占領地拡大
陸軍部隊が補給と整備を行っている間に、総指揮官が『青龍部隊』と名付けた特殊部隊が破壊工作を行っていた。大日本帝国はその保有する全ての特殊部隊を投入。特殊部隊の全投入は史上初の事であった。これまで数多くの戦場に投入されて来たが、今回特殊部隊に与えられた任務は特に重要であった。西海岸に上陸した陸軍部隊の作戦が順調に進むように、東海岸や中部からの西海岸への増援を妨害する事にあった。妨害工作は特殊部隊の得意とする事であり、上陸作戦の実施にあたり特殊部隊の派遣は即座に決定された。しかし今回の作戦ではその規模が桁違いに大きかった。今まで派遣されて来た作戦は、ある国家の地域での作戦であった。複数地域になる事はあっても、今回のアメリカ合衆国のような中部以東という広範囲では無かった。その為に特殊部隊が全投入されたのである。もちろん全投入と言っても国内のテロを警戒して、各特殊部隊は1個部隊毎残置したがそれでも異例の投入であった。大日本帝国政府はロシア連邦・中華連邦・インドに対して、特殊部隊の派遣を要請した。その要請を受けて各国は特殊部隊の派遣を了承。陸軍の特殊部隊をアメリカ合衆国に送り込んだ。
アメリカ合衆国に潜入した各国特殊部隊は、妨害工作を開始した。高速道路は橋脚が爆破され、各所で分断された。全て破壊するので無く、一部毎を破壊する事により復旧作業の手間を増やす事にした。幹線道路も路上の一部を爆破し、陥没穴を大量に作り出した。道路だけで無く、大陸横断鉄道も破壊対象になった。鉄道は各所で爆破分断され、道路網と同様に分断された。特に大きな被害を与えたのは、ミシシッピ川に架かる橋を全て破壊した事であった。これによりアメリカ合衆国は東西に物理的に分断され、物流網に与える被害は甚大であった。航空機か船で輸送するしかなくなり、その効率性は大きく低下した。しかもミシシッピ川の西岸にある船着き場も破壊されており、目を覆わんばかりの被害であった。
この事態にアメリカ合衆国大統領は大日本帝国の非人道性を激しく非難した。西部住人は物流網の被害を受け、人道的危機にあると声高に叫んだ。しかしそもそも理不尽極まりない理由で戦争を大日本帝国に仕掛け、更には北海道釧路市への核攻撃まで行ったのである。大日本帝国の行動を世界各国は理解出来るとし、静観していた。そしてアメリカ合衆国大統領の非難は、理解し難い行動と片付けられた。アメリカ合衆国大統領の非難に対して、大日本帝国は再び早期の降伏を求めた。アメリカ合衆国が降伏すれば無意味な戦争は終結すると断言した。
そしてカリフォルニア州全体を占領すると、大日本帝国は補給物資の輸送を行うのと並行して民生用物資の輸送を行った。その行為により占領統治は格段にやりやすくなった。大日本帝国は上陸作戦立案の時から、銃社会アメリカを考慮して占領統治の厳しさを覚悟していた。憲兵隊を投入して事態をコントロールしようとしていた。しかし民生用物資の輸送を行い住人達に配布すると、住人感情は瞬く間に向上した。片言の日本語で話し掛けてくる住人が増え、治安も回復していった。徹底的に空襲を行ったサンフランシスコや一部地域は住人が銃を持ち出して、ゲリラ活動を行っているがその割合は上陸作戦立案時の想定より遥かに低かった。その為に憲兵隊は治安維持に追われるというよりも、余裕を持って活動が出来るようになった。大日本帝国はアメリカ合衆国各州に州単位で我が国に降伏するように、大泉総理が直々に呼び掛けた。この呼び掛けは大泉総理としては揺さぶりをかけるのが大きな目的であった。しかしその呼び掛けに、ロッキー山脈以西のネバダ州・アリゾナ州・ユタ州・アイダホ州・オレゴン州・ワシントン州・アラスカ州が大日本帝国に州として降伏すると州知事が宣言した。州知事達は無意味な日米戦争を続ける連邦政府への不信感と、北海道釧路市への核攻撃に対する報復としてのサンフランシスコへの徹底的な空爆を行った大日本帝国の覚悟。その2点が降伏する理由であると語った。アメリカの国民感情としても、北海道釧路市への核攻撃から反戦感情が高まっていた。あんなにも反日運動が続いていたが口々に、さすがに核攻撃はやり過ぎだ、となっていた。カリフォルニア州全体を占領して以後の大日本帝国の方針に、占領地に対する過度な要求が無く特段変化を求める事も無かったのが、州知事達に降伏を決意させるに至った理由でもあった。
その宣言にアメリカ合衆国大統領は驚いた。慌てて降伏宣言をした州知事達に連絡したが、州知事達はその連絡を無視した。もはや手段の無い大統領は連邦政府として、黙認するしか無かった。
最も驚いたのは呼び掛けを行った大泉総理の方であった。揺さぶりをかける目的で行った呼び掛けに、7つの州が降伏を受け入れたのだ。慌てて対応に追われる事になった。7つの州に憲兵隊を送り込み、占領統治を開始。一気に西海岸全域が大日本帝国の占領する地域になった。これを受けて世界各国はアメリカ合衆国の崩壊が進んでいると判断。更に大日本帝国への支援を続ける事とした。既に経済面ではニューヨーク証券取引所は機能を停止しており、東京証券取引所とロンドン証券取引所がその役割を引き継いでいた。
もはやアメリカ合衆国の味方をする国は存在せず、NATOヨーロッパ諸国ですらアメリカ合衆国を見捨てた。完全に孤立無援となったが冷戦を勝ち抜いた超大国の誇りなのか、未だに降伏する気配は無かった。135個師団を束ねる総指揮官は補給整備が終わり、大泉総理の呼び掛けに降伏した7つの州に全部隊を移動させた。そして全部隊に対してロッキー山脈越えの東進を命令したのである。




