共存部 17
能力には幾つか属性とは違う観点で規則や性質を持っている。例えばこの戦いに限らず能力を使えるものが誰かを倒そうと思ったのなら、直接対象に能力で、水の使い手なら水を体内に生み出してしまえばいい――なんてことをしてしまったら間違いなくその人間は死んでしまうのだが、実際そのような事は不可能だ。例えば食す者を相手にした場合、自分の体内に流れる属素と相手の体内に流れる属素は同じものの様で全くの別物、属素の密度が濃い体内及び肌へ能力で効果をもたらそうとしてもお互いが反発しあって属素を属性に変換することができない。だから相手とは離れた位置で属性を具現化し、属素とは別の物質にしてから相手へ攻撃するのが通常だ。また手に入れる者が対象であっても同じ症状が見られているのは彼らにもまた属素と同じようなものが体内を流れているからだと言われている。今巡の相手をしているのは水の使い手、その彼女が生み出した巨大な水球が接触するまでに凍結し巡の意思により粉々になってしまったのは、実に理論にのっとった対処法をしたまでのことだった。
「え~っ、それ壊しちゃえるのぉ……」
理論上は可能、それでいて水瀬が驚いたのは巨大な水球を瞬時に凍結し無効化してしまえる技術がランクBの巡にあるとは思っていなかったから、
「一度属性に変換されてしまえばこちらの属素を介入させられる、そしたら君が創り出した水だとしても俺の能力で凍らして砕くことくらい――」
「それくらい判るよっ、そんな技術巡にあったなんて知らなかったの!」
「それは――水の使い手と氷の使い手って、相性良すぎるから」
(それも知ってる、でもウソ……相性で片付けられる問題じゃないよこんなの)
本来であれば、ランクBの食す者にあの水球をどうこうする術はなかったはずだ、あれは水瀬の意思で動くため避けられてもいくらでも追尾できる。
「プリンかかってるし、悪いけど勝つよ」
「なっ……たかだか一撃に対応できたくらいでそれは調子に乗りすぎ~!」
ぷんすかぷんすか。
とは言っても、実のところ巡に攻撃の意思はゼロだった。そんなことをしなくてもこの勝負はもう決まっている。だからプリンのお礼も兼ねて巡は浩仁の為に彼女の実力を出来る限り引き出そうと決めた。ただ白い、白い氷の霧が巡の周りにゆらゆらとたっていく。室内であればこの状態が長時間維持されて氷の使い手の実力が底上げされる効果がみられるのだが今は室外のグラウンドだ。とどまるところを知らない氷の霧は短時間で大気の温度に溶かされてしまう。だから巡はそれらを5箇所ほどに収束させる。各場所に集まって行った霧は密度を高め巡に操作され、10センチほどの氷柱へと姿を変えた。巡が霧を漂わせてからおよそ3秒の出来事だった、氷柱は水瀬めがけて射出される。距離は役10メートル、この速度なら到達までは1秒と少し……だが1秒も経たずに氷柱は真っ二つに切断され地に落ちた。5つとも、全部だ。
あれは、巡には見覚えがあった。新緑喫茶で初めて水瀬の能力を見た時の、蛇のように変形した水だ……しかし今目の前で中を泳ぐ彼女の能力は、あの時の能力などあざ笑うかのような、とても長く、とても鋭い蛇……今は武器として使われているため鞭の方がしっくりくるか。水瀬はその鞭を操り瞬時に5つの氷柱を切断したらしい。
(操作技術はAの中堅、いやもっと上かな、Aになりたての操作力じゃないのは予想できてたけど。あとは威力、ちゃんと浩仁さんは見ているかな)
巡は水瀬の足元からすこし離れた位置に意識を集中させ、そこから今度は巨大な氷柱を生成した。彼女がどう対応するのかが見たくて空気は含まない透明仕様だ。
「ちょ……3メートルはあるよこれ~」
「一つじゃないよ」
「え?」
どうやら透明にしすぎて気付かなかったらしい。確かにそれは柱であったが、巡から言わせてもらえば壁だ。水瀬の目の前にある氷柱はその両隣、そしてさらに真横にと同じものがそびえ立っていた。すなわち壁である。もし水瀬が迂回しようと考えたらさらに創りあげることになるが。
「ってか全然さっきみたいな白い霧とか見えなかったんだけどっ、どうやってこんないっぺんに氷の柱を作り上げたのさ!」
「んー、ぶっちゃけ霧は出さなくてもいいヤツ。釣りだよね」
「騙したの~!?」
本当はちょっとした細工があったのだけれど、だからこそそれを隠蔽するための氷の霧だったと巡は心の中で答えてあげた。




