フレイム&トランス
「コレで満足ですか?」
静かに寝息を立て始めた水瀬を保健室のベッドに寝かせた巡が小さめの声で尋ねる。
「まーな、こいつがタダモンじゃねェってのが確信できたぜ」
同じく声量を抑えた浩仁がため息混じりに応える、その表情は教師としての顔が半分、彼自身の関心が半分といったところか。
「そうですね……薗の能力に関しては色々と事情がありそうです」
「また情報あたってみるか、あんま期待はできねェけど」
「あまり詮索するのもどうかと思いますけどね。とりあえずプリンは5個ください」
「コイツのこと思いやってると見せかけて貪欲丸出しだな」
「プリン5個、明日ですよ」
「貪欲だけになったな」
「90個じゃないだけ感謝してくださいね」
「やめろ……あのブーイングは流石に良心が痛んだ……」
「ウソをつく方がいけないんですよ」
「言い返せねェからマジでやめてくれ」
「プリン5個ですからね」
「分かったから! しつけェよ畜生!」
思わず大声がでて口を塞ぐ浩仁。巡が面白がって笑っていると悔しそうにしながら踵を返した。
「オレは我が娘の様子を見てくる、そっちは任せていいか」
「わかりました、傷をえぐったりしないでくださいね」
「実の親がしくじるかよバーカ。あとちょっと履き違えてんぜ巡クン」
「というと?」
「我が娘のことだ、今頃もっと強くなれる方法を考えてるにちげェねェ」
「ああ、確かに」
その発言は過去最高に親バカ要素を含んでいたのにかかわらず、巡は親バカだと思えなかった。
(綾なら、本当にそう考えてるだろうし)
「じゃ、気ィつけて帰れよ。チビが目覚めるのは多分もうちょっと遅くなってからだからな」
「心配しないでください、ちゃんと家まで送りますから」
「おうよ」
(心配、か……確かにオメーには心配なんていらねェかもな。チビの能力が派手過ぎて周りの奴らは気にしてなかったが、やっぱお前も"相当"だぜ……)
保健室に二人だけになる。すでに日が傾いていて橙色の西日が白いシーツを色づけていた。
その色がやがて白にもどる。外からの光はなくなりただ蛍光灯に照らされるだけになった保健室で水瀬は目をさました。それまで巡は何度かここと職員室を行ったり来たりする保険担当の教員と話したり、夕飯はどうしようか考えたり、最終的にはめったにやらない復習にまで手をだしていた。
「けっこー寝てたっぽいね」
「属素が考えられないほど増えたみたいだしな」
「……うん、とはいえなかなかに無茶をしたな~、あんな大技久しぶりに使ったし」
ふと水瀬が窓の外が真っ暗になっていたのを見て浩仁の持ってきてくれた自分のバッグに手を伸ばしてスマホを取り出した。19:12とデジタル表示された画面を確認するやベッドから降りて上履きを履く。
「ってかごめんね、こんな時間までついててくれて」
「いいよ、疲弊らせたの俺だし」
「べつにメグルのせいってわけじゃないよ~」
「まぁまぁ、家まで送るけど大丈夫かな」
「えっそんないいよ~、送ってもらいたいからそうするけど」
「はいはい」
「えへへ、じゃあ帰ろっか。とりあえず保険のせんせーに一言いっといたほうがいいかな~」
ちょうどまた職員室にでも行っているのか、保健室には水瀬と巡以外誰もいなかった。二人は職員室まで足を伸ばし軽く挨拶を済ませてから下校した。この時間に制服で歩くことはめったにないから新鮮な気分だ、昼間だと冬服が少し暑く感じる季節になってきたが夜なら心地いい。




