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Attri-tY  作者: ゆきながれ
Episode-1 彩られた日常と悲しみを繋げ
45/90

共存部 16

「捕まえた~っ」

水瀬が余裕な声をあげている目の前で、宮前の脳内では【もう一つの記憶】ドラウァーがフル稼働していた。幾度となく浩仁と手合わせをしてきて教えられた様々なパターンと、今のアッパーを回避された状況が一致し、次にどう行動したらいいかが半自動で選択される。

宮前は自分の右腕を掴んでいる水瀬の左手、その腕をさらに左手で掴み返して引き寄せるようにしながら自分の背中を彼女の胸に合わせるように体を捻り、背負える形をとった。その動作の途中で必然的に自分の腕を掴む水瀬の手は体制に無理が生じて離される。状況は再び宮前の一方的な攻撃のカタチ。と思いたい彼女であったが、この状態で水瀬を前方へ投げるには予め右手で胸ぐらあたりを掴んでいる必要があった。たった今開放された右手をその位置に持っていくのには無理がある。

(でも、問題ありません)

そもそも宮前は背負投げをするつもりなどなかった。掴むのは水瀬の左腕で十分、宮前はそのまま背後にいる彼女の脚を再び払い、転倒させるつつ腕を捻り上げた。

「いっ……たたたたたたたた痛い痛い痛いよ~!」

勝負はあった。この状況は水瀬の無力化に等しい。宮前は巡のプリン獲得を確信しかけた。たった一人、宮前だけは。

巡や浩仁、そしてフィールドにいる二人を見る生徒全員はその逆を悟っていた。


気がついた時には、宮前は水の中にいた。


(え……?)

周りからはハッキリと見えていた。背後から水球が宮前を飲み込む様子が。その水球は1メートル級ではない、水瀬は3つの水球をすべて合体させ宮前をとりこむのに十分な大きさのものを作っていた。水にのまれた人間は本能的に水面を目指す、しかし数十センチ浮遊する水球に取り込まれた彼女にとっては全方向が水面、どの方向を目指しても開放への道となるはずだ。だが彼女はそうできずただもがき続けた。

(どう……して、体の自由、が……)

それは至極当然のことで、自ら出現させた水を自由に操ることができる水瀬は水球から人間が脱出できないような仕組みを水流によって作用させただけのこと、宮前がそこから出られないのは当たり前だった。

「そこまでだ!!」

張り上げられる浩仁の声、水球から宮前がそっと外に出された。誤って水を飲んだ様子もなく、すぐに止めに入った浩仁の判断は最善だった。ロクにルールも決めていないだけあってその辺りには目を光らせていたのかもしれない。

「水飲まなかった、よね? よかったぁ」

スゥっと、宮前の衣類にたっぷり染み込んだ水が操られ水球へと返っていく、数秒もせずに服は乾いた状態へと戻り何事もなかったかのように水瀬は笑ってみせた。一方宮前は、笑顔をつくれるはずもなく、「完敗です……ありがとうございました」と立ち上がってはとぼとぼと巡の方へと歩いていった。

「っておィ、ちょっと待て」

「どうしたんです浩仁さん」

「チビ、あいつ全然能力ティ使ってなくねェか、こんなんじゃ見極めるもなにもないぞ」

「そうですね」

水瀬はあきらかに手加減していた。それは巡にもよくわかった。

「っておィ、ちょっと待て」

「なんですか浩仁さん」

「わが娘が負けた、だと……?」

「負けましたね、完敗でしたね」

「チビ、あいつ全然本気出してないじゃねェか、こんなんじゃ我が娘が弱いみたいじゃ……」

「頑張ってたとおもいますよ、でもAランクには流石に敵わないってことじゃないですか」

「っておィ、ちょっと待て」

(俺の話聞いてんのかなコレ)

「次はなんですか」

「賭けの内容……オレ明日プリン90個以上も揃えねェといけねェ!?」

「そんな驚くことなんですか、なんとかなるから景品にプリン出したんでしょう」

「ンなわけあるか!!」

「え」

「確かにチビにほどんど投票行くとは思ってたンだ、けど我が娘が圧勝するからプリンは10個で事足りるはずだったんだよ……」

(親バカもここまで来るとただのバカと見分けつかないな)

「ってことは、90個用意できないんですか」

「当たりめーだろ!! オレをなんだと思ってんだ!! ただの臨時教師だぞ!?」

「いやそんな威張られても」

「くそ、どーする……どーする……」

あぁ、嘘をつくとこうなるんだなぁ。巡はひとつ臨時教師から嘘の悪さを学んだ。

「そうだ、巡ちょっとヤってこい!!」

「は?」

もう手はコレしかねェ。そうとでも言いたげな浩仁の表情を確認した巡は猛烈に嫌な予感がした。そして見事に何もできずに浩仁に襟を捕まれ思いっきり投げ飛ばされた。

「ぐえ」

変な声を出しながら上空を経由して地上の宮前とすれ違う。巡はとっさに霜柱を挟んだ氷の板を落下地点に創りそこに不格好に着地した。衝撃が緩和され怪我はないものの、とにかく格好悪い着地だった。

「さァーーーって!! 今から倍プッシュの時間だぜテメーら!!! 捕食者階級Aの水瀬薗と捕食者階級Bの片山巡、勝つと思う方にお前らのプリンをもっかい賭けろや! うまくいけば獲得プリンは倍だぜ!? 賭けろよ!絶対賭けろ!!絶対だぞ!!!!」

なんだよその内容、水瀬が勝つにきまってるじゃん。考えるまでもねぇな。はいはい水瀬に倍プッシュ。そんな声が全方向から巡の耳に届く。センセー気前よすぎィ。

「そういうことか……ふざけてる」

つまり浩仁は巡に、水瀬を降してこいと言いたいのだ。そうすればプリンの獲得者はほとんどゼロになる。最早ほどんど詐欺だ。

ただその詐欺まがいな企みを実現するには、本当に巡が水瀬を打ち破るしかない。得体のしれないこの少女を負かすしかない。しかしもとより巡にはその意志などなく、

「とてもいいように使われてやる気も出ないわ……勝てるわけないし」

という言葉さえ漏れ出るほどモチベーションも勝率もあったもんじゃなかった。そんな彼のもとに投票紙でつくられた紙飛行機が、頭にプスりとあたって落ちた。イタズラかと思いながらそれを拾い上げるとインクが透けて何か書いてあるのが見えたので、気になって開いてみると焦りが見え見えの殴り書きで『勝ったらプリン5個やるから』とのお手紙、巡るは紙をポケットにしまい一息ついた。

どうやら勝つしかないようだ。

「なになに~? 次はメグルが相手なの~?」

「うん、お手柔らかに頼むよ」

「えっ、手加減したらみんなに悪いよ~」

「ですよね」

「それにぃ、メグルにはあたしに賭けてくれなかった罰もあるからホンキで潰しにいくよぉ」

「えっ、それはちょっと」

その表情はやはりわかりやすい。ぷんすかという表現がぴったしの大変ご立腹な水瀬が巨大な水球をぶんぶんと振り回して戦意をむき出しにしていた。

「いくよ、メグルなんてそっこーで片付けてあげるんだから」

(うわぁ)

蒼い髪が強く波立つ、ほんの少し前までは能力ティを発動しても変色は極僅かで、ほとんど藍色の髪のままだったのに。今では半分以上が蒼く変色している。

(浩仁さん、約束は守りましょうね)

周囲から感嘆の声が聴こえる。白く変色する毛先は氷の使い手アイスイーターである証明、稀な属性故に初めて見た生徒も少ないないだろう。

「よろしく薗、どこからでも掛かっておいで」

「あはは、余裕だねメグル。それじゃあ遠慮なく……!」

巨大な水球が大砲の如く巡の元へと射出される。きっとあれに当たれば取り込まれて即決着か、又は凄まじい衝撃をうけて耐え切れず気絶、決着か。どちらにせよコレで全てが決まってしまう程の攻撃というわけだ。

とはいえ、そんな攻撃を繰り出す相手に余裕をかませるのは、当然――余裕があるのだ。巡には。

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