氷点火山 2
……でも、どうなのだろう。
私の身体は、そもそも人とは異なっている。
触れも出来ない、別種族の相手にこんな気持を抱くのは、問題なのではないか……。
「こ~んに~ちわっ」
巡が目の前にいるにも拘らず黙ってしまった時だった。廊下のほうから新たな声が聞こえてくる。
「よォ。なんだ、我が娘もいるじゃねェか」
「お父さん、水瀬さんも……」
「どうしたんですか二人とも、せっかくの休みにこんなところまで」
水瀬の家は巡の家と全く反対方向であるし、浩仁に至っては都心に住んでいるというのに。
「せっかくの休みだから来てやったんだよ。退院したばっかだしな、色々やること多いのはつれーと思ってよ」
そう言った浩仁は手に持った買い物袋を見せつける。
「我が家の名物料理、久々に作ってやるよ」
「名物料理って――」
思い当たらないわけがなかった。プリプリの具材、海鮮の香り。さっぱりとした塩味が全ての旨味を殺すこと無く口の中に広がっていく絶品。まさか、こんなタイミングで食べられるなんて……。
こんな申し出、断る理由が見当たらない。が、
「すいません、ちょっとまだ家に戻ってきてから掃除が終わってなくて、とても人を入れる状態じゃ……」
「え~! もしかして今無理やり入り込めばメグルのあんなパンツやこんなパンツが落っこちてたりするのっ?」
「どんなパンツの趣味持ってんだよ俺は。埃が溜まってるだけだっつの、そんなに気になるなら入院中にたまった衣類をまとめてベランダに選択して干してあるから見てみろ、普通のパンツしかないぞ」
「マジで!?みるみる!」
「いや冗談に決まってんだろ、どこに客をベランダに招待して自分のパンツを紹介するやつがいるんだ」
「め、巡さんのあんなパンツ……?」
「ちょっとなんでときめいてるのかな綾さんは。普通のパンツしかないって言ったよね? てか見せないから、冗談だから」
「巡クン……父親の前で何我が娘に自分のパンツ見せようとしてんだ……?」
「だから冗談て言ってるだろ!!」
「えっ冗談なの!?」
「話聞けよ!!」
それから浩仁が「わが娘の家で食べよう」と提案したが、娘が「お父さんはちょっと」と口にしたことにより浩仁が消し炭と化し、見るに堪えない巡が急いで部屋を片付けることになった。
ちょうどお腹が空く昼ごろ。無事に巡の家からは香ばしい磯の香りが漂い始めていた。
「よっしゃ、おまちどうさん!」
器用に4皿一度に持ってきた浩仁が小さなテーブルに海鮮塩焼きそばを並べる。四人で使うと流石にテーブルもこの部屋も狭さを感じるが、それも賑わっているようで心地が良いと巡は思った。
「ん~! なにこれめっちゃ美味しい~!」
薗が感動して焼きそばに夢中になる。以前味わったことがある巡も、何度も食べたことがある宮前も同様だった。
「かー! そんな夢中になられると恥ずかしいな!」
嬉しそうにする浩仁だが、本当に凄いと巡は思った。初めて使う他人の家のキッチンほど調理がしにくいものはないし、素早さが勝負の炒め物であるなら尚更だ。
「ほんと、いつか教えて下さいね作り方」
「おうよ、任せておけ」
「巡さん、私でもよければ教えられますので」
「そっか、【もう一つの記憶】があるから完コピしてるもんな」
「どらわー? それってもしかして、アヤの異能のこと?」
一人だけ首をかたむける薗に、巡は自分のこと以外にも、皆が皆のことを知っていないことに気づいた。
「そっか……ごめんなさい、まだ水瀬さんには教えてませんでしたね。私の異能、【もう一つの記憶】―について」
「うんうん、教えて~! 校庭で戦った時から気になってたんだよねぇ、近接特化の異能なのかな~って」
(やっぱり最初はそう思うよなぁ)
巡は以前、病室で宮前が異能の当てっこを提案してきたのを思い出し苦笑した。あの時は随分からかわれたものだ。
「違うんですよ、私の【もう一つの記憶】は特殊記憶なんです。簡単に言ってしまえばコピー能力みたいなもので、異能発動中に私が『教えられ』、相手が『教えている』という条件が整った時、その教授された物を特別な記憶として脳に書き込み、私の身体で可能な限り再現できるんです。だからこの海鮮塩焼きそばの作り方も、実家でお父さんに『教えられ』、私が『教わった』ことで、ほぼ100%今食べてるのと同じものが作れますよ、筋力の問題でフライパン捌きとかは若干劣りますが……」
「はえ~……それって凄くない? あの時の動きも全部教えてもらったってことなの?」
「そうなりますね、ほぼ全てお父さんの体術です」
「そうオレを何度もだすな、すげーのは我が娘の努力だ」
とは言ってるもののまんざらでもなさそうに浩仁はニヤニヤしている。確かにこの人の器用さといい体術は、素直に凄いとしか言えないが。
「じゃあ……その浩仁センセーの異能っていうのは、やっぱり体術になるんだよね??」
「ところがどっこい、ちげェんだなーコレが」
すっかり気分の良くなった浩仁が腕組をしながら鼻を鳴らす。
「えっ、じゃあ何なの? 親バカの異能とか?」
「あー近い近い、薗は勘がいいなあ」
「どんな異能だ! 張り倒すぞ!!」
「そんな異能もってたら私お父さんと一生関わりたくないなぁ」
「違うから! ていうかオレの異能知ってるよね!? 冗談でも傷つくんでやめてください!!」
「なんかたまーにセンセー凄く頼りなく見えるよね」
「わかるわー」
「誰のせいだ!!」
ぜぇぜぇと息を切らしながらも気を取り直して浩仁が咳払いをする。
「……オレの異能は【斬り潰し】ってやつだ」
「だぶるらっしゅ?」
首をかしげる薗に、浩仁は頷いた




