共存部 4
書類をぴらぴらと靡かせながら浩仁が部室を後にすると、さっそく宮前が浩仁の使っていた雑巾で机周りを拭きはじめた。水瀬はタタタッと廊下の清掃用具がしまわれたロッカーまで走って行き箒とちりとりを取ってきてくれる。
「メグルちりとりお願い~」
「ん、ゴミが集まったら言ってくれ」
「らじゃ!」
「……ん?」
別に箒2本でもよかったんじゃないか。
ゴミが集まるまで待ってるのはちょっとしたおサボりのように感じる。しかし箒をもう一本取りに行くのも悪い気がするので、巡は自分の毛先を少しだけ白く染めた。能力の発動である。おおよそ8×10メートルの部室の4分の1にとても細かい氷をばらまき、それらが床に全て落ちたのを確認するとゆっくりと自分の足元に収束させていった。
「なんか足元冷たくないですか?」
「え? こっちはそんなことないよ~」
どうやら中央にある机を拭いていた宮前に冷気が触れてしまったらしい。巡は集まった氷をちりとりの上に移動させると能力を解除する、するとそこには氷に巻き込まれたホコリだけが残っていた。
「あ……巡さんの能力ですか」
「ホントだ~、髪の毛白いし。ってあれ、ちりとりにすごいホコリ貯まってるじゃん!」
「能力で集めたんですか? 器用ですね……」
「氷の使い手は意外と使い勝手がいいんだ、俺の技量は大したことないよ」
「使い勝手いいの~?炎の使い手のが簡単じゃないかな、ホコリ燃やせばオッケーだし」
「床も燃えますね」四本目の脚を拭きながら宮前が言う。
「それもそっか」
「薗の能力のほうが掃除には向いてるんじゃないか」
新緑喫茶の一件を思い出した巡が口にすると、ん~。と水瀬は箒の上に顎を乗せて困った顔をする。「あたし直ぐに疲弊っちゃうからね~、ランクはBだけど実際は能力を使えないのと一緒なんだよ、しょっくだけど属素が少ないから仕方ない~」
「属素か」
人が食す者の力を開花させるにあたってその体に新しく生まれるのが能力であるが、もうひとつ同時に生まれるものが属素と言われる、能力を使用するのに消費する必要不可欠な存在だ。この属素の量には能力の技量関係なしに激しく個人差があり、巧みに属性を操れても属素が極小だとすぐ疲弊へ陥ってしまう。疲弊が休めば解消される理由は属素が自然回復する特徴からきているわけだ。
「は~あ~、この調子だと今週の能力審査でも早々にB判定もらって終わりかなぁ」
力の入っていない掃き掃除をしながら水瀬がだれる。
「そうか、もうそんな時期なんだ」
入院が地味に長かったせいで忘れていた。
「能力審査ってなんですか?」
机の脚を全て拭き終わった宮前がひょこっと顔をだして巡に問いかける。「例のランクに関係しているんでしょうか?」
「そうだよ。食す者のランク付け審査、公共施設なら色々なところでやってるんだけど、学校でも学期毎にやるんだ。健康診断みたいなものさ」
「5月末の健康診断って、ずいぶん遅いですね」
「メグルは例え変なんだよ~。5月末にあるのはね、高校生になってから初めて能力開花させる子もいるから練習期間を設けてるんだと思うよぉ。ちなみに能力開花っていうのは特別な施設に1週間くらいぼーんされて体中調べられるの~、それで適性があれば開花して、そうじゃなければ1週間も経たずに施設からぼーんされるってワケ。無事に1週間施設に滞在できても能力についてほとんど知らないのに審査とか言われても困っちゃわない為の練習期間なのかなぁ」
「なるほど……」
宮前は手に入れる者であるから縁のない話だった。能力を使えるのは食す者だけ、手に入れる者には異能があるし宮前自身気にすることではなかったが縁がないからこそ審査というものに興味が湧いた。
「巡さん、それっていつやるんですか?」
「えっと、いつやるんだろう」
「明後日だよ~」
「えっ」
初耳だ。
「巡さん、私がまとめて渡したプリントにちゃんと目を通してくれました?」
「すいません」
「もう……それで、その審査には見学とかって行ってもいいんですかね?」
「なになに~? 興味あるの??」
「別に水瀬さんにはありません」
「あたしのことなんて聞いてないしっ、でもしょっくだし……」
ぽろっと箒を手放してしまう水瀬。その足元にはホコリはまったく集まっていない。




