アラモ式国防術
ロシア連邦陸軍総司令官と総指揮官の連絡が途絶えた理由。それは核爆発であった。
『あまりにも突然連絡が途絶えた為に、状況確認は後手に回った。総指揮官は空軍に対して73式偵察機火龍改の出撃を要請し、ロシア連邦陸軍とインド陸軍部隊の『玄武部隊』の状況確認を行う事にした。インド陸軍部隊も連絡が取れず、総指揮官の天幕は騒然としていた。そんな中で総指揮官は私に近付いてくると小声で語り掛けてくれた。「最悪の事態を覚悟しないといけませんね。」その言葉に私は自分の感じた胸騒ぎが間違って無かった事に驚いた。しかしこのままではいけないと思い、口を開いた。「大日本帝国には古くから言霊の霊力が存在しています。発した言葉通りの結果が表れる事が多いです。結果が分かるまで、口にしないようにしましょう。」私は民間人の作家として出来る限り、深刻な状態にならないようにしようとした。それを察知してくれたのか総指揮官は笑みを浮かべ、「そうですね」と答えてくれた。
その時担当士官が、73式偵察機火龍改からの映像が入ったと伝えてくれた。その映像に総指揮官の天幕は凍り付いた。巨大なきのこ雲が何本も出現していたのである。』
広瀬由梨絵著
『新世紀日米戦争』より一部抜粋
アメリカ合衆国自国領内で核攻撃。この衝撃的なニュースは世界中に駆け巡った。アメリカ西岸連邦首都ロサンゼルスへの核攻撃も、アメリカ合衆国から分離独立した地域である為にかつての自国領内ではあるが、世界はアメリカ西岸連邦の独立を承認している為に完全な外国として扱っていた。その為にロシア連邦陸軍とインド陸軍の『玄武部隊』が攻略した、オハイオ州コロンバス近郊のアパラチア山脈防衛線での核攻撃に世界中が衝撃を受けた。
この核攻撃は大統領による直接命令で実行された。アパラチア山脈防衛線が全線で攻略されたのは、即座にホワイトハウスにいる大統領へと伝えられた。そこで大統領は最後の一撃として、敵に打撃を与える事を命令した。その命令を受けた国防長官以下の軍首脳陣は、航空機搭載のB83核爆弾を使用する事を提案した。もはやアメリカ合衆国最後の核攻撃手段であった。ICBMも戦略型原子力潜水艦も攻撃型原子力潜水艦も、ありとあらゆる手段が失われていた。B83核爆弾なら空軍のF-15とF-16に搭載出来る為に、唯一核攻撃が可能であった。それを聞いた大統領は即座に核攻撃を了承し、空軍に出撃を命令した。
その命令は空軍に下され4機のF-15に500キロトンに設定された、B83核爆弾が搭載された。出撃したF-15は核攻撃だけを目的にしていた為に、最大速度で飛行しオハイオ州コロンバス近郊へと向かった。そして目的地に到達した4機のF-15はB83核爆弾を投下。500キロトンの核爆弾4発の核爆発は、ロシア連邦陸軍とインド陸軍の『玄武部隊』を消滅させたのであった。
ロシア連邦陸軍とインド陸軍の『玄武部隊』が核攻撃により消滅したとの連絡は、大日本帝国帝都東京首相官邸にも届いた。危機管理センターで作戦の進捗を見守っていた大泉総理には衝撃であった。この戦争が始まってから驚く事が多いな、そう心の中で感じた大泉総理だが対応に追われた。
ロシア連邦陸軍とインド陸軍の部隊が完全に消滅したのである。ロシア連邦陸軍は20個師団でインド陸軍は25個師団もの人員が消え去ったのだ。戦争に協力してもらったばかりに、取り返しのつかない大損害を両国に与えてしまった。大泉総理は即座に両国との電話会談を行う事にした。
電話会談でロシア連邦大統領とインド首相は、即時のアメリカ合衆国の無条件降伏を要求する事を提案した。それは大泉総理も即座に賛同し、そしてそれを黙殺もしくは拒否した場合の全面核攻撃を提案した。ロシア連邦大統領とインド首相はその提案に同意した。しかしインド首相はアメリカ合衆国への核攻撃手段を持たない為に、大日本帝国とロシア連邦に肩代わりしてくれるように要請した。インドはパキスタンとの度重なる紛争で核武装をしたが、攻撃目標はあくまでもパキスタンであった。その為にインドにとっては戦略兵器であっても、大日本帝国とロシア連邦には戦術兵器的扱いになっていた。その要請を大泉総理とロシア連邦大統領は了承した。
そして3ヶ国は電話会談を終えるとすぐ様記者会見を開き、アメリカ合衆国への無条件降伏を要求した。全ての面に於いてアメリカ合衆国は条件を付けずに、無条件降伏する事を迫られた。これには亜細亜条約機構加盟国全てと、ヨーロッパ諸国を始め世界各国が賛同した。もはやアメリカ合衆国が条件を付けて戦争が終わる筈は無いと、世界中が認識した結果であった。世界各国は続々と声明を発表し、アメリカ合衆国に無条件降伏を迫った。大泉総理は特に苛烈に言葉を強め、48時間以内の無条件降伏を要求した。
だがアメリカ合衆国は大統領が無条件降伏は受け入れられないとテレビ演説に於いて表明した。大統領は再度交渉を行うように大日本帝国に呼び掛けた。
アメリカ合衆国のこの対応を受けて、大日本帝国とロシア連邦は全面核攻撃を行う事を決定した。