中央平原攻防戦
大日本帝国政府が活発な外交活動を行っている時アメリカ合衆国本土の陸軍部隊は、グレートプレーンズを東進して中央平原の防衛線に接近していた。
『中央平原には偵察衛星の画像によると、大規模な防衛線が構築されていた。数多くのトーチカが造成され、塹壕が張り巡らされ、大量の装甲車輌と大砲が配備されていた。21世紀に於いてこのようなトーチカと塹壕の防衛線を攻める事になるとは、総指揮官も思ってもいなかったようだ。私に近付くと、「まさかですね。士官学校時代には夢にも思わなかったですよ。」と語ってくれた。私も民間人ながらその思いは同じであった。まさかこのような防衛線を21世紀になって攻めるとは、しかもその部隊に同行取材するとは思っていなかった。防衛線を如何にして攻略するかの作戦会議に於いて、総指揮官は明確に方針を示した。「海軍と空軍に支援を要請して、圧倒的戦力で防衛線を叩き潰す。」単純明快であった。
そして2002年10月25日中央平原防衛線に対して、総攻撃が開始された。海軍と空軍の航空機が空を埋め尽くさんばかりの数が飛来した。圧倒的な数であった。東西冷戦が終結し湾岸戦争が終結し、大規模戦争はもう起こらないと思われた時代である。それがまさかの事態である。湾岸戦争に参加した事のある総指揮官は「改めて見ると、大日本帝国は凄いんですね。」と呟いた。そう言える程の圧倒的光景であった。空軍は西海岸各地とロッキー山脈を越えた空港から、大量に出撃していた。西海岸は今やアメリカ西岸連邦の領土だが、政府間交渉で大日本帝国が軍事施設を自由に使用出来るようになっていた。海軍連合艦隊空母機動部隊はメキシコ湾に展開しており、そこから艦載機を飛来させた。
海軍と空軍の航空機が中央平原防衛線に接近すると、アメリカ合衆国は温存していた航空機を出撃させた。西海岸とグレートプレーンズを見捨ててまで温存した戦力である。F-15とF-16が各200機出撃した。アメリカ合衆国空軍の接近を受けて、海軍は85式艦上戦闘攻撃機烈風を、空軍は89式戦闘爆撃機紫電改を前進させた。壮絶な空中戦を私は総指揮官と一緒に地上から眺めていた。85式艦上戦闘攻撃機烈風と89式戦闘爆撃機紫電改が発射した99式空対空ミサイルは、次々とF-15とF-16に命中していった。それに対してF-15とF-16の発射する空対空ミサイルは、高い格闘戦能力と推力偏向ノズルを装備する85式艦上戦闘攻撃機烈風と89式戦闘爆撃機紫電改は容易に回避していた。花火のように爆発が起きると次々と撃墜されていくのは、アメリカ合衆国空軍のF-15とF-16であった。空戦は30分も掛からなかった。体感的には数分の出来事のようだった。航空優勢は盤石なものになった。脅威を排除した事により、中央平原防衛線への空爆が始まった。83式艦上攻撃機流星改・84式戦闘攻撃機飛燕改・81式戦略爆撃機富嶽改・87式局地制圧用攻撃機が攻撃を担った。空爆は81式戦略爆撃機富嶽改の、90式空中発射巡航ミサイルによる攻撃から始まった。1トン通常弾による貫通弾頭を搭載した90式空中発射巡航ミサイルは、次々と防衛線のトーチカ・塹壕に命中した。ただでさえ巡航ミサイルは威力があるのに、1トン通常弾の貫通弾頭である。トーチカと塹壕を安々と貫通し、内部から凄まじい爆発を引き起こした。
空爆は流石に直接は見られないので、私達は73式偵察機火龍改からのリアルタイムでの映像を見ていた。それは凄惨な光景であった。爆炎が立ち昇り、あらゆる物が破壊され吹き飛ばされていた。しかし攻撃はそれで終わりでは無かった。上空に接近した83式艦上攻撃機流星改と84式戦闘攻撃機飛燕改が次々と、9式空対地ミサイルと97式レーザー誘導爆弾を発射。81式戦略爆撃機富嶽改は1トン通常爆弾と500キロ通常爆弾を次々と投下。87式局地制圧用攻撃機は105ミリ榴弾砲を発射しながら、40ミリ機関砲と25ミリガトリングガンを掃射した。私は防衛線にいるアメリカ人が可哀想に思えてきた。彼らには本土防衛戦なのである。かなりの気合いを入れて戦いに臨んだ筈だ。それがどうであろう。頼みの綱の空軍は全て撃墜され、圧倒的な戦力に一方的に打ちのめされるだけである。73式偵察機火龍改からのリアルタイムでの映像は、爆炎が収まらない内に次々と命中するミサイルと爆弾で、地獄の業火のような有り様であった。ある意味で自業自得ではあるが、ここまでの光景は予想外であった。その私の姿を見た総指揮官は、近付いてくると語り掛けてくれた。「彼等には同情します。ですがそれが軍人なのです。命をかけて任務を遂行しないといけないのです。名誉の問題でもあるでしょう。戦って死ぬか、隠れて死ぬか。かつて大東亜戦争で先輩達も同じ気持ちで戦った筈です。普通の人なら何を無駄死にして、と思うかもしれません。しかし祖国の為、愛する人の為、命を投げ出して戦うのです。彼等の意志は強いでしょう。だからこそ、だからこそ手加減してはならないのです。お互いに全力で戦うのです。広瀬さん、この事は仔細漏らさずに書き上げて下さい。宜しくお願いします。」このように語ってくれた。私は改めて軍人という職の崇高さを思い知らされた。
私に語り掛けてくれた総指揮官は表情を引き締めると、命令を下した。「全陸軍部隊に命令。中央平原防衛線を突破せよ。」遂に命令が下された。』
広瀬由梨絵著
『新世紀日米戦争』より一部抜粋