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壊れた英雄と傷だらけの召喚士  作者: 琥珀
放浪編
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第五話 飢餓村・中編

「おい、いつまで待たせるんだ?」


 そんな声がハルトとクズハの会話を遮った。ハルトが声が聞こえた隣のテーブルを見ると、そこには如何にもという感じの傭兵が何人か集まって酒を酌み交わしていた。


「す、すみません」


「すみませんじゃねえよ。……ねぇちゃん、結構いい体してるね。俺達といいことして遊ばない?」


 ハルトはそれを見てつまらなそうに視線を手に持っているマグカップへ向ける。中身は少し苦めのコーヒーだ。


「ああいう連中がいるから村人は怖がっている。本当の恐怖は村のすぐそばまで迫っているというのに」


「どういうことだ?」


「村のすぐ近くの街道には危険指定種Aの魔物がいる。そのせいで補給部隊はこちらへ来ることが出来ない」


「村の入口にいた駐在みたいなやつはずいぶんとのんきそうだったがな、彼はたぶん知らないと思うがね」


 となりでナージャがハルトの服を少し引っ張る。


『助けなくていいの?』


「助ける義理がない。身包み剥がされて犯されようが正直なところどうでもいい。この世界ではそういうのがあたりまえのように行われているのだから、今更って感じだろ」


『確かにパパの言う通りですね。でも同じ女としてはパパに救ってほしいです』


 二人の会話を聞いていたクズハが面白うそうなものを見つけたような顔でこちらを見ていた。


「人語を理解できる魔物の類か?」


「悪いがこれは俺の娘だ。あまり人に言いふらされても困るし、ここで始末しておこうか?」


「じょ、冗談だ。それよりもあの子を助けるんだろ。手伝うぜ」


 クズハが手伝いを名乗り出たが、ハルトはそれを断った。


「あの程度ならここから動く必要すらない。それにレベルが低過ぎて話にならない」


 ハルトはわざと聞こえるように大声でいった。


「なんだと?」


「悪い、聞こえたか?でも、実際にお前ら程度ならここから動く必要すらない」


 ハルトは今にも女性を犯そうとしていた傭兵連中に挑発した。


「なら死ねやあああああ」


 ハルトは目を閉じ告げる。


【ひれ伏せ】


 目に見えない力が傭兵の一人の地面に強く叩き付けた。相手の肉体に直接作用させるような【言霊げんれい魔法】は半径3メートルという制限がある上、自分はその場から動くことが出来ない。


 ハルトはこれを【強制執行】と呼んでいる。実際に動くことが必要のないときは非常に便利で、その上相手を威嚇する上でもかなりの効力を発揮する。


「……隊長に何をした!」


「俺はわざわざ敵に自分の手の内を明かすようなバカじゃないからな、教えるわけがないだろ。アイリには魔法ではないなんて説明してたっけ」


 そんなことを思い出しながらもハルトは懐から紙を何枚か取り出すとそれをまるでナイフでも投げるかのように投げたそれは蛇のような姿になって彼らを捕縛した。


「式神の陣……」


 【言霊魔法】の中でハルトが【式神の陣】と呼ぶそれは紙を媒介にすることでそこに記された文字が具現化するという能力を持つ。


 今回記した文字は【縛】。対象を捕縛するための技であり、この程度であれば大した負荷はない。


 もちろん【強制執行】のように制限はあるが。


 ハルトが傭兵たちを捕縛するとクズハが


「面白い魔法を使うね。捕縛系の魔法はうちも使えるけど、属性のない捕縛系魔法は知らない。その上、何?隊長呼ばれてた男が急に倒れたように見えたけど」


「何だろうね」


「ありがとうございました」


 結果的に助けられたウエイトレスはハルトへお礼をするがハルトは退屈そうにこう言った。


「感謝ならこいつにしろ。俺は別にお前を助けるつもりはなかった。それに赤の他人を助けるために命を張るほど俺はバカではないからな」


「そ、そうですか。それでも、結果的にだとしても助かりました。ありがとうございます」


『やっぱりいい行いをしたあとは心がすっきりしますね、パパ』


 ハルトは肩を落としながら適当に受け流した。ここ数日で体験したことなのだが、お説教モードに入ったナージャはとりあえず面倒くさい。どういうわけかハルトの魔法もこのモードに入っている間は効かない。


 一種の無敵モードのようなものだ。これが戦闘であるのなら最強なのにとハルトは思ったがそれを口に出すようなことはしなかった。単に口に出した後の展開が予想出来たので言わなかっただけだが。


「つまらん騒ぎを起こしてすまなかった、マスター」


「別に構わんさ。もしもあれ以上ひどくなるようなら他の誰かが止めに入っていたことだ。それよりも随分腕が立つようだが?」


「多少自身があるってだけで、大したことはない。この村で宿を取れるような場所はどこかないか?」


「宿ならここでもやってるぞ。一泊銅貨六十枚だが?」


 ハルトには手元に金がなく、他を当たろうとすると横からクズハが助け船を出す。


「なら、うちが代わりに払うよ」


「いいのか?これも何かの縁ってね」


「それなら何かの縁ついでに換金ってどこでやってるか教えてもらってもいいか?何分世間知らずだかなら」


 それを聞いたクズハ怪訝そうな顔をした。


「旅をしてたんだよね、あんたら。だったらどうして換金をやってる場所を知らないさ」


「それなら簡単だ、人の住む場所へ来たのは旅を始めて以来だから」


「……何年旅をしてるんだ」


 ハルトはあの家を離れてからどれくらいの年月が経ったのか正確に計算してみることにした。


「五年と少しか」


 ハルトの答えに驚いたクズハはそれ以上何かを質問してくるようなことはなかったが親切心なのかどうなのかは分からない行動をした。


「世話次いでにアイムッシュまで護衛してあげる」


「孤立状態にあるんじゃないのか?だからまともな支援を受けられないんだろ?」


「何事にも抜け道は存在するのさ。それにアイムッシュにはギルドがあるからそこに行けば魔物の素材なんか高く買い取ってくれる。その上、ギルドが討伐対象にしている種類ならかなりの報酬がもらえる」


「アイムッシュに行くのは別に俺一人の力でも行けるが、案内がいた方が効率もいいか……けど」


 アイムッシュに行く前にハルトはこの村の状態をもう少しまとまものに出来ないものだろうかと考えた。


「やっぱ、狩るしかないか」


 ハルトは何を決断するように小さく頷いた。

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