。
位置的には前作の大陸が東。
レクオーナ大陸が西になります。
大きな大陸の他にも島国が存在しています。