スチール・イーター 6
「あっ、あの……私……っ」
「無理して話すことはない。俺がわかってやれる保証もないし、とりあえず飯でも食べなよ」
そういって巡が運んできたのはハンバーグだった。続いて平皿にご飯が盛られてくる。
「あとは手抜きだけどコンソメスープ」
スプーンとフォークが手際よく並べられ、宮前が口をはさむ余裕がまるでなかった。そうさせないと巡が動いているような気もした。
「ごめんね、本当はコロッケにしたかったんだけどじゃがいもが切れてて……よかったらどうぞ、召し上がれ」
「……いた、だきます」
流されるままフォークを手に取り、ハンバーグを一口食べてみる。まるでテレビでよくリポーターが言う言葉が脳内で再生されるようだ。いつもの調子ならその口からもいろいろな言葉がこぼれていただろう。
「おい…しい……」
その瞬間、なぜだかまた涙が込み上げて来て宮前はティッシュに手を伸ばした。
(誰かに作ってもらうご飯、そんなに久しぶりじゃ、ないはずなのにな……)
あまりのおいしさと、あまりの暖かさに宮前は一口、また一口とハンバーグとライスを交互に頬張る。カップに口をつけ飲み物を流す。ぬるいミルクだった、合わない。
「ごめ、今お茶を出すから」
とまたキッチンの方へ消えてく巡。そういえば彼の分の食事が用意されていない。巡が持ってきたお茶を飲むと喉がすっと冷えて、なんだか心も落ち着いた気がした。
「巡さんの……ごはんは」
「え? いや、さっきまで君の目の前で食べてたんだけど」
嘘、と反射的に言いそうになったが確かに自分の記憶が若干ではあるが欠落している。気が付かなかったのか。
「悪いね先に食べちって」とベロを出して見せる巡。
「いえ……いえ、そんな……!」
そんな、何を謝っているのだろう彼は。それより私はまた、いったい何をしているのだ。
「私、こんなつもりじゃ……あわわ、ごめんなさい……あわわわわ……っ」
「……少しは落ち着いたみたいだな、よかった」
皮肉のこもった巡の言葉が、ニュアンスから宮前は安心しているという意味だと気付かされる。
「すいません、私……すごく迷惑をかけてます」
「どこがさ、飯作るってのはもともと約束してたろ。あっでも教えてやれなかったのはアレな、また今度にでもってことで」
「そうじゃないです」
「?」
「私のせいで、お肉屋さん、行きにくくなっちゃいましたよね。もしかしたら他のお店にも、悪い顔されるようになっちゃったかもしれません」
「……」
「私が奪う者だから、人である巡さんと一緒にいたから、奪う者なんかと仲がいい巡さんが嫌わ」
「やめろよ」
突然の怒気ともいえるそれに宮前の言葉はさえぎられる。
「……俺も、正直驚いた。商店街の人たちが手に入れる者に対して嫌悪しているなんて。だからって宮前さんが謝る必要はないだろ」
「でも、私のせいで商店街の人から嫌われ」
「んなことはない」
「そんなことはないって……」
「まぁ、いいからさ……俺のことは。そんなことより聞かせてくれないか、宮前さんがここに来た理由っていうのを。それと榎田のばあちゃんが言ってた【共存区域拡大計画】っていうの、その動きは教科書上のレベルでしか知らないんだ。関係してるんだろ? 無理して話すことはないって言ったばかりで悪いとは思う、もし嫌じゃなかったら聞かせてくれ」
「……はい」
巡の作った夕食を食べながら、少しずつ宮前は巡に話していった。委員会の存在、自分の父の役職、自分に課せられた事。心が参っていたからか、思わず転入当日時の出来事から父の電話や私情まで垂れ流してしまった。