共存部 18
「女の子を騙すなんて~…」
「いやこれ手合わせだし」
「わかってるもん! いいよ、こんな壁――ッ」
水瀬が腕を大きく横に凪ぐ、それに合わせるようにしてあの鞭が大きくしなり、氷の壁を……
「!?」
直後、ほとんどの生徒が目をつむり耳を塞いだ。ガラスよりも重く、岩よりは軽い物体が乱暴に、強引に破壊された轟音が鳴り響く。巡はなんとか目を逸らさずにソレをみていた。鞭だったはずの水が、氷柱に接触する瞬間急激に膨張した。それは恐ろしいほどに変形した大蛇であった。
「こりゃァ……すげェのが来るな」
周りの生徒が耳をふさぐなか、あまりの迫力に思わず笑ってしまいそうな光景を目にした浩仁、その大蛇と化した水瀬の能力は、巡がいくつも作り上げた巨大な氷の柱に迫り、"大きな口をあけて噛み砕いた"。その隣も、その隣の柱も、轟音はたて続き地が震える、巡の額に冷や汗が浮かんだ。流石にこれは予想外だ。そしてもう一つ、予想はしていたのに気を取られてしまい、結果的に予想外になってしまった事態が生じて巡は咄嗟に走りだした。
ひとつ残らず破壊された氷の柱、水瀬はその中の一つを目の前に位置していた。あれほど派手に破壊したら当然いくらかの氷塊が彼女めがけて落下してくる。たった今化け物じみた芸当を見せてくれた彼女ならそれくらいどってことないと巡も考えたが、突如彼女が脚もとをふらつかせるというアクシデントを目にして疲弊を悟った。だが走りだすのが遅かった、なんとか氷塊の軌道を操るように意識を集中させたがあまりに数が多すぎる。落下する氷塊は数センチの物から数十センチまで存在して、しかし大きさなど関係なく、どれが彼女を直撃しても程度に差はあれど怪我をさせてしまう。
(やむを得ない、か――)
巡は自分の中にある、もう一つの力を引き出そうとした。そうしようとして山ほどの氷の塊が落下する中を猛スピードで駆け抜ける筋肉の塊が見え、「わああああああぁぁぁぁぁぁがあああああああああああああああああああぁぁぁぁぶうううううううううううううううういいいいいいいいいいいんんんんんんんんんんんんんよおおおおおおおおおおおおオォォォォォォォォォォ!!!!」という声が聞こえ思わずもう一つの力を留めた。異能を使っているわけでもないのに超高速で爆走する筋肉は、その自慢のムキムキした脚で地を蹴ると水瀬の頭上に一番近い氷塊を思い切り殴りつけた。
瞬間、付近にある氷塊一帯がすべて砕け散った。巡は目を見張る、今のは斬撃じゃない、彼の異能は斬撃を生み出すものではなかったのか……?
――しかし、驚いてもいられない。巡は水瀬に向けて能力を発動する。
「あた、まが……ぐわ、んぐわ、んするよぉ……」
足元がおぼつかず、今にも倒れてしまいそうな彼女の周囲にふわふわとした雪が出現し、ゆっくりと身体を包み込んでいく。
「ん……なん、だろ…冷たくて……きもち、いぃ……」
その雪の上に浩仁によって砕かれた極小の氷がぽろぽろと落ちてくるが巡の操作によって上部の雪だけ密度を高められ氷の浸入を防いだ。ようやく一息つける、浩仁が駆けつけなかったらこのようにはいかなかった。臨時教師とかそういう以前に、親バカとかそういう以前に、彼は人間を大事にする人物なんだと巡は思った。
「っしゃああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
そんな彼が右手を高らかに上げてこの上なく嬉しそうに叫ぶ。
「この勝負ぅぅぅぅぅぅ!!!!巡の勝ちいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!」
あまりに嬉しそうな姿に、巡は前言撤回をするしかなかった。
そしてその後、浩仁に100名以上のブーイングが降り注いだのは、言うまでもなかった。




