共存部
「そういえば巡さんは、お父さんに勝ったんですよね?」
コロッケを食べた翌日、指定通りの時間に登校する二人の姿があった。巡にとっては退院後初めてのちゃんとした登校だ。
「いや、勝ったっていうか……あれは勝ってないぞ」
「えっ、だってお父さんが殺しかけたけどオレも死にかけたって、アレは勝てないって」
それは自分の異能込みの話だろうか、それとも能力だけか。
「確かに室内だったから氷の使い手にとっては有利だったけれど、全然勝ってないしむしろボロボロだったのは綾も知ってるだろ? そのままの結果だよ、俺はボロ負けした」
嘘じゃない、純粋に能力の力は浩仁にはほとんど通じなかった。もし屋外での戦いであったらきっと最初から為す術がなかった。
「そうなんですか? 確かにお父さんに勝っちゃったらそれは大変なことですけど……」
「大変って?」
「だって共存委員会幹部の一人ですよ? そんな人に勝ったとしてそれが知れ渡ったら、多分巡さんあの委員会に引っ張りダコですよ、入会するまで帰れませんよ……っていうのは私のイメージですけど」
「うわぁ」
ボロボロになっておいてよかったかもしれない。
「……あれ?」
ふと、宮前が立ち止まる。もう校門を目前にしたところだった。どうしたのかと巡も宮前の視線と同じ場所に顔を向けると、校門を超えた校庭にはなぜか人だかりができていた。
「部活の勧誘って、朝はやってませんでしたよね?」
「あぁ、やってなかった。それに今はもう勧誘の時期じゃない」
「何か、あったのでしょうか」
「聞いてみよう、人が多いから綾はここで待ってたほうがいいかもな」
「はい、じゃあ待ってますね」
立ち止まった宮前から離れ、巡は校門をくぐる。次の瞬間、おおよそ30の顔が一斉に彼を見た。「――は?」
「来た! 巡が来たぞー!!!」
ドドドドドっと足あとが幾つも重なり遠くから巡に迫ってくる、その面子は男女半々といったところか、しかしその中にこれと言って知り合いは……一人いた。水瀬薗、先頭を走っている。
「あはは~この人だかりは何なの~? よくわからないから一番まえ走ったりしてみるよぉ~」
何をしているんだろう。
「オイお前っ、よくわからないとか言うから誰かと思ったら仮入部荒らしの水瀬じゃないか! まさか巡の勧誘までじゃまをするつもりか!」
「え~ひっどいこと言うねぇ……私はつまらないって思ったから転々としているだけなのにぃ」
「それが邪魔だっていうんだわ! とにかく片山くんは渡さないから!」
「え、いや、ちょ」
そうだそうだ!と団体の声が上がる。
(やっぱり勧誘なのか、ってことはこの人らはひとつの部活動……? 男女混合で30人って、朝だから皆制服だし、ユニフォームを着てるわけでもないからわからないぞ……)
もう巡との距離は50メートルもない、逃げるか? しかし後ろに引けば宮前がいる、巻き込むわけにはいかない。
「片山くんっっ、あなたは我が赤ノ平能力部に入部すべきだわ!」
「キミがいれば赤ノ平高校も次の大会で上位に滑り込める!」
「この学校では巡くんのような氷の使い手のBランクは珍しいのだ、だから頼む!!」
「あはは~私はこの競争で上位に滑り込んでる~」
「「「うるさいわ!!」」」
赤ノ平能力部、確かどの高校にも能力部というものがあって、度々大会が開かれている。その学校の限られた食す者となる生徒が個人・団体での能力を見せ合いそれを色々な学校の教師や大学関係者、もしかしたら共存委員会の人も含むかもしれない広範囲の関係者が見に来る。食す者としてはそこでお偉いさんのお目にかかれれば超ラッキー、それによって無条件で進学できた先輩もいるという。つまり絶好のアピール場所、さらに大会の団体戦で上の方までいければ全体的なポイントにもなる。
「けどなんでこんな突然……」
「入院とかしてちょっと話題になったんじゃないですか? それで調べられた……とか」
何故か隣に宮前がいる。
「綾、お前巻き込まれるぞ」
「ですね、直ぐに校門のわきまで戻ります。まさか巡さんが本当に引っ張りダコになるなんて思ってませんでした、あはは」
「あははじゃねえし」
「ではでは」
もしかしてそれだけ言いたかったんじゃなかろうか。宮前はさささっと校門の影に隠れてしまう。その頃にはもう人だかりは巡に飛びつける距離まで接近していて、取り囲むくらいかと思っていたが、まさか本当に飛びかかってくるんじゃないだろうなと心配になってきた巡に、
「あはは~っ」
一人だけ、本当に飛びついた生徒がいた。




