1話 胡散臭い出会いは突然に
僕の名前はトール。
僕は今、一つの事実に絶望していた。
お恥ずかしい話…
僕には友達がいないのだ。
遊ぶ友達。語らう友達。学び合う友達。
競い合う友達。
そんな友達がいないのだ。
それに気付いたのは、
旅の行商隊が連れていた子供達を観た時。
彼らはお互いを友達と呼び合い、楽しそうに遊んでいた。
そう、とても楽しそうに。
僕は、そこに入っていく事が出来なかった。
どう話しかければ仲間に加えてくれるのか?
どう接すれば友達と呼んでくれるのか?
僕にその知識はない。
いつも一人で遊んでいたからだ。
そして、その答えが出る事はなかった。
声を掛ける前に行商隊は僕の村から去って行った。
その日から… 僕の孤独が始まった。
僕の暮らす村は、
レクオーナ大陸西部に連なる山脈に隠れてひっそりと存在している山村レノアだ。
ここは長閑な村と言えば聞こえは良いが、要するに何もない村である。
放牧して育てた家畜を主な収入源として何とかやってきた村だ。
でも今は働き手と呼べる若者がいない。
皆、街へと去って行き、そして僕と両親だけが残った。
そんな事もあり、僕は村で大切に育てられた。
恐らく、この村最後の働き手として…
村近くの山山頂付近。
そこは大岩がいくつも肩を並べ合っている。
その一つが僕のお気に入りの場所で、
そこに腰を下ろし見渡せる絶景を眺めながら、
物思いに耽るのが最近の日課になっている。
考えるのはいつも一つ。
これからの事だ。
このまま村で暮すのか?
それとも村を出て行くのか?
何故出て行くのか? それは、友達が… ほしいから。
でも、村人達への恩が僕にはある。
いつも答えは出なかった。
考えるだけ無駄だと最近は思うようになっていた。
僕には勇気が無い。
勇気があったとしても、僕の肩を押してくれる人はいないのだから…
「やあ、少年。
お悩みの所、申す訳ないのだが…
俺と一つ話をしないか?」
どこから現れたのか…
そこに黒ずくめの男が立っていた。
そいつは胡散臭いオーラを纏いこちらを見下ろしている。
まるで僕を値踏みするような視線。
「人攫い!」
「おいおい、人聞きの悪い!
俺はただの通りすがりだ」
胡散臭い男は僕の怯えを悟り、
宥めるように言い聞かせる。
「先ほども言ったが、
君と話がしたい。
君の悩みを聞くから、
俺の悩みも聞いてほしい…
それだけさ」
「結構です」
きっぱりと断りを入れる。
知らない人に声を掛けられたら逃げろと両親に言われていた。
僕は踵を返し男から離れる。
「おい、まて、頼むって!」
後ろから聞こえる声を無視して突き進む。
すると、
「すいませんでした。調子に乗りました。
だから、置いて行かないで…」
何とその男は僕に泣きながら縋り付いてきたのです。
情けなく鼻水をたらし、眼には大粒の涙が溢れ続けている。
こんな奴に何を相談しろと…
「おじさんこそ、お悩みのようですね(棒)」
「おいまて、俺はまだお兄さんだ!」
確かにまだ若い。
顔はカッコいいかもしれない。
でも胡散臭かった。
「僕を攫いませんか?」
「勿論」
質問への即答。
そしてその真剣な眼差しに僕は…
その言葉を信じてみる事にしました。
「色々誤解があったようだが、
何というか… すまない」
照れ臭そうに語る黒い男。
先ほどまでの涙はもうない。
「久しぶりに人に会ってな。
なんか話をしてみたくなったんだ」
「僕は忙しいので、早く本題をお願いします」
何かを語り始めた男に本題を迫る。
少し語調が強かっただろうか?
黒い男が呆れたような顔をした。
「おまえ、それじゃあ友達が出来ないぞ」
図星だった。
僕には友達がいない…
男を睨み付ける。
「おいおい、睨むなよ!
図星か?」
「…」
その沈黙に男が納得する。
そして何かを察した顔をした。
「あー、なんだ、
お前を馬鹿にするつもりはなかった」
改まった声音で言い直される言葉。
そして男が意を決したように語りだす。
「もしあれだったら…
俺がなってやるよ!おまえの友達に!!」
満面のドヤ顔。
そして差し出される手。
それに僕は、
「結構です!」
突っぱねてしまった。
最高のチャンスをふいにした。
目に涙がたまる。
恥ずかしくなり、僕は男をおいて逃げ出した。
村の方角へ一目散。
男に後をつけられる可能性も考えず。
僕は逃げ出していた。
その方角で、
運命が動き出す事も知らずに…
その日、僕は出会った。
問答無用で僕を動かす存在と。