殺められるべき 6
自分の身体が中に舞う。正確には自分の上半身か、血が大量に舞い上がり、下半身は力なく転がりやがて上半身も転がり落ちる。はずだった。
「ふぐっ」
その鎌は、しかし予想と反して強い衝撃をもたらした。宮前は確かに宙にこそ舞ったが、「うぐっ」と切断などされていない身体で尻もちをつき変な声を出した。その現状に信じられず右手で腹部を触ってみたがやっぱり繋がっている。それと、どうしてか少し冷たかった、見れば氷の結晶のようなものがちらほらと付着してる。
「なんとか間に合ったかー?」
「はい?」
宮前は声のする方へ顔を向ける。……なるほど。そこで宮前はやっと理解した。食われるモノの6本の鎌の一つが半透明の氷に包まれて丸太のようになっていたのだ。だから宮前の身体は切断されることなく吹き飛ばされた、そして鎌をそのようにさせたのが食われるモノの前に立つ"異様な空気をまとった"彼。透明のような、少し白さが混じったようなオーラが漂い、紺色のショートの髪は毛先が白く変色しゆっくりと波打っている。それは食す者の能力が発動した象徴。瞳の異能と空気の能力。ここで初めて宮前は巡が食す者であることを知った。
人が生み出した食す者の能力。ほんのりと赤い空気を纏うは炎の使い手。青さを纏うは水の使い手。黄色い光は雷の使い手。無色を纏うは風の使い手。風の使い手は食す者の中でも稀な能力とされている。そしてそれと同等の希少価値とされる氷の使い手が、今宮前の目に映る透明を纏う巡の姿だ。
「立てるかー?」
少し距離があるからか語尾を伸ばし気味に発音する巡は自分の目で見て確認すればいいのだが、いかんせん食われるモノから目を離すわけにもいかない、今まさに2本の鎌が彼を襲おうと振り下ろされようとしていた、鎌は右から1、左から1の挟み撃ちの軌道。しかしどういうわけか完全に巡を捉えていたのは振り下ろす瞬間だけで、何故だか2つの鎌は大きく角度をつけて的とは見当違いの地面に突き刺さることになる。
「うわ、綾はコレ避けてたのか」
「―――――――!!!!!!」
食われるモノが金切り声をあげる。地面に刺さった鎌を抜こうとしているのだろうがなかなか叶わず、眉間をしかめ耳を塞ぐ巡に残りの鎌を全て振り下ろした。
「俺には絶対避けられないね」
宮前にはまたしても何が起こっているのかわからなかった。目に映る光景は、食われるモノが鎌を全部地面に突きさして自らを拘束したようにしか見えないのだ。巡は避けていないというか、一歩も動いていない。
「――――!!!!」
「無駄だよ。君の鎌が刺さった地面ごと、凍ってるから」
鎌を引き抜こうとしている食われるモノに巡の声がかかる。そしてようやく彼が動きを見せた。かとおもいきや、巡はくるっと踵を返して宮前の方へ歩きだす。
「えっ、巡さん、後ろ、食われるモノ……」
「ん?」
「ん? じゃなくて……」
いくら拘束したといっても危ない、危険極まりない。宮前がそう巡に伝えようとした時、遠くから雄叫びが聞こえてきた。徐々に接近してきている声に巡は気づいていたのか「ぼちぼち来ると思ってたよ」と言うと声の方に振り向いた。宮前もそちらに顔を向ける。
ぅぅぅぅぅぅぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお。
わぁぁぁぁがぁぁぁぁぁぁむぅぅぅぅぅすぅぅぅぅぅぅめぇぇぇぇぇぇぇ
よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!
食われるモノの背後から、全力疾走する親バカの姿があった。
「浩仁さん、異能使えるのか知らないけど。あのムキムキ筋肉で戦うんでしょ? 俺がいたら邪魔になりそう」
「なるほど……確かに」
宮前がだいぶ接近してきた浩仁を目で追いながらつぶやく。
「……邪魔になるというより、危ないの間違いかもですが」
宮前の視線が急に上へ移動する。浩仁が跳躍したのだ。「危ないって、筋肉でも爆発させんのか」と同じく目で追う巡がもしかしたら本当に有り得そうだなと冷や汗を垂らした直後。食われるモノの背甲に浩仁の拳が叩きつけられ――
食われるモノは"真っ二つに両断"された。