プロローグ
初投稿となります、ゆきながれです。
この度はアクセスありがとうございます。ひと目で経験不足な作品だと思われたと思いますが、もし少しでも興味を持っていただけたなら著者としてこれ以上にない幸せです。
ゆきながれの作品を、どうぞよろしくと言う前に、一つだけ先に謝らなければいけません。この作品の更新は決してスムーズに行われません。夏と春に休みがあるのでその時だけ進歩あると思いますが、その他の期間については先にお詫び申し上げます。
ここでは小説について触れないほうがいいのでしょうか、多分そんな気がします、キーワードをご覧いただければ、だいたいご想像いただけるかと思います。全くもって出来のいい作品ではないのでキーワードからシンプルな予想をしてください。
しかしながら、書くからには著者は全力を尽くしていきます。だってファンタジー小説、大好きですもの。
著者としては、少しでも読者様にこの作品を楽しいと思っていただけたら、その一心で参ります。
何卒、よろしくお願い申し上げます。
明るい真夜中だった。
目の前で家が燃えている。
自分が毎日過ごしていた家が、もう半分も形を残していなかった。都心から外れた緑に囲まれているこの場所で、いくつもの建物が大きな音を立てて骨組みを崩壊させていった。中にはまだ誰かいたかもしれない、別の家から悲鳴のようなものが聞こえた気がしなくもない。だが手遅れだ、どの家もほどなくして崩れ落ちてしまう。隣で泣きじゃくる妹を小さな体で抱きすくめる僕のもとに大人たちが駆けつけてくれた。いつも両親と話しをしているお隣の夫婦だ。僕はすかさず父と母の居場所をと訪ねようとしたが、お隣さんたちは僕たちを掴むなり緑の生い茂った森へと放り投げた。わけがわからなかったのは一瞬だけで、彼らは僕たちをかばってくれたのだと直ぐに理解した。僕の目に、彼らの頭を何かが貫いていったのが見えたからだ。
ひとつひとつ、何が起きているのかはこの目で確認し理解していた。しかしこの状況が何故起こりえたのか、なぜ唐突に僕たちの住む場所がが火の海になったのか、それはわかるはずもなかったし考える暇もなかった。草木から倒れる二つの死体を見てしまった妹が隣で叫び声を上げる。その声に二人を殺したであろう大人たちがこちらを振り向いたので妹は咄嗟に口をふさいだが、そもそも大人たちは僕たちの存在に気づいていた。
「こいつらが最後か」
「はい、リストに載っている大人はすべて殺しました。あとは子供二人だけです」
そうか、またひとつ理解する。父と母は生きていない。
「さっさと始末するぞ」
妹が僕にすがる様に手を伸ばしてきて、僕もまた手を伸ばした。――だが忘れていた、触れ合おうとしていたその手が"触れることなく通過する"。それを見た大人たちが目の色を変えたのを僕は見た。それは驚きでもあったが、その中に優しさもあるようだった。大人たちはしかし、その優しさを僕と妹のどちらに向けるべきかを迷っていた。
「情報に間違いがあったのか」
「そんなはずは…しかし今のを見る限り…」
「……まあいい、触ればわかる」
数回のやり取りのあと先頭の男が近づいてきた。
途中に倒れている二つの死体を踏みつけながら。
殺されると、瞬間的に察した僕は考えもなしに飛び出した。
「めぐみ、にげるんだっ」
大人たちの前に対峙しながら妹の名前を叫んだ。
「おにいちゃん…っ」構わず茂みから身を乗り出そうとした妹を僕は睨み付けた。お願いだから逃げてくれ、お願いだから。だがその想いに妹がこの場を去ることはなく、逆に一人の若い女性が駆けつけてきた。女性はこの場面を目にするや言葉を失う。
「そんな――片山さん……まさか、子どもまで処分なさるおつもりですか……?」
「当たり前だ。例外はなく触れぬ人型は処分する」
「しかし…! この子達に害意はありません!」
「今は、だろう」
「それはわからないじゃないですか! そもそもこの村の者は全員害意も悪意もなかったのに……」
その態度に男は女性へと向きなおる。
「国の命令だぞ。それとも我々を裏切るか、林堂」
「っ……」
女性がうつむき僅かな沈黙が流れる。僕はそれを見逃さなかった。一気に駆け出し自分の倍以上も背丈がある男に飛び掛かった。どこか一箇所でもいいから殴りつけてやる、それで少しでも妹が逃げる隙ができるのなら……その思いで振りかぶった僕の拳は、意図も簡単に男の左手に納まってしまった。
「……いい根性だ、ぼうず」
「え……?」
男の声にはさっきまでの怖さがなかった。僕は戸惑う、それは先ほど僕と妹のどちらかに向けられようとしていたものなのだろうか。疑問を抱いている僕の横から、不意に飛び出す女性の姿が見えた。――そうだった。男に接近したから僕の視界からは消えていたが、男は僕の手のひらを捕らえているのとは逆の手に銃を握っていた。
銃口は、当たり前のように妹へ向けられている。
銃の存在を思い出したのと同時に発砲音を聞いた。僕は恐る恐る振り返る。そこには妹に覆いかぶさる女性の姿があった。とっさに妹を抱いて跳んだらしい、被弾箇所は見当たらない。
「ほう……それでいいんだな、林堂」
女性は何も答えない。その背中に男は改めて照準を定めた。
「触れぬ人型には、死だ」
発砲音、赤い飛沫が立つ。続けざまに発砲音、今度は三回。女性は簡単に崩れ落ちた。その女性の下から恐ろしい量の血溜りが広がっていく。弾は貫通していた。女性より一回り以上小さい妹の体にも少なからず弾が到達している――
僕は叫んだ。暴れた男を殴った。せいぜい届くのはお腹までだったがとにかく殴った。男はびくともしない。それどころか僕に向かってにっこり笑うと僕を抱き上げた。まるで別人のようになった男は周りに引き上げるぞと一言いい、僕を肩に乗せる。
「ぼうず、名前は?」
「……めぐる」
僕は何を素直に答えているのだろうか。この男はたったいま妹を殺したというのに。
「そうか、めぐるか。お前一人半魂者の住処にいて辛かっただろう」
でもその男の声は本当に優しくて、自分の中の怒りをどこかへ放り投げていくようだった。
「もう安心していいぞめぐる。これからはお前のいるべき場所に連れて行ってやる」
まるで……この人は本当に僕を救い出してくれた。気が付いたらそんな風にまで思っていた。
僕は男の肩に乗ったまま、燃え尽きていく僕のいた場所、あるいは"僕のいるべきではなかった場所"を見つめていた。