油田プラント襲撃
お久しぶりです。
2001年9月17日午前8時
大日本帝國沖縄県尖閣諸島沖海底油田プラント本部管理棟
大阪での大規模テロから2日。油田プラントでは今日も普段と代わり無く油田の採掘が続けられていた。確かに大阪でのテロについては、プラント作業員の間でも話題になったが所詮はプラント外の話である。プラント内部は平穏無事に生活が続けられていた。そう、今日この時までは。
「所長、状況は如何ですか?」
「今の所は順調そのものだよ。」
そう言って大石孝司所長はコーヒーを一口飲んだ。今日も採掘は順調である。それ以上に明日から久し振りの休暇である為、大石所長は気分が良かった。管理課長の中田久恵は大石所長の嬉しそうな様子に、口を開いた。
「所長、明日は半年ぶりの休暇ですね。」
「長かった。長い仕事に漸くゆっくり出来る。」
「ゆっくり休んで下さい。所長は」
ビー!!ビー!!ビー!!
中田課長が話しているのを遮り、突如警報音が鳴り響いた。
「何があった。」
『所長!!こちら第4プラントです!!銃を持った人が……』
「どうした!!」
「…………」
大石所長は問い掛けたが声が返ってくる事は無かった。
「所長!!」
中田課長が叫んだ。慌てて中田課長を見た大石所長は中田課長が指差すモニターを見た。
「こっちに来てます!!」
中田課長の言葉に大石所長は絶望感に包まれた。
2時間後
帝都東京首相官邸地下3階危機管理センター
「テロリストの要求は?」
大泉麗子総理は若干声を荒げながら言った。大泉総理にしてみれば非常に腹立たしい心境だろう。大阪でのテロに続いて海上油田プラントの襲撃である。対応は慎重に行わなければならない。
ただでさえ与党内から大泉総理を非難する勢力は存在する。それが大阪でのテロ発生直後から非難を強めている。大日本帝國憲政史上初の女性総理であり、敗戦後・空白の5年(空白の5年とは敗戦後軍を解体され、マッカーサー吉田会談で再軍備するまでの5年間を指す)より後に生まれた始めての総理である。若すぎる、が反大泉勢力の大義名分である。
「現時点で要求は出ていません。1時間前に通商産業省にプラントから連絡が入っただけです。」
榊原宏明国防大臣は冷静に答えた。プラントが通商産業省に連絡をいれた理由はプラントが通商産業省の管轄にある為である。
「国土交通大臣、海上保安庁を派遣し周辺海域を封鎖して下さい。」
「そう言われると思いましたので、既に命じています。」
「素晴らしいわ、ありがとう。」
大泉総理は石川綾香国土交通大臣に礼を言った。
「国防大臣、テロリストへの対応策はある?」
「勿論です。」
そう言うと榊原国防大臣は席を立ち、大型液晶モニターの前に立った。
「対応策は2つあります。1つは海軍の強襲揚陸艦からのヘリボーン作戦です。これにより特殊部隊を送り込みます。」
「バカな。それでは見つかってしまうではないか。人質を危険に晒し過ぎる。」
柳谷幸助外務大臣が叫んだ。柳谷外務大臣は反大泉勢力に属しており、何かある度に『反対』や『批判』をする。挙党一致を目指しての閣僚任命であったが、弊害が多々ある。だが今回の批判は的を得ており、賛同し頷く閣僚も見受けられた。
「仰る通りです。この作戦は目立ち過ぎます。ですが私は策があると言っただけです。私が一番有力視する策が2つ目、海中からの進入です。」
「海中?」
浅川雅史内務大臣が尋ねた。
「海中です。攻撃原潜には[新回天]が搭載してあります。特殊部隊をそれで送り込み、船着き場から進入します。」
「新回天とはどのような物ですか?」
石川国土交通大臣が榊原国防大臣に質問した。
「それは軍令部総長から説明致します。」
「了解しました。」
そう言って宮本隆司軍令部総長は立ち上がった。
「新回天はその名の通り、大東亜戦争末期の特攻兵器回天の改良型です。回天の構造は冷戦時の特殊作戦において非常に有効な兵器となり、海軍は改良型の回天を特殊潜入用に配備致しました。過去にベトナム戦争や竹島奪還作戦・釜山攻撃・中国攻撃・湾岸戦争で活躍しました。」
そう言って宮本軍令部総長は席に着いた。全員がそれを受け大泉総理に視線を向けた。
「躊躇う事は無いわ。私は大日本帝國四軍最高司令官として命ずるわ、榊原国防大臣直ぐに出撃を。」
「了解しました。」
榊原国防大臣はそう言って席を立つと、宮本軍令部総長と一緒に危機管理センターを飛び出した。
同時刻
広島県呉市柱島泊地
呉は第2艦隊の配備先となっている。
『かつては連合艦隊の母港であった柱島も今では、大日本帝國に存在する軍港の1つに成り下がっている。しかし軍港としての規模は大日本帝國最大を誇る。そして秘匿性等を考慮し、戦略原潜が配備されているのは第2艦隊のみとなる。第1艦隊は横須賀に配備、第3艦隊は佐世保に配備、第4艦隊は舞鶴に配備されている。所謂番号艦隊と言われ第○艦隊はその4つだけとなる。その艦隊に各部隊が所属している。連合艦隊はその陣容を大東亜戦争を境に大きく変えている。大東亜戦争終盤の昭和19年レイテ沖海戦で連合艦隊は事実上壊滅した。世界最大最強を謳った大和姉妹は武蔵がレイテ沖海戦で、大和は坊ノ岬沖海戦で沈没。昭和20年の敗戦により世界三大海軍の一角であった大日本帝國海軍は瓦解した。だが海軍は復活した。昭和25年に大日本帝國はGHQの命令により再軍備を実行。連合艦隊が再び嘗ての威光を取り戻したのである。現在の連合艦隊は原子力空母大和姉妹3隻、大和・武蔵・信濃と空母翔鶴姉妹3隻、翔鶴・瑞鶴・天鶴の空母6隻を主力とする堂々たる艦隊となっているのである。
(編集注:広瀬さんは軍艦に対して級では無く姉妹と呼び、文章中でもそのように書いております。国防省や軍令部に確かめた所、級と呼ぶのが正しいようですが原文を尊重し、当社ではそのままにしております。)』
広瀬由梨絵著
『連合艦隊史』より一部抜粋
第2艦隊司令部3階司令官室
「司令官、軍令部より連絡です。」
「予想は出来ているがな。」
そう答えると第2艦隊司令官の中川弘大将は、参謀長の雪原愛中将から書類を受け取った。
書類を読み終えた中川司令官は書類から目を上げると、雪原参謀長に命令を下した。
「攻撃原潜の親潮に出撃命令。海軍特殊部隊特務陸戦隊が1時間後には到着する。特務陸戦隊を搭載し、新回天で海上油田プラントを奪還する!」
「了解致しました。直ちに伝えます!」
そう答えると敬礼をした雪原参謀長に中川司令官は答礼をした。
答礼をうけ司令官室を出ていった雪原参謀長を見送ると、中川司令官は窓際に歩み寄った。
「成功すると良いが。」
微かな不安を感じながらも、中川司令官は作戦の成功を祈るしか無かった。