バタフライ・イーター 5
「ノック…さん? どうして私のことを…」
「噂程度っすけどいろいろ聞いてますよ、共存計画でこっちに来たことも。大変そうっすけどがんばってくださいね、自分は応援してるっすよ」
「ありがとう…ございます」
「いえいえっす。それじゃ行きましょうか」
ノックは走りだす、浩仁が際限なく切断を繰り返す触手を捌き続けているが防戦一方なのは明らかだ。
(どうしてさっきの大技を使わないっすかね……回数に制限があるんすか? だとしたら再度多数の触手に責められたらまずいっす…っ)
「ちょっ…!せめて私の後ろを走ってください!」
思考を巡らすノックを宮前が軽々と追い抜かして言う。ノックは少し不服そうな顔をしたが仕方なさそうに宮前の後ろに着いた。
「先生!もっと大幅に移動しながら避けるっすよー!」
再度、ノックの声が響き渡った。浩仁も同じ考えだったのか直ぐに左へ弧を描くような回避運動へ切り替えた。食われるモノは攻撃を外す度に自分の腕でもある触手を切断しては間をおかず攻撃を繰り出し続けてくる。あたりには生死バラバラの触手が蓄積され後の回避に支障をもたらすのは目に見えていた。しかし、切り替えは浩仁を更に追い詰めることになる。触手の数が増えたわけでもない、触手の転がっていない安定した足場であればより回避は楽なはず、それなのに浩仁は渋った表情をしていた。
(あの場所に、あのいずれ逃げ場が失われてしまう場所に何か先生を有利にするモノがあったんすか…? ただ無残に触手が転がっただけの、あんな場所に…)
「宮前さん、先生の異能について聞きたいっす。あの攻撃の発動条件ってなんっすか」
「えっ? えっと、お父――先生の異能は何か物体を殴ることが絶対条件なんです、最初に殴って発生した打撃力を好きな斬撃の度合いに変換で」
「ありがとっす」
宮前が全て言い切る前にノックの中では理解が及んだ。浩仁はできるだけあの場所留まっていたかったのだ。何故ならあそこには、大量の触手が転がっているのだから。食われるモノは触手を切断していたんじゃない、あれは浩仁の斬撃により切断されていた、もし大量の触手を避けていたら地面はもっと複雑にえぐられていたはずだ、どのみち捨て身の攻撃を繰り返されれば黒い管はそこらじゅうに蓄積される、ならばこちらから切断してしまうほか方法はなかったのだ。それでも限界があったから浩仁はその場を離れた。
それはつまり、言い換えてしまえば食われるモノの"誘導"であった。浩仁はひたすらに"そうするしかない"という場面を渡らされていた。だからその回避にも限界が訪れる、避けるたびに抉られる地、固まった地面の破片だって殴ることができれば武器となるが拾う余裕などない。避けきれない触手は側面から叩いて軌道を逸らすがその度に彼の動きは一瞬停滞し、追撃を避けきれず身体を掠っていった。裂かれた服から覗く肌に赤い線が走り、その数が二桁に達しようとした時、宮前が大きく回転しながら全ての触手を横から蹴り落とした。
「ナイス不意打ちだ……我が娘よ……」
「遅くなってごめんねっ」
ひたすらに走り避け続けて呼吸を乱している浩仁の前に立ち構える宮前、これ以上走らせるのはよくない、最低限呼吸を落ち着かせるくらいは時間を稼ぎたい。
「……時に娘よ、あの少年はどうした…?」
「ノックさんのこと? 私の後ろについてきてたけど――って」
いない。
「うそ、どこに行ったの?」
【NEXT】10-22 07:00




