殺められるべき 7
左右に割れた食われるモノは重い音を立てて崩れ落ちた。その間に浩仁が着地する。
「よ~、無事だったみたいだな我が娘よ、巡クンも」
この大男が現れてから何秒経った? 何秒しか経っていない?
今相手にしてたのは、レベル1の食われるモノじゃない。それより遥かに危険で手強い食われるモノのはずだ。
「んじゃ、回収すっかねェ」
彼はポケットから細長いペンライトのような機械を取り出すと、スイッチを入れそれを地に放った。起動された機械が強く発光し、まるで気体を吸い取るかのように食われるモノの死骸を取り込んでいく。
「ナイス時間稼ぎだぜ我が娘よ、超ヴェリーナイスファイト」
「ううん、私一人じゃダメだった、巡さんのおかげ」
「かーっ!!! そりゃ助かったな」
巡は浩仁を見た、彼は何も持っていない。どうやってあの5mもあったミートを真っ二つに……それが彼の異能というわけか、切断系の、それもかなり強力な……とんでもない異能だ。
「んでーちょっち身体痛めたっぽいな我が娘よ? なーに娘のことならひと目で判るからなァ? どれ――」
食われるモノの死骸をエネルギーとして回収した小型のそれを手に持った浩仁はこちらに近づいて来きた、来ようとして、途中で「でぇ!?」と叫んでたじろいだ。
「なんだこれ! なんかここにあるぞ!? 冷てえっなんだこれ!!」
「え、いや全く見えないわけじゃないんだけど……なんでぶつかるんですか」
あくまで氷は半透明だ。極端に空気を含まないよう創りあげているので遠くからだとわからないかもしれないが、今の距離なら…
「いやァ娘の姿しか見えてなかったわ今、参った参った」
「この人やっぱ馬鹿なのかもしれない」
「なんだと」
「いえ」
「わざとか? わざとなのか?」
「いえその」
『食われるモノの撃退が確認されました。二次被害に注意してください』
再び電子的な女性の声が響き渡る。食われるモノによる危険はなくなったが、被害の大きい自然喫茶付近には修繕されるまで人は近づけないだろう。だがこの放送により街の人々はひとまず安心を取り戻せる。
「さってと、オレの愛の目によると我が娘の怪我は大したことなさそうだが……救急車待つのはちと遅いか、"あの子"に関しては」
浩仁が遠くで倒れているウェイトレス姿の女を指した。
「疲弊は基本的に休養で回復するもんだが……何しろ最悪の気分のはずだ。あんなところで倒れてちゃ能力に対するトラウマになりかねんし、ちゃんとした所で休ませねぇと。オレは一足先にあの子連れてくわ、ついでに本部に食われるモノも届けてくるから、巡クン、我が娘を頼んでもいいか?」
「……」
「おい、巡クン?」
「は、はい。もちろんです」
(てっきり、娘の心配ばかりするものかと思ってたけど、この人……)
幹部の器、というやつなのかもしれない。
「じゃー頼んだぜ、気をつけてなァ」
浩仁が女の方へ向かい、ヒョイっと担ぎ上げて素早く去っていく。さっきまで食われるモノのいた場所にはコンクリートの地面と巡の能力の破片があるだけ、あの食われるモノが小型機器により完全にエネルギーとして回収された証拠だ。やがて共存委員会の収拾班と救急車が現れ、宮前と巡はひとまず病院に搬送された。救急車の中で横になった宮前はようやく気が抜けたのか少し辛そうな様子を見せた、どうりで口数も少なかったわけだ。巡は自身が無傷なことに少しバツが悪くなったがそれを察したのか「…大丈夫だよ、食われるモノとの交戦で負った怪我は……最先端の医療でちょちょいのちょいなんだから」と少し弱くも笑ってみせた。
病院についた後、宮前は2日間の入院と診断された。完全安静の日を1日作るとのことだったので彼女の身体に大きな異常はないと分かった。
夕方には巡は病院を後にし、来た道を戻りながら食われるモノを一瞬で両断した浩仁と、食われるモノの猛攻をすべてかわし切った宮前に対する認識を改めていた。もし手に入れる者の異能に能力のようなランクがあるのなら間違いなくB以上、浩仁に至ってはそれを上回るランク付けがされるだろうと。それほどの異能はいったいどれほどの数のうちの一つなのか。
彼らはきっと、この付近一帯を何度か守ってきたのかもしれない。