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EYES  作者: 早村友裕
4/16

4.コリコー

「次はどこ行く?」

目を覚ましてすっかり元気になったマサキは、真っ先にこう言った。

「うーん・・・。」

アキラに分かるはずがない。導くのは、マサキの方のはずなのだ。

と、横からシンジが口を挟んだ。

「どこでもいいなら、一つだけ行っときたいとこがあるんだ。」

「どこだ?」

「コリコーだよ。」

「コリコー?」

コリコーはウルクからそう離れていない小さな島だ。

「何でそんなとこに・・・。」

「叔母さんがいるんだよ。ついでに会いに行っとこうと思って。」

「ふうん・・・。」

マサキはあいまいに返事をした。きっと冒険になりそうにないから、ちょっとがっかりしたんだろう。

マサキにあってから、一週間も経っていないのに、マサキの思っている事は大体分かるようになった。マサキが単純なせいもあるけれど。ここ3日くらいで、いろんな事がありすぎて、普通だったらとっくに王宮に帰っていたかもしれない。でも、マサキや途中で出会った交魂のシンジや、黄金の妖飛馬、黄金の剣。もっと大切なたくさんのものがあって、この変な旅を続けている。

「アキラ!」

「何だよ!」

シンジの呼ぶ声も、ずっと昔からこうだった気がしてならない。アキラは、このままずっと3人で旅をしたいと思った。

「実はな、その叔母さんてのが妖力者なんだ。昔、叔母さんの所でマサキの青い石を見た事あるような気がして・・・。」

「あの青い石か?」

「ああ。叔母さんも、昔はちょっと名の知れた妖力者だったんだ。知ってるかな?<メシア>て言うんだけど・・・。」

「メシア!」


もちろん知っている。メシア・・・<救世主>という意味の名を持ち、妖力者の中ではトップレベルの能力を持っている。数百とも言われる呪文を操る国中でも二人といない女性の妖力者である。使い獣は海の妖魔の王、レヴィアタン。海を守護として活動する彼女を、慕う妖魔も多いと聞いている。


「すげえ!メシアに会えるのか?!」

「ああ。もちろん。」

知らなかった。シンジの叔母さんにそんな人がいたなんて。

「交魂だった母さんの姉だから。あんまり普通じゃないけどな。」

「え・・・?<だった>って・・・。」

「死んだんだ。去年の冬に。」

「・・・!ごめん。」

「いいんだ。忘れる事じゃないから。」

「俺・・・。今まで母さんと普通に話した事、ないからな。あくまで、<デルタスの女王>として話してたから。」

「そうか。王子も苦労するんだな。」

「・・・。マサキって、親の顔とか知ってるのかな。」

「ん・・・。」

「いつも話に出てくるのは、<メシア>っていう付き人か、庭で飼ってた妖鷲のアキラぐらいだからさ。あれ?メシアって、シンジの叔母さんと同じ名前…。」

「そう言えばそうだ。偶然かな?」

「それにしても、今までどうやってこれだけ常識を習ったんだろう。ほとんど人にあってないんじゃ、もっと常識はずれでもおかしくないよな。」

マサキは二人にとってまだまだ謎だ。

「<メシア>って誰なんだろう?」

「見たことないのかよ、同じ王宮にいて。」

「王宮ったってだいぶ広いんだぞ。」

「そうだろうけどよ・・・。」

舵を握っているシンジが振り向いた。

「マサキの事、もっと知りたいだろ?」

「・・・。」


「なあ、マサキ。メシアってどんな人だったんだ?」

「うーん、そうだなあ・・・。」

ベッドに横になったマサキの枕元でシンジが聞いた。夜はアキラとシンジが交代で舵を取っていて、順番に寝る事にしている。マサキはあまりにも方向音痴だったので、順番から外された。

「メシアはねえ・・・俺の母さんみたい存在。気がついたらそばにいて、ずっと俺の世話をしてくれてた。世間の常識っていうのとかも全部習った。そのころは、昼間寝て夜勉強してたから。今でも夜に寝るのは辛いよ。」

「ふうん・・・。メシア以外の奴に会う事はなかったのか?」

「あんまり・・・。唯一会えたのは、変なおじさん。名前は確か、ウェスタ・・・。」

「ウェスタ?!」

「?知ってるの?」

「ん・・・。名前を聞いた事あるだけ。」

冗談きつい。まさかデルタスの国王にあってたとは思いもしないだろう。

「でも・・・。メシアに何にも言わずに出てきちゃったからなあ・・・。」

マサキはふと遠い目をする。その<メシア>を思い出してるんだろうか・・・?

「ごめんなマサキ。もう、寝ろよ。」

シンジはそう言ってマサキの額に手を置いた。

「うん。」

マサキはすぐに寝息を立てはじめた。

相変わらず寝ている時だけはすっかり女の子だ。ふせられた長いまつげも、透き通るような白い肌もとてもいつものマサキとは似ても似つかない。絹のような黒髪だって、伸ばせばかなりのものだろう。

「マサキ・・・?」

もしかして、マサキってすげえ美少女だったりして・・・。

整った顔も、よく見ればかわいい。大きな瞳、少し小さめの顔に、細い首。すらりと長い手足は、まるで有名な踊り子のようだ。大きめの手は、細い指にピンク色の爪がついている。

「・・・。」


「なあ、アキラ。」

「なんだ?」

「マサキってさ、きれいな顔してるよな。」

「ん?ああ。最初見た時びっくりしたもん。」

「踊り子みたいで、びっくりした。けっこう背、高いし、踊り子とか出来るんじゃ・・・。」

確かにマサキなら、踊り子になれるだろう。

「あの容姿なら、立っているだけでも有名になれるだろうよ。」

「まあな・・・。」

シンジは何か考えている。

「シンジ。何考えてんだ?面白い事だったら俺も乗るぜ?」

「ああ。マサキを女装させてみたいなあと思っただけ。」

「マサキを?!女装?!見たいっ。見てみたいっ。」

「つーか、女装って、男が女の格好する事だろ。何か違わねえ?」

「いいって。」

「でもさ・・・。」

「何?」

「いつやるんだ?」

「・・・。」

「・・・。」

アキラとシンジは顔を見合わせた。

実行するのは難しそうだ。


「叔母さんのうちは、コリコーの街はずれにあったはずだけど・・・。」

「シンジの叔母さんかー。どんな人だろ?」

マサキは興味津々なようだ。

街の外れに、一件の家があった。青い屋根の少し古びた家だ。

「ここだ、ここだ。」

「ちょっと・・・謎の館って感じだな。」

「ごめんくださーい。シンジだけど、叔母さん、いるー?」

「何だ。久々の客かと思ったのに。」

落ち着いた低い声がしたと思ったら、誰かが出てきた。次の瞬間に大声をあげたのは、マサキだった。

「ああーっっ。メシア!」

「なに?!」

アキラが驚いてマサキの顔を見た。

「マサキ・・・。」

相手も驚いている。

「叔母さん?どういう事?」

「それはこっちが聞きたいわ。何でシンジとマサキが一緒にいるの?」

「何でメシアがシンジの叔母さん・・・。」

「どうなってんだよ。」

疑問が飛び交う中、その女性妖力者は一気にまとめた。

「とにかく、中に入りなさい!」


「まず、何で叔母さんが<メシア>なんだ?」

「シンジの叔母さんがメシアだとは思わなかった。」

「私、妖力者として王宮に仕えてたのよ。シンジは知らなかった?」

メシアはとっさに口を閉じた。マサキがいる事を忘れていた。

「王宮?ようりょくしゃ?」

「な、何でもないのよ。とにかく私は数日前までマサキの付き人だったの。」

「何でここに?」

「マサキがいなくなったからに決まってるじゃない。マサキがいないと面白くないのよ。だから、帰ってきた。」

「ごめんなさい・・・。」

「いいのよ。ここにいるのも好きだから。・・・。ところで、シンジは何でマサキと一緒にいるの?それとアキラ、あなたは何者?」

「アキラの事はあとで話す。マサキ達とは、アトリアの港であったんだ。一緒に冒険に行くことにして。ここに来たのは・・・。」

シンジは弓矢の袋をひっくり返した。青いかけらが転がり落ちる。

「これの事なんだ。」

「これ・・・。マサキの腕輪の・・・。割れたの?!」

メシアの顔がさっと青くなった。

「マサキ。ちょっと、外に出ててくれる?」

「・・・?うん。」

マサキはしかられる準備をしていたが、追い出されて、ちょっと戸惑った。

「ま、いいか。」

マサキは街の方に向かって駆け出した。

時間潰してこよーっと。


「アキラ、シンジ。よく聞いてね。これからのマサキの運命に関わる事だから。」

「運命・・・。」

「あ、そうだ。アキラは、デルタスの王子、アキリア。GOLDEN EYESの本人。」

「あなたがアキリア・・・?あ、そう言えばマサキは王子といっしょに逃げたんだったわね。」

「で?話って言うのは?」

「マサキの事なの・・・。あの子のからだには、3つの魂が入っているの。」

「3つ?!」

「そう。まず、あの子・・・マサキ自身の魂。それから、」

「ウィオラ、水龍の魂。だろ?」

「・・・!知ってたの。」

「ああ。前に一度だけ・・・。」

「そうなの。」

メシアの顔がいっそう青くなる。

「あ、それともう一つは、闇龍の魂なの。」

「闇龍だって?!」

それからの話は、あまりにもショックなものだった。

「マサキは・・・、大変な運命を背負ってしまっているんだ・・・。」

「あいつには、きつすぎるよ。」

話を聞きおわった2人は、絶望感にとらわれていた。あんなにも明るいマサキに、そんな大変な事が起きていたなんて!

「あの青い石は水龍を封じ込めていたのよ。その運命が始まらないように・・・。」

「その石が割れて、押さえ切れなくなったわけか。」

「そうなの。だから、これからも水龍はマサキに現れるようになるわ。ここまで来たら、マサキにがんばってもらうしかないわね。」


「メシア。アキラたちに何言ったの?」

「・・・。」

「言ってない。何もないんだ。」

シンジが慌てて横から言う。

「ふーん。」

マサキはどうでもいいと思ったようだ。あいまいな返事をすると、テーブルの横の妖鼠と遊び出した。

「シンジ。さっきの事・・・。」

メシアは唇に指を押し当てた。

「分かってるよ。」

メシアは少し笑うと、明るく言った。

「さて、落ち着いた所で私の使い獣に会いに行きましょう。」

「え?メシアに使い獣っていたの?」

「ええ。正確には、使い魔ね。飛びっきり大きな海の妖魔・・・。」

メシアは意味ありげに笑った。


「レヴィーッ。」

海に出たメシアがそう叫ぶと、にわかに周囲の海がざわめいた。

何か来る?!

この大きな気配は、シンジでなくても感じ取れる。

「ザバアアッ」

「?!」

現れたのは、海の王者、レヴィアタン。小さな港が沈みそうだ。

「久しぶりね、レヴィ。」

・・・ メシア 戻ったのか ・・・

「ええ。それより、紹介したい子がいるの。」

・・・ GOLDEN EYES だろう? ・・・

「うーん、おしい。それもそうなんだけど・・・。」

メシアはマサキをちらっと見て、懐から何かを取り出した。

「?!」

すごい光が辺りを包む。そして光がひいたころ・・・。

「何だ?俺に何か用なのか?」

聞き覚えのある声。マサキとは微妙に違う声のトーン。

「ウィオラか?!」

「アキリア・・・。何でわざわざ俺を呼び出すんだ?」

「水龍のウィオラね・・・。私はメシア、妖力者よ。呼び出したのは、私・・・。」

「で?メシア、何の用だ?」

「レヴィに会って欲しかったの。」

「レヴィ?」

マサキ・・・ウィオラがじろっとレヴィアタンをにらむ。

・・・ ウィオラ 本当に 闇龍との戦い以来 どこに ・・・

「レヴィ。心配かけたな。」

・・・ しかしその瞳は? ・・・

「闇龍を振り切れなかった。すまない。」

「レヴィ、そういう事。碧漆の石が欲しいの。」

「いや、いい。」

「ウィオラ?どうして?!」

「俺はもう逃げない。マサキには、ちょっとだけ付き合ってもらう。今度こそ闇龍を・・・。」

・・・ いいのか? にんげんを 巻き込む事になるぞ? ・・・

「・・・。」

ウィオラは唇をギリッと噛み締めた。

「マサキなら・・・大丈夫だ。」

そう言ったのはシンジだった。

「マサキは並みの女の子じゃない。絶対大丈夫さ。」

「そう・・・だよな。いざとなったら俺達もいるし!」

「アキリア。」

「何?」

「シンジたちにはこれ、渡しとく。」

そういってメシアは二つの石を取り出した。

「これは、朱白の石、こっちが碧漆の石。碧漆の石は一つだとウィオラを押さえるものだけど、二つを合わせる事で、ウィオラを呼び出せるわ。」

「この二つで?」

「ああ。現に今、これで呼び出された。」

アキラは二つの石を受け取った。

「アキリア。碧漆の石は、俺・・・マサキに持たせといてくれ。朱白の石は、お前が持っていろ。」

「普段はお前を押さえておくのか?」

「ああ。いない方が都合がいいだろう。」

「わかった。」

アキラは碧漆の石と朱白の石を、それぞれ紐に通した。

「それからシンジ・・・最後に頼む。」

「なんだ?」

「こいつに・・・マサキに、俺の事を教えてやって欲しいんだ。マサキの中には、水龍がいるんだぞって。」

「?!いいのか?」

シンジはメシアを振りかえる。

「・・・そうね。こうなった以上、マサキにもウィオラの事を知っておいてもらいましょう。ただし、それ以外はしゃべっちゃだめよ。言う時が来るまで・・・。」

「少しづつ話していくさ。」

シンジの瞳の色に、少しだけ寂しさが混じった。


碧漆の石によってマサキはまた戻った。

「きっとウィオラになると、力を使うのよ。寝かせといてあげなさい。」

メシアはそう言うと、2人に別れを告げた。

アキラの胸には朱白、マサキの胸には碧漆の石がかかっている。(もっともマサキは眠ったままだが。)

「マサキに何から話す?」

「そうだな・・・。まずは、ウィオラの事だな。」

「うーん。マサキ、どんな反応するかな。」

「そうだな、びっくりして目を丸くして、それから瞳が輝いて・・・。」

「会ってみたいっていうだろうな。」

シンジとアキラは思いきり笑った。

単純なマサキを思いながらアキラはウィオラが最後に言った言葉を思い出した。

「運命がマサキにまわったとは決して思うな。でも、お前は一人じゃない。シンジもメシアも、いざとなればシャラメイも助けてくれるだろう。お前は一人じゃない。がんばれ、アキリア・・・。」

ウィオラの青い瞳は深く澄んでいた。漆黒の瞳が少しくすんでいたような気がしたのは、気のせいだろうか・・・。

「アキラ・・・。」

後ろでマサキの声がした。はっとして振り替えると、ベッドの上にマサキがちょこんと座っていた。

「おはよう、マサキ。」

「なんか、レヴィに会った後、記憶がないんだけど。」

「・・・。」

アキラはシンジと顔を見合わせる。

「あのな、マサキ。」

シンジが明るい声で切り出した。

「マサキにはな、友達がいるんだよ。」

「友達?」

「ああ。いつでもマサキの中にいて、マサキを助けてくれる奴。」

「俺の中?」

「そうだ。そいつはな、たまーにマサキの外に出たりするけど、いい奴なんだよ。」

マサキがきょとんとしている。

「えーと、なんて言うか・・・。マサキの中に、その妖魔の魂が紛れ込んだんだよ。」

「じゃあ、俺、交魂なわけ?」

「うーん、ちょっと違うな。(ほんとはそうだけど)」

「へえ。俺、会える?」

「ちょっと無理だ。2人とも表に出るのは無理だな。」

「そいつ、名前なんて言うんだ?」

「ウィオラ。龍の魂なんだ。」

「龍!」

マサキの瞳が輝いた。

「かっこいい!」

「だから、たまにウィオラが顔出す事がある。その時は、少しだけマサキに眠っていて欲しいんだ。」

「うん!また一人、仲間増えたな!」

「ああ。」

「会ってみてえなあ。」

マサキは少し遠い目をした。

やっぱり黒い瞳は澄んだままだ。深い深い漆黒がどこまでも広がっている。ずっと奥までのぞけそうだ。光と闇をいっぺんに集めたらきっとこんな色だろう。

さっきウィオラの時に見た、少しくすんだ瞳は何だったんだろう。

「アキラ?」

気がつくと、マサキが不思議そうにアキラの目を覗き込んでいた。やっぱり、きれいだ。この中に闇龍がいるなんて考えられない。

「何でもないよ。」

アキラはさっきメシアに聞いた事を胸の奥深くにしまい込んだ。

「マサキ、どうする?これから。」

「とりあえず、この国の島、全部まわろうぜ!」

「そうだな。」

マサキの漆黒の瞳に、アキラの金色の瞳に、そしてシンジのマサキと同じ青い瞳に、希望の色が映し出された。


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