傍観者
同時刻
大日本帝国帝都東京首相官邸地下2階の危機管理センターでは、有志連合諸国による攻撃開始を受けて状況説明が行われていた。
海軍軍令部総長はアラビア海に展開するNATO艦隊による攻撃を説明し始めた。信濃空母機動部隊と対峙するNATO艦隊だが、実質的にアフガニスタンに攻撃出来ているのは米英仏だけでしかなかった。アメリカ合衆国海軍空母戦闘群が当然ながら攻撃の主力を担っており、英仏海軍が何とか脇を固めていた。それ以外の艦艇はそもそも巡航ミサイルを装備しておらず、護衛艦艇の役割でしか無かった。そして海軍軍令部総長は連合艦隊が参加していない事による打撃力不足を指摘した。しかしながら先の湾岸戦争と違う点も指摘した。アフガニスタン陸軍はイラク陸軍より規模が小さく、破壊対象が少ない事が利点だと言い切った。それらを考えると米仏の原子力空母艦載機と、艦艇からの巡航ミサイル攻撃で十分に破壊可能であった。
そして空軍による攻撃の説明の為に、空軍統合総長が話始めた。空軍による攻撃の主力も当然ながらアメリカ合衆国空軍であった。B-1・B-2・B-52は本土から出撃するとグアム島やディエゴガルシア島を中継して、アフガニスタンを空爆していると説明した。それらはグアム島沖に展開する瑞鶴空母機動部隊と、ディエゴガルシア島沖に展開するタイ王国海軍チャクリナルエベト(旧龍驤)空母機動部隊がそれぞれ確認していた。クウェートとサウジアラビアに展開している航空機もアフガニスタンを空爆していた。サウジアラビアには有志連合諸国の空軍も進出しアフガニスタン空爆を実施しており、現状アメリカ合衆国空軍が保有する空中給油機が総力を挙げて支援していた。早期警戒管制機も展開しており、アフガニスタンでの航空優勢は有志連合諸国の物となっていた。現状では有志連合諸国の攻撃は圧倒的で一方的であった。無理も無い話であった。アフガニスタン軍にまともな対空攻撃や迎撃が行える兵器が無かったからである。
話は有志連合諸国の地上侵攻がいつ始まるかに移っていた。内陸国に対して陸軍を送り込む方法が最大の課題だと陸軍参謀総長は言い切った。タジキスタン・ウズベキスタンは亜細亜条約機構加盟国であり、トルクメニスタンは永世中立国で今回のテロとの戦いも当然ながら中立であり、イランはイラン革命以後アメリカ合衆国と断交状態であった。残る一角を占めるパキスタンはやや複雑な事になっていた。パキスタンは独立以来アメリカ合衆国から軍事協力を受けていた。特にイラン革命以後はイランを封じ込める為に重点的に支援が行われた。これにより911テロが勃発してアフガニスタン攻撃が決まり、有志連合諸国が結成されると当然ながらパキスタンが参加するとアメリカ合衆国は思っていた。しかしパキスタンはテロとの戦いを支持したのみで、有志連合諸国には参加せずに中立を決めたのであった。パキスタンにとってターリバーンはインドとの対抗上重要であったが、ターリバーンを支援し続けることによる国際的孤立を恐れ、また、アメリカ合衆国に協力することに伴う経済支援などの見返りを期待し、パキスタン大統領はアメリカ合衆国への協力を決断した。しかしこれに対し、イスラム原理主義者をはじめイスラム教徒に対するキリスト教国の攻撃に反感を持つ多くの国民から不満が増大し、パキスタン国内では多くの抗議行動が起こった。この抗議にパキスタン政府は事態を重く受け止め、有志連合諸国参加を見送ったのである。これによりアフガニスタンの周辺国はアメリカ合衆国に協力しない国々ばかりとなり、陸軍を送り込むには直接アフガニスタンに空輸するしか無いと陸軍参謀総長は結論付けた。
しかしその判断はアメリカ合衆国の外交により覆される事になった。