3話 その日、少年に…
―――パチ―ン!
「おきろ!」
頬に走る痛みで目が覚める。
そして、意識の焦点が合いはじめ…
「父さーーーん!」
「はーい、パパですよ」
僕の叫びに、
黒ずくめの男がやる気なさげにそんな事をほざいた。
辺りを見渡す、そこに両親は居ない。
そして、村人も。
ここはレノアですらない。
ただの森の中。
近くにたき火が焚かれていた跡があり、
ここで一晩過ごした事を告げている。
そして胡散臭い男が一人、僕を覗き込んでいた。
「大丈夫か?」
「父さん達は?」
「おいおい、質問を質問で返すな。
俺はお前の心配をしてるんだぞ」
優しい声で答えが返る。
「ごめんなさい。
でも、お父さんを」
「でも、でも、でも。
ガキはこれだから困る。
お前の体の方が大切だ。
とりあえず落ち着くまでそこに座ってろ」
お道化た感じで頭を揺らしながら話す男。
手際よくたき火を点けなおした。
「何か食うか?」
「いえ」
「そうか」
この人は事情を知っている。
何とか聞きだして先に進まないといけない。
そんな風に思考しながら黒ずくめの男を見詰めていると、
僕が自身を観ている事に気付いたのか、
男は重い口を開いた。
「お前の親だけどな。あきらめろ」
全てが終わる音が聞こえた。
「お前の村はもうない。
あの賊に火を点けられてな、全て燃えた」
「村人達は?」
「全てだ。
お前を助ける為に俺も必死だった」
涙が自然に溢れ出す。
あれだけ出て行くかを悩んだ村なのに、
無くなった事を聞くと涙が止まらない。
もう、あそこには帰れない。
その事実が、胸を締め付けた。
父さん達も燃えたのか?
その事が気になった。
「父さん達も?」
男が顔を振る。
「分からん。
逃げるのに必死でそこまでは…」
少しの希望が胸に沸く。
「さっきも言ったがあきらめろ。
火の手を逃れても賊の手の中だ。
その先は奴隷か殺されるかだ。
期待するだけ…」
男が僕の顔を観ていた。
涙を目に溜めた僕の顔を。
「これだからガキは困る…」
そう言い残し、
男は泣き止むまで静かに待ってくれた。
僕が泣き止むと男がたき火に土をかける。
そして僕の隣に腰を下ろした。
「前にも言ったが、君と話がしたい。
それに、これからの話もある」
体がびくりと震えた。
両親を失った僕に行く当てなどない。
僕の今後がここで決まる。
「はい、僕も話がしたいです」
「よかった」
僕の返答にそれだけを語ると、
優しくニカっと微笑んだ。
「最初に言っておく。
俺たちは対等だ。だから遠慮はするな。
ただし、調子に乗って対等だと言う事は忘れてくれるな」
何が言いたいのか意味が解らない。
とりあえず僕達は対等と言う事らしい。
「実はお前の両親から逃げる前にお前を任されてる、
俺も了承した。つまり俺はお前の新しいパパだ」
「え?」
突飛すぎて話についていけない。
でも話がおかしいのは解る。
「パパ?」
「そう、パパだ」
「無理です」
「…。
ああ、君の、意見だ、、、そうだな。。。」
僕のきっぱりとした拒絶に。
明らかな動揺を示した。
「ちなみに、何が無理なんだ?」
そんな事を聞いてくる。
「僕にはまだ両親がいます。
まだ父さん達は死んでません!」
「ああ、そうだな」
その言葉に納得した様子の男。
動揺は薄れた様だ。
「顔が無理とかじゃなくてよかったよ。
そうか、まだあきらめてないか。
では、これではどうだ?
兄弟!
うんしっくりくる。
イケメンの兄貴だ。
女の子にもポイント高いぞ」
「その、僕から、、提案をよろしいですか?」
「何だ兄弟!」
人懐っこい返答に戸惑う僕。
男は僕との関係を決めたいらしい。
ならば、一番似合う関係が有る筈だ!
顔が熱くなる。
汗が流れだして止まらない。
「ぼ、ぼこの、、、、」
噛んでしまった。
男は目を丸くしてこちらを見詰めている。
言うなら今しかない。
そして、
「僕の友達になってください!!」
言えた。
言ってやった。
男の顔が観れない。
俯いて待機する。
返答は? まさか…NO?
さっき拒否した事を思い出す。
そして昨日拒否した事も…
図々しすぎる…
顔が青くなり。絶望が心を支配した。
男の沈黙の長さが不吉な返答を予感させる。
僕は選択を… 間違えたのか?
ぽん!
そんな音が頭で響いた。
頭に大きな手が乗っている。
とても暖かくとても頼りがいのありそうな温もり、
まるで父さんに頭を撫でられたような心地よさがそこにはあった。
「いいぜ兄弟。
これから俺たちは」
涙が溢れる。
「友達だ!」「友達です!」
誰も居ない森の中、
僕達の声が重なり響いた。
それはきっと誰にも届かない。
でも、僕の心に響き続けた。
父さん、僕に初めての友達が出来ました!
とても頼りになる友達です!
僕は彼と…
そういえば名前を聞いていなかった!
「あの!貴方のお名前は?」
「ああ、そうだった!俺はナナシだ」
「僕はトールと言います!」
「そうか、トール良い名前だ」
「な、、なしさん!」
感極まって再び噛んでしまう。
それをナナシさんは笑って流した。
何かこう言うのってすごく良い!!
僕がそう興奮しているとナナシさんが話し掛けてくる。
「ところでトール!
物は相談何だが…」
とても言いにくそうにその後を渋るナナシさん。
僕なら何でも頑張ります!!
眼を輝かせながらナナシさんを見た。
ナナシさんも照れ臭そうに笑う。
そして…
「金かしてくれ。
今、手持ちが無くてな。
連れが後で返すから!」
時が止まる… 僕の時が。
父さんから聞いた事がある。
金をせがむ奴には気を付けろと。
しかも、自分で返すのではなく、連れが返す???
父さん、僕の初めての友達は、、
どうやらとんでもないクズのようです…