9.投擲
船が着岸したところでシンジが中から出てきた。が、その表情が硬い。
「どうしたシンジ?」
「…なんかやな気配がするんだ。」
「嫌な気配?人の気配は全くないけど。」
「そうじゃなくて…何て言うか、あの時に似てる。ウルクで妖烏に襲われた時に…。」
「…てことは?」
アキラにはだいたい想像が付いた。
「敵がいるってこと。」
「なるほどね。」
マサキも何か感じ取ったようだ。
3人は陸に上がった。
「一匹だけみたいだね。けど、そこそこ強い…程度。」
そのうちにアキラにも嫌な感じは伝わってきた。
「近づいてるね。」
「ああ。」
シンジが弓矢を取り出した。
一本矢を番えた。きりきりと引き絞る。
「ザザザ…」
草を掻き分ける音が近づいてくる。
音からすると、結構大きな妖獣…といったところ。
「ガササッ」
「グアオォー!」
巨大な妖熊(クマの妖獣)。3メートル以上はあると思われる体を森の中から現した。
「ヒュンッ」
シンジの矢が飛ぶ音。
次の瞬間には妖熊の眉間に矢が刺さっていた。
「グ…ガ…」
「ドッターンッ」
妖熊の巨体は仰向けに倒れた。
「やるじゃん、シンジ。」
「まーなっ。」
そういえば、マサキがシンジの弓を見るのは初めてか。
「後でやらせて。」
「だめ。」
「えー。何でー?」
「何ででも。これは俺の大事な弓だから。マサキにはさわらせねえよっ。」
シンジはさっさと弓をしまった。
「ぶー。シンジのけち。」
「なんとでも言え。」
アキラは思った。
「今の妖熊の目、黒かったか?」
「え?」
「俺、真っ赤だったような気がするんだけど。」
「そうだった?」
「たぶん…。」
「じゃ、あの変な気配は何?」
気配は消えていない。この妖熊ではないとすると、何なんだ?
「あ。」
突然気配が消えた。
とっさにあたりを見回す。
「人が来る。」
「ああ。」
人間が近づいてくる気配がした。
目を凝らすと、倒れた妖熊の後ろの茂みの中に人間がいるのが見えた。
「誰だ、お前は。」
シンジが押し殺した声で聞く。
「この島の者です。珍しくこの島に船が向かってくるのが見えたので。」
その人間は茂みの中から出てきた。
金髪に、青い瞳。普通のデルタス人だ。背はそんなに高くない。でも年はシンジより少し上ぐらいだろう。まさしく青年、と言った感じ。
「まさかこの妖熊、あんたの使い獣だったのか?」
「いえ、違います。この間からここ一帯の畑を荒らしまわっていた妖熊です。この間から退治しようと思っていたのですが、なかなか仕留められなくて・・・。今も追っていたところだったんです。まさか一発で倒してしまわれるとは。」
シンジはほっと胸をなで下ろした。
他人の使い獣を殺したとあってはただではすまなかっただろう。
「お礼も兼ねて、私達の部落へご案内しましょう。」
その青年は人のよさそうな笑顔で笑った。
「いこうぜ、アキラ。シンジ。」
マサキはその青年の後に続いて茂みの中へ入っていく。
「待てよ、マサキ。」
慌ててアキラも後を追う。
シンジは少し戸惑ったが、すぐに3人の後を追った。
「ねえ、名前、何て言うの?」
「ティラです。」
「ティラ。<ぶらく>って何?」
「村のようなものです。家が集まっているところのこと。」
「ふうん。」
「ところで、あなたがたのお名前は?」
ティラと名乗ったその青年が3人を見て言った。
「俺は、マサキ。」
「俺、シンジ。で、これがアキラ。」
「<これ>って言うなよ。」
アキラは自分の方に向けられたシンジの指をはじいた。
「マサキさん、シンジさん、アキラさんですね。」
「ああ。でも別に<さん>は付けなくていいよ。」
アキラは言ったが、
「だめです。私よりも強い人たちですから。」
ティラは頑として受け付けない。
シンジはやれやれ、といった顔をした。
獣道のような森の中をしばらく進むと、急に視界が開けた。
「さ、つきましたよ。ここが私達の部落です。」
「あっ、すげえ!妖馬がいる!」
叫んだマサキは駆け出した。
「あ、そっちは危ないですよ!」
ティラが叫んだ。
「何で?」
「森に住んでいる妖獣たちが入ってこられないようにいろいろ罠が仕掛けてあるんです!」
「えっ?!」
マサキは走るのをやめた。
慌ててあたりを見回すと、妖兎の死体がいくつか転がっていた。
「ひええっ。」
「あっ、動かないで!今行きますから!」
あわててティラがマサキの救出に向かう。
しばらくするとティラがマサキをつれて戻ってきた。
「罠のある場所を知ってないとこの部落には出入りできないんですよ。」
「じゃ、俺達は入ってしまえば外には出られないわけか。」
「旅立たれる時には私が案内をしますよ。」
ティラはそう言って3人に笑いかけた。
「長。ただいま戻りました。」
ティラが部落のほぼ中央にある一番大きな小屋に3人を招き入れた。
中には、長と思われる人物が座っている。
「実は、このかたたちがあの妖熊を退治されたので・・・。」
長は細い目を3人に向けた。
少し驚いたように見えたのは、アキラの気のせいだろうか?
「それはそれは・・・。ようおいでなさいました・・・。」
長は深々と礼をした。
「珍しい髪の色をしておられる。瞳の色もじゃ・・・。異国の者か?」
「いえ、デルタスの生まれです。」
シンジが答えた。
「俺達は、今、旅をしているんです。理由は言えないんですが・・・。」
「そうなんですか。」
ティラが言った。
「でも、強いんですね。あの妖熊を一撃で倒されてしまうぐらいですから・・・。」
「ほう。あの妖熊を、一撃で・・・。」
部落の長は細い目を大きく見開いて3人を見た。
金色というよりも、銀に近い髪。細く鋭くて、青く輝く瞳。だが、もうかなりの歳だろうと思われる。
「すごかったですよ!あ、そう言えばあなたがたのうち、誰が・・・?」
「シンジだよ。」
「シンジさん、弓はお得意なんですか?」
「ああ、まあ、剣に比べれば・・・。」
シンジが言葉を濁す。
「このばか者にも見習ってもらいたいですな。」
長がティラをちらっと見ていった。
「私だって投擲なら得意です。」
ティラがすかさず長にむかって言った。
「<とうてき>って、何?」
マサキが聞く。
「投擲というのは、短剣よりももっと小型の剣を投げる武器のことです。ほら、これです。」
ティラはそう言うと左手を差し出した。いつの間にか小さな小さな剣をそれぞれの指の間に挟んでいる。
「すげえ。今、どこからどうやって出したんだ?」
「それは・・・言えません。秘密です。」
もう一度見たときにはすでに投擲はしまわれていた。
「すげえ!もうなくなってる!」
マサキは驚いている。
アキラとシンジには、篭手の中から出し入れしたのが分かっていたが黙っていた。
「ティラ、自分の武器を他人に見せるものではない。」
「はい。」
長がティラに注意していた。
長の細い目が、アキラとシンジに向けられた。
「そこの二人は、今ので、どこに隠しているのかは分かったようだな。」
「・・・。」
「・・・。」
二人は顔を見合わせた。
「えっ?分かってしまわれたのですか?」
ティラが慌てる。
「うそだろ?」
マサキはびっくり。
「まあ、な。」
アキラは苦笑い。
「そんなあ。」
「この二人が敵になることは、まず有り得まい。ただ、口外はさけてくだされ。」
「あ、はい。」
アキラは長がわかったことに気付いたことに驚いていた。
「・・・。」
長はじっとアキラを見つめていたが、突然言った。
「あなたは、アキリア王子、じゃろう?」
「!」
突然言われて驚いた。
「えっ?王子っ?」
ティラも慌てて長の顔を見る。
「・・・。ばれてましたか。」
アキラはため息交じりに言った。
「金色の瞳に、金色の髪・・・アキリア王子以外にはあるまい。しかも、導きの龍をつれておる。」
「・・・その龍って、俺のこと?」
マサキが長を見た。
「ああ。もちろんじゃ。伝説は・・・本当だったのだな・・・。」
長は感慨深げに目を閉じた。
そしてティラは3人を家の奥へと導きいれた。
「どうぞ。狭い家ですが・・・。旅立たれるまでの間、ここに滞在してください。」
「いいのか?」
「はい。もちろんです。」
ティラは屈託のない笑顔を見せた。
マサキもつられてにいっと笑った。
「ありがとな。」
その夜は、部落でアキラたちを歓迎するパーティーが開かれた。
「この島に客人など、何年ぶりでしょう。」
「クローク以来・・・あっ。」
「しっ。」
何かを言いかけた女性を隣の老婆が止めた。
「クローク?」
「あ、気になさらないでください。」
その女性はぎこちなく笑うと、アキラの前におかれたカップに酒を注いだ。
「・・・。」
デルタスでは基本的に子供でも酒を飲んで構わない事になっている。だが、アキラは根本的に酒は苦手だった。
「どうした、アキラ。飲まないのか?」
横ではシンジがすでに二杯めを飲み干したところだった。
「・・・苦手なんだよ。」
「王子のくせに。」
「関係ねえだろ。」
アキラはカップを手に取った。
透き通った青紫色の液体が明かり取りの炎にゆれている。
「この部落で栽培した、葡萄から作りました。製法は、ミラジアリナ国から伝わった物です。」
「ミラジアリナから・・・?」
ミラジアリナは北の国。デルタスとはほとんど国交がないはずだが・・・?
「なぜミラジアリナから・・・?」
「あ、それは・・・。」
長は言葉を濁した。聞かれたくないらしい。
「言いたくないのなら、無理に言えとはいわない。」
アキラはちょっとカップをかかげてから、グラスの中の酒を一気に飲み干した。
頭のしんがカーッと熱くなる。後には甘い香りがほのかに残った。思ったほど、苦くない。
「いかがですか?」
「いい物ですね。普通の酒とは違う、甘みがある。」
長はアキラの言葉を聞いて喜んだ。
横でアキラの様子を伺っていたマサキも<甘い>と聞いて目の前のカップを口に運んだ。
「あ・・・れ?」
目が回る。頭の中身がぐらぐらする。
「どうした?マサキ。」
アキラの声が遠くに聞こえる。
「おかし・・・いな・・・。」
意識が遠のいていく。目を開けていられない。体中が熱い・・・。
「ドサッ」
次の瞬間には、マサキは目を回して倒れていた。
「マサキ!」
「おい、マサキ!しっかりしろよ!」
アキラが慌ててマサキをゆするが、反応はない。
「こいつ、酒飲んだことないんじゃないのか?」
シンジが言った。
「かもな。」
アキラは目をまわしているマサキの顔を見下ろした。
「ティラ。マサキさんを中へおつれして、寝かせてあげなさい。」
「はい。」
部落の人たちの輪の中で酒を飲んでいたティラは、長の言葉で上座にやってきた。
「あ、いいよ、俺がつれてくから。」
アキラはティラが来る前にマサキを抱き上げた。
「ですが・・・。」
「いいからいいから。」
アキラはマサキをつれて長の家に向かった。
家の中は、いやにひんやりとしていた。奥に用意された3つのベッドのうち一つに、マサキを寝かせる。
「ふぁーあ。」
アキラは大きくあくびをした。
やっぱりなれない酒を飲んだのがいけなかったらしい。急に睡魔が襲ってきた。
「ふあーあ・・・。」
二回目のあくびをしたころで、もう限界だった。アキラはマサキのベッドのとなりに、倒れ込むように眠りに落ちていった。
「起きろ、アキラ。アキラ!」
シンジの声で目が覚めた。
いつのまにか明るくなっている。
「シンジ。」
「昨日、ちょっと気になることを聞いたんだ。」
「気になることって?」
「クロークってやつのことさ。」
「クローク?」
どこかで聞いたことあるような・・・。
「そのクロークってやつは、ミラジアリナ出身らしいんだが・・・瞳は黒いらしい。」
「そりゃあミラジアリナ出身だったらな。」
ミラジアリナ人は、もともと瞳も髪も黒い。
「もともと目が黒かったら、操られて黒くなっても誰も気付かないだろう?」
「あ、そうか。」
シンジは、上陸した時に感じた気配はもしかするとその<クローク>という人だったかもしれない、ってことを言いたかったわけだ。
「じゃあそのクロークって、どこにいるんだ?」
「・・・そこまで聞き出せなかった。」
シンジはすまなさそうに言った。
「ただ、だいぶ前にこの村を出ていって、今は森の奥のどっかで暮らしてるらしい。」
「へえ。じゃ、ますますあやしい。」
「マサキ?!」
いつのまにかマサキが起き上がっていた。
でも、声がちょっと違うような・・・。
「ウィオラか?!」
「正解。」
マサキ・・・改めウィオラはベッドに座り直した。
「何でウィオラが・・・。」
「石を取られた。」
「えっ?」
「アキラ、おそらくお前の石もだ。」
アキラは慌てて首にかけた石を探したが、紐しかない。石は取られている。
「・・・。」
「おそらく誰かが奪っていったんだろう。」
ウィオラはそう言うと立ち上がった。が・・・
「う・・・わっ。」
すぐにまたベッドに倒れ込んだ。
「なんだよ、これ。マサキのやつ、酒飲んだな?!」
「大丈夫か?ウィオラ。」
「頭くらくらする。・・・気持ち悪い。」
「そっか、体はマサキだからな。」
「ウィオラだったら、酒に強そうだし。」
そこへ、ティラが入ってきた。
「おはようございます。お目覚めですか?」
手には水差しとコップ。どうやら二日酔いになる事は見越していたようだ。
「はい、どうぞ。」
ティラはウィオラに水を差し出した。
「シンジさんが二日酔いになると思っていたのに・・・一番飲んでないマサキさんがなるなんて。」
「俺は酒にはめっぽう強いんだ。」
シンジは言った。
ティラの口調からすると、昨日シンジはだいぶ飲んだようだ。
「ふう。」
水を飲んだウィオラは一息ついた。
「だいぶ楽になった。」
「それはよかった。」
ティラはウィオラからコップを受け取ると、部屋を出て行った。
「誰だ?今の。」
ティラが出ていったところでウィオラが聞く。
「ティラっていう、この部落に住む人。」
「あ、ティラって長の孫なんだってよ。」
「え?!」
シンジの言葉にアキラは驚いた。
「これも昨日知った。あ、投擲の名手ってのは本当らしいぜ。」
「とうてきって何だ?」
ウィオラが聞いてきた。
反応がマサキと同じ。
「投擲ってのは・・・。」
昨日ティラが言っていたことをそのまま伝える。
「へえ。そんな武器があったのか。知らなかった。」
「ウィオラにも知らないこと、あるんだ。」
「当たり前だ。14年前にマサキの身体に入った後におきたことに関しては、マサキと同じぐらいの知識しかない。」
「じゃあ、投擲は新しい武器ってこと?」
「そういうことになるな。」
そしてウィオラは立ち上がって大きく伸びをした。
「さ、頭もすっきりしたとこで外に出るか。」
「あ、アキラさーん、シンジさーん。マサキさーん。」
3人が小屋を出ると、すぐにティラが駆け寄ってきた。
「これからどうされます?」
「どうっていわれても…とりあえず暇だ。」
「そうですねえ…部落の中ならうろうろしててもらってかまいませんよ。」
「じゃ、そうするか。」
「では私は、投擲の稽古があるので…失礼します。」
「投擲!」
突然ウィオラが叫んだ。いや、今のはマサキの声だ。いつのまに…。
「俺も行っていいか?見てみたい!」
「ええ、いいですよ。」
ティラは快く承諾した。
マサキは嬉しそうにティラの後についていった。
「練習っていっても、自分で勝手に決めたんですけどね。」
「へーえ。」
練習場所は、部落を出てすぐの林の中。
そこらじゅうの木にまるがかかれている。おそらくまとにするのだろう。
「あ、危ないですから下がっててください。」
「ああ。」
マサキはティラから少し離れたところにある木の上に登った。
「身軽なんですね。」
「そのぐらいしか特技ねーからな。」
マサキはティラを見下ろした。
ティラの髪は、アキラやシンジと同じ金色。ちょっとだけウェーブがかかった髪質は、メシアの髪と似ている。
「ティラは誰に投擲習ったんだ?」
「長からです。長は若いころ、王宮の兵士として働いていたそうですので。」
「王宮?へーえ。」
「先代のシュミート王の時代ですから、かなり前ですけどね。アキラさんとは会っていないでしょう。」
「あのじーさん、強いんだな。」
「ええ。昔は名の通った妖力者だったらしいですよ。」
「そういや、あのじーさんの名前、何なんだ?」
「セバー。セバー=ロージス。」
「セバー?」
<セバー>というのは、デルタスの昔の言葉で、<救世主>という意味。<メシア>はユロマの古い言葉。アリアでは、<ヘレネス>、ミラジアリナでは<アヴェスタ>。すべて、<救世主>の意味。
もともと<アテナリアス16神>の主神の名前。各国で様々な名前で呼ばれていたのだ。
「救世主…ね。」
メシアの姿がよみがえる。今ごろどうしているだろう?
すい、と空を見上げてみた。二日酔いですこーしだけかすんでみえる空は、青い青い色。スカイブルーはメシアの瞳の色…。
「マサキさん?」
はっとするとティラがいぶかしそうにこっちを見ている。
「どうかされました?」
「いや…メシアのこと思い出してたんだ。」
「メシア…?あの、妖力者のメシアですか?」
「ああ。知ってるのか?」
「ええ。もちろんです。妖力者で<メシア>の名を知らない者はいませんよ。」
「メシアはさあ…俺の母親なんだ。」
マサキはにぃっと笑ってティラを見下ろした。
「え?」
「育ててくれただけだけどな。俺にとったらすっげえ大切な人だよ。俺の…母さんだ。」
マサキの碧い瞳が澄んでいくのがティラにも見えた。
ティラはマサキに微笑んだ。
「いいことですよ。大切な人がいる、というのは。」
やさしい笑顔。ミーアみたいだ。マサキは金色のおさげ髪を思い出す。やさしげな青い瞳も。
ミーアも俺の大切な人。
「ティラ…。」
「何でしょう?」
「お前さあ…いいやつだなあ。」
ティラは少しだけ驚いたような顔をしたが、すぐにマサキに微笑みかえした。
「ありがとうございます。」
光がきらきら上から降ってきて、ティラの金色の髪に降り注いでいく。マサキの周りを暖かい光が渦巻いていく。
マサキには、ティラが<きれい>に思えた。
「人間見てきれいだって思ったのは、2回目だ。」
「私が…きれい、ですか?」
「ああ。お前、すっげえきれいだよ。」
マサキは、目を細めて光の中にティラの姿を探した。
「一回目はアキラだった。初めて会ったときに…金色の瞳も金色の髪も全部きれいだと思った。突然現れて、びっくりした。本当の太陽みたいでさあ…。」
今でもはっきり思い出せる。あの日の夜に、王宮の庭でアキラに会ったときのこと。突然泣き出したアキラを助けてあげたいと思ったこと…。
「確かにアキラさんはきれいですね。でも…大変ですね。いろいろと。」
「たいへんー?どこがあ?」
「どこがって…。あれ?どこがでしょう?」
ティラはわからなくなった。
何が大変なんだろう?航海すること?ぜんぜん大変じゃない。国を救うこと?ああ、そうだ。それが大変だ。
「アキラさんは国を背負ってらっしゃるでしょう?大変ではないのですか?」
「うーん…俺にはわからないな。でも少なくとも今、アキラが困ってるってことはない。ってことは大変じゃないんだろ。」
「そういうもんですかねえ…。」
「そういうもんだろ。」
ティラは少し首をかしげた。…ま、いいか。
篭手の中から投擲を取り出した。
「あ、それ…。」
「そろそろまじめに練習をしますか。」
「うん。」
マサキは白い歯を見せてにーっと笑った。