共存部 10
「こ、こんなの無理だよぉ~……」
案の定というか、水瀬が顔だけ振り向き巡に泣きそうな顔を見せている。
「あはは、頑張れ薗。この部屋は3回まで能力使っていいんだし。とりあえず水球をぶつけようとは思わないことかな」
「そりゃそんなの当たらないよ~、てかあははじゃないし、超他人事じゃん~……三回とか……」
「いや俺もこの後やるんだけど……」
「ぶぅ」
膨らんだまま振り返ってしまう水瀬、どうやら覚悟を決めたらしい。
「大丈夫ですかね、水瀬さん」
「余裕じゃないかな」
「え?」
「51番成功、3つ目の部屋にどうぞ」
直後聞こえるその声。
「やった~~~~~!?」そして歓声と周りから少しの感嘆の声があがる。
「今、直球体に水が"生えた"ように見えましたが……」
「そうだな。そのあと水と一緒に球体も爆散した」
そもそもあの球体は能力の属性に著しく影響を受けやすい特殊な素材で出来ている。燃えやすくて水を吸収しやすく、凍りやすくて切れやすく、電気も問題なく通す。平等に審査するためには当然のことであるが、それゆえに球体には"当てさえすれば"どうとでもなる。巡が考えるに水瀬があの球体に大量の水を詰め込んでかき回したのだろう。結果水球は千切れ水と一緒に飛び散り、テーブルの下にその残骸が転がっている。
「綾、園と先に行っててくれ。直ぐに追いつくから」
「わ、わかりました」
驚きの余韻があるのか宮前はそれだけ言うと水瀬について次の部屋に入った。今の部屋もそうだが水瀬にとって初めての、加えて今度は鬼門となる第三審査場所。まず今までのどの部屋よりも広く生徒の数は圧倒的に少ない、同時審査数が1という入室した瞬間に今までとは違う空気と重い圧迫感を感じさせた。
「せ、生徒が数えるほどしかいませんね……」
「BとAの分かれ目、最後の部屋って昨日メグルが言ってたよぉ……ていうか、"アレ"はなんなのさ……ひぇぇ」
「……うわぁ」
水瀬が、宮前がそれを"見上げ"ただ意味を持たない言葉を漏らした。
直径5メートルはある、今までとはケタ違いの大きさを誇る球体が天井から自分たちの頭上ほどの位置にぶら下がっていた。
「50番、水瀬薗さんですね。こちらが最後の部屋になりますので万全を期せるよう改めて説明いたします。この部屋の球体は今までのものと表面上の見た目はなんの変わりもありませんが性質に関しては全て真逆となっております」
「真逆ってゆーと…」
「全ての属性に対して耐性をもっております」
「え、うぇぇ? そ、そんなのどうするんですか~?」
両手で頬をはさみ体で焦りを表現する彼女と、その横でまじまじと審査中の生徒を眺める宮前。
「ですが、この審査をクリアできますとAランクの途中切符が手にはいりますよ。ここまで来たのはこの学校の食す者約100名のうちまだ11名のみ。私達は貴女の活躍に期待しています、ちなみに能力の使用条件は10秒間の1セットのみです」
「プレッシャ~かけてくるね~、もうぜーんぜんできるきしませんっ」
「うふふ、でも悔いのないように頑張ってくださいね。破壊しろとまではいいません、自分の全力をこの球体にぶつけてください」
「はぁい」
「大丈夫でしょうか……」
「わかんなぁい、だってこんなの……ねぇ?」
巨大な球体を見上げ水瀬はため息をついた時だった、その球体の左側面に火花が走り、続けざまに何本も赤い線が、さらにその跡を追うように炎があがり最後には爆発が何度も起きた。見た目も凄いし音もそれこそ爆音と言ってほどで明らかにこの部屋だけが異質であることを語っていた。
「すご~い、やっぱここまで来る人は違うんだねぇ」
「39番、残念ながら失格です。ここまでよく頑張りましたね、B判定です」
「えっ今のだめなの!?」
「水瀬さん、見てください」
宮前が先ほど何度も赤い光が走った場所を指さしている。そこには少しの凹みはあったかもしれないがちょっとした傷としか言いようがない程度のものだった。39番と言われた生徒は残念そうだが半分はやっぱりと言った感じの表情で退出していった。その後も45番、48番と同じ結果を告げられ肩を落としB判定をもらい部屋から去っていく。
(巡さん、遅いですね……もしかして失格しちゃったんでしょうか)
そんなはずはないと思いながらも、一つ目の部屋のクリア速度からして時間がかかりすぎている。次順に控えた水瀬にその話をふるのは躊躇われたので黙っていたが、気になった宮前は後ろのドアに何回か振り向いたり辺りをキョロキョロ見ていた。
「50番、位置についてください」
「は、はぁい」
今までのように机や壁の配置はなくただ床にテープが貼られている。その手前まで足を運んだ水瀬は改めて球体を見上げるが前の3人が失格と告げられるのを見ていたためどうにも決心がつかない。
「能力の発動から10秒間の攻撃を許します。発動するまで制限時間は発生しませんのでゆっくりお考えになってもらって構いませんよ」
とは言われても、どうにもしようがないのではないかと水瀬は思ってしまうのだ。炎の使い手は火花を走らせ炎で焼いて爆発を起こしてまで傷しか付けられなかった。あとの雷の使い手は10秒間の間ひたすら電撃を浴びせたが変化の一つも与えられなかった。3人目も炎の使い手で、結果は一人目と似たり寄ったりであった。そんな結果を見届けて位置についた少女は、
「あたしは……」
誰に問いかけるわけでもなく、無意識に口を開いた。
「あたしは……もう一度能力を使うべきなのかな」
「水瀬さん……?」不審に思った宮前が背後から小さく声をかけるが反応は見られない。
「あたし、は………………………………………そっか。うん……決めたもんね」
そして、彼女の中で何かが起こった。
誰もが気を取られるほど彼女の青い髪がなびく。
ドクン、と周りの空気を震わす何かしらの事象と共に聞こえたのは轟音だった。それは能力によるものではなく、
巨大な球体の半分が床に落下する音だった。
「ご、50番……合格」
その係員の声さえ震えていて、宮前含め他の人物は全員言葉を失っていた。
「……もう後には引けないね、あたし」
誰にでも聞こえるように発せられたその声すらも、誰の耳には入らぬまま。
「51番、失敗」
「おうふ」
隣の部屋では巡が退場を余儀なくされていた。




