氷点火山 4
「片山隼人って名前、多分知らない人はいないと思うんだけど」
「巡、さん……」
宮前も察したのか。以前浩仁から話は聞いているものの、巡の口から聞くのはこれが初めてだ。
「俺も実は、小さいころ家族を失って、隼人さんに養子として引き取ってもらってたんだ」
「――メグル、ごめんね、確認なんだけど……その片山隼人さんって、あの手に入れる者大量虐殺の……?」
有名な名前――もちろん悪い意味でだ、それを聞いた水瀬は信じがたくなりすかさず割って入った。が、それに対し巡は黙って頷く。
「手に入れる者差別が廃止になっても、世界は隼人さんを許したりはしなかった。それだけの命を奪ったんだから、俺もそれは仕方ないことだとは思うよ。だから隼人さんはこの街でほそぼそと、誰にも見つからないように暮らしてた。でもちゃんと俺を学校にも行かせてくれたし、なにも不便なく育ててくれた。……そりゃ、他の家庭とはいろいろ状況が異なるし、本来あるべき親子関係とか、家庭生活とかは無かったかもしれない。それでも隼人さんは出来る限り子どもの俺に負担がないよう育ててくれた。きっとそれも楽じゃなかったと思うんだけど……」
「片山隼人について一点補足させてもらうが、手に入れる者大量虐殺者について、不特定多数の食す者だと想像するだろうがそうじゃねェ。片山隼人が一人で受け持ってやがったんだ。おかしくねェか? あれだけの命を、片山隼人が一人でだ。……差別が廃止になった時、もし多数の差別派が手に入れる者を虐殺したことになっていたら、ハンパねえ反動を生んでただろうさ……きっとコイツはそこまで考えて、一人で全部やりきったんだよ、常人の心じゃねえ」
もちろんそれは、浩仁にとって称賛の言葉であった。
「浩仁さんが片山隼人さんに対してこういった理解を持ってくれるなんて俺も嬉しいです。殺されかけたかいもあったってもんです」
「ちょ!? メグルどゆことそれ!?」
「俺が大量虐殺者の息子だって事がバレて、その上で綾に近づいてるって浩仁さんが知ったから……弁解する余裕もなくて、もう問答無用だったよね」
「その話はやめてくれ、悪いとは思ってんだ……つーかオレだって殺されかけたんだからおあいこで良いじゃねえか」
「うっそ、メグルが先生を? なんていうか、ちょっとかなりマジで以外かも、けっこー過激派なんだねー……」
「そういうなって薗、今は見ての通り和解してるんだから。――それで今、ここが共存区域に設定されたことから隼人さんはさらに東部へと身を移してしまったんだけど。俺はここに留まった。いつか隼人さんがいろんな人と触れ合えるように、ここで共存を推進させるようって決めたんだ。それが綾に話しかけた一番の理由でもあるんだけどね。綾にはちょっと、申し訳ない話なんだけど……」
「そんなことないです、どんな理由があれど、あのとき声を掛けてくれたのが巡さんで本当によかったって思ってるんですよ。無茶な共存区域拡大計画で参っていた私を助けてくださったんですから」
「アヤも大変だったんだね……今度呑みに行こうね……新緑喫茶にはノンアルコールカクテルも取り揃えております」
「いきなり販促すんな」
「販促じゃないし、レビューだし」
「完全に店員口調だったろ」
「バレた?」
空気が和む。また水瀬に気を遣わせてしまったようだ。巡はできるだけ声のトーンを落とさないよう続ける。




