フレイム&トランス 9
だがそれは付け焼き刃の防御に過ぎず、ただ男の炎弾ごときを防げたとういうだけ。巡が攻撃手段を持たないことにも変わりはないし、男は何も焦ることなく今の炎弾以上の攻撃を巡に繰り出せばいい。そして現れたのはたった一つの、しかし規模は先程のとは遥かに大きな火球だった。
「さっきの盾では到底防ぎきれないぞ」
その射出速度も炎弾以上、全方向からの微弱な攻撃が今度は一点集中となり襲い来る。巡は防ぐことが出来なかった。のではなく防がなかった。
(盾じゃ無理だって、わざわざ教えてくれたわけだし)
巡はふらついた足でなんとか一歩後ろへ跳ぶ。その一瞬前まで巡がいた場所を火球が通過する瞬間、床から飛び出した巨大な氷柱に貫かれ消滅した。
「……君は今飛び退った。能力は空間支配外だったはずだが」
男の言いたいことは、炎の使い手の空間支配下で火球を相殺する程の能力を、氷の使い手である巡がどのようにやってのけたのか、ということだろう。
「移動をしても、そこには僅かな時間ですが空間支配の余韻は残る、それを利用したまでです」
その場にいては巡ごと貫かれてしまう。かといって前方に氷柱を展開させても僅かな範囲の空間支配からはみ出てしまい威力は激減、火球は相殺できない。となれば自身の身長分だけある空間支配を縦に利用する、またそのための移動を行うというのは自然の成り行きだった。
「君は面白いな。では見せてくれないか、今の火球が多方向から迫った場合はどうするのかを」
――〈多角大量変換〉。男の中で準備されていた能力が、ほんの間も置かず巡の周りに4つの火球となって出現した。
(まるで試されてるな、既に俺のことをNo.12とでも認識してんのか)
そう思っても、心のなかで否定する時間さえ今の巡には与えられない。この4つの攻撃をどう捌けばいい、このふらついた足では到底避けきれないし、避けたよころで火球は彼の意思に従い何度でも巡に襲いかかるだろう。壊すしかない、1つずつ襲ってきてくれるならやりようはあるが、そんなことはありえない。
案の定、火球は全て同時に巡へ高速で迫った。前後左右に逃げ場はない、空間支配の力も、余韻も利用することはできない。打つ手無し……と、判断しそうではあるが、案外そうでもない。
上だ。
足元から氷の柱が盛り上がり巡を宙に押し上げる。直後足場となっていた柱は火球4つによりめちゃくちゃに押しつぶされ砕け散った。いくら空間支配の中で創り出した能力でも4つの火球には耐えられないと、男からはそう見えていたかもしれない。しかし実際柱の強度は非常に弱く設定されており、ただ巡を宙に押し上げるだけを目的としていた。そして4つの火球と氷の破片共々が一箇所に、"余韻に浸った"のを確認した巡は再度、強硬な氷柱を創造し諸々を打ち砕いた。
「別に火球は4つとは言っていないぞ、少年」
「っ、えぇそうですね」
試されているだなんてお門違いだった。男は本気で戦術的に巡を潰しに来ている。明らかに巡が上に逃げることを予測し、宙に放られた状態で避けることが難しくなった所を狙った5つ目の火球。
しかし巡は思った。初撃の火球を3つにして追撃を2つにしたほうが避けにくかったのに、と。
足元に創り出した氷塊を、弱々しくだが蹴りとばす。
その反動で後ろに移動し、目の前を火球が通りすぎる。あとは空間支配の余韻を利用するだけだ。
「詰めが甘いですね」
なんとか着地してみせた巡は男を見て言う。
「ずいぶんと器用なのだな、私の火球を5つも捌いてしまうとは。空間支配下での火球の威力は相当なもの、それを相殺する者すら滅多に現れないというのに――」
そう口にして男は気づいた。火球を5つ消滅させるどころか、1つ消すだけでもおかしいのではないかと。阿木李は先の移動時に巡のことを調べ、Bランクであることを把握していた。いくら空間支配を巧みに利用したとて条件は男と同じ、あとは純粋なランクの差が力量を語るはずだ。それなのに巡はやすやすと火球5つを消してみせた。上位の能力と張り合うなど99%ありえない、しかし目の前で見せられた以上、その1%を疑うしかなかった。




