バタフライ・イーター 4
うようよと動きまわるだけになった触手の合間を縫うように土を蹴って行く浩仁が叫ぶ
「我が娘よ! ソイツのことは任せるぜ、オレは本体を叩く!」
「分かった、気をつけてねっ」
「なっ、女の子に守られるっすか自分!」
男としてそれはダメだろう、ダメダメだろう。
「というよりも、逃げていただけると助かります。昇降口まで走り抜けられますか?」
もっとダメダメダメすぎるだろう。せっかく属素を張り巡らせたのに、結局何もできずに逃げるなんてしたくない。
「自分も戦うっすよ」
これは当然の選択だ、間違いであるわけがないしそれ以上にここで逃げることは自分が許さない。
「放送が聞こえなかったんですか、あの食われるモノはレベル3なんですよ…?」
ランクB以下の食す者は速やかに避難してください。またランクAが1人以下の場合も交戦を避けてください。それが放送の内容だった。
わかっている、だったら尚更じゃないか。
「君こそひとり残ってレベル3に太刀打ちできるんすか! あの先生と分担した状態で、そこらに漂う触手がもう一度動き出したら全て捌ききれるんすか!?」
「え――もう一度動くって……」
あぁ、なんてタイミングで振り向くのだろう。
(言わんこっちゃないっす)
うなだれた触手の先端がおそらく食われるモノの意志で切断されて生きた部分だけが残され、それらが好機として警戒を怠っていた宮前に殺到する。反面、予想していた彼の身体は咄嗟に動いた。彼女の元へ飛び入るように駆けより抱きすくめ、集中。触手が一斉に二人を貫こうとする寸前、彼は後ろに跳躍すると同時に足の裏に小さな爆発を発生させ僅かながら回避距離を稼いだ。
(手に入れる者の私を…躊躇いなく……)
実力通りの些細な爆発だったがやってよかったと、足首に鋭い痛みが走って彼は心底そう思った。もし普通に跳躍していただけだったら膝を"とられて"いたかもしれない、二人のいた地が予想以上にえぐられその威力を語っていた。
「先生!!避けるっすよーー!!!」
だから直後、彼はめいいっぱいそう叫んだ。この触手は宮前のような女の子の掌底でも倒すことができた。故に耐久性はそこまで高いものではなく今の一撃も捨て身のようなもの、蜥蜴の尻尾のように自由に切断できるのだからいくらだってオーバーな攻撃を仕掛け死んだ部分は切ってしまえばいい。そして――
もし自分だったら、生きてる部分だって切り落とす。
今一度男子生徒は忠告の声を上げた。宮前はただその行動の理解に苦しんだが、実際に目にして分かった。自由に切断できるということは、"触手の最長位置から根元までのリーチを自由に変更できる"ということ。食われるモノの触手が付け根からぶっつりと切れ、十何本もが弾丸のごとく浩仁に突き出されたのには宮前も悲鳴という声を上げた。浩仁の巨体をやすやすと肉塊に変えるはずであったほとんどの触手が途中でへし曲がりぶつ切りになって爆せたのに驚いたのは、二人から浩仁は背中しか見えてなかったからに過ぎない。
「あーァ、最後の武器使っちまったじゃねェか……スマホもあるっちゃあるが、さすがに殴んのは気が引けるなァ」
打撃を斬撃に変換する異能。それは決して二択ではない。打撃が1、斬撃が100だとすればその間の50を選択することも可能なのだ。打撃と斬撃の中間地点、中途半端に両方の性質を持ち合わせた衝撃は強引に幾つもの触手を斬るように叩き潰した。
「あの先生めちゃくちゃ強いっすね、斬撃と打撃を生み出せるんすか」
「――そう、ですけど」
浩仁がこの生徒の前で異能を発動したのは今のを含めて2回。看破とまではいかないが異能におおよその目星をつけていたことに宮前は、先ほどからの予測能力も併せて戦慄した。一体彼の頭のなかではどのように物事が処理されているのだろうか。
「こっちに触手がなくなったなら、私達が動けますね」
(私も負けていられない)
「いけるはずっす。ていうか『達』ってことは自分もいていいんですね」
「はい、この戦いで既に何度も力を借りていますし…。ぜひこちらから協力をお願いしたいです、えっと……」
「ノックでいいっすよ。そう呼ばれてるっす宮前さん」
【NEXT】10-17 07:00




