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Attri-tY  作者: ゆきながれ
Episode-0 似たもの同士
6/90

スチール・イーター 5

冗談……ではなさそうだ。教わることが趣味、巡は初めて聞いた。しかし趣味とは個人が楽しみとしているものや面白さとか美を感じる個人の感覚のあり方、趣味と言ってしまえば趣味なのだろうか、変わった趣味をおもちですねなんて言葉は、思った以上によく使われているのかもしれない。

「わかった、じゃあ帰り際に商店街によろうか。行きつけの肉屋と八百屋があるんだ」

二人は次に好きな食べ物について話した。宮前が半ば開き直るようにプリントにあった落書き通りの話を振ってきたのが巡にはおかしかった。その話で宮前がコロッケが好きだというのでまずはひき肉を買いに肉屋の榎田へきた。前まで行くといつもの元気なおばあさんが声をかけてくれる。

「巡ちゃんいらっしゃい!今日は何作るんだい!」

「こんにちは榎田のおばちゃん。牛ひき肉を150gもらえますか? コロッケを作るんです」

「よっしゃわかった。220円出してお待ち!」

今日も元気だなあと思いながらお財布の小銭入れをあさる。その間に榎田が肉を包装して持ってきたので、巡が慌てて小銭を取ろうとしてその姿をみた宮前が反射的に榎田から肉を受け取った。ほとんど無意識のことだった、今日の宮前は手袋をしていない。言われて気づいた。

「あんた……今、手が……」

「っ!?」

商品を持った手を胸に置いたまま、一歩二歩と後ずさりする宮前。その表情は驚きを隠せない榎田と同様に見えたが、彼女にはそれと同じくらいの恐怖が混じっているようにも感じる。

「【共存区域拡大計画】……まさか近所にも送られてきてるとはねぇ……」

榎田のその声音は、決して友好的な印象を感じさせなかった。

「あ……えっと……」

宮前の瞳が酷く泳ぐ、四歩五歩と後ずさりが続き背中に誰かがぶつかった。「きゃあ!?」と相手が驚くほどの悲鳴が上がり宮前が両手で口をふさぐ、その手から肉が落下した。

「すまない、大丈夫か?」

ぶつかったのはスーツをまとった中年の男性だった。あまりにも宮前が驚いたので心配して肩に手を置こうとしたのか、しかしそれを宮前が服をまとった腕に触れるようにして振り払った。直後彼女は自分のしたことに気づき再び後ずさりつつごめんなさいごめんなさいと震える声で謝り始める。

「榎田のばあちゃん、220円」

巡はお金をカウンターに置くと早足で彼女のもとに向かい、足元に落ちたひき肉を拾うと逆の手で彼女の腕をつかんだ。

「落ち着け、大丈夫だ」

「……っ」

半ば過呼吸のように乱れた呼吸をする彼女の背中を優しく支えながら巡は向かいの八百屋にいる古谷野のおじさんがこっちに来るなと手振りをしているのを見た。

「巡ちゃん、悪いけど次からは一人でおいで」

追い打ちのように背後から榎田の声がかかる。触れている彼女の背中が大きく震え始めた。

「行こう」

返事はなかったが宮前は歩いてくれた。しかし彼女の自宅の前に立たせても一向に鍵をとりだそうとせずそこに突っ立っているだけだった。仕方がなく巡は宮前の腕を引き自室まで連れて行った。家に入ると彼女は自分で靴を脱いだし、リビングのテーブルの前にクッションを置くとそこに座ってくれた。そこで初めて宮前が静かながら大量の涙を流していることに気づいた。テーブルの上にティッシュ箱を置き、巡は冷蔵庫からミルクを取り出して温めた。それを彼女の前に置いてもやはり反応がなく、ただその手にはティッシュが握られていて涙が拭われた形跡があった。巡は声をかけることはせずキッチンへ向かう、この部屋はワンルームの自室とキッチンがドアで区切られている。巡は静かにドアを閉めると、深呼吸をして冷蔵庫を開けた。人参と玉ねぎ、それと牛乳が残っている。


宮前はそのまま1時間ほどして我に返るように自分の手に握られた大量のティッシュに驚いた。ここは、間取りは自宅と同じだけれど自宅ではない……。ふと、お肉の焼ける香ばしい香りがドアを挟んで漂ってきた。そのドアが開き巡が姿を現す。

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