バタフライ・イーター 3
「クソっ、バックアップ頼んだぞ我が娘よ」
「うんっ」
浩仁は駆け出しながらワイシャツの胸ポケットに刺してある二本のペンから一つを選択し、前方へ山なりに放った。くるくると回転しながらペンは上昇から落下へと変わり、やがて赤い霧のかかった瞳をした浩仁の目の前へと落ちてくる――それを、思い切り殴った。
打撃を斬撃に変換する異能、ひとつの透明な斬撃が男子生徒を捉える触手に向かって放たれた。そのとき既に浩仁は再び全力疾走、間違えることなく触手をぶっ千切り墜落する男子生徒を受け止めるにギリギリもいいところだった。
「っしャあ……なんとか助けたぞ……」
生徒を両腕に納めるその真上から3本の触手が躍りかかる。二人まとめて捕らえようとしているのか、あるいは突き刺そうとしているのか、どちらにせよ何十キロという人間をキャッチし両手が塞がった直後の浩仁にどうこうできる問題じゃなく、だからこそ彼女が視界に現れ触手に立ち向かった。迫る触手、速度は相当……だが見える、浩仁なら側面から掌で弾き、軌道をそらすだけでなく強力な衝撃を伴わせて使い物にならなくさせただろう。
(だとしたら、"その通りになる")
そう、果たして碧色の瞳をした宮前は【もう一つの記憶】によって浩仁のシュミレートと全く同じ結果をもたらしていた、3本の触手はそれぞれ掌底で弾かれた先から力なくうなだれている。
「ハッ…上出来すぎるぜ我が娘よ」
「お父さんっ、早く後退して男の子を!」そう叫ぶ宮前の瞳には、新たな触手が次々と生み出されていく光景が写っていた。
(真上からの攻撃ってこんなに捌きにくいの…!?せめて正面からうち迎えれば……)
そのためにも、やはり一旦食われるモノとは距離をとりたい。彼女の体術の基である浩仁も当然同じことを思っている。宮前に促されるとほぼ同時に後退して走りだしていた。
「あ、あのっ」
「お? 何だ気絶してたんじゃなかったのか」
「してないっすよ!!」未だに浩仁の腕の中にいた男子生徒が恥ずかしそうにしながら無理やり飛び降りた。
「助けてもらってありがとっす、もう自分ではしれますから!」
「ほォ、あんな高いところで振り回されて平気たァ意外としっかりしてるじゃねェか」
「どもっす!」礼を言いながら男子生徒はちらりと後ろを走る宮前を見た。
(ていうか女の子の前で男に人にお姫様抱っこされるとかありえないっす!たとえ無事じゃなくても飛び降りるっすよ…)
「攻撃来ます! 避けて…!」
「――うわッなんすかコレ!?」
浩仁と宮前はともかく、男子生徒は後ろを見る余裕など皆無だったため声に振り向いて驚愕する、先ほどまでは6本しか無かった触手が倍以上に増えていたことに。
「……はぁ!」
「オラァ!!」
小さな身体と大きな身体、対照的な2つの人間が同じ動きをして次々に襲い来る触手を素手で打ち落としていく。触手ひとつひとつを一撃で仕留め流れるように次の目標へと攻撃を移す。男子生徒の出る幕は無かったかもしれないが、女の子が戦っている状況で何もしないのはよくない、そんな思いが働いた。
「自分もいくっす!」
輪郭に沿った茶髪の先が赤く染まる、炎の使い手としていつでも炎を使役できるように属素を張り巡らせた。
(実力はまだまだっすけど、何かできることがあるはず…!)
しかしスタンバイを終えた時にはもう、全ての触手の先端がうなだれ力を失っていた。




