陰謀
2001年9月18日
大日本帝国に於ける海底油田プラント奪還作戦から一夜明けた。アメリカ合衆国は相変わらず大日本帝国とロシア連邦への非難を続けると共に、テロ実行犯のアーカイダが潜伏するアフガニスタンに対して犯人の引き渡しを求めた。アフガニスタンへの犯人引き渡し勧告は米州機構(OAS)と北大西洋条約機構(NATO)、欧州連合(EU)も名を連ねた。それだけに留まらず米州機構は米州相互援助条約に基づいてテロは米州全体への攻撃として、北大西洋条約機構とオーストラリアはテロは北大西洋条約第5条と太平洋安全保障条約第4条に当たるとして自衛権を発動した。国際連合では安全保障理事会も総会も招集されていないにも関わらず、アメリカ合衆国のみの意向で全てが進んでいる事に亜細亜・アフリカ・中東諸国は非難を強めた。
この事態に大日本帝国は緊急総会の招集を亜細亜条約機構(ATO)に要請した。議決内容は亜細亜条約第2条の適用についてであった。もしこれが議決されれば、亜細亜条約機構も自衛権を発動する事になる。
午後15時
大日本帝国帝都首相官邸2階執務室
度重なる会議の合間を縫って、大泉麗子総理大臣と神崎春馬I3長官は2人での密談を行っていた。
「長官、大丈夫でしょうね?」
「全力を挙げて工作を行っております。大阪と油田プラントの犯人がアーカイダでは無く、我々の自作自演だったとは気付かれる事はありません。」
神崎I3長官は自信満々に言い切った。
「それなら大丈夫ね。」
大泉総理は笑顔を見せながら応えた。
2人の会話は驚くべきものであった。大日本帝国で起きたテロ事件はI3が工作したものだったのだ。
事の発端は9月13日にアメリカ合衆国が行った日露非難声明にある。
アメリカ合衆国の非難声明にヨーロッパと南米は同調し日露への非難を強めた。大日本帝国はすぐ様にアーカイダに対しては一切支援していないと反論した。ロシア連邦や亜細亜・アフリカ・中東も同調し、日露への濡れ衣に抗議した。これにより世界は冷戦以来再び二分された。
翌14日も留まることのない非難合戦に、対応策を話し合う為に大泉総理は緊急閣議を招集した。その休憩時間中に神崎I3長官が妙案があると話し掛けてきたのである。それがテロの自作自演であった。提案された大泉総理は一蹴しようとした。
しかし神崎I3長官は説得を始めた。この自作自演により帝国も被害者だと訴えられる事、アメリカ合衆国が帝国をテロ支援国家だと言うのは再び戦争を仕掛けてくる準備段階である事、その時の為に亜細亜条約機構やアフリカ・中東各国の支持を取り付けておく事、6年前の地下鉄サリン事件実行犯であるカルト集団をテロ実行犯として名前を利用出来る事、そうするとアメリカ合衆国のテロとの戦いに協力せずにすむ事、等を複数あげて大泉総理を説得した。
何点か質問をした大泉総理は暫く考えると、神崎I3長官の案を採用する事になった。最後に大泉総理はこの自作自演工作は2人だけの秘密にする事、最悪の場合は2人とも腹を切る事を迫った。もとより其の覚悟であった神崎I3長官は大日本帝国初の女性総理の覚悟に感銘を受けた。
その後2人は閣議に戻り、休憩前と何ら変わりない雰囲気を醸し出した。しかし神崎I3長官は本部に連絡を入れて、工作活動の実施を伝えていた。13日にアメリカ合衆国が行った非難声明の後には既に、自作自演工作活動の計画は練られており、実行を待つだけであった。自作自演の工作活動を行う事を決めた為に、緊急閣議は翌日の再開という形をとった。
そして翌15日に大阪にて大規模テロが勃発。爆弾テロという形を取ったが、通天閣を爆発倒壊させる大規模なものとなった。この一連の自作自演によるテロで通天閣の展望台にいた観光客と、倒壊に巻き込まれた周辺の建物内にいた人物合わせて、300人以上が死亡し500人以上が負傷した。あまりも被害が大きい自作自演工作となったが、大泉総理と神崎I3長官は全てを受け入れた。
大阪での大規模テロ発生に大日本帝国全土が騒然とした。大泉総理は緊急閣議を招集し、敗戦後2度目となる戒厳令を発令した。敗戦後初の戒厳令は僅か6年前の地下鉄サリン事件である。世界初の化学兵器を使用した無差別テロであった地下鉄サリン事件に於いて、発生後に時の大日本帝国政府は戒厳令を発令した。
緊急閣議ではテロ実行犯の早急な逮捕と、テロには断固として屈しない事で一致した。そして緊急閣議後に行われた緊急記者会見で大泉総理はテロとの戦いを宣言。世界各国に連携するように訴えた。亜細亜・アフリカ・中東各国は支持を表明したが、アメリカ合衆国はテロは自作自演と非難した。大泉総理と神崎I3長官には冷や汗ものであったが、予定通りアメリカ合衆国への徹底した反論を行った。あまりにも激しい非難の応酬となり、戦争前夜の様相を呈した。
事態を憂いた大泉総理と神崎I3長官は密談を行い、更に自作自演工作を行う事になった。そんな中で立案されたのが尖閣諸島沖海底油田プラント占拠事件という自作自演テロである。油田プラント占拠の実行犯はI3の工作員で行う事になったが、何時までも重要な油田プラントを稼働停止にしておけない。速やかな奪還作戦を行い再稼働させる必要があった。そこで大泉総理は榊原宏明国防大臣と宮本隆司軍令部総長を呼び、海軍特務陸戦隊を奪還作戦として利用する事を伝えた。その中で当然ながら大阪でのテロが自作自演だという事が伝えられた。
衝撃の事実に榊原国防大臣と宮本軍令部総長は驚いた。大日本帝国史上最悪のテロが自作自演であり、それを命じた人物が目の前にいるのである。呆然とする2人に神埼I3長官は説明を行った。被害が大き過ぎる自作自演だが、2人は何とか事態を受け入れた。
海底油田プラント占拠とそれに付随する奪還作戦はすぐ様計画された。奪還作戦を実行する海軍特殊部隊特務陸戦隊の隊員には誓約書を求められた。しかも輸送する海軍連合艦隊の攻撃型原潜には事情は説明され無い為、本当の奪還作戦だと思い込ませる事になる。
翌16日にはI3の工作員と特務陸戦隊に秘密命令が伝えられ、一連の陰謀は始動した。この作戦を実行する本人達には大阪のテロが自作自演とは伝えられていない為、疑問を口にする者もいた。それも考慮され大泉総理の訓示として、国民に更なる危機感を抱かさせる為に必要な自作自演であると伝えられた。特務陸戦隊の実行部隊はあまり納得出来る理由では無かったが、誓約書を書くと粛々と作戦を実行する事にした。
そして9月17日、予定通りI3の工作員が海底油田プラントを占拠。職員を目隠しして1箇所に集めた。首相官邸では緊急閣議が招集され計画通り、特務陸戦隊を派遣して奪還作戦が実行される事になった。攻撃型原潜の新回天で海底油田プラントに送り込まれた特務陸戦隊は、作戦通り人質を救出し空砲弾倉を装填しての形だけの銃撃戦で犯人を制圧。奪還を首相官邸に伝えた。海底油田プラント占拠事件は大泉総理と神崎I3長官の計画通り結末を迎えたのである。
「今回の一連のテロ実行犯としての生贄は用意出来たの?」
「はい。かねてより危険人物として監視を続けておりました人物が数名います。それらをカルト集団の残党であるとして逮捕させます。作戦は立案中ですので数日以内に実行出来る筈です。」
大泉総理の質問に神崎I3長官は答えた。
「頼んだわよ。」
大泉総理はそう言うと不敵な笑みを浮かべた。