アメリカ包囲網
核攻撃による大泉総理の記者会見は、大日本帝国の覚悟を世界各国に示していた。フランスの大統領は記者団からの質問に『これでアメリカ合衆国が大日本帝国に核攻撃を受けても、非難する国はいないだろう。』と語り、事態の深刻さについて語った。フランス大統領がそう言うように、もはや世界各国でアメリカ合衆国への批判は高まっていた。そしてイギリス・オーストラリア・ポーランドは大日本帝国への核攻撃を受けて、遂にアメリカ合衆国を見限った。アメリカ合衆国へと派遣していた艦隊に対して帰国するように命じ、大日本帝国への核攻撃を厳しい口調で非難した。更にロシア連邦・中華連邦・インド・タイは正式に日米戦争に参戦するとし、大日本帝国への全面協力を宣言した。亜細亜条約機構加盟国も核攻撃に対して大きな衝撃を受けており、大韓民国が亜細亜条約第2条の適用を提案した。その提案は亜細亜条約機構緊急総会で可決され、亜細亜条約機構は設立以来初めて集団的自衛権を発動する事になった。もちろん加盟国全てが軍を派遣できるとは限らないので亜細亜条約第2条発動以後、軍の派遣を発表した国々は大韓民国・インドネシア・フィリピン・ベトナムになる。それ以外の亜細亜条約機構加盟国であるブルネイ・カンボジア・ラオス・マレーシア・ミャンマー・シンガポール・パプアニューギニア・東ティモール・バングラデシュ・スリランカ・モンゴル・パラオ・カザフスタン・キルギス・タジキスタン・ウズベキスタン・イランは資金援助を発表した。軍の派遣の有無はともかく新世紀日米戦争は、亜細亜条約機構とアメリカ合衆国の戦争に発展したのである。
世界各国が衝撃を受けるなか、一番驚いたのはアメリカ合衆国自身であった。ホワイトハウス地下のシチュエーションルームで大日本帝国本土空襲作戦の状況を確認していた大統領以下政府首脳陣は、北海道釧路市に侵入したB-2ステルス爆撃機が水素爆弾を投下した事に驚いた。すぐ様国防長官や統合参謀本部議長が確認の連絡を取る事にした。するとB-2を運用するホワイトマン空軍基地からは、出撃したB-2全機が100キロトンに設定されたB83核爆弾を装備していた事が判明した。由々しき事態であった。大統領以下軍幹部は核攻撃を回避したが、現場部隊が独自に核爆弾を装備したのである。現場の独走だけで無く、核兵器の管理運理問題にも重大な欠陥がある証拠であった。ただの不祥事では無く、水素爆弾による核攻撃である。辞職して済む話では無かった。この事態に大統領はさすがに深刻な事態だと感じ、全ての核運用部隊の調査を命じた。そしてそのような事態の対処を行っている所へ、大泉総理の記者会見が始まった。核攻撃も含めた全面攻撃の宣言に、大統領は早急な対応が必要と判断した。対応策は如何にして大日本帝国からの核の報復攻撃を防ぐかにあった。
国防長官はその対応策についての提案を行った。『戦略爆撃機が全滅し核の三本柱の1つが消滅した今、残るはICBMと戦略型原子力潜水艦だけです。そこでICBMを配備しているミサイルサイロからは人員を引き上げ、戦略型原子力潜水艦は浮上させて帰国させます。全ての行動は大統領による演説で世界各国に説明し、公開で行う必要があります。その時に今回の水素爆弾投下の経緯についても説明する必要があるでしょう。世界はともかく大日本帝国はその説明を信用はしないでしょう。我が国が同じ立場になれば信用しないです。しかし今は全面核戦争を回避するのが最優先です。大泉総理がすぐ様報復攻撃を開始しなかったのは、真意を知りたいのかもしれません。それか核戦争を回避しようとしているのかです。その大泉総理の対応に我が国は全面的に協力するしか無いのです。核戦争を回避するには、一時的な我が国の核戦力の無力化しか有り得ません。ロシア連邦と中華連邦・インドは亜細亜条約機構に加盟する核保有国ですが、いきなり我が国に核攻撃は仕掛けて来ないでしょう。大統領の決断をお願いします。』
国防長官の提案は衝撃的内容であったが、ここに至り対応策はそれしか無いと思われた。何より優先するべきは全面核戦争である。それを回避する為に核戦力の無力化、ICBMサイロからの人員の引き上げと戦略型原子力潜水艦を浮上させての帰国。前例のない前代未聞の事態であるが、致し方ない事であった。大統領は核戦争は回避するべきだとして、国防長官の提案を採用する事になった。そして国防長官にその案を直ぐに実行するように命令した。
それを受けて各人が行動を始めたその時、亜細亜条約機構緊急総会にて亜細亜条約第2条が発動されたとの情報が入った。これによりアメリカ合衆国は亜細亜条約機構から宣戦布告される事になった。既にイギリス・オーストラリア・ポーランドからは艦隊を帰国させるとの連絡があり、アメリカ合衆国の孤立は更に深まった。そして大統領は気付いた。包囲網が形成されつつある事に。