共存部 7
「よかったら食べてくれ、余り物の食材にケリをつけたかっただけのチャーハンだけど」
「ちょ~嬉しいよ~、いいの? いいの?」
「俺に遠慮なんていらないんだろ。……それとも水瀬家に帰ったら夕飯とかあったりするのか? だったら」
「ないよ~、あたしも一人暮らしだから」
「そうだったか、ならよかった」
「うんうん~。そっかぁもう19時なのねぇ、通りですごく食欲がそそられたわけだよ~」
水瀬は疲弊になることに抵抗を持たず何度もチャレンジしてくれた。以前浩仁が疲弊によって能力にトラウマを持ってしまうと言っていたがそれは冗談抜きでありえるほど疲弊の感覚は嫌なものであるのは巡自身も理解はしているつもりだし、水瀬は今まさにそれを連続して味わっている。それでもこの荒っぽい特訓を諦めない水瀬は素直にすごいと言っていい。
「ほんと、よくこんな暗い時間まで頑張ったわな」
「メグルのおかげだよ? ん~美味しいよぉ……」
「俺は何もしてないぞ、それこそチャ―ハンを作ったくらいで能力に関しては何も」
「それはノーだよ~」スプーンを加えたままの彼女が首を横に振る。
「場所だって、この準備だって、なによりあたしにやろうって言ってくれた事はとっても大きいことだよ~、だからとっても感謝してるよぉ?」
「そっか、ならよかった。今日はもう遅いからチャーハン食ったら終わりにしよう、まだ明日もあるし」
「……う~ん」
そこで何故か水瀬が言葉を濁らす。チャーハンを食べる手は全く速度を変えず順調に消費してくれているのだが返事という返事が帰ってこない。自分の作った料理を美味しそうに食べてくれているので巡もとりあえずは何も言わずチャーハンを口に運んでいたが、ついに先に食べ終えた水瀬が一言、
「決めた! 今日はここに泊まりま~すっ」
スプーンを持った手を高く掲げて提案してきた。
「そうすれば、あと何時間かは能力の特訓もできるでしょ~?」
「あー。そうだね、そうしよう」
(綾の部屋に泊めさせることにはなりそうだけど)
「あれっ、思ったよりアッサリな反応……」
「そうか?」
「う~ん、あたしとしてはもっと他に反応が欲しかったりするんだけどなぁ」
「そんなものはない」
「がーん」
「あ、いや……特訓に熱心で偉いぞ」
「そっちじゃないのに~……」
掲げられた手はぐったりと床についていてスプーンも寂しく皿の上に転がっていた。
それから再び能力特訓の準備をしてから20時に再開、次は20時45分、21時35分、22時00分。多少の前後があるのは属素の消費量にムラがでているからだろう、使いきらなくても残量が少なければ疲弊は発生するものだ。22時45分に目を覚ました水瀬には流石に精神的な疲れが伺えた。
「おはよう……なのです」
「おう、もう今日はやめておこうか」
「うん~……」
寝て起きたばかりなのに眠そうにも見える水瀬に濡れた髪をバスタオルで拭く巡が風呂場を指さしてすすめる。
「悪いけどさきに入っちまった。よかったら使ってくれ」
「やったぁ、入るよ~…」
「着替えは置いておいたけど、男物のスウェットなのは勘弁な」
「メグルのなら、なんでも~……それじゃいてくる~」
ふらふらと何かを言いながら風呂場に消えていく水瀬、その間に特訓に使ったボウルや夕食の食器を片付け書類のラップなども明日も使えるようにまとめておいた。教材などの準備は教室に設置されている個人ロッカーに半分以上置き勉してしまっているのでとくに必要ない。あとは宮前の部屋に布団は2つあったりするのか、それだけ確認しようと部屋をでてキッチンの前を通り過ぎようとした時、ドアが開いて思わずぶつかりそうになった。結構時間が経っていたのか時計は24時を指している。
「んにゃ~……」
半開きになったドアから脱衣所に消えていった時と変わらないテンションで水瀬が現れる。下はぶかぶかのスウェットと、上もおなじくぶかぶかのスウェットなのだが……着る気力がなかったのか中途半端に首まで通しただけの状態になっている、つまり首から下のたわわな胸を包む下着がナチュラルに見えてしまっているわけだが。
(……色んな意味で早いところ綾に伝えよう)
水瀬に服の注意を促すよりも先に彼女とすれ違い出てきたドアを閉める。
「隣の号室は綾の家なんだ、そっちに泊まったほうが都合いいだろ。とりあえず伝えてくるから待っててくれ。あと服ちゃんと着とけ」
「ふぇ……お隣はアヤなの~……?」
「そうだよ、じゃあ言ってくるから」振り向かずに答える。
「ダメ」
「n?」突然のハッキリとした否定につい振り向きかけた巡を、しかし彼女を完全に捉える前に何かが彼の体に巻き付いた。それは服に染み込んできて時間差で冷たさを感じさせる、水のような……
(っ……!?)
水のような、ではなく水だと気づいたとき驚愕する。自分の体が浮いていた、水にまかれて部屋の宙に浮いていたのだ。縄ならなんの不思議なことはない、紐でも布でも驚きには値しない。しかし水という液体でこんなことがあっさりできるものだろうか。
「アヤに伝えちゃ……ダメなのぉ~っ」
グンッ、と直後巡はベッドへ仰向けに叩きつけられていた。スプリングの優れていたものでなかったら息でも詰まっていたんじゃないかと思うくらいおもいっきりだ。そして間をおかずに胸を丸出しの水瀬が巡の上にまたがる。
「ちょ、おま」
「あたし……メグルのベッドが、いいの……」
「いやそんなことよりスウェットをちゃんとだな」
「メグルの、ベっど――」
まさか、と思う暇もなく水瀬が巡の上に倒れこんできた。たった今の能力が回ってきたのか、水の使い手については詳しくないが水で人を持ち上げたりなどは決して簡単なことではないはずなので、属素の消費はそれなりにあったと考えることもできる。いや素直に解析してる場合か。
「メグ……る……」
「おいおい」
しかし疲弊しきっているはずの水瀬はあろうことか体を重ねただけにとどまらず抱きまくらの如く腕を回して抱きしめた。巡の腹部あたりにふくよかな感覚が広がっていく。
こんな時漫画ならば隣の女の子が乗り込んできて事態を収集してくれたりするのだろうか。
「お兄……ちゃん……えへ、えへへへ……」
「……はぁ」
(いつまでこの状態なんだろうな)
もういっその事寝てしまおう。そう考えた巡であった。
………。
……。
…。
寝れるわけがなかった。




