4話 友達との初めての狩
お金。
僕は今、無一文。
そして、ナナシさんも無一文。
賊の襲撃から逃れたばかりなのだ、仕方ない。
ナナシさんとの共同生活を開始するにあたり、
先立つものはやはり必要。
両親を探す為にもお金は必要。
そして、買い戻す為にお金は必要不可欠だった。
お金を稼ぐ必要があるのだ。
街に出て。
仕事を探し。
働いて、お金を稼ぐ。
考えるのは簡単だけど、経験が無い。
どうすればいいのだろうか?
ナナシさんを見る。
欠伸をしながら歩くその姿からは、
今後を心配している様には見えない。
先行きに不安が過る。
「何処へ向かってるんですか?」
「真っすぐ適当」
「…」
返答に呆気にとられる。
目的があって歩き出したんじゃないのか?
「街に行って情報を…」
「地理が分からん」
村の周辺を出た事が無い僕も地理など知らない。
ナナシさんを非難する事は出来なかった。
「そのうち道に出るさ。疲れたら言え」
「大丈夫です!」
僕の反応が意外だったのか、
ナナシさんは驚いた顔をする。
「こう見えて鍛えてますから!」
自信たっぷりに言い放つ。
僕はステイタスに自信があった。
村人の平均レベルが15である中、何と僕はレベル17。
家の手伝いをこなし、山を走り回り。
そして、偶に遭遇する魔物や魔獣を倒して周った。
僕は力こぶを作りナナシさんにみせる。
ナナシさんはそれを突っ突き、まだまだだなと笑う。
そして、
「トール、ステイタスを見せてくれないか?」
そんな事を言ってきた。
他人にステイタスを見せる事は可能だ。
でも、身内に見せるほど簡単ではない。
普段の状態で他人のステイタスを見る事は出来ない。
もちろん例外は有るらしいが。
他人にステイタスを見せるには自身の許可が必要。
そして、それはその人に対する信頼の証でもある。
ゴクリ…
試されてるのかな… 友達として…
少し躊躇われるが、意を決してナナシにステイタスを開示した。
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トール 13歳 男 人間
レベル:17
HP :110/110
MP :176/176
筋力 :31
体力 :55
敏捷 :97
魔力 :88
耐久 :22
耐性 :64
魔法 :ライト
称号 :村人
特性 :孤高 獣語使い
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:魔法:
ライト
「光属性。低級魔法。辺りを照らす光源を創る。
また、属性弱点の敵にダメージを与える」
:特性:
孤高 「単独行動時、ステイタス向上」
獣語使い「獣の言語を理解できる」
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ナナシさんが固まり動かない。
僕のステイタスに何か問題があるのだろうか?
「如何したんですか?ナナシさん」
「良いステイタスだ。
何と言うか… RPGをしている気分になれる。
トールは魔法型か。良いよな、そういうの…」
ナナシさんがいじけて、地面に指で何かを描き始めた。
『の』何て読むんだろ?不思議な模様だ。
僕はハッと気付く。
そういえばナナシさんのステイタスを見せて貰っていない。
「あの…」
「なんだよ、トール」
重い声音。
見せて下さいと言える空気じゃない。
何を怒っているのか分からないが、
見せて貰うのは次の機会にした方がようさそうだった。
暫く歩き続けると、ナナシさんが音を上げる。
少し休もうと提案し、僕達は足を止める事にした。
ナナシさんの言う通り、森を真っすぐに突き進み、そして今も森の中。
あてもない旅がここまで疲れるとは思わなかった。
まだ一日も経っていない。
こんな考えで村を出るなどと、
かなり甘ったれた思考をしていた事に気付いた。
でも、帰る場所はもう存在しないのだ。
心細い。
もし、ここにナナシさんが居なかったらと思うと、、、
僕はこれから頑張って行けるのだろうか…
「おい、トール」
「はい!」
「静かにしろ!」
急な呼びかけに、甲高く反応。
それを窘められ、理不尽さを感じる。
でも、ナナシさんの表情を確認し現状を理解した。
ナナシさんが辺りを見渡している。
森の影から大きな魔獣が姿を現す。
人の形を取りながら顔は狼。
人狼がこちらを睨み威嚇しながら唾をたらしていた。
周りからは小型のウルフが顔を出す。
僕は知っている。
人狼の討伐推奨レベルは30。
ウルフは10だ。
しかし、こちらから分かるだけでも数頭存在していた。
こちらはナナシさんと二人。
絶望的な状況だった。
自分の体が冷たくなるのを感じる。
相手にライトの魔法は効かない。
つまり僕は丸腰。
ナナシさんも武装していない。
ウルフ達が唸る。
まるで僕の旅の終了を告げる様に。
逃げ出したい。
でも動けば、襲い掛かってくる。
彼らの唸りが告げている。
「逃げれば噛み殺す!」と。
体が震えて言う事を聞かなかった。
ぽん!
頭に手が置かれる。
ナナシさんの手。
大きなそして温かい手。
体に体温が戻る気がした。
「おい、トール。
固まってないで動け!
小さいのはトールに任せる。
俺はあのデカいのをやる」
頼もしい言葉だった。
心に灯がともる。
そうだ、僕は一人じゃない。
頼もしい友達がいるんだ!
ウルフに向き直る。
そして声を大に言ってやった。
「お前らの皮全て貰う!」
僕の言葉にナナシさんがズコー!
と体勢を崩すような仕草をした。
仕方ないでしょ、お金がいるのです。
しかし、ウルフ達は、
その言葉と迫力を理解したのか少し委縮した。
その隙をつき、前方のウルフを殴り飛ばす。
手に走る痛みを無視して、近くにいる別のウルフを蹴り上げた。
近くに落ちている太めの枝を拾う。
それを突進して来たウルフの眼に突き刺した。
血飛沫が飛ぶ。
ウルフは大きく痙攣をおこし絶命した。
周りからその光景を観たウルフが怯えだす。
しかし、奥に控える人狼の一吠えで戦意を保った。
人狼が物凄い速度で僕に近づく。
まずい、そう思った。
人狼は大きな鉤爪で僕を真っ二つに…
その瞬間、
僕と人狼の間に人影が走る。
ナナシさん?
ナナシさんは僕の代わりに吹き飛ばされ、引き裂かれた。
生々しい血痕が鉤爪を彩る。
「ナナシさ―――――ん!」
絶叫が森に響き渡る。
人狼は僕からナナシさんへ目標を変えると、
倒れて動かないナナシさんの下へと駆けた。
そして大きな口を開けナナシさんを…
クシャ!
不快な音が響く。
一瞬の出来事だった。
人狼の頭部が吹き飛んでいる。
血飛沫をまき散らし、そして巨躯は倒れた。
一人の男が立ち上がる。
その光景にウルフ達が動揺を示す。
何故なら無傷のナナシさんがそこに立っていたからだ。
「トール!
折角の獲物だ、逃がすなよ!」
僕の心配をよそに、ナナシさんが叫ぶ。
「はい!」
元気のいい僕の返事が、
そこに響いた。
楽しい。
友達と狩りをするのは、
こんなにも楽しい事なんだ。
僕のウルフ狩りが始まる。
この時、僕は気付いていなかった。
人狼を倒して以降、ナナシさんが働いていない事に。
その事に気づいたのは、
ナナシさんがウルフの肉を不味いと言いながら焼いて食べているのを観た時だ。
友達との狩を楽しんでいた筈が…
まあいいさ、
一人の狩だって楽しい。
僕の眼に一粒の涙が光っていた。