8.キチ
航海の途中、シンジは地図を出してきた。
「これ、この辺の海の地図。まずこれが、アトリアで、ここがウルク、それからコリコー、コロウ。」
「あんまり進んでないな。」
「しょうがないだろ。まだ船出してから1ヶ月と経ってないんだぞ。」
「つまり俺達も会ってから1ヶ月と経ってないって事。」
「まあ、そういう事だ。」
そしてシンジは地図に線を書き込み始めた。
「この後、キチ島、カルティア、ミトバとまわるとして…。」
マサキのアキラもシンジの書き込む先を見つめている。
「ほら、このまま行くと、隣の国の国領に入っちまう。」
「あ、ほんとだ。」
「ミトバまで行ったら、この海流に乗ってここに行こう。」
シンジは地図の一点を指差した。
「どこだ、ここ?」
「ビウィーラ。ほら、あのGOLDEN MEMORYの2巻の最後にあった、ウィオラの最後の戦いの地だ。」
「あ!」
マサキは結局GOLDEN MEMORYを2巻までしか読まずに出てきていた。その2巻の最後が、ウィオラとビルラの戦いだった。決着がつきそうな所まで来ていたが、3巻に続く長い戦いになっていた。つまり、マサキは自分の中にビルラがいる事を知らない。ウィオラとのみ、話す事ができる。
「ビウィーラっていうのか。ウィオラ、覚えてるか?」
マサキがウィオラに声をかける。返事がなかったようだ。
「ま、いいけど。ウィオラも疲れてるだろうし。」
「そのうち回復したらまた話せるさ。」
「じゃ、進路決定!アキラ、舵変われ。」
「はいはい。」
アキラは操舵室に向かうことにした。
「俺達は、飯にすっか。」
「うん!」
「ひでー。いっつも俺ばっか。」
「気にしない、気にしない。」
「それが王子に対する態度かよ。」
「気にしない、気にしない。」
二人は操舵室へ向かうアキラを笑って見送っている。
本当に、マサキは最近シンジに似てきた。シンジがマサキを汚染している…わけではないけれど、何となく二人は似てきている。本当の兄弟のようだ。
「いいけどさあ、別に。」
アキラはぶつくさいいながら舵を取る。
と、そこへマサキが昼食を持ってきた。
「ここ置いとくぞ。」
「お、サンキュー。」
何だかんだ言っても、相変わらずマサキはマサキだけど。人の事を気にかけている。
「おい、マサキ。」
「何?」
「お前さ…。」
アキラは途中まで言いかけて、やめた。
「やっぱいいや。」
「何だよ、最後まで言えよ。」
「いいって。」
初めて会った時より、おとなしくなった…アキラはそう言おうとした。が、やめた。どうせ笑い飛ばされるに決まっている。
「なあ、アキラ。これから、何が起こるんだ?」
「何って…俺には分からない。」
「何だろう。何か、悪い感じがするんだ。大きな力が、どこかで膨れ上がってくような…。」
「…!」
マサキは、自分の中の闇龍の存在に気付き始めている。
「気にするなよ。マサキらしくないぞ。」
「…そうだな。」
マサキは操舵室を出ていった。
アキラはおおきな溜息をつく。秘密はいつまで持つだろう。きっともうすぐばれてしまう気がする…。
「アキラ。この間から聞きたかったんだけどさ。」
「何?」
「アキラがいたところが王宮だったんなら、俺が育ったところも王宮なんだろう。何で俺は王宮にいたんだ?俺の親って、誰なんだ?」
「えーっと…。」
難しい質問だなあ。
「俺にもよくわからない。多分マサキが王宮にいたのは、ウェスタ王が連れてきたからだと思う。きっとGOLDEN MEMORYにあるとおり、俺が…GOLDEN EYESが生まれたせいで本当に国が危機になるとでも思ったんだろう。その時は、やっぱりお前に導いてもらわなくてはいけないと思ったんだ、きっと。」
アキラはこの間自分自身が出した結論をマサキにも話した。
「じゃあ、俺の親は?」
「えーっとぉ…。」
それこそわからねえよ。
「どっかにいるんじゃねえのか?」
いつのまにか操舵室に入ってきたシンジが言った。
「きっと王様の命令で無理矢理連れてかれたんだ。マサキの両親はどこかにいると思う。」
「どこ?」
「それは知らない。この国のどこかってのはたしかだろうけどな。」
「そうかあ。」
マサキは納得したようだった。
しばらくしてから舵取りをシンジと交代し、アキラはドアを開けた。
「アキラ!」
開けるなり、マサキの声。
「剣の使い方教えてくれよ!」
「…。」
一瞬教えないでおこうかとも思った。でも、この先マサキにどんな危険が降りかかるか知れない。やっぱり剣の使い方ぐらい教えておくべきだろう。
アキラはマサキと二人で甲板に出た。
「じゃあ、まずこの剣、出してみろ。」
アキラは2本あるうちの一本をマサキにむかって放った。
「はーい。」
マサキは受け取るなり、剣のつかを握って鞘からだそうとした。
「??」
思い切り力を入れてみるが、まったく動かない。
この間は簡単に出せたのに…。
「おかしいなあ…。」
「ヒント。鞘と剣の間をよーく見てみろ。」
「…?」
マサキは言われた通りにじーっと見てみた。
「あっ!」
鞘と剣の間に銀色の小さな金具がついている。その金具で鞘と剣はしっかりとつなぎとめられていた。
「気付いたみたいだな。剣には、たいてい鞘と剣とをつなぐ金具がついているんだ。まずその金具を外さないと、剣は使えない。」
マサキは金具を外すと剣を抜いた。
「何でこんなへんな金具がついてんだよ。」
「使わない時に何かの拍子で抜け落ちたりしたら困るだろう。そんな事がないようにほとんどすべての剣には金具がついている。」
「この間は簡単に開けられたのに。」
「じゃ、こっちの剣はどうだ?」
アキラは自分が持っていたもう一本の剣をマサキに渡した。
「あ、金具がない。」
「それは古いやつだから。金具はついてないんだ。」
「へえ。」
マサキは二振りの剣を見比べた。
「俺、こっちのほうがいい。」
マサキは金具のついている新しい方の剣を鞘に戻すと、アキラの方に投げた。
「古い方でいいのか?」
「ああ。こっちの方が軽いから使いやすそうだ。」
「持ち歩く時は気をつけろよ。」
「わかってる。」
マサキは古い方の剣を抜いた。
「古いってほど古くないな。よく切れそう。」
マサキは剣の刃を指でなぞってみた。
「指切るなよ。」
普通の剣よりも細くて短いから、軽い。片手でも簡単に持てる重さだ。
「剣って、結構軽いんだ。」
「それは特別に軽いの。俺がちびだった頃に練習用に使ってたんだ。」
「つまり子供用?」
「…そう。でも、切れ味は大人のと変わらないからな。」
「ふうん。」
剣のつかにはデルタスの王家の紋章…光龍であるライラが巻き付いたような彫刻がほどこしてある。
「そういえば、この国の守護はライラだっけ。」
この世界には4つの国が存在する。アキラたちがいて、守護にライラを持つ国<デルタス>、黒い髪・黒い瞳の人種が住み、いまだにビルラを崇拝する北の国<ミラジアリナ>、西の方にあり、ウィオラが守護となっている<ユロマ>、そして東の方に位置し一番文化の進んだ国<アリア>。
それぞれがそれぞれの龍を信頼し、守護として崇めている。
「その剣は、女王であるアークルからもらったんだ。」
「アキラの母さんから。」
マサキはもう一度剣を見た。
「ほんとだ。<Arkle>って、彫ってある。」
「こっちはこの間、俺専用に作ってもらった。確かにマサキが使うには、重過ぎるかもしれない。」
アキラは新しい方の剣を引き抜いた。
「じゃ、とりあえず受ける練習から。」
「はーい。」
こうしてマサキの剣の練習が始まった。
「受け手にまわる時は、相手の剣の先を見てちゃだめだ。相手の喉の辺りか、胸の方を見るようにしたほうがいい。相手の顔を見ててもだめだぞ。」
「はい。」
アキラはゆっくり剣を受ける練習から始めることにした。
「キィン キンッ」
甲板に金属音が響く。
「ほんとだ。喉の方見ると、相手の全体の動きが見えるんだ。」
「そういうことだ。少しスピードを上げるぞ。」
「いいよ。」
アキラは少しずつスピードを上げていった。
マサキも少しずつなれてきたようだ。さっきまでぎりぎりのところで受けていたのが、今はあたるポイントをずらして受ける受け方を覚えたようだ。
「その調子、その調子。」
アキラはもっとスピードを上げた。でももう少し速くても大丈夫そうだ。
アキラは間合いをきった。
「はあ、はあ…。」
マサキが息を切らしている。
「マサキ。今度は2本でいくぞ。」
アキラは腰の短剣を抜いた。
もともとアキラは二刀流。本当ならマサキの持っている剣を使うところだが、今は短剣で我慢するしかない。長さが違うのはやりにくいけど。
「いくぞ!」
アキラは1本の時とは比べ物にならないスピードでマサキに攻撃を仕掛けた。
上から剣を振り下ろし、受けた時にできる隙を短剣で突く。剣が降りたところで短剣を翻してガードをあげさせ、今度は間合いを取って剣で切る。
「う、わっ。」
さすがに厳しいらしい。
しばらくは受けていたマサキにも、次第に疲れが見え始めた。
「カキィン!」
大きな音がして、マサキの手から剣が弾き飛ばされる。
マサキの手を離れた剣は船のメインマストに突き刺さった。
「ゲームセット。」
「シンジ。」
いつのまにかシンジがいた。シンジはマストに刺さった剣を抜いた。
「ほれ、アキラ。舵取り交代。」
「あ、そうか。」
アキラは慌てて剣をしまった。
「やっぱアキラ、強いなー。」
マサキがシンジから剣を受けとりながら言った。
「初めて剣を持って、それだけできれば十分さ。それ以上強かったら、俺が教える意味、ないじゃないか。」
「そっか。」
マサキは剣を鞘に納めた。
「ありがとうございました。」
マサキがぺこっと礼をする。
「どういたしまして。」
アキラはそう言うと操舵室のドアを閉めた。
「ほんとにあいつ、剣持つの初めてなのか?」
初めてにしては、上達が早すぎた。いくら手加減したとはいえ、アキラのダブル・サーベルを受けきれる者は王宮にもほとんどいない。
そうでなくても、1対2の剣を受けるには、相当の技術が必要なはずだ。
「でも、最初はやっぱり下手だったしなあ…。」
アキラは最初のころのマサキの剣を受ける姿を思い出した。お世辞にもうまいとは言えない、へたくそな受け方だった。
「…。」
やっぱり、今学んだのか?さっきのほんのわずかなやり取りで、剣の使い方を覚えてしまったのか?
だとしたら、すごい才能だ。
「アキラ、何か食べたいものあるか?」
マサキが突然入ってきた。
「もう昼か?」
「ああ。腹へってないのか?じゃ、何かてきとーに作るからいいや。」
マサキは階段を降りていった。船底には食料庫がある。
舵取り当番がないマサキは、必然的に食事当番になっている。
「あーっ、疲れた!」
しばらくしてシンジも中に入ってきた。
「何か疲れるようなこと、したのか?」
「あほか!マストの穴塞いできたんだよ!」
「マスト?穴なんかあったっけ?」
「さっき開けたろ。お前とマサキで。」
「あ、そうか。」
メインマストに剣が刺さったんだった。
「ミーアのおやじさんに大工道具一式もらっといてよかったよ。」
シンジは舵取り席の後ろの椅子に腰掛けた。
「ああいう小さな傷から船が壊れていくんだぞ。」
シンジがそう言ったのを聞いて、アキラは冗談で言ってみた。
「お前そのうち、大工になるかもな。」
「…おやじの後継いで金貸しをやるより、そっちのほうがずっといいかもな。」
シンジは冗談とも本気ともつかぬ顔で言った。
「それ本気か?」
「・・・なわけねえだろ。」
「そっか。」
でも、けっこう本気かも。
「アキラー、シンジー。」
下からマサキの声がした。
「できたから運ぶの手伝ってー。」
「すぐ行くー。」
シンジは階段を駆け降りていった。小型船には珍しく、キッチンも船底にあるのだ。
シンジが降りていった後、アキラはため息をついた。
「王国の危機…か。」
<危機>のもとは大体わかった。おそらくビルラの力が強まっているんだろう。ビルラが復活してしまえば、デルタスどころか世界中の危機だ。
「はあ…。」
アキラはもう一度ため息をついた。
世界中の危機なのになんで、救う役が俺に回ってきたんだろう?
「アキラ。キチ島まであとどのくらい?」
「俺に聞くな。シンジに聞いてくれ。」
「もう着いてもいい頃だ。あ、でも風が弱かったからなあ…明日ぐらいには着くんじゃないか?」
「そっか。」
マサキは持っていた皿を操舵室の机に置いた。
「キチ島って、どんなことこ?」
「どんなと言われても…。確か妖力者が多いんじゃなかったかなあ?」
シンジが自信なさげに言う。
「妖力者?メシアみたいの?」
「そう…だと思う。」
アキラもよく知らない。だいたいキチ島なんていう辺境の島に行くやつなんかめったにいない。
「何でキチ島に行くことになったんだっけ?」
「何となくだ、何となく。」
シンジは答えながらもすでに料理に手をだしている。
「俺の分も残しとけよ。」
次の日。
「アキラ!昨日の続きやろう!」
「はいはい。」
アキラは剣を二本引っ張り出してきた。
「ほれ。」
軽い方をマサキに向かって投げる。
「うわっ、と。危ねえなあ。<使わない時に抜け落ちるかもしれない>って言ったの、アキラだろ?」
「わかったよ。」
アキラは剣を抜いた。
「じゃ、昨日のおさらいから。」
「はーい。」
マサキが剣を抜く。剣を構える姿が様になってきた。
「今日は最初っから速く行くぞ。」
「わかった。」
マサキの表情が引き締まる。
アキラは一気に間合いを詰めて、マサキに切りかかった。
マサキは昨日の受け方をきっちり覚えていた。アキラの1本での限界のスピードでもマサキはだいたい受け止められる。実はもうちょっとガードがあまいんだけど。
剣が軽いので、マサキは片手で剣を持っているのだが、そのせいか右から左への返しが遅れてしまうのだ。アキラが2本使えば、簡単に切り崩せるだろう。
「マサキ、剣両手で持たないか?その方が力が入るだろうし。」
「うーん。別にいいんだけど、そうすると、上から下に降ろす時、遅くなるんだよ。」
「でもなあ。そのままだと逆に左右の切り返しが甘いんだよなあ…。」
「そうなの?」
「ほんの少しだけど。」
「少しなら、大丈夫だろう?あ、でも、強くやると無理かなあ?アキラ、今はまだ加減してるだろう?力だけは。スピードは本当にやってるみたいだけど。」
「…。」
ばれてたか。
確かに今はまだそんなに力を入れてない。もちろん、めいっぱいやるとマサキの持ってる剣なんか、簡単に折れてしまう。もともと剣の大きさからして違うからしょうがないけど。
「あ、そうだ。こっちの剣、使ってみるか?」
アキラは自分の剣を差し出した。
「うん。」
マサキが受け取る。
「やっぱちょっと重いな。」
「しかたない。そっちの方が大きいんだから。両手で持ったらどうだ?」
「そうだな。」
マサキは剣のつかを両手で握った。
「さ、こいっ!」
マサキの声と共にアキラはマサキに切りかかった。
うまい。さっき軽い剣を使っていた時よりも安定した剣さばきになっている。少しスピードは落ちるが、この剣を使った方がいいだろう。
もう少し強く打ち込んでも大丈夫そうだ。
「マサキ、もうちょっと強く行くぞ!」
「ああ!」
いったん間合いを取る。
マサキの青と黒の瞳が真剣にアキラを見ている。
「ガキィッ」
「くっ。」
マサキの腕にものすごい振動が伝わった。
顔の前ぎりぎりで受け止める。
「ガキン!」
続けざまに振り下ろされたアキラの剣を腰を低くして受け止める。
手がびりびり振動をつたえる。
「大丈夫か?」
アキラの声が振ってくる。
「まだまだ!」
とはいったものの、ちょっと危ない。
マサキはアキラの次の攻撃を飛び退いてよけた。
「後ろに下がるな、マサキ!」
アキラの突きが追ってきた。
「カシーン!」
力の方向を右側に流してよけた。
アキラはそれに逆らわず、自分のからだをマサキの右側へやると、一瞬でマサキの背後に回った。
「!」
マサキにはよけるすべがない。しまったと思った時には、アキラの剣が首筋にあたっていた。
「はい、終了。」
アキラは剣をおさめた。
「ちっくしょう!」
「あとは実戦だな。実戦さえ積めば、強くなれると思う。」
マサキも剣を鞘に納めた。
「あーあ。まだまだアキラに追いつけそうもないや。」
「1日やそこらで追い抜かれたんじゃ、俺の方が困るよ。…でも、2日目にしちゃ、相当うまいよ。本気で練習したら俺に勝てるようになるかもな。」
「でも、アキラ、もともとは二刀流だろう?1本のアキラに勝てても、二刀流のアキラには一生かかっても勝てそうにないや。」
マサキはその場で座り込んだ。
「またあとで、続きやってくれ。」
「じゃあ、あとで攻撃の方もやってみるか。」
「ほんと?やったあ!」
マサキはにいっとわらった。
と、アキラの視界の端に緑色いものが映った。
「あ。」
思わず指差す。
「何?」
マサキが指の先を目で追う。
「あ!島だ!きっとキチ島だ!」
マサキの瞳が輝いた。
見た目は、ウルクにそっくりだった。島の中心部は山になっており、緑色の木々が島全体を覆っている。
「シンジー。もっとスピードでねえのかよ。」
「帆船だから、この風じゃこれでめいっぱいだ。」
「ちぇー。」
マサキは船の舳先の方にたった。
「すげーなあ。ここにいても妖魔の気配がするんだもんな。さすが妖力者の集まる島だ。使い魔とかのレベルも違うんだろうなあ。」
「たしかに。」
アキラにさえ島にいる妖魔や妖獣の気配が感じ取れた。
「あ、そうだ。アキラ、剣返すよ。」
思い出したようにマサキが言った。
「いいよ。せっかく使い方が分かったんだ。持ってろよ。」
「だったらそっちの軽いほうがいい。」
「だめ。マサキはこっちの剣を使うとガードがあまくなる。基本がきっちりできるまで当分はそっちの剣を使ってろ。」
アキラは皮でできたベルトを持ってきてマサキに渡した。
「背中に括っときな。いつでも使えるように。」
「えー。まるで、<俺は剣士です>って宣伝してるようなもんじゃないか。」
「どうでもいいだろ。気にするな。」
マサキはしぶしぶ剣を背負った。
「アキラ、おまえさー。初めて会った時より態度でかくなったんじゃねえか?」
かちん。
「マサキに言われたかないよ。」
いつも態度がでかいのはマサキの方だ。
「どういう事だよ。」
「別にー。」
態度がでかくなったんじゃなくて、マサキの使い方を覚えたといってくれ。
「やなやつー。」
マサキがあかんべーをした。もちろん無視。
そこへシンジの声がした。
「もうすぐ入港するから帆を降ろしてくれー。」
「はーい。」
マサキはすぐそこにあったサブマストを上り始めた。
「て、ことは俺はメインマスト?げーっ。」
「落ちるなよー。」
マサキが帆をたたみ込みながら笑った。
高いところはあんまり好きじゃないのに。しかもマサキはそのことを知っているはず。
「…。」
アキラはしばらくの間メインマストとにらめっこをしていた。
「アキラ。早く帆、おろせよ。」
というシンジの声がかかるまで。
アキラは意を決してマストに手をかけた。
「怖かったあ。」
降りてきたアキラはへなへなとその場に座り込んだ。
「ごくろーさん。」
マサキがアキラの頭をぽんとたたく。