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シンクロナイズド  作者: 響野旬悟
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 昼休み終了後、通太は五時限目の授業そっちのけで、机の願いを実現させるために色々と思案していた。

 五時限目の授業が終了しても、机に突っ伏さずに彼は腕組みをして考えた。

 通太が発するいつもと違う雰囲気に、クラスの何人か、いやほとんどの人間が注視していた。

 さっきの昼休みに、机で寝ていた通太が突然「はいっ!」と大声で、誰にだかわからないが返事していたということも情報としてクラスのほとんどの生徒に広まっていた。しかもそのあと暫くして目覚めるなり、いきなり弁当を食べだすという奇行も行っていたということも知れ渡っていて、それもそのはず、通太は、授業が始まっても口をモグモグうごかしていたのだ。元々よく噛んで食事をする通太に早食いは無理であった。

 盛奥のグループも遠目で通太のことを見ている。

「あいつどないしたんやろ?」

 友達に尋ねられた盛奥は、

「さあな」

 とそっけなく言葉を返した。

「なんにしても今日のあいつは異常や。そっとしといた方がいいと思うよ」

 別の男子生徒が言った。

「確かに。なんもせんでも、急に殴りかかってきたりして」

「それだと、盛奥がやられるんと違うか? 午前中もあいつとひと悶着あったし、席もあいつの後ろやし」

「ふざけんな、あいつにそんなことする度胸あるかぁ」

「どうかなぁ」

 と男子生徒は、盛奥の肩をポンポンと叩くと教室を出て行った。どうやらトイレに行ったらしい。

「ふん」

 盛奥は鼻を鳴らすと、自分の席に戻った。

 席に戻ると前には通太の後ろ姿。

(こんな腑抜けに何ができるってゆうんや)

 通太の後ろで盛奥は冷ややかな目で彼を見、あくびを一つすると机に突っ伏した。

 後ろで盛奥が突っ伏したそんな時、通太は机の願いの実現を考え抜いた甲斐あって、ようやく一つの案がまとまりつつあったのだ。

 しかしその案を実行するには、彼にとってかなりの勇気が必要であった。

 通太が現在、ささやまろこの情報で知っていることは、名前と学年だけである。学年も留年していなければ今は三年生だ。顔はもちろん知らない。あとで机に外見の特長など聞こうとは思うが、その情報だけで探すのは困難であろう。

 そこで通太が考えたことは、組だけでも絞り込めたらということだった。三年何組か。それだけでもわかれば、机から聞いた外見の情報を元に、その組の教室に行き確認することができる。

 その組の確認方法だが、通太なりに考えを出していた。しかしその考えを実行するときには彼の中で最大級の勇気を振り絞らなければならないという問題が出てくるのだ。

 問題とは、あることをこのクラスの女子生徒に頼むこと。

 女子生徒の名前は、一波綾乃という。

 彼女には二つ年上の姉、藤子がいて、奇しくもその姉もこの学校に在学している。

 なぜ通太がその姉の存在を知っているかというと、その姉妹は美人で有名で、もう一人、中学二年になる妹と合わせて、一波三姉妹と言えばこの学校でも周知されており、一波姉妹は男子の間で羨望の眼差しで見られていた。

 事実、一波綾乃がこの学校に入学した当初、他のクラス、または他の学年の男子学生がこのクラスに押しかけ、彼女を一目見ようと黒だかりの山を築いたこともあった。

 その一波綾乃に対して、君のお姉さんは、ささやまろこ、という人を知っているか? そしてもし知っているのなら何組なのかを調べてくれないかと頼みこもうとしているのだ。

 冷静に考えれば、もっと他の方法があったかもしれない。

 第一、一波綾乃のお姉さんが、ささやまろこのことを知っている保障などどこにもないのだ。

 しかし、通太はこの案で突っ切ろうとしていた……が、その計画を彼が実行できるか、行動に移せるか、そこが大問題であった。

 つまりは通太から一波綾乃に喋りかけないといけない、ということが発生してしまい、このことが彼を大いに悩ますであろうことは、明白であった。

 他人に話しかけるのが苦手な彼が自分から訴えかけていかなければならない現実。

 しかも相手は女の子。

 しかも校内で美貌名高い人物。

 ただ、通太も闇雲にこの案を思い立ったわけでなく、一波綾乃とは、小中学校といっしょの学校で、特に小学校五年の時は同じクラスで、しかも放送委員として共に活動したこともあった。その活動時、必然的に会話する機会もあり、全く知らない仲でもない。

 だがそれ以降、通太は彼女と喋ったことなど一度もなかった。

 小学校時代、放送委員として少し喋ったことがあるという一点が彼を少しはやる気にさせているのだ。少しだけだが……。

「きりぃつっ」

(え?)

 突然、日直の始業の号令が通太の耳に響き彼は驚いた。

(チャイム鳴った?)

 通太が前方に目をやると、教壇には既に化学の先生が立っていた。

 チャイムの音に気づかないぐらい通太は考える事に集中していたのだった。


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