氷点火山 6
その後4人は解散し、夕飯の買い出しに行った宮前と肉屋の榎田に向かった。以前巡とここに訪れた時、おばさんは巡に「次は一人で来い」と言った。それが間接的に「お前は来るな」ということを意味しているのは容易に理解できていた。巡にも家でやめたほうが良いんじゃないかと止められていたが、今日沢山の事があり、宮前はいつになく前向きだった。
共存部の部長として? 共存区域拡大計画の代表のひとりとして? ――いや。きっと彼女の中には、少しずつだが心から人とともに生きていきたい、そんな世界があってもいいという思いが芽生え始めていた。
「すいませーん、豚バラ肉200g頂けますかー」
店に入ると精肉が陳列しているガラス張りのカウンターの先に人影がなかった。だから宮前は大きな声で奥へと呼びかける。その大胆な行動はまさに、今の彼女の心そのものだった。
「はーい! いらっしゃ――」
当然、榎田は固まるだろう。追い出すような真似をしてからそこまで長い時間が経ったわけじゃない、少なくともお互いに覚えているのは確かだ。
「こんにちは、榎田のおばあちゃん」
「な……」
榎田にとって別人のように見えたに違いない。あの日の彼女はあまりにも弱々しく、いい印象を与えられる存在ではなかった。
「あれ? 宮前さんじゃないっすか」
「へ?」
そんなところに、店内から意外な声がかかる。
「ノック、さん……?」
「どもどもっすよ~、いや偶然っすねこんなところで。そうだばっちゃ、この人があの宮前さんですよ、この間の食われるモノ襲撃で自分が殺されかけた時の。この人、命の恩人っす」
「まさか、この子が……? だってこの子は手に入れる者じゃないか…」
「やだなーばっちゃってば。手に入れる者も食す者も関係ないってことっすよ、ばっちゃだって、手に入れる者に直接嫌なことをされたわけじゃないんだから、そんな頑固にならなくていいじゃないっすか」
ノックはケラケラと笑いながら榎田の肩を叩く。どういう関係なのだろうか。
「……まさか、孫に説教される日が来るとはねぇ」
「え、えっと……あの、ノックさんの、おばあちゃんなんですか……?」
「何? 悪いかね?」
「いえ! すいません……」
反射的に怒鳴った榎田に頭を下げる宮前。そんな彼女にばつが悪そうにする榎田が、おもむろに慣れた手つきで豚バラ肉を取り包装した。
「はぁ……年寄りになると、気がつく度に頑固になってる自分が嫌になるよ。アンタ、下の名前はなんて言うんだい」
「え、と……綾です、けど……」
「そうかい……綾ちゃん、この前は悪かったね。それと……孫を助けてくれて、ありがとね」
「……」
「黙るんじゃないよ! ほれ、お金はいらないからコレさっさと持っていきな!」
「え、でも」
「いいから!!」
「は、はいっ」
飛び出すように肉屋から出て、というより追い出されてから宮前は店の方へ向き直った。
「あの、ありがとうございす! また来ますので!!」
返事はなかったが、聞こえていたと思う。
肉屋から家までの短い距離の間、宮前はスキップでもしたくなるような思いだった。
しっかりと、進んでいるんだ。共存の道を。
「私は、東部共存区域拡大の代表なんだから……」
これからここに送られてくる手に入れる者の子が、不安がらないようにしなくちゃいけないんだ。
(そのためにも……巡さんたちと、共存部を盛り上げていこう……!)
心のなかでガッツポーズをした宮前は大事そうに榎田からもらったバラ肉を抱え、マンションのエントランスに入った。するとそこで一枚の紙をポストから取り出す巡の姿を見つける。




