表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EYES  作者: 早村友裕
3/16

3.ウィオラ

「上陸ー!」

マサキは勢いよく船から飛び降りた。2人がそれに続く。

「待てよ。慌てんなって。」

シンジはマイペースだ。マサキもちゃんとシンジのペースに合わせている。アキラの場合、追いつこうとするからマサキのペースにはまってしまうのだ。

「でもさ、アキラ。ここ来た事ないか?なんとなく、懐かしい気がする・・・。」

「え・・・?」

アキラは周囲の木々を見渡してみた。

言われてみると、あの大きな木も足元の小さな花も見た事がある気がする。何よりも、この森の雰囲気自体が懐かしく感じる。でも、今まで来たことがない筈だ。

「なんとなく覚えはあるけど・・・。来たことない筈だ。」

「そうだけどさ、ずっと昔、ここにいたような、ここで何かあったような・・・。」

マサキが言葉を濁す。その時、シンジが2人を止めた。

「静かに。妖魔の気配がする。それも、一匹や二匹じゃない。」

「分かるのか?シンジ。」

「ああ。・・・今まで言ってなかったけど、俺、交魂なんだ。そのせいか俺、妖魔とか妖獣には敏感だ。」

「!」


この世界には、たまに交魂と呼ばれる、妖魔の魂が間違って人間のからだにはいてしまったという<交魂>と呼ばれる者が生まれることがある。生まれた時から特殊な力を持ち、ごくまれに体が変化する場合もある。


「交魂だって言ったら、嫌われるかと・・・。」

「何言ってんだ。シンジらしくもない。それに俺達、そんな事で嫌ったりしない。」

「そうだ。それに、半分だけ妖魔なんて、かっこいいじゃないか。」

「・・・。」

シンジは驚いて2人を見ている。

「そんな風に言われたのは、初めてだ。お前ら、変わってるなあ。」

「そうか?」

現に、交魂への社会の考えは厳しいものがある。

「でも・・・。」

アキラが言いかけた時、シンジは叫んだ。

「来る!妖魔が・・・十数匹はいる!」

「?!」

一気に緊張が高まる。2人もようやく何かを感じた。何か、<悪いもの>が来る!

が、次の瞬間、考えるまもなく3人の周りは妖烏に囲まれた。

「・・・。どうする?シンジ。」

「どうって・・・。」

シンジは周囲の妖烏を見渡した。黒い羽と鋭いくちばし・真っ赤な目を持つ、妖烏。赤いはずの目が、黒い。何も写さない暗黒の瞳だ。普段からあまり人馴れする種ではない。戦って勝てる数でもない。とにかくここは、逃げた方が・・・。

シンジが口を開く前に、マサキが声を出した。

「烏さん。何か用?」

「バッ、バカッ!」

慌ててシンジがマサキの口を塞ぐ。妖烏の長らしき一羽が答えた。

「ナニシニキタ・・・。」

「黄金の剣を探しに。」

今度はアキラが答える。

えーい、もう、この二人は…。

「ソンナモノハ、ココニナイ・・・。」

「そんなわけない。どこにあるんだ?」

「・・・。」

次の返答はなかった。シンジは悟った。今度こそ襲ってくる気だ!

「アキラ、マサキ、逃げろ!」

「?!」

妖烏たちの攻撃より一瞬早く三人は駆け出した。後から妖鳥が追いかけてくる。

「どんどん奥に行ってるじゃないか!」

「仕方ないだろ、とにかく走れ!」

3人はどこまでも続く木々の間を縫って走っていった。

「ハア、ハア・・・。」

疲れはじめたマサキが、少しよろめいた時だった。

ガクンと急に地面から落ちた。マサキは草むらに隠れていた崖から落ちてしまった。

「マサキ!」

マサキの手を取ろうとしたシンジがいっしょに落ちてしまう。

「マサキ!シンジ!」

アキラの叫び声が遠ざかる。そのアキラもまた、後を追ってきた妖鳥によって、反対側の崖へと突き落とされた。

「うわああ・・・!」

妖烏は鳴くわけでもなく、ただその光景をじっと見つめていた。羽音だけが周囲に響き渡った。


「う・・・ん・・・。」

シンジが目を覚ますと、マサキが隣に倒れていた。体を起こすと、全身に痛みが走った。

「うっ・・・。」

落ちた時に打ったようだ。しかし、そんなにひどく怪我をしたわけではない。

「マサキ、マサキ・・・。」

マサキをゆすってみたが、目を覚ます気配はない。むしろ、固く閉じられた瞳は、もう開かないような不安を感じさせた。マサキは頭を打っているようだった。腕輪の青い石が割れて、破片が飛び散っていた。一つ一つの破片が鈍い光を放っている。青い光の中のマサキはいつもよりもいっそうきれいに見える。

「男のくせにきれいな顔した奴だな。」

シンジは少しドキッとした自分を押さえて、青い石を拾い集めて持っていた弓の袋に入れておいた。

そしてシンジが辺りを見渡すと、小川があった。マサキを側まで運ぼうと抱き上げると・・・。

「え・・・?」

軽い。見た目よりずっと軽い。それに、白い手足は、強く握ったら折れそうなほど細くて、やわらかい。閉じられた瞳は、いつもの元気な瞳と違う少し違う不安げな瞳。長いまつげが、整っているせいできつくも見られる顔立ちを優しくしている。強く抱きしめたら壊れてしまう、ガラス細工のように・・・。

「マサキ・・・?」

シンジの頭に浮かんだ疑問。

どういう事だ、アキラ?!


アキラは、運良く崖から滑り落ちただけで、どこも怪我をしていなかった。

「マサキー!シンジー!」

2人を呼ぶが、返事はない。

「ここはどこなんだよーっ!」

アキラがいたのは、さっきまでとは別世界。濃い霧に包まれていて、深い闇が辺りを支配する不気味な森だ。妖魔が出てもおかしくない。

「っくしょう・・・。」

アキラは歩き出した。特にあてがあったわけではなく、なんとなく気が向いた方向へと歩いていった。

そのうちアキラは気付いた。

「何かに、呼ばれている・・・?」

じっと耳を澄ましてみる。

・・・ 心の目を開け 選ばれし者よ ・・・

何か聞こえる!

アキラは思わず走り出した。ずっと先に光が見えてくる。森を抜けたと思った次の瞬間アキラは、光の中に飛び込んだ。

「?!」

一瞬目も開けていられないような光に包まれた。少しずつ目を開けると、そこには湖があった。まるでおとぎ話に出てくるような、きれいな湖だ。薄く霧に囲まれた幻想的なその湖は、まばゆい光に包まれている。その光のもとは、湖の中ほどに浮かぶ小さな島だった。目を凝らしてみると、何か金色の生き物が座っている。何だろう?

「!ペガサス!」

アキラは思わず大声をあげた。島に座っていたのは、黄金のペガサスだったのだ。

アキラの存在に気付いたペガサスは、大きな羽音を立てて飛び立った。こっちに向かってくる!

・・・選ばれし王子よ 黄金の剣を手にすべし・・・

まただ。何かの声がする。まさか・・・?

「ペガサス!お前なのか?さっきから導いてくれたのは!」

返答はない。


シンジはマサキを背負って歩き出した。一応川で泥を落とし、マサキの表情も和らいでいる。

「アキラー!」

大声で呼ぶが、返事はない。シンジは集中して妖魔の気配を探した。妖魔の近くにアキラがいるはずだ。

見つけた。ものすごい力を持つ妖魔の気配。黄金のペガサスか・・・?とにかくシンジはその方向に歩き出した。気配に近づいている。

それにつれて、辺りの森の闇の色も濃くなっていく。先の方に光が見えてきた。

「あれか・・・?」

光の手前まで来ると、マサキが目を覚ました。

「マサキ。気がついたのか。」

マサキの返事はない。見た事もないような恐い目をして、光の中を見つめている。

「マサキ・・・?」

「シャラメイがいる。アキラも・・・。」

「シャラメイ・・・?」

マサキはシンジの手を引き、光の中へと飛び込んだ。

「!」


・・・ ウィオラか? ・・・

ペガサスが始めてしゃべった。しかし、その言葉はアキラではなく、別の方向に向けられていた。

・・・ウィオラ 久しぶりだな また会えてよかった ・・・

「まあ、こんな格好をしてはいるがな。とにかくこいつは、本物のアキリアだ。俺が保証する。」

「?!」

アキラはマサキの言葉に驚いた。何で本当の名前を知ってるんだ?!

もっと驚いたのはシンジだ。いくらシンジでも、自分の国の王子の名前ぐらいは知っている。

「アキリアだって?!」

しまった。シンジにもばれた。しかしマサキ達は、無視して話を続ける。

・・・アキリア あの島へ行って 黄金の剣を手にするがよい ・・・

「アキリア、行ってこい。剣はあの島にある。」

「行けって、どうやって・・・。」

「この湖は、本物の王子なら、沈んだりしない。上を歩けるはずだ。」

マサキはそう言うとシンジを連れて水の上を歩き出した。

「うわっ。ほんとに歩ける・・・。」

シンジが驚いた声を出す。アキラも思い切って湖に足を踏み入れた。沈まない。重さがまるでない。体がすごく軽い。マサキとシンジの所まで追いついた。

「大丈夫だろう?」

マサキの青と黒の瞳が見つめる。いつもと違う光が宿っている。

「マサキ。・・・お前、俺の本当の名前、知ってたのか?」

「<マサキ>は知らない。俺は、お前らの知ってるマサキじゃないんだ。」

・・・ 魂は ウィオラという 水龍だったんだ ・・・

「水龍!」


水龍は炎龍・光龍と争う妖力の持ち主で、すべての妖魔を合わせても三本の指に入る種族。すなわち水龍・火龍・光龍は妖魔界を三つに分けるトップだ。真っ赤な炎を守護とする炎龍、蒼く澄んだ水を守護とする水龍、何もかもを照らし出す白い光を守護とする光龍。昔は<闇龍>とよばれる、何もかもを飲みこんでしまう闇を守護とする第四の種族がいたらしいが、水龍によって滅ぼされたと伝えられている。


「マサキも交魂だったのか?」

「ま、だいたいそういう事・・・。」

「でも、マサキから妖魔の気配はしない。」

シンジが口を挟んだが、マサキは応えなかった。

「・・・マサキが、龍の導きってわけか?」

シンジが言う。いつの間にかペガサスも隣を歩いていた。

小さな島には、たった一枚の羽があった。金色に輝いて、とてもきれいだ。そっと手に取る。見た目より重さがあり、何か懐かしい気分になった。

・・・ それが黄金の剣だ 使わない時には 羽に戻っている ・・・

「どうやったら剣になるんだ?」

・・・ 心の底から 守りたいものがあった時だ

黄金の剣は 守るための剣だ 攻撃は出来ない ・・・

「守るための剣・・・?」

アキラはその羽をまじまじと見た。とても剣になるとは思えない。

・・・ そのうち必ず 必要になる それまでは そのまま 持っているといい ・・・

「アキリア。これは始まりだ。これからは、もっと大変になる。とにかく俺は、マサキに戻る。」

「ウィオラ・・・だっけ?どういう事なんだ?これは、乗り越える運命なのか?」

「・・・。今は言わない。そのうちに嫌でも分かってくるさ。大きな敵・・・運命の存在も・・・な。」

「敵・・・?」

マサキ・・・ウィオラはニヤっと笑うと、突然その場に倒れた。

「ウィオラ!」

だめだ。もうマサキに戻っている。アキラはマサキを背負うとペガサスに礼を言って、その場から立ち去ろうとした。するとペガサスが後ろからつぶやいた。

・・・ また会おう ・・・

「あ、そうだ!もう村を襲ったりするなよ!」

・・・ それは 私ではない ・・・

そう言えば、おじいさんは、目の黒いペガサスだといっていた。

「じゃあ、誰が・・・?!」

・・・ この島を出るまで 油断をするなよ ・・・

アキラにはよくわからなかった。油断するな?何に対して・・・?

聞こうと思って振り向いたが、もうペガサスはいなかった。変わりにシンジの少し怒ったような声が響いた。

「とにかく船に戻ったら全部説明してもらうぞ、アキリア王子!マサキの事もな!」

「・・・。」

やっぱりばれた。


マサキを背負ったアキラと、シンジが並んで湖を離れた。シンジは無言だ。相当怒っているらしい。

「・・・。」

2人は無言で歩いていた。シンジが妖魔の気配を感じるまでは。

「・・・?!妖魔が来る!さっきの妖烏だ!」

「?!」

アキラはざっと辺りを見渡す。さっきより増えた?!

「急げ、アキラ!今度はマサキがいるぶん不利だ!」

「あ、ああ。」

2人は駆け出した。妖烏は追いかけてくる。

・・・ この島を出るまで 油断するなよ ・・・

ペガサスの言葉がよみがえる。

「しまった行き止まりだ!」

「!」

シンジの切羽詰まった声で気付いた。目の前に高い崖が迫っている。さっきマサキ達が落ちた所だ。上れそうにない。

「どうする?アキラ。」

「どうって・・・。」

アキラはマサキをそっと地面に降ろすと、背中の剣を抜いた。シンジもニヤッと笑ってどこに持っていたのか、弓を取り出した。

マサキをかばうように立つと、二人は妖烏に切りかかった。

シンジは弓でどんどん妖烏を射抜いていく。アキラはより多くの妖鳥を倒すため、前へ進み出た。次の瞬間・・・!

「バササッ」

「マサキ!」

真っ黒な目の一羽の妖烏がマサキを連れ去った。アキラが必死に後を追う。しかし妖鳥は飛び上がり、マサキは遠ざかっていく。

「マサキィ・・・!」

アキラが精一杯の声で叫ぶと、辺りを金色の光が包んだ。

「?!」

次の瞬間にアキラのからだは宙に浮いていた。手に握られているのは、一振の剣。

「黄金の剣・・・?」

アキラはマサキを追いかけた。すごいスピードで妖烏を追いつめる。

アキラはその剣をしっかりと握った。そして・・・。

「ズバッ」

妖鳥の後ろに張り付いていた黒い影のようなものが真っ二つに切れた。マサキの体が地面に向かう。

「マサキ!」

アキラが追う。間一髪のところでアキラはマサキを受け止めた。シンジは、他にたくさんいた妖烏をすべて倒していた。周りに青い石のかけらが飛び散っている。

「これ、マサキの腕輪の・・・。」

「ああ。さっき崖から落ちた時に割れたから、かけらを拾っといたんだ。この石、光るたびに妖烏の黒い影を吹き飛ばして・・・。俺、ほとんど何もしてないんだ。」

「もう、光ってないな。」

「力使い果たしたって感じだな。」

「一応拾ってくぞ。」

剣はまた羽に戻っていた。


「ココハ・・・。」

影を切られた妖烏が起き上がった。目の色が赤に戻っている。

「お前、どうしたんだよ。」

「ニンゲンカ・・・?」

「何かあったのか?」

「ワカラナイ。タダ、ヨウヒュウマガ・・・。」

「?!」

シンジとアキラは、思わず顔を見合わせた。


「おんなあ?マサキが?」

「う、うん・・・。」

妖烏と別れ、船に乗り込んだ2人は目を覚まさないマサキの横で話していた。

「まあ、もしかしたらとは思ったけど。男であんだけ華奢な奴、そうはいないからな。」

「俺も思う。」

それにしても、マサキはいっこうに目を覚ます気配がない。

「何でマサキの奴、起きねえんだろ。水龍なんだろ?」

次の瞬間マサキはぱっちりと目を開けた。

「ウィ、ウィオラか?」

恐る恐るアキラが声をかける。

「ウィオラぁ?何だそれ?」

マサキのようだ。元に戻っている。

「あれ?青い石がない。」

「ああ。崖から落ちた時に割れて・・・。」

「割れたの?!」

「・・・。一応かけらはあるよ。」

「・・・。」

マサキはすっかりしょげてしまった。

「そんなに大事なものなのか?」

「・・・。俺のお守り。絶対外すなって、メシアに言われてた。」

「そうか。」

今まで気落ちしたマサキを見た事のないアキラには、マサキを慰める手段は何もなかった。ただ隣に座っていてあげる事くらいしか・・・。

少しずつ黄金の剣と黄金のペガサスの話を聞かせた。

「シャラメイっていうの?そのペガサス。」

「ああ。きれいなきれいな金色の羽で、空を走るみたいに飛んでいくんだ。」

「いいなあ。見たかったなあ。」

「また見れるよ。<また会おう>って言ってたから。」

「よかった。」

マサキは安心したように笑った。いつもと違う雰囲気のマサキに、アキラは少し戸惑っていた。

「マサキ・・・。元気出せよ。」

「うん・・・。」

マサキはもう一度笑った。

「ねえ、アキラ・・・。」

「何だ?」

「少しだけ寝ていい?」

「ああ。」

マサキは横になると、青く澄んだ瞳と深い黒の瞳を閉じ静かに寝息を立てはじめた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ