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EYES  作者: 早村友裕
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5.コロウ

コロウ島。コリコーとそう離れていない大きな島。

「すげえーっ。アキラ、鳥がいーっぱいいるよー!」

「妖鳶の一種だな。」

「それにしてもすごい数だ・・・。」

コロウ島は、妖鳥の島だ。どこもかしこも鳥、鳥、鳥・・・鳥で埋め尽くされている。

「ウルクで妖烏に襲われてから、鳥はどうも好きになれない。」

シンジがそうつぶやいた。

コロウ島も、悪い所ではない。ただ何か、「嫌なもの」を感じる。3人とも分かっていたが、口には出さなかった。

「お兄さん方・・・。」

その時、一人の男が声をかけてきた。

「何だ?」

「石を持っているだろう。何の石だ?海王石か?闇濃石か?それとも・・・碧漆の石か?」

「・・・。」

アキラは直感的に危ないと感じた。

「何で分かる?石を持っている、と・・・。」

男はニヤッと笑った。

「匂いで分かるのさ。俺の商売だからな。」

「妖石の闇商人か・・・。」

「まあ、そういう事だ。」


この世界には、妖力を持つ石が存在する。アキラが持っている、朱白の石なんかもそうだ。これらは、妖魔の力を固める事によって作られる。珍しい物には、高い値段がつき、オークションなどで取り引きされている。碧漆の石は、海の妖魔でも、力のある者しか作り出す事が出来ない、貴重なものだ。ちなみに朱白の石は妖鳥達の石である。

そんな高価な石を裏のルートで売り捌くのが、闇商人である。


「そんなわけで、持ってる碧漆の石を売って欲しいんだが・・・。」

「断る。この石は、高価だとかいう以前に大切な物だ。売るわけにはいかない。」

アキラがきっぱりといった。

「そんな・・・。値段ははずみますぜ、ダンナ・・・。」

「うるさい、どっかいけ!この石はウィオラとの約束だ!誰がてめえなんかにやるもんか!」

マサキが怒鳴った。青い瞳が怒っている。

「ウィオラ・・・。確かその名は、水龍のもの…。」

「だからなんだよ?!」

「よっぽどの石だ…。何者だい?その青と黒の瞳といい、ウィオラの名の碧漆の石といい…。」

「…。」

まずい。うたがっている。シンジはとっさに判断した。

「にげろ、マサキ!」

はじかれるようにマサキは走り出した。後ろの方でシンジとアキラも駆け出すのが見えた。


ずっと走って、マサキは街の外れでとまった。

そういえば、アキラやシンジとはぐれてしまった。

「アキラァァ…。」

叫んでも、誰もいない。戻ろう。

そう思って身を翻した次の瞬間、マサキの意識は途切れてしまった。

「何者だ?こいつは…。」

倒れ込んだマサキを見てそうつぶやいたのは、あの闇商人だった。左手には、血のついた長い棒。マサキを殴り倒したのだ。

倒れる直前に振り向いたマサキの瞳には暗黒の色が混じっていた。黒闇邪の石と同じ色。今まで一回しか見た事はないが、闇龍のグループに属する妖魔にしか作れない石のはずだ。

「なんでその石の色が…。」


「マサキー!」

「だめだ。どこにもいない。」

シンジとアキラはマサキを探して駆け回っていた。町中探したが、どこにもいない。

「まさかとは思うけど、さっきの闇商人が…。」

「そうだとしたら、探しようがねえぞ。」

「…。かけてみるか?」

「なにを?」

「ウィオラに。ウィオラにさえなれば、妖魔としての能力が使える。」

「そうだな…。あいつなら…。」

「信じようぜ、あいつらの事。」

「そうだな。もしかしたら、迷子なだけかもしれねえし。」

2人はそう言うと、そこにあった石段に腰を下ろした。


「この石は…。」

闇商人は、地下の隠れ家に戻って、マサキの碧漆の石を調べていた。

「間違いない。レヴィアタンのものだ。」

興奮で震える気持ちを押さえ、ゆっくりと机に置いた。その時、横においてあった小さな朱白の石のかけらにカチンとあたった。小さく光が漏れたが、男は気付いていない。

まだ目を覚まさないマサキは、奥の柱に括り付けてある。

「この小僧がなんだってこんな珍しい石を…。」

闇商人はマサキに近づいた。

「何か悪いか?俺がその石を持ってたら。」

「!」

マサキが突然目を開いた。

「てめえよくも自分の勝手で俺を呼び出してくれたな。」

「よ、呼び出す?」

「冥土の土産に教えてやろう。俺の名は…ウィオラ。水龍のウィオラだ。」

「ブチィッッ」

マサキを縛っていた縄が切れた。

「!ウィオ…!」

「バキィッ」

マサキ…ウィオラの拳が男のあごにめり込んだ。

男は向こう側の壁まで吹っ飛んだ。

「あほ。こんなもんで俺を縛れるかよ。」

ウィオラは捨て台詞とぼろぼろに切れた縄を残すと、その地下室を後にした。


「おーい、シンジ、アキラ!」

「お、きたきた。」

「ん?ウィオラ…か?」

「正解。今マサキと代わる。」

ウィオラは目を閉じた。

「やっぱりな。マサキじゃ無事に戻ってくるのは不可能だからな。」

目を開けた時には、もうマサキに戻っていた。

すぐにマサキに戻った事に、アキラたちは驚いた。力が上がっているんだろうか?

「あっ!」

マサキが突然叫んだ。

「どうした?マサキ。」

「碧漆の石…ない。」

「はあ?」

「あの、変な男のとこだ…。とってくる。」

「大丈夫か?」

「ああ。」


マサキはもと来た道を戻り出した。

なぜかウィオラだった時の記憶が残っている。変な男の顔も、どんな会話をしたかも。

変な地下室。薄気味悪い雰囲気が漂っている。

「気味悪いとこだな。」

と、マサキは気付いた。あの男がいない?!

「ウィオラ…やっぱり戻ってきたか。」

「?!お前は…。」

「俺の名は、トゥーギ。妖石の闇商人だ。」

「トゥーギ…。俺の石を返せ。」

「だめだな。この石があれば俺は闇商売の頂点に一気に駆け上がれる。」

トゥーギが碧漆の石をぺロっとなめた。

きったねえ奴…。マサキはとっさにそう思った。

「とにかく返せ。闇商売のトップだかなんだか知らねえが、俺には関係ねえ。とっととかえしな。」

「レヴィアタンの石なんか、早々ありゃしねえ。メシアぐらいだぜ、持ってるのは。ウィオラってのも、嘘だろ。どこでこんな石くすねてきたんだよ。」

「…。」

レヴィアタンにもらったとはいえない。マサキは黙る事にした。

「手を組まないか?ウィオラ…。」

「?」

「まだ持ってるんだろ?こんな石を…。どこから持ってくるかは聞かない代わり、俺に安く売ってくれよ。」

「…断る。第一その石は、盗んだんじゃねえ。」

「じゃあ、どうしたんだ。」

「もらったんだ。友達に。」

「ともだちぃ?」

「ああ。とにかく返せ。さもないと…。」

マサキは、ずっとしまいっぱなしだった背中の剣を抜いた。

「仕方ないが…。」

マサキの瞳が鋭くなる。

「ウィ、ウィオラ…。やめろよ…。」

「本気だ。」

マサキはさっきのトゥーギの真似をして剣の刃をぺろりとなめた。

「どうする?トゥーギ。」

「あわわ…。返すよ、返す。悪かったよ…。」

「最初からそうしろよ。」

地下室を去る間際、マサキは思い出したようにトゥーギに声をかけた。

「そうだった。トゥーギ!」

「ま、まだ何か…。」

「いや、実は、俺剣使えねーんだ!それなのに、お前見事に引っかかったな!」

「!」

やられた!


「おーいシンジ、アキラ!」

「マサキ。遅かったな。」

「ちょっとてこずってよ。」

「じゃ、宿さがそーぜ。」

「O.K.」

「早く見つけようぜ。もうくたくただ。」


その夜の事…。

「おやすみ、アキラ、シンジ…。」

「おやすみ、マサキ。」

マサキはゆっくりと目を閉じた。

「俺達も寝るか。」

「そうだな。」

2人はマサキの寝ているベッドの横に毛布をおろし、眠りにつこうとした。

「がたん」

「?!」

窓がゆれる音がした。2人はとっさに耳を澄ます。

「ぎぎぎ…」

何の音だろう。そう思った次の瞬間!

「ガッシャーン」

「?!」

飛びおきた2人の目に、割れた窓ガラスと、大男のシルエットが飛び込んできた。

そしてひびいた声…。

「連れがいたか。まあいい。ウィオラはもらっていくぞ!」

あの闇商人の声。とっさに見渡すと、大男の肩にちょこんと座った男。

「てめえ!」

「誰だ?!」

「俺は、トゥーギ…妖石商のトゥーギさ。」

「マサキをどうする気だ?!」

「さあな。」

大男は、体に似合わぬすばやさでマサキとトゥーギを両腕に抱え、割れた窓から外へと飛び出した。

「マサキ!」

2人も追って窓から飛び出した。


しんと静まり返った通りに、人の気配はない。追いかけっこ続けている4人が駆け抜けると、逃げようと飛び立つ鳥の羽音が響く。

「まて、トゥーギ!」

アキラが大声をあげた。シンジは弓を構える。

「やめろ!シンジ、マサキにあたる!」

マサキを盾にしようとした大男を見てアキラがとっさに止めた。

「くそっ。」

シンジは弓をしまう。

と、大男が不意に立ち止まった。

「?」

「むだだ。もうこれ以上俺達を追う事は出来ない。」

「なぜだ?」

シンジが問いかける。

「俺は…空を飛べるからさ。」

「?!」

「アキラ!そいつ、交魂だ!おそらく妖鳥の…。」

「?!」

シンジが気付いた時には遅かった。大男は、背中にたたんであった大きな翼を広げ、空へと飛び立った。

「待て!」

2人が必死に追いかけるが、追いつけない。

「マサキィ!」

マサキがやっと目を開ける。

「ア、アキラ?!シンジ?!」

マサキは、自分がいつのまにか空中にいた事に驚いた。しかも大男の肩の上。全然状況が分からない。そのうちに、そばにいるのがトゥーギだという事に気付いた。

「トゥーギ!てめえ!」

「おっと、目が覚めたか。トゥージ!マサキを例の場所へ…。」

「オス。」

トゥーギは<トゥージ>と呼ばれた大男の肩から、はるか下の地面にひらりと舞い下りた。

「!」

驚いているアキラとシンジの目の前に、トゥーギは楽々と着地した。

「何を驚いている?妖鳥の交魂ならわけない事だぞ?」

シンジがトゥーギと向き合う。

「やはりか。そんな匂いはしたんだ。昼間あった時からな。」

そんな中でも、アキラは耳を澄ましていた。大男の羽音がとまる音で場所を割り出そうとしたのだ。

「妖鳥はもともと闇龍のグループだ。夜の方が格段に力が増す。」

「それで昼間はこそこそと闇商人なんかを装ってたわけか。」

「まあ、そういう事だ。しかし、マサキには石以上に興味が湧いたんでな、こういう事になったのさ。とにかく、邪魔しないでくれ。」

「マサキをどうする気だ?」

「あいつの力がみたい。マサキではなく、ウィオラの方だ。二重人格か?あいつは。」

「…まあな。」

「とにかく、われわれのリーダーだった闇龍を封印した水龍・ウィオラの名を語るからには、それなりの力があるのだろう。」

「…。」

当たり前だ。そのウィオラ本人なんだからな。

シンジはそう言いそうになった。

「シンジ。」

アキラからゴーサインが出る。どうやらマサキ達の降り立った場所が確定できたらしい。

シンジの口元に笑みが浮かぶ。昼間に街で買ったばかりの剣を抜く。

「さて。これで思いっきり出来るわけだ。」

「そういうこと。」

アキラも背中の剣を抜く。トゥーギの嬉しそうな声。

「くっくっく。夜の俺はほぼ無敵だ。お前ら、いい度胸してんなあ。」

「アホ、いい度胸してんのは…そっちだよっ。」

シンジがいきなり切りかかった。一瞬のうちに、剣先がトゥーギを捕らえた…と思ったらするりとかわされてしまった。

「あれ?」

「しっかりやれよ、シンジ。」

「ひっひっひ。無駄だよ。妖鳥にかなう素早さの者は、人間にはいやしない。」

「人間にはいねえかもな…。」

シンジはしみじみと言った。

「そうさ。人間ごときに俺の早さにはついてこれまい!」

「それがさあ…。」

「?!」

瞬きするほどの間に、2人はトゥーギの前後に立ちはだかっていた。。

「お、お前ら…。」

「残念だけど、2人ともただの人間じゃないんだよね。」

「まあな。」

当たり前だ。シンジは交魂で、アキラは黄金の剣を持つ、GOLDEN EYESだ。

「トゥーギ、マサキを返せ。」

「…。」

トゥーギは何を思ったか後ろに立っていたシンジを睨み付けた。すると…!

「?!」

「ふはは!引っかかったな!」

「どうした、シンジ?!」

「体が…。動かな…。」

シンジのからだが見る見る石に変っていく。

「シンジ!」

「石化魔法。その力を説くには、碧漆の石が必要だ。取りに来い。場所は、分かるはずだ。ただし、朱白の石と交換だ!」

「?!」

やっとトゥーギの考えが読めた。最初は碧漆の石をねらっていたトゥーギは、ターゲットを朱白の石に変えたのだ。マサキとシンジはその人質…。

よく考えれば、妖鳥の石は朱白の石の方なのに、碧漆の石をねらうわけがない。トゥーギのねらいは、夜になって力が増した所で、マサキをさらい、交換で朱白の石を手に入れる事だったのだ。

「ちっきしょう!」

飛び立っていくトゥーギを追う事も出来ず、アキラは漆黒の闇が広がる空に向かって叫んでいた。


次の日の夜、アキラはトゥーギ達のもとへ向った。

小さく、古ぼけた小屋。アキラは朱白の石を服の上に出すと、静かに戸を開けた。

「ギーィィ…。」

きしむ音が耳にさわる。そこにもっと耳障りなトゥーギの声が響いた。

「来たな、アキラ。わざわざ夜を待つとは、馬鹿な男だ…。」

「当たり前だ。全力じゃない相手を倒しても、何も面白くない。それより、マサキは無事なのか?!」

「そこだ。」

トゥーギが指差す二階の方向に、柱に縛られてぐったりとなっているマサキがいた。

「マサキ!」

反応がない。

「薬で眠らせただけだ。また暴れられても困る。」

アキラは朱白の石を首から外した。

「マサキを返してくれ。この石は、渡す。」

トゥーギはその石を見てにやりと笑った。

「朱白の石か。こっちによこせ。」

「待て。マサキを開放するのが先だ。」

トゥーギとの睨み合いが続く。

先に目をそらしたのはトゥーギだ。後ろにいたトゥージに命じてマサキの縄を外させた。

「さあ、アキラ…。石と交換だ。」

「…。」

アキラはトゥーギに歩み寄った。次の瞬間!

「ズガーン」

「うわあっ!」

右の足首に痛みが走った。何だ?!

「かかったな。東方の武器で、<鉄砲>と言うんだそうだ。その場所をこえると発射するように仕掛けておいたんだ。」

「て、てっぽう…?」

「何でもすごいスピードで玉が飛ぶそうだ。」

「ちくしょう…ひきょうだぞ!石は渡すのに…。」

「ばか正直な奴だ。本当にそんな約束を俺が守るとでも思ったのか?」

そうだ。こいつが約束を守るわけがない。ちょっと考えれば罠だと分かるようなものを…!

「そういう事だ。碧漆の石も朱白の石ももらっておく。」

足首からは、どんどん血が流れ出している。痛みの所為で、頭がぼんやりする。ちょっと立てそうにない。しかし、何とかしなくては…。

焦るアキラをよそに、トゥーギはマサキの首にかかっている碧漆の石を取ろうと2階に上がった。。

「マサキ!起きろ!」

アキラが叫んだ。マサキが少しだけ反応する。

「マサキ、起きるんだ!」

もう一度叫んだ時、トゥージがアキラの方へと向ってきた。背中の剣を抜いて構える。力が入らない。

「キィーン!」

トゥージの剣とアキラの剣がぶつかり合った。

「く…。」

体格の分、アキラが不利だ。トゥージはアキラの倍ほどの身長で、アキラを見下ろしている。そうでなくても、アキラは怪我を負っている。

アキラの剣が押されていく。

「う…ん…。」

マサキがうめき声をあげた。一瞬気を取られたアキラの剣をトゥージが跳ね飛ばした。

「!」

すかさずトゥージがアキラの腕をねじ上げた。すごい力だ。

「マサキ!」

アキラが必死で叫んだ時、マサキがうっすらと目を開けた。眠そうな目であたりを見渡している。そしてアキラに気付いた。

「アキラ!大丈夫か?!」

「俺は大丈夫だ。マサキ、受け取れ!」

アキラは渾身の力を込めてトゥージの腕を振り払うと、朱白の石をマサキに向って投げた。朱白の石が、きれいな放物線を描いた。赤色の虹だ。

その石がすっぽりマサキの手におさまった時、アキラは叫んだ。

「その石と碧漆の石を合わせるんだ!」

言われるがままにマサキは石と石を合わせた。

あたりをものすごい光が包む。

「な、何だ?!」

トゥーギが慌てている。

「またか…。最近呼び出しが多いぞ、アキリア…。」

ウィオラの声がした。まさか最後の頼みの綱がマサキになるとは…。

「てめえのせいかよ、トゥーギ…。今度こそ地獄に送ってやろうか…?」

光がひいて、ウィオラの鋭く光る青い瞳が現れた。完璧に怒っている。仕方ない。ここ1週間で5回ほど呼び出しているんだから。

「アキリア、問題ぐらい自分で解決しろよな。」

「うるさいな。」

トゥージに捕まっているアキラを見てウィオラはあきれている。まあ、怒られるよりはましか…。

「さてと。手っ取り早く始末するぞ。アキリア、手伝えよ。」

「あほ。手伝える状況かってんだ。」

「全くしょうがねえなあ…。」

ウィオラは頭をぼりぼりかくと、アキラのもとへ飛び降りた。

「あーあ。怪我してたのか。気付かなかった。わりい。」

「何だ、お前。」

トゥージが開いている方の手でウィオラを殴ろうとした。が、ウィオラはあっさりかわした。

「アキリアを離せ。」

「アキリア…?」

「あ、もとい。アキラだった。アキラを離せよ。」

ウィオラの瞳が鋭くなった。青い方の瞳が澄んでいく。

「トゥージ!アキラより、そいつ…マサキを捕まえろ!」

トゥーギの声に反応してトゥージはアキラを放り投げた。

「ガラガラ…ドーン!」

「いってえなーっ。」

アキラは奥にあった石の山に激突した。向こうの方で、ウィオラがトゥージと対峙している。アキラは立とうとして立ち上がれないのに気付いた。足に力が入らない。

「トゥージ!何をしている、早く捕まえろ!」

「ばーか。妖鳥ごときが俺にたてつこうなんて、10億800万年と一日早いんだよ!」

「何なんだよ、その一日ってのは!」

「どうでもいいだろ。」

トゥージの腕がことごとく避けられる。見かねたトゥーギが参戦した。

「どけ、トゥージ!交代だ!」

「お前も同レベルだろ。」

ウィオラは余裕だ。ウィオラは、本当にどのくらい強いんだろう。

と、ウィオラがトゥーギから目をそらした。

「危ねえな。こいつ石化魔法使えるのかよ。」

「…!」

トゥーギは驚いた。何で分かったんだ?!

「お前、交魂の妖鳥だろ。変化は妖力と翼だけか。雑魚め。」

ウィオラは視線を外したまま、指先をトゥーギの方へ向けた。

「お前も黒い目、してるなあ。もともとは赤かったんじゃないのか?」

「なんだと?」

「!」

黒い瞳。アキラは思い出した。ウルクで会った妖鳥達と同じだ。もともとは赤いはずの瞳が黒くなっているのだ。これは、どういう事だ?

マサキの指先から青い光を放つ糸が伸び、一瞬でトゥーギの自由を奪った。

「黄金の妖飛馬を見ただろう。」

「何だ…この糸は…。」

「答えろ。黄金の妖飛馬を見ただろう?」

青い糸がきつく締まる。

「見…た。」

「その妖飛馬の目の色は?」

「黒…。」

「どんなような色だ?」

「怖かった…。濁っていて、何も見えなかった。本当の暗闇の色だった。」

「お前は本来石化魔法を使えなかったはずだ。使えるようになったのはその妖飛馬のおかげか?」

「分からない…。」

マサキは糸を解いた。そして自らトゥーギと目を合わせた。

「この石を見ろ。」

マサキは碧漆の石をトゥーギの目の前へ持っていった。

「何が見える?」

「青い…色。」

半分放心状態のトゥーギが答えた。

「そうだ。青い色が見える。その青色は透き通っているはずだ。向こう側に俺の目が見えるか?」

「見え…る。」

「何色だ?」

「青い…。青と…黒だ…。」

「それでいい。一度、目を閉じるんだ。」

トゥーギが言われたままに目を閉じる。ウィオラはさとすようにゆっくりといった。

「目を覚ませ。お前は、元に戻るんだ。」

ゆっくりとトゥーギの目が開いた。ウィオラは碧漆の石をおろした。

「起きたか?トゥーギ。」

「誰だ…?」

「俺はウィオラというんだ。」

「ウィオラ…?」

「そうだ。お前は?」

「トゥーギ…。妖石の闇商人だ。その石…!」

「碧漆の石と朱白の石だ。あ、これ俺のだから。お前にはやらねえぞ。」

ウィオラが慌てて隠す。

トゥーギはゆっくりと立ち上がった。そしてウィオラの目をじっと見ていった。

「お前の目、怖いな。黒闇邪の石と同じ色だ。」

「うるせえな。」

ウィオラが目をそらす。

黒闇邪の石…?アキラには分からなかった。ただ、ウィオラになった時、黒い方の瞳の色が濁るのは確かだ。マサキの時は、澄んだ黒い瞳なのに…。

「おーい、ウィオラ!俺も助けろよ!」

「あ、悪い、アキラ。」

ウィオラがこっちに向ってかけてくる。

「それにシンジも石のままなんだぞ。草むらに隠しては来たけど、見つかるのは時間の問題だ。」

「分かったよ。」

ウィオラは動けないでいるアキラに肩を貸した。

「じゃあな、トゥーギ。」

「え…?」

トゥーギは何がなんだか分からない顔をしている。

「何にもなかったと思ってくれ。俺達のことも、忘れてもらって構わない。」

「それはいいんだが…。トゥージを知らないか?」

「?!」

そう言えばどこにもいない。おかしい。ウィオラは考えた。

あいつも偽のシャラメイに操られているはず。とすれば、どこへ行った?何をしようとしているんだ?

ウィオラははっとした。

「アキラ!トゥーギ!シンジの所だ!シンジが危ない!」

「?!」

トゥーギとアキラはウィオラの声に後押しされるように駆け出した。


外はもう少しずつ明るくなりはじめていた。

「アキラ!足大丈夫なのかよ!」

あれ?そう言えば痛くない…。

「ちきしょー、だましやがって!」

ウィオラが後ろから駆けてくる。

「だましてない!さっきは本当に痛かったんだ!」

「じゃあ何で今は平気なんだよ。」

「知らねえよ。」

そう言って振り向いたアキラの目に、ウィオラの真後ろにまで迫ったトゥージの姿が映った。

黒い翼、暗黒を思わせる瞳。大きな羽音を立ててウィオラに近づいている。

「ウィオラ!後ろ!」

「?!」

振り向いた時には、もう目前に迫っていた。

「バサッ」

強風が巻き起こる。ウィオラはとっさに後ろに飛び退いた。目の前で風が渦を巻く。

「不意打ちなんて、やってくれるじゃねーか!」

ウィオラが悪態を突く。

トゥーギも慌てて戻ってきた。

「…。こいつは、トゥーギより厄介だぞ。おいトゥーギ!」

「何だ?」

「トゥージも交魂か?」

「ああ。俺よりもっとランクが上だ。俺の場合は人間と妖魔の両方が入っているが、トゥージはまるっきり妖魔なんだ。」

「やっぱりな。」

ウィオラは岩のように立ちはだかるトゥージを見上げた。少し緊張しているようにみえるのは、気のせいか?

「ウィオラ、何かまずいのか?」

「ちょっとな。妖魔の魂が人間に入ると、戦闘力が格段に上がるんだ。人間の魂が同居している時は逆に押え込まれるんだが…。まあ、この説明は後でする。」

ウィオラはトゥージと向かい合った。

「トゥージ。お前はトゥージか?」

「そう…だ。」

低い声。地鳴りのような音だ。

次の瞬間、トゥージの羽がひるがえり、突風が巻き起こった。

「キィーン」

薄明かりの街に耳障りな金属音が響く。

「ズバッ」

ウィオラの腕が突然切れた。真空波、俗にかまいたちと呼ばれているやつだ。ウィオラは突風の中で、空気の渦と風の動きを振り払うように高く飛び上がった。

しかし、トゥージは予想していたように飛び上がったウィオラの頭上に先回りした。

「ウィオラ!上!」

「?!」

「ズガッ」

鈍い音がして、頭を強打されたウィオラが地面に落下してきた。

「危ねえっ。」

「ズザザザッ」

間一髪でウィオラは着地した。すぐに叫ぶ。

「アキリア!剣かせっ。」

アキラは慌てて剣を投げる。受け取るや否や、ウィオラはもう一度高く飛び上がった。

まっすぐにトゥージのもとへ向っている。ウィオラの剣の端が、トゥージの腕をかすめたかと思った瞬間、ウィオラは剣を避けようとしたトゥージの肩に手を付き、さらに高く飛び上がった。

今度こそトゥーギは避けられない。ウィオラの剣がトゥーギの背中を貫こうとしたその時だった。

「やめてくれえ!」

「?!」

トゥーギが大声で叫んだ。一瞬気を取られたウィオラをトゥージが見逃すはずもなかった。

「ドスッ」

ためらったウィオラの体は、蹴り上げられて大きく跳ねあがった。

「ウィオラ!」

力を失ったウィオラのからだが宙に放り出された。朱白の石のペンダントは糸が切れてウィオラといっしょにくるくると落ちてくる。薄明かりの中で、特別輝いてみえた。

「ダンッ」

アキラは地面に叩き付けられたウィオラのもとへ向った。まぶたが閉じられている。そのわけは、遠くに転がっている朱白の石が物語っていた。

朱白の石が体から離れた今、ウィオラは碧漆の石で封印されてしまったのだ。

「…。」

アキラは立ちあがった。ウィオラはいない。シンジも石のままだ。

足の痛みが少しづつ戻ってきている。だが、そんな事を言っている場合ではない。

「トゥージ!」

アキラが呼ぶと、トゥージは降りてきた。

「お前は、許さない。」

そんなアキラの言葉に反応するように、金色の羽が光り輝いた。黄金の剣だ。羽は光を増し、剣の形に代わった。

トゥージは黄金の剣を手にしたアキラを目の前にして一瞬ひいた。

「何だ、アキラか…?」

「俺は、アキラじゃない。本当の名前はアキリア、と言うんだ。」

「アキリア?!」

向こうからトゥーギの驚く声が聞こえた。

「GOLDEN EYES…。ラ、イ、ラ…。」

「ライラ?何だそれは。」

「おそらくお前のもう一つの名前…。」

「何わけのわかんねー事言ってんだ。」

次の瞬間、アキラはトゥージの影を真っ二つに切り裂いていた。取り付いていた黒い影は風に吹き飛ばされたように掻き消えた。


「ウィオラ。」

アキラはもう一度ウィオラの側へいき、揺り起こそうとした。

「アキラ…?」

目を開けたのは、やっぱりマサキだった。澄んだ黒い瞳が、朝日を反射して金色にみえる。

「おはよう。よく眠れたか?」

「うん…。でも、全部覚えてる。ウィオラのせいで体中痛いよ。」

「大丈夫か?」

「うん。それより、アキラも…。<てっぽう>で撃たれたんじゃないの?」

「ああ。多分大丈夫だ。」

足首は相変わらず痛んだが、歩けないこともなかった。

「じゃあ、シンジを助けに行こう!」

マサキは元気よく立ち上がった。

「そうだな。」

二人は驚いているトゥーギと道の真ん中に倒れているトゥージを横目に、シンジのもとへ向った。

もちろん、朱白の石を拾う事も忘れなかった。


碧漆の石をシンジに押し当てると、みるみるうちにシンジは元に戻った。

「何だよ!もうマサキも戻ってきてるじゃねーか!」

「うん。なんとかね。」

「ま、何にしてもよかったな。」

シンジがマサキの背中をばんと叩いた。

「うあっ。」

次の瞬間にマサキは崩れ落ちた。

「マサキ、どうした?」

「あほシンジ!いてーだろーがよ!」

「さっき地面に叩き付けられてたからなあ…。」

「そういうお前も…。」

マサキはアキラの足(怪我の方)をパシッと叩いた。

「ぎゃあ!」

アキラもしゃがみこむ。

「何だよ、二人して怪我人かよ。」

「うっ、うるさいな!」

マサキが痛みに耐えながら立ち上がる。

「無理するなって。どうせ時間だけはたっぷりあるんだ。ゆっくりこの島で休んで行こうぜ。」

そう言ってシンジはマサキをおぶった。

「やめろ、シンジ。恥ずかしいだろっ。」

「それが病人の言う言葉かよ。おとなしくしてな。」

「…。」

「アキラ、お前は、自分で歩け。」

「何でだよ!」

「俺より先にマサキを助けたのと、マサキに怪我を負わせた罰だ。宿屋まで後100メートルくらいか。がんばれよ!」

「ばかやろーっ。この薄情者めーっ。」

シンジはアキラの叫びを無視して歩いていく。

「シンジ!アキラは…。」

「大丈夫。置いてきゃしない。お前を宿屋まで運んだら次はあいつの番だよ。」

「あ、よかった。」

アキラは楽しそうに歩いていくマサキとシンジの背中に向って思い切り叫んだ。

「ばっかやろーっ!」



マサキは全身打撲と肋骨骨折で全治1ヶ月。アキラは左足首に銃弾が貫通して、全治2週間。

「あと一ヶ月はここにいないとな。」

「悪い。俺のせいで。」

「マサキのせいじゃなくて、ウィオラのせい!あいつ、人の体だと思って…使い方荒いんじゃねえ?」

「うーん。違うと思うけど…。実際俺が身体中うったのも、骨折したのも途中で朱白の石が飛んでって、俺に戻ったせいだ。ウィオラはなるだけ怪我しないようにしてくれてるよ。」

「やっぱりウィオラの方が運動神経いいのか?」

「うん。」

マサキはベッドに寝たきりだ。医者に絶対安静をきつく言い渡されている。そう言えば、医者はマサキが女だと知ると、たいそう驚いていた。

「とにかく、じっとしてろよ。これ以上旅を中断したくなかったらな。」

「分かってるよ。」

マサキは静かに目を閉じた。

「コンコン」

ドアをノックする音がした。

「どうぞ。」

「あのう…。マサキさんにお薬持ってきたんですけど…。」

「あ、ごめん。今寝付いた所だ。」

「あ、そうですか…。」

この宿の主人の一人娘だ。たしか名前は、ミーアと言ったはずだ。

「あの、ミーアさん。」

「はい?」

「マサキがこの状態だからもうあと1ヶ月ほどここに泊まる事になるんだけど…。おやじさん、いる?」

「あ、はい…。」

ミーアの年は、マサキくらいだろう。いつも少しうつむきかげんで、おどおどしているような印象を受ける。三つ編みにした髪が背中でゆれている。

「父さーん!」

ぱたぱたと足音を立ててミーアが下へ降りていった。

「マサキぐらいの女の子っていったら、あんな感じのはずだよな。」

「ああ。多分。」

「マサキっていったい…。」

「うーん…。」

二人はマサキの顔をじっと見つめた。

「今更ながら変な奴だよな。」

「ああ。でも最近、常識をおぼえたよな。この辺の地理とか。」

「最初は国の名前さえ知らなかったんだからな。」

「今は島の名前も、俺なんかよりずっとたくさん知ってるみたいだ。どこで覚えるんだろう?」

「分からない。俺達、教えてないはずだよなあ…。」

ますます謎だ。二人で首をひねっていると、宿屋のおやじさんが現れた。割腹のいい体格。一階に開いているバーのマスターもやっている。

「どのくらいここにとどまるんだ?」

「えっと…。あと1ヶ月は…。」

「お金の方は大丈夫なのか?」

「たぶん…。」

「頼りない返事だな。」

おやじさんはそう言うとくるんと伸びたひげを触りながら言った。

「どうせ、わけありなんだろう?見たとこ、まだ10代だ。3人で何してるかは知らないが、まだ家に帰る気はなさそうだし、金にも限りがあるだろう。そこでなんだが…。」

おやじさんが2人の顔を順々に見ていった。

「うちに来ないか?」

「え…?」

意外な言葉に2人は戸惑った。

「いやな。娘と女房と、たった三人で暮らすには広すぎる家なんだよ。ぜひ、うちに来て欲しいんだ。」

「そんな…。ご迷惑をかけるわけには…。」

「いいんだ。宿屋の客としてじゃなく、うちに来た客人として君たちを招待したい。」

「でも…。」

二人は戸惑った。正直言って、アキラが王宮から持ってきた金塊もなくなり始めていた。でも、おやじさんに迷惑をかけるわけにはいかない。

「じゃあ、これならどうだ?」

おやじさんが言った。

「うちに来る代わりに、仕事を手伝ってもらう。言うなれば、住み込みのアルバイトだ。どうせマサキくんが治るまでは、動けんだろう?」

確かにやる事はない。それに、マサキにとってもそれが一番いいだろう。二人は決めた。

「じゃあ、お言葉に甘えて…。」

「よし、決まりだ。じゃあ、さっそく行こうか。」

「え・・?今から・・?」

「もちろんだ。」

「父さん!お店はどうするの?」

「閉店だ、閉店。ミーア、帰るぞ!さいわい今日は客がいない!」

「もう…。」

ミーアは口を尖らせながらも下へとおりていった。

「閉めてきたわよ、父さん。」

「さあ、行こう!」

おやじさんは急に元気になった。

「あの…。おやじさん。」

「何だ?」

「何で俺達にそんなに優しくしてくれるんですか?」

「…。昔の俺に似てるからさあ!俺も昔は船で旅に出たもんだ。お前ら見てると懐かしくってさ!」

「へえ。おやじさんも旅してたんですか。」

「ああ。後でたっぷり話してやるよ!」

アキラは松葉杖を突いて、シンジはマサキをおぶっておやじさんの家に向った。


「おう!帰ったぞ!」

「あら、やっぱり連れてきたのね。」

優しそうなお母さんが迎えてくれた。

「やっぱりって…。」

「旅をしてる男の子が泊まってるって話を聞いた時から、連れてくるような気がしてたのよ。」

「ただいま母さん。」

「お帰りなさい。さあさ、あがって、あがって。」

本当に広い家だった。入ったとたん、視界が開けた。

「あ、名前教えてくれる?」

「あ…俺、アキラです。」

「シンジです。すいませんお世話になります。」

「いいえ。私はカルミアと言います。よろしく、アキラくん、シンジくん。」

「あ、こちらこそ…。」

「その子は…?」

カルミアがシンジの背中のマサキを見ていった。

「あ…。これは、マサキです。今安静にしてなくちゃいけないんで…。」

「あら、そうなの?じゃ、こっちの部屋に…。」

カルミアは奥の部屋に案内した。宿屋の部屋より少し大きい。ベッドに真っ白なシーツがかかっていて、窓から光が差し込んでいた。

「どうしたの?マサキくんは。大丈夫?」

「あ、はい。丈夫な奴なんで…。」

リビングに戻ると、アキラはミーアに包帯を取り替えてもらっていた。

「あ、シンジ。マサキはどうだ?」

「相変わらず寝てる。起きる気配なし。」

シンジはあきれたように言った。

「アキラさん、どうやってこんな怪我したんですか?見た事ないです。足に穴があくなんて…。」

「ああ。ちょっといろいろあって…。」

アキラは苦笑い。ミーアは器用に包帯を巻いていく。

「うまいね。よく怪我の治療とかするの?」

「たまに…。私、看護婦になりたくて。」

「へえ。マサキにやらせたら、すごい事になるのに。包帯が使い物にならなくなる。」

アキラは、いつだったかマサキに包帯を巻いてもらったときのことを思い出した。確かこの島にくる途中、屋根のうえから甲板に落っこちてしまったアキラは、ひじに怪我をした。マサキはめんどくさいとかぶつぶつ言いながら包帯をだし、ぐるぐるひじに巻き付けた。しかも思いっきり力を入れて巻くから、こっちはたまったもんじゃない。しかも包帯を絡まらせて、挙げ句の果てに外れなくなった包帯を切り刻んで一本使えなくしてしまった。結局シンジにまいてもらったが、もうマサキに包帯は触らせないぞと心に誓ったのである。

「マサキさんて、アキラさんと兄弟なんですか?」

「いや、違うよ。もともとは他人。つい10日前ぐらいに知り会ったばっかり。」

「えっ?10日前?」

「ああ。シンジと会ったのもそのぐらいかな。」

「そうか。まだ10日しか経ってないのか。」

「それで旅してるんですか?」

「まあ…そうなるな。」

よく考えれば変だ。たった10日くらいしか経ってないのに、何でこんなにも近い存在なんだろう。

「なんかすごいな、お前ら。やっぱり俺が見込んだだけのことはある!」

おやじさんはそういってがははと豪快に笑った。

「それで?何で旅をしてるんだ?」

「えーっと…。なあ、シンジ。何でだっけ?」

「え?俺知らねえよ。お前らについてきただけだもん。」

「はっはっは、こりゃいいや!目的もなく、出会ったばっかの3人が旅してるのか!」

「いいじゃないですか。」

「いや、けなしてる訳じゃない。いいことだ。本当にお前ら、面白い奴等だな。どこから来たんだ?」

「えーっと…。」

アキラは答えに詰まった。王宮ともいえない。

「アトリアです。」

「アトリア?あのでかい港か。へえ、お前達もデルタスの人間だったのか。目の色が違うから、てっきり別の国の人間かと思ってた。」

「ええ。よく言われます。」

「そう言えば、何年か前に、GOLDEN EYESの王子が生まれたっていってたなあ。アキラ、お前と同じ目の色だってよ。」

ギクッ。

「もうすぐこの国にも災害が訪れるのかねえ。」

そうだ。思い出した。この旅の目的。

「それを王子が救ってくれるんですよ。」

シンジがからかい半分に言った。

アキラの耳には入っていない。

「アキラ?おい、アキラ?聞いてるのか?」

「ん?あ、ああ。」

「そう言えば家にも、GOLDEN MEMORYがなかったか?おい、カルミア。」

「ええ、ありますよ。三巻全部そろってね。あんな読まないもの、GOLDEN EYES誕生の騒ぎに乗じて買っちまう人がいたからね。」

「うるせえやい!」

「えっ?GOLDEN MEMORYがあるんですか?」

「ああ。探せばあるだろう。書斎の方だ。」

「見せてもらっていいですか?」

「ああ、かまわないが…。お前達、そんなものに興味があるのか?」

「ええ、まあ…。」

「こっちだ。」

おやじさんは立ち上がって奥の方へと歩いていった。マサキが寝ている部屋の隣だ。

「この部屋が書斎だ。」

「うわっ、すげーっ。」

その部屋は本に埋まっていた。さまざまな本がところせましと詰みあげられている。

「おう、これだこれだ。」

おやじさんが運び上げた。

<GOLDEN MEMORY>表紙には金色の文字が刻んである。意外と分厚い。

「ここじゃなんだから、運ぼう。その、向かいの部屋に。」

おやじさんがろうかの向こうを指した。

「ついでにマサキの様子見てくるよ。」

「ああ。」

シンジとおやじさんが本を運び出す間に、アキラはマサキの部屋に入った。

「キーィィ…」

戸のきしむ音がする。夕日にかわろうとしている太陽の光が部屋全体を覆っている。

「アキ…ラ?」

「起きてたのか。」

「ううん、今起きた。」

「あ、起こして悪かったな。」

「べつにいい。ねえ、ここどこ?」

「ここは、おやじさんの家だ。好意で止めてくれる事になったんだ。」

「そうなの。ごめん、俺のせいで。」

「だから、マサキのせいじゃない。」

「でも、ウィオラは悪くないよ。」

「ウィオラのせいでもない。誰も悪くなかった。仕方なかったんだよ。」

アキラがそういうと、マサキは嬉しそうに笑った。

「もうちょっと寝てろよ。もうすぐ夕飯持ってくるからさ…。」

「うん。」

マサキはすぐに目を閉じた。ほんとによく寝る奴だな。


「マサキはどうしてた? 」

「寝てた。いっぺん起きたけどまた寝たよ。」

「よく寝る奴だな。」

「同感。」

机にはもう夕食が準備してある。おいしそうな料理を前にして、はらぺこだったことに気付いた。

「さあ、食べましょう。ミーア、あとでマサキくんにも持っていってあげてね。」

「はい。」

「いただきまーす。」

「ところで、3人とも年はいくつなんだ?」

「えーっと、俺が17で、アキラは15。」

「俺まだ14歳だよ。」

「そうだっけ?ええと、マサキは?」

「え?…そう言えば、知らないや。」

「マサキ自身、自分の年忘れてるかもな。」

「じゃあ、シンジくんが一番年上ね。」

「はい。ミーアちゃんは何歳?マサキと同じくらいだと思うんだけど。」

「私は今年、15歳になります。」

「何だ、アキラより年上じゃないか。」

「そうだったのか。じゃ、ミーアちゃんじゃなくてミーアさん、だな。」

「いいわよ。この家にいるんなら、みんな兄弟じゃないの。お兄さんと、弟が2人増えただけよ。」

ん?弟?

「あのー、カルミアさん。」

「なあに?」

「マサキ、実は女なんです。」

「ええっ。」

「?!」

やっぱり気付いてなかったか。アキラとシンジは苦笑した。

「マサキくんって、女の子?」

「ええ、まあ、一応…。」

「嘘でしょ、アキラくん。」

「いや、本当なんです。」

「知らなかったわあ。ねえ、気付かなかったわよね。」

カルミアがおやじさんを見る。

「ああ。てっきり男が3人だとばかり…。」

「すいません。」

「いや、謝る事じゃない。」

ミーアはびっくりして、大きく目を見開いている。

「本当に、マサキさんは女の人なの?」

「ああ。」

シンジは続けていった。

「あの…。俺達の事、嫌いになるかもしれませんけど、今のうちに言っておきます。」

「なあに?シンジくんも女だって言うのは、止めてね。」

「そうじゃなくて、俺、実は、交魂なんです。」

「交魂?シンジくんが?」

「はい。今はまだ何も変化してませんけど。」

「そうか!たまに店にも交魂の男がくるぞ。確か妖鳥だったがな。でかいのと、小さいのの兄弟だった。」

「あ、それって…。」

トゥーギとトゥージじゃ…。

「なんだ?知ってるのか?」

「俺達が怪我した原因ですよ。妖石の闇商人でしょう?」

「ああ、そうだ。何であいつらが原因なんだ?別に悪い奴じゃないはずだが…。」

「まあ、いろいろあったんですよ。」

「お前ら、苦労してんだなあ…。」

「何か相談できるような事があったら言いなさい。ここにいる間は、家族なんだから。」

「あ…。すいません。」

「そんな他人行儀にしないの。」

「はい…。」

「うん、でしょ。子供は子供らしくしてなさい。」

「カルミア。そんな急に変われったって無理だろう。」

「そうね。そのうちにこの家にも慣れるわよ。」

カルミアはそういって微笑んだ。笑った顔がミーアに似ているとシンジは思った。


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