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Attri-tY  作者: ゆきながれ
Episode-0 似たもの同士
3/90

スチール・イーター 2

そんな長ったらしい文章はこの先まだまだ彼らの教科書の一番頭に記載されるだろう。そして毎年毎年読み返されるのだ。小学校の途中から中学校そして高校一年、二年目にして7回目のコレを聞いているめぐるはおおかた記憶しかけている。この文章がどれだけ重要で、それも自分たちが生きている間に起きて少なからず関係しているということは十二分にわかっているが、7回も聞かされたらさすがにくどい。巡は自然と窓の外に目をやる、まだ散り切っていない桜がひらひらと落ちていくのが見えた。中央区域中心部の学校でもこんな感じなのか、巡のいる区域は東京の東でそれも23区の中央よりも右よりにある。つい最近中央区域の仲間入りとなったため共存意識の向上が少しずつ検討されていて、まだこの区域には人がほとんどを占めるが少しずつ手に入れる物スチールが移住してくることになっているはずだ。現に巡のクラスにも一人手に入れる物スチールの女子生徒がいた。宮前綾という名の彼女は口数は多いほうではなく、クラス替えに合わせた本年度からの転入で最初は皆が皆人見知りのような感じではあったものの、彼女はクラスというよりこの空間に全然馴染めていない様子で打ち解けるタイミングをすっかり逃してしまったように見受けられた。黒髪のショートで深い藍色の瞳できれいな顔立ちをしているが、彼女はあまり顔を上げることもなく、一日のカリキュラムを終えるとすぐに教室をでていってしまった。巡もまた部活動に参加しているわけでもないので授業が終わり次第荷物をまとめ学校を後にするのだが。

自分たちのいる4階の教室から1階へと降りると途端に騒がしさをおぼえる、それは昇降口からで巡はすぐに合点がいった。今日は部活動の勧誘が解禁される日だ、行ってみれば下校目的の新入生を待ち構える上級生が昇降口から校庭にまであふれかえっている。勧誘の的にもならない2年の自分がここを乗り越えなくてはいけないというちょっとした憂鬱さを感じながらも靴を履きかえると、そこに宮前綾が立ち尽くしていた。校庭の人混みをみて戸惑っているようだ、その手には手袋がされている。

(そうか、透過を気にして……)

おそらく人混みを通るたびに彼女は季節関係なく手袋をしているのだろう。手に入れる物スチールと人は物を通してなら触れることができるため、手袋をしていれば手が触れてしまっても透過は見られず何も不自然なことは起こらない。しかしこの人口密度となると宮前の無防備な肩から上に誰も接触しないとは限らない。しかも手ではなく頭部の透過は、たとえスチールに理解があったとしてもよく思う人間はいないだろう。自分の手が人の頭をすり抜けて何食わぬ顔でいられるだろうか、ましてや勧誘に励んでいる生徒たちが。

「宮前、さん」

少し躊躇ったが声をかけた。呼ばれた少女は振り返ると巡を見て、すぐに目をそらした。今まさに人との接触を拒んでいた彼女には勧誘だと思われたらしい。巡はそれを撤回するように言葉をつづけた。

「裏門から帰ったらどうかな、そっちには人はいないだろうし」

うつむき気味だった彼女がふと顔をあげ、再び目が合う。

「裏門、ですか」

勧誘とは真逆の要件にまた戸惑った様子だったが、少しすると彼女は外履きを脱ぎ手に持った。ぜひとも裏口から帰りたいといったところか。巡も宮前と同じように外履きを指に引っ掛ける。

「こっちだよ」

この学校は地下1階から地上は6階まである。1フロアが広くしかも本来は来客や教師だけが出入り口として使う裏門へ生徒が堂々と行くのは難しい。北にある昇降口から校内を歩き正反対にある裏門へ向かう途中で右折し、外の東外通路へでてから裏門へ回りこむことにした。校舎の周りには広い通路があり、運動部が日々走り込みに使っていたりもするのだが、今日は勧誘に集中しているため誰も走っていないのだ。人目を避けるには都合がいい。さらにここから裏門まで行けば裏玄関の受付の人に見られることもない。裏門は正門と同じく重いスライド式の鉄門だがその横には通常の扉も設置されている。巡と宮前は人がいないことを確認するとそそくさと校外へとでた。

「えっと、こちらから出ると商店街方面は……」

「こっちだね、俺も商店街の方なんだ」

でた直ぐのところは駐車場になっていて、校舎の角まで歩くと歩道に面した。

「えっと、片山さんでよかったですか?」

「皆からは巡って呼ばれてるよ」

「では、巡さん」

歩道と合流する前に宮前は丁寧なお辞儀をした。

「助かりました、私……」

「いいって、俺も人混み嫌いだし」

あくまで人混みが原因だったことにしようと巡は思った。宮前はそうではないという態度をしめしかけたが、「君のおかげで俺まで裏門から下校できたわけだし」と巡が付け加えたため否定の言葉も飲み込んだ。

「……おかげって言っても、合法ではないですよ」

「確かに、正しくは共犯か」

「すいません……」

いやいや、謝らないでよと巡は手を横に振り歩道を歩きだした。巡は自分も越してきたばかりだということや、引っ越しの際に挨拶をしようとした隣室にずっと居留守をされていることなど他愛もない話をもちかけながら商店街を目指していった。10分も歩けば巡がいつも買い出しをするそこへたどり着き、その長い商店街の途中で道を外れると5分もしないくらいの場所に巡の住むマンションがある。宮前は商店街の入り口で改めて巡に頭を下げると自分の家へと歩いて行った。巡は途中、肉屋の榎田とその向かいにある八百屋の古谷野でさくっと買い物をして人で賑わう道を外れ半分ほどに細くなった路地を歩いた。その途中で共犯者と遭遇する。

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