フレイム&トランス 7
「そうか、ありがとう」
「いいえ、とんでもないです。最後までご案内しますよ」
再び歩こうとする少女だったが、半歩だけ足を進めて止まってしまう。
「……どうやらあちらからお見えのようです」
「そう、みたいだな」
「さっきの、少年……?それに、ユリ……コレは一体どういうことだ」
その男、水瀬を連れさらった男が奥の扉から一人で姿を現してそう言った。どうやら巡が尾行してきていた事実にも驚いたらしい、男の中では巡は崖から突き落とされたということで完結していたということだ。
「はい、先程よりこの家の周りをぐるぐると歩く人がいましたので、入りたいのかと思って室内までお招きしました」
「な……少年が元気に追ってきたことにも驚きだが、ユリ……知らない人は何を言われても入れちゃダメって教えただろう」
「はい、今思い出しました。ですがユリは何も言われてませんし、そもそも率先してドアを解錠しました」
「もっとダメじゃないか」
男が身に染み付いたようなため息を吐いてみせる。どうにもこの少女の感覚はあの男とも咬み合わないらしい。だが今は、この少女のことよりも――
「水瀬薗はどこですか」
「No.11かね、彼女なら奥の部屋で眠っているよ」
「そうですか、じゃあ今直ぐに"水瀬薗"を返してください」
「そうにもいかない。"No.11"には今一度手をかしてもらう必要がある」
「"水瀬薗"には協力する意思はないように感じましたが、それもあからさまに」
「"No.11"とは以前一度契約を交わしている、今の意思よりも私には過去のデータを尊重することが重要とされているのでね」
「……そうですか」
ゆらり、巡の髪がなびく。
「ユリ、あちらの部屋にいってなさい」
「はい」
巡が能力に強い属素を込めていくのを察し、男がユリをこの場から退出させる。
「貴方を倒して、薗と帰ります」
「そうか、"今度こそ本気を見せてくれる"のだね、少年……!」
巡以上に、男から放たれる威圧は大きい。変わり果てた赤髪と彼自身の雰囲気、そして室内であるからこそより強く感じる炎の使い手の熱気。氷の使い手である巡にとってあまりいい相手とはいえないが、今は環境が巡を味方する。
まずは一回目。巡はこの広い空間に自分の冷気を爆散させた。
「……これは」
「室内に氷の使い手を連れ込んだことを、後悔してください」
驚く男に、巡はハイペースで属素を変換していく。能力の爆散と並行して能力の爆散の準備をする。自分の中でいくつかの能力を同時に練り上げる〈多角大量変換〉。男はなぜか黙って巡の動向を見ているだけで何もしてこようとしない。巡は構わず能力を重ねていく。2回、3回目の爆散。あっけなくも、これでもうここは巡のための空間と言っても間違いではなくなった。
ハンデのつもりなのか、男はやはり立ったまま何もしようとしない。巡が既に互角かそれ以上の戦いが望めるかもしれないという状況をわかっているのか。
実際、男はわかっていた。わかっていながら何も"できなかった"。
「素晴らしい……」
ただただ、巡という少年に感動してしまい。
「勝負のはじめに空間支配を試みて……」
男は冷やされた宙を両手でゆっくりと握るように拳をつくっては解いて、何度もそれを繰り返した。
「有利な状況を作ってから、次の手を〈多角大量変換〉で打っているとは……! 〈多角大量変換〉を会得した君レベルの氷の使い手と会えるのは初めてかもしれないよ……ああ素晴らしい!!」
(一回見ただけで、見抜けるのか)
男は興奮と言っても過言ではない様子で気の済むまで巡の冷気を感じた。気の済むまで巡の冷気を吸い込んだ。気の済むまで巡の冷気を味わった。気の済むまで巡の冷気を肌に塗りこんだ、塗りこんだそばから温まってしまうのでこれは意味がなかったが、男はとにかく彼の冷気を心ゆくまで堪能して、投げつけられた巨大な氷の槍を爆発させ粉微塵させると強烈な熱気を空間全体に"爆散"させた。




