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EYES  作者: 早村友裕
7/16

7.火送り

それから1週間後…。

「アキラ、シンジ!」

マサキが店にやって来た。カルミアもいっしょだ。

「お、マサキ、元気になったな。」

「ああ。もう立っても平気。治ったみたいだ。」

体が回復したのと同時に、機嫌も直ったようだ。

「明日から、祭りだって? おれ、見に行きたい!」

「仕事、終わってからな。」

「いいよ、アキラ。お前に、休暇を与える。」

「おやじさん。」

「今日の午後は、アキラは休み。マサキと港でも見てきな!」

「え、でも…。」

「いいから。私が代わりに午後から働くわよ。」

カルミアが言った。

「あ、じゃあ、すいません。その辺歩いてきます。」

アキラはぺこっと頭を下げた。

「なあに?その子、アキラくんの弟?」

「まあ、そんなもんです。」

「まあ、アキラくんに似てかわいらしいこと。」

「名前なんて言うの?」

「マサキ。」

「あら、以外と声は高いのね。」

「マサキくんも、ここで働くの?」

「瞳の色は違うのね。半分半分?」

「あら、私アキラくんのファンやめてマサキくんのファンになろうかしら。」

「…。」

わけのわからないおばさん軍団に取り囲まれて、マサキは動けなくなった。

「マサキ、いくぞっ。」

アキラは無理矢理連れ出した。


「なーんだ?あいつら。」

「店の常連客。」

「おっそろしいな、ほんとに。アキラ、よくあんなとこにいるよなあ…。」

「なれた。」

「慣れんなよ、あんなとこに。」

港へ向かう途中も街の人の視線が痛い。

「なんか、アトリアの時と同じだな。」

「そうだな。あの時もすげえめだってたからな。」

「なんか懐かしい。」

「あれから、まだ一ヶ月経ってないんだよな?」

「ああ。」

「あっ!」

マサキが何かを見つけて駆け出した。

「何かあったか?」

「妖鳥コンテストだって!申込会場?いつあるのかな?」

「明後日だっていってた。」

「それともう一つは?踊り子審査出場受付?」

「あ。マストさんが言ってたやつだ。」

「何だアキラ、知ってるのか? 」

「まあ…。」

その時、受付会場の方から声がした。

「おーい!アーキラー!」

「マストさん!」

アキラは駆け出した。

「何?知ってる人?」

マサキも付いてくる。

「出場してくれるのか?よかった。今年の目玉選手になるぜ。」

「え?まだ出るって決めたわけじゃ…。」

「いーからいーから。ここにサイン。あと住所…。」

「何?アキラ、出るのか?」

「えっ?」

「出とけよ。なんかよく分かんないけど、なんかのコンテストだろ?」

「別にいいけど…。」

アキラは自分の名前を書き込んだ。

「ありがとよ。3日後の朝10時、ここに来てくれ。装具はこっちで準備する。」

「はいはい。」

結局出る事になってしまった。

書き終わるとマサキがアキラの袖をつついた。

「なあ、アキラ。港いこーぜ、港。」

「ああ。」

「久しぶりだ、海見るの。そう言えば、船はどこだ?」

「シンジが港の端に移動させたと言っていた。他の船の邪魔にならないように。」

「へえ。…それより、なんか港が近づくにつれて人が増えてねえか?」

「仕方ないさ。明日から祭りなんだから。」

「祭り見るのも始めてだ。」

マサキはだいぶ嬉しそうだ。すっかり忘れていたけどマサキは生まれてからほとんど外に出てないんだった。透き通るぐらい白かった肌も夏も近い日差しですっかり日焼けしている。

海に向かう途中の道で、アキラは何か違和感を覚えた。それが何かは分からなかったが。

「あ、海だ。やっぱ、すげーひろいなーっ。」

港には山ほど人がいた。

「なあ、この海のどっかにレヴィもいるのかなあ?」

「そうだろうな。」

「俺も、海に行きたい…。海の底の、ずっとずっと奥の方…。」

マサキが目を細めた。ずっと遠くを見つめている。

アキラはマサキから視線を外して少し離れた砂浜の方を見た。

「あ…。」

砂浜に、何かが山積みにされている。

「マサキ、あっち、何かあるみたいだぞ。」

「ほんとだ。行ってみよう。」

二人は駆け出した。

「何だこれ?」

「鳥の…羽根?」

それは、鳥の羽の山だった。黒い羽根、赤い羽根、大きい羽根、小さい羽根…。

アキラは一本の羽根を手に取った。

「あーっ!だめだよ、それに触っちゃ。」

誰かが羽根の山の陰から飛び出して来た。

「これ、明日の火送りで使うんだから。」

「火送り?」

「そ、火送り。知らないのかい?」

「こないだ島に来たばかりだから。」

「そうか。じゃ、教えてやるよ。火送りって言うのはだな、妖鳥の主である炎龍の力を使う…一種の占いだ。明日の夜、この島の人間が、この島中から集めた鳥の羽を一本づつ持って、並ぶんだ。この浜辺からあの丘まで。」

そいつは遠くの丘を指した。

「そして、一番端っこの人間…つまり、丘と浜辺にいる人間だな。その二人は同時に羽根に火をつける。」

「火をつける?」

「そうだ。炎龍の力の証である火を浜辺と丘の両方から送っていくんだ。隣の人へとどんどん火をまわしていく。」

「キャンドル・サービスみたいだな。」

「最後まで聞け。そして、送られた火が丘からの方が多い年は畑の作物が、浜辺からの方が多い年は海産物がより多く取れるとされているんだ。真ん中の時は…。」

「真ん中の時は?」

「島がより豊かになれる年だ。」

「へえ。面白いんだ。俺達も出られるのか?」

「この島の者でない場合、羽根は自分で準備しろ。そうすれば出られる。」

「じゃ、羽根探してこようぜ。」

「今は多分無理だ。祭りの前日には、妖鳥は急に姿を消す。明日になれば急に姿をあらわすんだ。普段とは比べ物にならないような数の妖鳥がね。」

「あっ!」

その言葉でアキラは、さっきの違和感は妖鳥がいなかったからだと気付いた。

「えーっ、じゃあ、どうすんだよ。」

「今年は諦めろ。来年もある事だし。」

そいつは言ったが、そんな事で諦めるようなマサキではない。

「何とかならないのかー?」

「うーん、ない…事もない。」

「え?」

そいつはちょっと困ったように言った。

「交魂って知ってるか?」

「ああ。」

「交魂の妖鳥の兄弟ならいるんだが、そいつらの羽根なら、手に入るかもしれない。」

「えっ。それって…。」

アキラは思った。

「トゥーギとトゥージの事?」

「ああ。知ってるのか?」

「…。」


日が傾く頃、二人はトゥージの羽根を手に家へと戻った。

「ただいまあ。」

「あー、疲れた。」

「お帰りなさい。あら、火送りの羽根?」

「まあ…、そんなとこ。」

「何してたの? だいぶ疲れてるようだけど。」

「羽根を手に入れるのに苦労したんだ。」

マサキとアキラはカルミアに羽根を手に入れたいきさつを語り出した。


そいつに連れられて、二人は見覚えのある一軒家に向かった。

「あ…。やっぱりここか…。」

「トゥーギ、いるか?俺だ、シンタだよ。」

「シンタ?」

ドアが内側から開いた。

「げっ!」

トゥーギはマサキの姿を目にして、慌てて中へ戻ろうとした。それをマサキがさっと押さえる。

「怖がるなよ!俺は、ウィオラじゃない!」

「は?」

「別にお前を殺しに来たわけじゃない。羽根が…欲しいんだ。」

「お前がか?」

トゥーギがドアを引く手を少しだけゆるめる。

「シンタ、どういう事だ?何でこいつらが…。」

「浜で会ってさ、明日の火送りの羽根がないってうから…。トゥージの羽根2本ほどもらえないかなあ…。」

<シンタ>と呼ばれたその男は苦笑いしている。

「毎年の事だからな。ま、いいだろう。トゥージは今、買い物に行ってるんだ。もう少し待ってくれ。」

トゥーギはそう言って3人を中に招き入れた。

「アキラ…とマサキだったか?お前達は何者だ?」

さっそくトゥーギが聞いた。

「あ、それ、俺も聞きたい。」

シンタも言う。アキラはちょっと困った。

「何者って…俺にも分からない。俺自身、自分が誰だか分かってないんだ。」

「は?」

マサキの言葉にトゥーギとシンタはちょっとひいた。

「ま、そういう事だ。俺もマサキについては何も知らない。どこで生まれたかも、どんな風に育ってきたかも全然。分かってるのは、マサキの性格と考え方と行動だけ。あとは謎だ。」

「そう、俺もアキラについては何にも知らない。分かるのは、アキラが何かを背負ってるって事だけだ。だから、一緒にいる。それにそのうち教えてくれるかもしれねえし。」

「…。」

アキラはマサキにたくさんの事を隠しているのが正直辛かった。もしかしたら全部話してしまってもマサキなら笑い飛ばすのかもしれない。でも…。

「お前ら、変な奴だなあ。てっきり幼なじみか何かかと思ってた。」

シンタがあきれている。

もうあきれられるのにはなれた。

「…。」

トゥーギは黙っている。ほんの少しだけアキラとマサキの正体を知っているからだ。

「ま、いいけどさ。トゥージは今年から気に入った奴にしか羽根をやらないって言ってたぞ。毎年毎年羽根を取られるのは、嫌なんだと。」

トゥーギは笑いながら言った。

「なんとかなるだう。トゥージはゲームが好きだから。勝負して勝ったら羽根をやる、なんて言うかも。」

「ゲームで?」

「そういうことだ。あ、帰ってきた。」

トゥーギが出迎える。家に入ってきたトゥージは、ゆっくりと室内を見渡した。

「誰だ?」

「俺は、マサキ。火送りに参加したいんだ。羽根をくれないか?」

「普通にはやれない。」

「じゃ、どうすればくれるんだ?」

マサキがトゥージを見た。

「そうだな…。じゃ、俺から羽根を取ってみろ。」

「え?取っていいの?」

「ああ。ただし、俺は逃げる。捕まえてみろ。」

「よーし、言ったな。」

マサキはやる気万々だ。

「じゃ、マサキ、頼んだ。」

「あほ、アキラもやるんだ。シンジの分と合わせて3枚。行くぞ!」

マサキは飛び出していったトゥージを追って走り出した。

「待てよ、マサキ!」

慌てて飛び出していった2人の後ろ姿を見て、シンタとトゥーギは笑った。

「本当に変な奴等だ。どうだ?シンタは取れると思うか?」

「無理だろう。あんな小僧ども二人、トゥージの早さについていけるはずはない。」

「どうかな?俺は取ってくると思う。トゥージは誰にも羽根をやる気はないらしいが、あの二人ならきっと取ってくるぜ。」

「本気か?何を賭ける?」

「じゃあ、おやじさんとこで、一晩分の酒代。」

「よし、俺も乗った。」

そんな賭けがされている事も知らず、2人は全速力で翼を翻して逃げるトゥージを追いかけた。


「待て!トゥージ!」

「ばか、待つか!」

「よおーし。」

マサキは突然通りに植わっている木に登った。いちばん先にのぼって、枝をゆさゆさ揺らす。地面に届くぐらいゆれた時、

「いっくぞお!」

反動でマサキはトゥージに向かってとんだ。

「?!」

トゥージが慌てて避けた。が、一瞬遅く、着地したマサキの手にはトゥージの羽を一本つかんでいた。

「やったあ!これで一本!」

「くっそお。」

トゥージは空へと飛び立った。港へ向かっている。まずい。人が増えてきた。

「ドンッ」

「あ、すいません。」

マサキが人にぶつかって謝っているうちに、トゥージはどんどん遠くへ行く。

「マサキ!早く!」

「わかってるっ。」

アキラは考えた。

このままいけば、港。まさか海の上にまで行く事はないだろう。とすれば、いちばん人が多い、港付近でいったんとまるはずだ。その時に…。

「マサキ!先行くぞ!」

「ああ!」

アキラはスピードを上げた。みるみるうちにトゥージの姿が大きくなってくる。しかし人の間をぬって走るのは容易ではない。思ったほど差が縮まらない。

その時、アキラの目に釣竿が飛び込んで来た。これだ!

「ちょっと借ります!」

アキラは釣竿を手に取ると、いったん止まってねらいを定めた。

「ヒュンヒュン…ヒュウッッ」

竿の先の針がトゥージの羽に向かって一直線に飛ぶ。

「おおっ。」

周りからどよめく声が上がった。トゥージの羽をかすめ、アキラの手元に戻ってきた針には、羽根が2枚引っ掛かっていた。

「やった!」

「アキラ!」

人ごみの中からマサキが現れた。

「取れたか?!」

「ああ!ばっちり2枚!」

「やったぜ!」

マサキが飛び上がって喜んだ。

「ちくしょーっ。」

トゥージも観念して下りてきた。

「じゃ、この羽根はもらってくぜっ。」

「あーっ、つかれたっ。何ではねを手に入れるのに全速力で走らなくちゃいけねえんだ。」

マサキとアキラは、そういって雑踏の中に消えた。


「じゃあ、3人とも火送りに参加出来るのね。」

「そう。シンジ、アキラに感謝しろよ。」

「はいはい。」

シンジが気のない返事をした。

「さあさ、ご飯よ。」

「やったあ!」

マサキは真っ先にテーブルについた。

「いっただっきまーす!」

「はい、召し上がれ。」

マサキはサラダを口いっぱいにほおばった。

「ゆっくり食えよ。」

「ん!むぐぐ!」

「食ってからしゃべれよ。」

「はあ。」

「息できねえほど口に詰め込むなよ。」

「うるさいなあ。」

「お前の食べかたが変だからだろ。」

「人の勝手だろ。」

マサキはアキラの言葉を無視してどんどん口に詰め込んでいく。

「腹こわすぞ。」

「んぐ。」

「…。」

アキラはいぶかしそうな目でマサキを見た。

「アキラ、今日はよくしゃべるな。」

おやじさんが言った。

「…。」

「マサキが元気になったせいか。どっちにしてもよかった。」

おやじさんはがはは、と笑った。

「そう言えばさあ…。」

シンジが口を開いた。

「今日、すげえ人多かったよなあ…。今まで客って、俺ら以外にいなかったのに。」

「明日はきっと今日よりも多いわよ、人も、妖鳥も。」

「そうだよなあ…。」

「俺、人が多いの、苦手なのに。」

マサキがぼやいている。

「そう言うな。明日は、祭りだぞ?」

「そうだな。」

マサキはそう言うと、にぃっと笑った。

「ごちそうさまあ。」

マサキは立ち上がって食器をキッチンへ運んだ。

そして大きなあくびをしてから、

「俺、寝る。」

そういって奥の部屋に消えた。

「…。自己中。」

アキラはマサキの背中に向かってぽつりとつぶやいた。



「うっわあーっ。すっげえ!こんなたくさん、人も妖鳥も見た事ないよ。」

「なんか目がまわりそうだな。」

3人は午前中休みをもらって港に行った。

空は妖鳥で埋め尽くされ、地面は人の波、海は客を運んで来た船で大混雑だ。

「身動き取れない…。」

「アキラ!ぐずぐずするなよ!」

「あ、シンジ、待ってくれよ。」

その時マサキは人だかりを見つけて走っていった。

「あ!こら待て、マサキ!」

2人が慌てて追うが、身軽なマサキには追いつけっこない。

マサキは息を切らしながら戻ってきた。

「王様が来るんだって!使い獣・使い魔コンテストに出るんだって!」

「?!」

「でもみえなかった。護衛の人が多すぎるよ。」

「あ、そ、そうか。」

ウェスタ王が来た!アキラの心臓はバクバクなりはじめた。

「行こうぜ、マサキ。また人が増えてきた。」

「そうだね。王様がコンテストに出るんなら、その時に見られるもんね。」

「…。」

「どうした?アキラ、顔色悪いぞ?」

「い、いや、大丈夫だ。」

マサキはウェスタ王に会った事があるはずだ。もしマサキがウェスタに会ってしまったら?そして王宮の事を聞いたら?

アキラの頭の中は混乱してきた。

「アキラ?どうしたんだ?アキラ?」

マサキが呼んでいた事にも気付かなかった。


「火送りの間は、しゃべっちゃ駄目よ。たとえ何が起こっても、ね。」

「分かった。」

ミーアにそう注意を受けた。なぜしゃべってはいけないのかは分からなかったが、家を出たとたん妖鳥の大群が監視するように周りを取り囲んだ時には、さすがにしゃべる気が失せた。

「…。」

何なんだ、いったい。

アキラたちは、山に近い列に着いた。少し高い所だから、浜辺が見下ろせる。今、火がつけられた。火はどんどんとまわっていく。山の方からまわされた火が近づいてきた。

その時、空の上に何かが見えた。

「…?!」

赤く輝く身体、朱白の石をそのままはめ込んだような瞳。大きく燃える翼。いつか本で見た姿だ。

炎龍…!

アキラはぽかんとして空を見上げた。隣のマサキも気付いた。大きく目を見開いている。シンジも気付いたようだ。

「フィルラ?!」

「!」

マサキが突然大声を出した。周囲の空気が豹変する。妖鳥の気配が一瞬にして集まった。アキラは妖鳥の攻撃スイッチが入ったのを感じた。

「マサキ、危ない!逃げるんだ!」

シンジも叫ぶ。ちょうど火がまわってきた所だったが、3人は列を抜けた。

次の瞬間に、妖鳥のようしゃない攻撃が始まった。周りの人々は、何も気付かないように火を送っていく。一種の催眠状態だ。

「くっ。」

マサキは飛び掛かってくる妖鳥を手で払った。アキラの方にも何羽のも妖鳥が飛び掛かってくる。

「何だよ!俺達が何したって言うんだ!」

「ココデハクチヲヒライテハイケナイ。」

赤い瞳の妖鳥が言った。

「フィルラサマヲコノシマヘムカエイレルタメ。ナゼオマエタチハウゴケル?フィルラサマニイシキソウササレテイルノデハ?」

「意識操作?どうりでこいつらがひっとつも動かねえはずだぜ。」

シンジがそう言った時だった。空が赤い光に染まった。太陽の色が真っ赤だったら、きっとこんな風になるだろう。

… ウィオラ そこにいるのか …

心の中に直接響く声。シャラメイと同じだ。

「フィルラ!」

マサキが思いっきり叫んだ。

「アキラ!朱白の石、貸せ!」

荒っぽくアキラから石を奪うと、碧漆の石に押し当てた。

辺りを光が包む。光がひいたころ、羽音と共にフィルラが下りてきた。地上に降りたフィルラの姿は、見る見る縮んで人間の姿になった。シンジに近い年頃だろう。ただし、燃えるような瞳と背には真っ赤に燃える炎と同じ色の羽根、そして額には龍の印である一角ホーンは残ったままだ。

「フィルラ。」

「ウィオラか?よかった。無事だったのか。消滅してしまったかと思った。」

「ビルラもな。この中に…残っている。」

ウィオラは自分の胸を指していった。

「そうか。ライラを知らないか?GOLDEN MEMORYを記した後、どこかに消えたのだが…。」

「ライラが?なぜ?」

「分からないんだ。すべてを私に任せてどこかへ消えた。」

「あいつは遠見の力が優れているからな。危険な事はないだろう。」

「いったいどこに?」

アキラは話をぼーっと聞いていたが、はっと気付いた。

「GOLDEN MEMORYを書いたって?ライラが?」

「そうだ。あいつは遠見…つまり予知能力に優れていた。たまに人間の体を借りて、予言書なんかを書いてるよ。」

「人間のからだを借りる?」

シンジが聞いた。

「ある特定の、力を持った妖魔は人間のからだにはいる事が出来る。うーん。しいて言えば少しの間だけ交魂になるって事だな。」

「ウィオラやフィルラも出来るのか?」

「ああ。もちろん。」

フィルラが答えた。

「もっとも今はマサキと混ざってるから無理だけどな。」

ウィオラは苦笑いしながら言った。

「話を戻すぞ。とにかく、俺はライラの遠見にしたがってアキラに会った。きっとライラの予言はあたるだろう。」

「予言の内容はしっているか?」

「マサキが途中まで読んでいた。まだ2巻の途中だ。1巻は俺達が生まれたころについて、2巻はあの戦いについて。3巻にきっと予言内容があるはずなんだが…。」

「…。」

あの戦い。アキラたちはメシアから聞いた。ウィオラとビルラの戦い。2つの力がぶつかって、挙げ句にビルラとの決着をつけるため、ウィオラは…。

「とにかく、マサキに任せる。まだ時間はある。」

「大丈夫か?だいぶビルラが出てきているぞ?その瞳…、ビルラは確実に力を解放し始めている。」

「もう少し。マサキにすべてを話すまで。マサキがすべてを知るまで…。」

ウィオラが唇をかみしめた。思いつめたようにじっと地面を見下ろす瞳に、安らぎの色はない。青い瞳は澄み切って冷たいブルー、黒い方は濁って恐ろしいほどの闇が広がっている。

「ウィオラ。私はもう行く。いつでも呼んでくれ。これを…渡しておく。そうだな。お前に…。」

フィルラは腰に差していた横笛をシンジに差し出した。

「え?これは?」

「<炎の歌人>だ。何かあったら、この笛を吹いてくれ。」

「何で俺に…。」

「お前の力に聞いてくれ。」

「は?」

フィルラは空高く飛び上がると、元の姿に戻って大きな声を上げた。

一瞬にして妖鳥は空へ散り、人々は火送りを終えて家路についた。どうやらもうしゃべってもいいらしい。

「俺はマサキに戻る。今、マサキの意識を無理矢理押さえてたから、疲れた。じゃあ…。」

「ちょっと待て!いっつもマサキに戻った瞬間倒れるのはやめてくれよ。」

「仕方ない。ウィオラになるのには、体力がいるんだ。人間の魂の大きさとは、比べ物にならないからな。マサキはよく寝るだろう?それもそのせいさ。」

「そうだったのか。」

マサキがいつもあほみたいによく寝るのは体力使ってたからか。

「じゃあな、アキラ。マサキには、お前としゃべると体力使うから、変わってる時にはしゃべらないって言ってくれ。そうそう、そろそろマサキにお前が王子だって事、教えてやれよ。」

ウィオラはにやっと笑うと、突然倒れた。

「…。」

それが出来れば苦労しねーっての。

アキラは倒れ込んだマサキを起こしながら心の中で叫んだ。

「ん…。」

マサキが目を開けた。

「起きたか?」

「ウィオラ、出てきた?何か言ってた?」

「ん?ああ。悪かったって。なんか出てない時にお前としゃべるのは、体力使うらしいぞ。あんまり話せないってさ。」

「ふーん、そうだったのか。」

マサキは起き上がった。そこへミーア達がかけてくる。

「ミーア。」

「どうだった?」

「あのね、フィル…。」

「あーっ。」

アキラはフィルラの事を話そうとしたマサキの口を慌てて塞いだ。

「お、おもしろかった。炎がゆれてて、すごくきれいだった。」

シンジが慌てて言う。

「そう。じゃ、その羽根は何なの?」

ミーアはぴっとシンジの手に握られている羽根を指差した。

「えーっと、列からはみ出ちゃって…。」

「シンジ。」

ミーアが優しい顔つきで言った。

「本当の事を話して。アキラも。あなたたちが何者なのか、目的はなんなのか。さっき何があったのか…。私も知りたい。少しでも、役に立てるかもしれない。」

「…。」

「アキラ?何で隠してんだ?俺の中のウィオラの事も、さっきの事も…。別に言ってもいいんじゃねえのか?」

マサキがアキラの手を外していった。アキラはシンジに目配せする。

いいんじゃないのか?

シンジの目がそういっている。

「分かった。全部、話すよ。でも、今は言えない。今度、話すよ。」

意外にもアキラの心臓は落ち着いていた。


次の日。

「おい!小僧!酒がたりねーぞ!」

「はい!」

次の日はマサキもアキラも仕事に追われていて、祭りどころではなかった。いつもの数倍の数の客は次から次へと酒を要求する。

「おい!マサキ!ちょっとこっちこい!」

「何だよ!」

マサキが近寄ると、一振の剣が渡された。

「マサキ、こいつを倒してみろ。」

相手は酔っ払いの船乗り。酔った勢いで、マサキに勝負を仕掛けて来た。周りの連中もはやし立てる。

「俺、剣なんか使えねえよ!」

「何だ?逃げるのか?」

マサキはかちんと来た。よーし、やってやろうじゃねえか。

その様子にアキラが気付いた。あいつ、剣なんか使った事ねえくせに。

「よせ、マサキ!」

マサキが剣を振り下ろす。簡単にかわされた。相手は目標を失ってつんのめったマサキに、思いきり剣を振り下ろした。

危ない…!

「カッシーン!」

間一髪、アキラがナイフでそれを受け止めた。

「あ、アキラ…。」

「やめてください。店の中で。外でやってくれますか?」

アキラの声は静かだったが、相当怒っている事に間違いはなかった。

「ちっ。」

船乗り達は舌打ちすると、とっとと出ていった。

「マサキ。」

やっぱり怒っている。マサキはなるだけアキラの目を見ないようにして顔を上げた。

「あほ!お前、剣なんか使った事ないくせに、無茶な事しやがって!」

あーあ。やっぱり怒られた。

「ごめん…。もうしない…。」

「全く…。」

マサキはしゅんとなった。が、すぐに思いついた。

「そうだ、アキラ!」

「何だ?」

「教えてくれ、剣の使い方…。今度やる時、負けないように!」

「…。」

アキラはあきれて声も出なかった。

もうやらないって、今言ったばっかだろ!絶対にマサキに剣術なんか教えてやるもんか!


「あーあ。結局コンテスト、見に行けなかったなあ…。」

「明日は休み、もらったから。」

店の閉店準備をしながらマサキとアキラは話していた。

「俺も行く!」

上の方から下りてきたシンジが言った。

「お前、明日踊り子のコンテスト出るんだろ?俺も見てえ!」

「げっ、そうだった。」

「俺も行く!見たい!3人で行ってこようぜ!」

マサキとシンジは嬉しそうだが、アキラは気が重くなって来た。

「どうでもいいけどさ、この後どうする?」

「どうするって…。とりあえず家に帰って、ご飯食べて…。」

「違うよ。マサキも治ったしさ、ほら…いつまでここにいるかって事だよ。」

シンジはキッチンにいるミーアに聞こえないよう、声をひそめていった。

「いつまで…。」

最初は1ヶ月の予定だったが、マサキは半分の2週間で治してしまった。いつまで…。

「そうだよな、いつまでもここにお世話になるわけにはいかない。」

「どうする?祭りが終わったころにでも…。」

「ここにいたいよお…。」

マサキはぐずり始めた。

「マサキ…。でもな。ここを出ないと次に進めないんだぞ。」

「分かってるよ。嫌だとはいわないけどさ…。」

そこへミーアがやってきた。

「どうしたの?マサキ。」

「えっ?大丈夫だよ、何でもない。」

マサキは慌てて涙を拭いた。

「アキラ、シンジ。マサキに何したの?」

「え、何もしてねえよ。」

二人は慌てて否定した。

「マサキ、何かあったらすぐに言うのよ。」

ミーアはそういってまたキッチンに戻った。

「あほ、マサキ、泣くなよ。」

「分かってるよ。」

マサキが涙をぬぐった。

「早めに、島出よう。これ以上いたら、もうここから離れられなくなっちゃうよ。」

「分かった。祭りが終わったら、この島を出よう。」

シンジが慰めるようにやさしく言った。


「あの、おやじさん…。」

「なんだ?」

アキラはシンジに目配せすると、話を切り出した。

「じつは…その…この祭りが終わったら、この島を出ようと思うんですけど…。」

「えっ?何で?」

カルミアが大きな声を出す。

「もう少しくらいいてもいいじゃない。どうせなら、このまま家にいてもいいのよ。」

「いや、でもやっぱり…。ご迷惑ですから。」

「でも…。」

「カルミア。引き止めては悪い。もともとアキラくん達は旅をしていたんだ。無理を言って引き止めていたのは、俺達の方だ。」

「…。」

「アキラくん、どうやってここを出る?」

「来る時に乗ってきたシンジの船があります。明後日にでも、ここを出ようと思って…。急にすみません。」

「いや、構わない。気をつけて…。」

おやじさんは反対こそしなかったものの、やはり気を落としたようだった。

ごめんなさい。

アキラは心の中で謝った。そして何も言わずに行かせてくれるおやじさんに深く感謝した。


「今日はアキラくん達がここにいる、最後の日ね。」

「店を開放して、全員で祭りに行くか。」

「え?開放って…。」

「開けたまま放っていく。どうせ盗るような人間もいないし、盗るようなものもないだろう。」

「…。」

「もし欲しければ、自分で金を置いていくだろう。」

シンジは感心した。こういうお店もあるんだ、と。

うちの店は、客を信用してないからなあ…。ま、金貸しだから仕方ないけど。

「さ、いくか。」

おやじさんは古ぼけた店の戸をいっぱいに開けると、精いっぱい笑った。


「じゃ、がんばれよ、アキラ!」

「シンジも行こーぜ。ほら、飛び入り参加歓迎って書いてある。」

「俺はいいよ。」

踊り子審査会場の入り口の方で、アキラとシンジがもめている。

「どうでもいいだろ、2人で行ってこいよ。おやじさん達が席とって待ってんだから。」

マサキはどうでもいい、という感じだ。そこへマストがやってきた。

「おう!アキラ!早くこいよ!」

「ほら、アキラ、行ってこいっ。」

マサキはアキラを引き渡すと、シンジと共に雑踏の中へと消えた。

「あ…。」

「さ、アキラ、こっち。」

マストに連れられて控え室へと入った。

「さあ、座って。」

そこにいた女の人に言われるまま、鏡の前の席に座った。

その女性はアキラの髪をくしでときながら話し出した。

「あら、アキラくん?噂は聞いてるわよ。」

「ど、どんな?」

「カルミアさんの所に住み込みで働いてる、とびっきりきれいな男の子ってね。」

「は、あはは…。」

「よかったわあ、アキラくんにあたって。毎年、男の人の化粧するのも、楽じゃないのよ。」

「…。」

しゃべりながらも、手は止まらない。顔に白い粉をつけ始めた。

きもち悪い…。

「アキラくん、剣はどうする?ここ置いとくわよ。」

「あ、すいません。」

「さーあ。どれがいいかしらね~~♪」

そう言いながら洋服を選んでいるその人を見て、アキラは少しだけ怖くなった。

俺、この後どうなるんだろう…。


「あ、きたきた。マサキ!シンジ!」

「始まった?」

「ああ。でも今始まったとこだ。」

おやじさんがステージをさして言う。

「ほら、今年は特別審査員に、国王がお見えになっているんだ。」

「嘘?どこ?」

マサキはステージを眺めた。

「ほら、あの、一番真ん中の…。」

マサキが目を凝らした時、ちょうどエントリーナンバー1番の人が出て来た。

「あっ!じゃまだよ!」

そいつが邪魔で顔が見えない。

「すぐにみえる。ほらほら、あの方が…。」

「え…?」

マサキは国王の顔を見て固まった。

「あ…。」

シンジは気付いた。そう言えば、マサキは以前に国王に会っているんだった。

「うそだ。あの人は…だって…。」

マサキはぶつぶつ言ったかと思うと駆け出した。

「マサキ!どこ行くんだ!」

シンジの声さえ届かない。

「くっそお。」

シンジもマサキの後を追って駆け出した。


「アキラ、次だぞ。」

「はいはい。」

アキラは不機嫌な口調で答えた。

前の番号の人が戻ってきた。踊り子というよりは、漁師に近い格好をしている。

「ねえ、マストさん。」

「何だ?」

「この大会って、踊り子の大会じゃ…?」

「ああ。でもな、きれいなばかりが踊り子じゃない。男の踊り子ってのは、別にきれいじゃなくても男らしければいいんだ。」

「じゃあ、何で俺だけこんな格好…。」

「ほら、出番だぞ、早く行け。踊り子らしく、踊りながら行けよ。」

「は?」

アキラは突然ステージに放り出された。すごい数の人だ。

「わあ…。」

「きっれい…。」

アキラの姿を見て、客席がざわめいた。あんまり嬉しくない。今、女の格好してるんだぜ?


「あら!アキラくんよ!」

「ほんとうだ。」

「やっぱりきれいね。それより、シンジくんとマサキくんは?」

「いや、知らないよ。」


音楽が聞こえてきた。踊るのか?

アキラはステージを見渡した。と、審査員の一人に釘付けになった。

「あっ。」

ウェスタ王だ…。

アキラは王から目をそらした。どういうことなんだ…?

アキラはしばらくその場から動けないでいた。

「きれいな子ねえ。」

「ほんと。女の子かしら?」

客席の声が聞こえる。どうしよう。

と、その時、マサキがステージに姿をあらわした。会場がわっと湧く。

「マサキ?!」

思わずアキラが声を出す。マサキの瞳は怒っている。

マサキはアキラの事は眼中にもない、という感じで真っ直ぐにウェスタのもとへと向かった。

「ウェスタさん?」

「マサキ…なのか?」

「そう。何で王様なんだ?普通の人じゃなかったのか?」

「えっ?アキリアから何も聞いていないのか?」

「アキリア…?」

「お前、アキリアと一緒に、王宮を出ただろうが。」

「?!」

マサキがきっとアキラを睨む。

ぎくっ。

「マサキ!アキラ!もどれ!」

マストがステージの袖で呼んだ。

「マ、マサキ…。」

アキラは怒っているマサキの手を引いて慌てて袖に引っ込んだ。

「アキラ。どういう事だ。」

マサキの瞳が怒りではちきれそうだ。

「どういう事って…。」

「なんでお前がお前なのか。何でウェスタさんが国王なのか。GOLDEN MEMORYって、いったいなんなのか…。」

「分かったよ。どうせミーアにも今晩話すつもりだったんだ。…後で言うよ。」

アキラはマサキに耳打ちすると、着替えるために奥に引っ込んだ。

もう話すことを決心していたはずなのに、なぜか心の中が重たかった。


コンテストから戻ってから、4人でマサキの部屋に入った。外はもう真っ暗だ。

「最初に言っておく。俺は、アキラじゃない。」

「は?」

「デルタス国の第一王子、アキリアだ。」

「お、王子?」

マサキがすっとんきょうな声を上げる。

「王子って?アキラが?」

「そうだ。マサキ、GOLDEN MEMORYを読んだろう?」

「あ、ああ。」

「黄金の瞳をもつ王子この世に生を受けしとき、王国は危機にさらされる。碧い瞳・漆黒の瞳の龍の導きによってGOLDEN EYESの偉大なる力目覚めさせ、定められし運命を乗り越えよ…。」

「…!それって…。」

マサキの目が真ん丸くなる。アキラはマサキの目の前に指を突き出した。

「碧い瞳・漆黒の瞳の龍。お前の事だ、マサキ!」

「…!」

「ウィオラ。聞いてたら説明してやってくれ。俺の方から説明するのは難しい。」

ウィオラが説明している間に、アキラはミーアに向き直った。

「そういう事だ。俺は、GOLDEN EYESとして、マサキについて旅をしている。シンジは、一緒に来てくれたんだ。」

ミーアはしばらくの間、黙りこくっていた。

「やっぱりそうだったの。」

「?!」

ミーアの第一声に、アキラとシンジは驚いた。

「やっぱりって…。」

「金色の瞳を見た時から想像はついてたわ。アキラは、アキリア王子じゃないかって。」

「…。」

「本当かどうか確かめたかったの。ごめんなさい。多分、父さんたちも薄々感づいてるはずよ。」

アキラには、返す言葉が見付からなかった。

と、その時、おやじさんとカルミアさんが部屋に駆け込んできた。

「ア、ア、アキラ…。こ、こ、国王が…。」

「?!」

ウェスタ王?!

アキラは慌てて玄関へ向かった。

「アキリア、元気か?」

「はい。」

「そうしていると、普通の者と変わらんな。」

「はは…。昔から普通にいたいと思っていたもので…。」

「ところで、メシアから話を聞いたんだが…。」

「?!」

「マサキはどうしている?」

「あいつはいつでも元気です。いま、王の事を話したばかりです。でも、意外に平然としてますよ。」

「そうか。あの子は、昔から変わっておったから…。」

ウェスタは満足そうに笑うと、さっとマントを翻した。

「国が滅びる前には戻ってくるんだぞ。」

大きな手を振りながらウェスタは道に待たせていた従者と共に、夜の闇に消えていった。

「…。」

じっとウェスタが消えていった辺りを睨んでいたアキラに、後ろからおやじさんが声をかけた。

「アキラ…いや、アキリア王子…か。」

「…。」

アキラは無言で振り向いた。さっきまでのアキラとは違う、一ヶ月前までの、王子としての身のこなしで。

「アキリア王子。明日の朝、やっぱり発つのですか?」

「もちろんだ。私には、一国の責任がある。確かにやりたいと思う事はたくさんあるが、その前にやらなくてはいけない事がある。礼を言う。つかの間の休息、とてもよいものだった。」

「アキリア王子。」

「何だ?」

「また、戻ってきてくださいね。待っていますから…。」

「こ、こら、カルミア!失礼じゃないか。」

「いや、いい。またいつか、平和になった時、ここを訪れる。」

アキリアはそう言うと<アキラ>に戻った。

「だから、明日までは、<アキラ>でいさせてください。母さん…。」

「ええ。もちろんよ。」

カルミアも悲しさを隠し、笑顔でそう答えた。


「すみません。お世話になりました。」

アキラは深々と頭を下げた。

「また帰ってきて。いつでも待ってるから。」

「はい。」

「アキラ!早くしないと置いてくぞ!」

「今行くよ!」

シンジが急かす。アキラは船に乗り込んだ。

「ミーア!バイバーイ!」

「マサキー!また来てねー!」

ミーアが力いっぱい手を振っている。

「またくるよー!」

マサキの声が海にこだました。

ミーアとカルミアとおやじさんの姿がどんどん小さくなっていく。

「また、な。」

アキラも小さくそうつぶやいた。

「じゃあ、次は、キチ島だー!」

マサキのかけごえに後押しされるようにして、船はぐんぐんスピードを上げた。

4つめの島、キチ島に向けて。




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