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EYES  作者: 早村友裕
14/16

14.ビウィーラ


「まったく、結局慌てて出港することになるんだなっ。」

シンジは寝起きでちょっと不機嫌。

「・・・。」

アキラは抱えていたマサキをおろした。

「大丈夫か? 」

「ん・・・ウィオラが押さえてくれたみたいだ。」

アキラにはマサキの荒い呼吸が感じ取れた。辛かったろうな・・・。

マサキは壁に寄りかかって座り込んだ。

「疲れた。」

途端に眠った。

「・・・。」

いつもなら文句の一つも行ってやる所だが、今日は何も言えない。

「ちょっとまずかったかなあ・・・。」

シンジが眉をしかめる。

「すまん。すっかり忘れて練習に没頭してしまった。」

「まだ復活しなくてよかったよ。」

シンジはちらっとマサキを見やった。

「あいつ、ああみえてけっこう精神力高いんだな。ビルラの意識を押え込むなんて。なあ、アキラ。・・・アキラ?」

シンジはアキラが聞いてないことに気づいた。

真剣な顔でじっと一点を見詰めている。

「・・・。」

シンジも黙ることにした。

アキラは<これから>を考えていた。ビルラが復活する。そうしたらビルラを倒さなくてはいけない。どうやったら倒せる?

マサキは自分ごと殺すのか、と言った。それは嫌だ。マサキを失いたくない。それに、マサキを殺せばビルラも消滅する、という保証はどこにもない。


いつだったかウィオラに聞いた。交魂というもののしくみについて。

人間を一つの入れ物とすると、人間の魂は、その中に入っている。人間としてその人物が生まれる前は、魂はまだ不完全だ。そこに妖魔が入った場合、まだ安定していない人間の魂と半分混じったような状態になる。これが交魂。ようするに、死なない限りはウィオラもビルラも外へは出られないということらしい。


「ウィオラ、ウィオラ・・・。聞こえるか?」

アキラは<マサキ>を起こさないように静かにささやいた。

それから数秒後。

「どうしたんだ?」

「ウィオラ、聞きたいことがあるんだ。」

「何だ?はやく言え。」

「どうやったらビルラを倒せる?」

率直な質問にウィオラはしばし黙り込んだが、低い声で言った。

「・・・誰がビルラを倒して決着をつけると言った?」

「え?」

アキラは呆気に取られた顔でウィオラを見た。

「何もビルラを倒すしか方法がないわけじゃない。それにビルラを殺すなんて、マサキごと・・・。」

ウィオラは<殺す気か?>という言葉を飲み込んだ。さすがにこれは言い過ぎだろう。

もっともマサキを殺したからといってビルラもいっしょに死ぬわけではない。ビルラを殺す方法なんか、考えもつかない。

「でもウィオラ、他に方法あるのか?ビルラを押え込んでおけるような・・・。」

「それは・・・。」

ウィオラは次の言葉を失って口をつぐんだ。

俺がビルラを押さえるのは、もうそろそろ限界だ。それは分かっている。

「ウィオラ・・・お前さ、もう、この運命の行き先が分かってるはずだよな。」

アキラは静かに、しかしはっきりとウィオラに説いた。

「・・・。」

「だったら、もうビルラを押さえておくだけじゃだめだ。ビルラを完全に消すことを考えないと・・・。」

「・・・もしこれが俺の身体だったらとっくに蹴りつけてるんだけど・・・これはマサキからの借りもんだから。うかつにビルラに手を出せないのが現状だ。ビルラを本気で倒すとなると、中で戦うわけにいかないからまずここから出る必要がある。」

「えっ?!交魂の魂は、外に出られないんじゃないのか?」

「それはあくまで一般論だ。俺がフルパワー出せば、ここから出られないこともない。ビルラにしてもしかり、ここから追い出すことは可能なんだ。もちろんそんな事をすれば・・・と言うか、したことなんかないんだが、マサキ自身の魂に影響が出ることは避けられないだろう。その前に、外に出て普通に戦って俺がビルラに勝つのはほとんど不可能だ。」

「なぜ?」

「俺よりビルラの方が実力が上だから。」

「・・・。」

「もっともビルラが目覚めてしまえばマサキのことなんかお構い無しだから、まっさきに俺のこと追い出すぜ。それどころか、そのショックでマサキが死ねば好都合と思うだろう。」

「それは絶対にだめだ!マサキが死ぬのはやだ!」

あんまりに大声だったのでシンジは舵をとる手を休めてアキラを振り返った。

「おいおい、海の真ん中だからって大声だすなよ。びっくりするだろ。」

「あ、わりい。」

「マサキに死んでほしくないのは、俺だって同じだ。そんなわかりきったこと叫ぶなよ。」

「ああ。」

シンジはまた船の進行方向に視線を戻した。

アキラもウィオラに視線を移す。

「で、ウィオラ。話の続きなんだけど、その他に手はないのか?」

「一つ・・・いや、可能性も含めると二つだけある。」

「あるのかっ?!」

「・・・静かにしろ。マサキが起きる。」

「その方法ってどうするんだ?」

「一つ目は、ライラに頼むことだ。ライラは4龍の中でトップの実力を持つ。ライラならビルラを倒すことは可能だ。」

「ライラはどこにいる?」

「わからない。」

「・・・却下。二つ目の可能性は?」

「お前の持っている黄金の剣だ。」

「?」

「その剣はライラが作ったものだ。今までの働きを見ると、どうやら闇の力のみを切る性質を持っているらしい。それなら、俺とマサキをそのままにしてビルラのみを倒すことができるかもしれん。」

「!そのほうがいい!」

「しかし、あくまで可能性だ。もし、闇以外の者も切れるとしたら・・・?俺は死ぬのはかまわないが、マサキまでやられてしまう。それは絶対に避けたい。それより、GOLDEN EYES・・・お前自身がその剣を使いこなしていない。可能性だけでマサキを危険にさらすわけにはいかない。」

「・・・確かに、今までほとんど使ってない・・・。」

「と、言うわけだ。つまり何が言いたいかというと・・・。」

「何?」

「正直なとこ、お手上げだってことだ。」

「・・・。」

<どうにもならない>その現実が本当に重みを増した。マサキが死ぬかもしれない。そんな不安が、一気に心の大半を支配する。

アキラはまた泣きそうになる。

「マサキ・・・。」

アキラは思わずマサキを(というかウィオラを)抱きしめた。

ウィオラはちょっと馬鹿にしたような調子で言う。

「そーゆーことは<マサキ>のときにやって欲しかったなあ。」

「え?なんで?」

少なからずあいつはアキラに惹かれてるみたいだから。自分では気づいてないみたいだけど。シンジは気づいてるみたいだけど。

ウィオラははあ・・・と大きくため息をついた。

俺なんか抱きしめてどーすんだ。つくづくこいつ、馬鹿だと思う。

「おい、アキラ。ウィオラの言う通りだぞ。」

すでにアキラには訳が分からなくなってきている。

まあ、王宮で育って、恋愛だの愛情だのということにとんと縁のなかったアキラに気づけってのは、ちょっと無理かもしれないな。

シンジはそう判断した。

「そのうち分かるさ。」

ウィオラは自らアキラの腕をほどいた。

「じゃ、俺は消える。かと言ってマサキが目覚めるわけじゃねえけどな。」

「あ、ウィオラ。結局、ビウィーラに着いた後どうするんだ?」

「ん・・・<あいつら>が仕掛けてきたら考えるさ。」

そう言うとウィオラはくたっと目を閉じた。

「おーい。」

文句を言う暇もない。まったく、ウィオラときたら・・・。

しかしその反面、ウィオラと話したことで気が楽になったのも事実だ。

アキラはふと気づいた。もしかすると、俺が大切に思ってる仲間は、3人だったのかもしれない。

シンジと、マサキと、それから、ウィオラ・・・。


航海二日目。天気は良好。水平線には何も見えない。

マサキが目を覚ました。

「マサキ、元気か?」

「・・・一応。」

ぼんやりとする頭をぶんぶんふって、マサキは目を開いた。

「ウィオラ・・・ビルラを押さえるのに専念してるみたいだ。」

「何で分かる?」

「ビルラの気配がしない。ほとんど。」

マサキはその澄んだ碧い瞳をアキラに向けた。

本当だ。碧色が濁ってない。

「ウィオラの気配も薄い。・・・終わりが近いってこと?」

「・・・。」

そう、そのとおり。

「マサキ・・・今までのこと思い出しそうか?」

「いや、ぜーんぜん。」

マサキはひらひら手を振った。

「そうか。」

アキラはちょっとがっくりした。

マサキはその様子に気付いているのかいないのか、アキラの方をまったく見ないで懐からジュノソードを取り出した。

「練習でもしよーっと。」

「まてっ。ここでやるなっ。」

シンジが慌ててマサキを止める。

「外でやれっ、外で。」

怒ったシンジを尻目に、マサキは外へ出た。

「どこでやろうかなあ。・・・あ。」

と、マサキの目にとまったのは空の酒樽。(コロウ島でもらったのだが、おそらくシンジが全部飲んだ)

「ラッキィ。」

横向きに倒れていた酒樽を起こして、的にする。マサキは目を閉じた。その方が集中できる。ハトリには、実践時に危ないからやめろといわれたが。

マサキがハトリに習ったのは、敵と一対一で<戦う>ための戦法でなく、確実に敵を<殺す>ジュノソード本来の使い方。相手の急所を裂き、確実に仕留める。もちろん相当高度なテクニックが必要だ。

ピン・・・と張り詰めた空気。

感じる。周りじゅうにある<物>の気配。

マサキの額を汗がつたった。心を静め、周りの空気に自分を溶け込ませる。完全に気配を消すためだ。気配の消しかたもハトリに習った。もっとも集中してしまえば自然に気配は消えるのだが。

緊張が一気に高まった時、マサキはジュノソードを持った左手をさっと前に突き出した。

「ヒュッ」

風を切り裂いて、ジュノソードが飛ぶ。

一直線に樽へと向かっていく。

「ビキビキッ バキーン!」

なんと一本のジュノソードで樽は真っ二つ。

「やったっ。」

目を開いたマサキはガッツポーズ。

物の<目>を読む事に成功した。

「あ、でもこれじゃ、まとがなくなっちゃったよ。」

マサキは自分のあほさ加減に気付いて、苦笑した。


航海3日目。リオナ海流に乗る。ここからは一直線だ。


航海4日目。空が暗い。どうやら一雨きそうだ。

「マサキ。中に戻れ、雨降りそうだ。」

「はーい。」

マストが重たく分厚い雲を先端に支えている。

雨が降り出すのは時間の問題だろう。

「この航海中に雨降るのは、初めてだな。」

シンジが空を警戒しながら言う。

「サンダラーに会わなきゃいいけど・・・。」

「サンダラー?」

「何だそれ?」

アキラとマサキは同時に聞き返す。

「サンダラー(雷神)っていう妖魔さ。大雨にまぎれて面白半分に船を沈める。見た目は小さな子供みたいだけど、とんでもなく性質の悪い奴だよ。」

「へーえ。」

シンジは物知りだなあ・・・と思いつつ、外に目をやるとすでにぽつぽつ雨が落ちはじめていた。

「あ、降ってきた。」

「アキラ、妖魔の気配がしたらすぐに追い払ってくれ。」

「了解。」

アキラは剣を背負った。

雨足はどんどん強まっていく。風も吹いてきた。

「嵐になるな・・・マサキ、帆をしまってくるぞ。アキラ、舵代われ。羅針盤を見ながら、東へ進むようにな。」

「分かった。」

シンジとマサキは外へ出た。

強い雨が二人の全身を打つ。

「急ごう。」

マサキは懸命に綱を引いた。帆がゆっくりとたたまれていく。

その時だった。空の上に妖魔の気配を感じたのは。

「?!なんだ、この気配?!サンダラーにしちゃでかすぎるぞ?!」

ノーマルクラスの妖魔であるサンダラーにしては強すぎる気配だ。


妖魔や妖獣・妖力者たちはその強さによって5つのクラスにわけられる。

上から、ハイエストクラス(4龍)、ハイクラス(レヴィ・シャラメイ)、ミドルクラス(ペガサス・妖熊)、ノーマルクラス(サンダラー・妖鳥)、ロークラス(妖兎・妖雀)だ。


「この大変な時に・・・。」

どう考えてもハイクラス級の力だ。もし敵だったら・・・ウィオラがいない今、勝つ確立はほぼゼロに等しい。

気配は近づいてくる。だが、シンジにはすぐにその正体が分かった。

「シャラメイ!」

暗黒の雲間にのぞく、金色の翼。金色の瞳。<本物>のシャラメイだ。

・・・ 帆をたたむな 私が ビウィーラまで 送り届けよう ・・・

「本当か?ありがたい。」

マサキは畳みかけた帆をまたもとに戻した。

・・・ 中に入っていろ 風を強めるから 吹き飛ばされないようにな ・・・

「了解。」

シャラメイが大きく嘶いた。

シンジは慌てて中に入る。

「どうした?シンジ。」

「シャラメイがこのままビウィーラまで送ってくれるってさ。」

「へえ。じゃ、もう舵とらなくていい?」

「一応まっすぐに固定してろ。」

「はいはい。」

シンジはぶんぶん頭を振って髪についた水を飛ばした。

アキラはそこでふと気付いた。

「マサキは?」

「え?」

いない。

「あっ!やっべえ。まだ外だ!」

扉の外は強風が吹き荒れている。船が進む時の風も重なって、立っているのすらつらい状態だ。

そんな風の中でマサキはマストにはりつくようにして立っていた。視線は暗い雨雲へと向けられている。細い身体が風に吹き飛ばされそうだ。それなのにマサキはまるで風なんか気にも掛けていないようなぼんやりとした顔をしていた。

「マサキ!」

シンジの言葉にマサキは少しだけ視線を落とした。

「シンジ。」

「何やってんだ!中に入れ!」

「ん?ああ・・・。」

マサキはさらに間の抜けた顔でシンジを見た。マストから離れて一歩一歩シンジに近づく。シンジはマサキが今にも吹き飛ぶのではないかと、気が気ではない。

なんとかシンジはマサキの腕をつかんだ。

「中でおとなしくしてるんだ。」

「うん…。」

マサキの眼がまだトローンとしている。きっと眠いんだろう。

「マサキ、眠いんだろ。もういっぺん寝てな。」

「うん…。」

そう言いつつ、マサキの瞼はすでに閉じられていった。


「なんかマサキ、ずっと寝てばっかだ。疲れてるんだ…。」

「お前のせーだろーがよ、GOLDEN EYES。」

シンジの突っ込みに返す言葉もないアキラ。

「起きた途端、また<お前ら誰だ>なんて言わねえだろーな。」

シャラメイがうまく風を作っているようで、舵を取らなくても船はまっすぐビウィーラに向かっていく。

決戦の時は近い。



航海5日目。昨日から鳴り続けていた強風の音がやんだ。

アキラとシンジはそろって外に出た。

「ああ…。」

アキラは思わず声を漏らした。

ビウィーラ島、別名<何もない島>。大地のような地面がただ広がっているだけだ。草がぽつんぽつん、と生えているだけで他には動物・植物一切生息していない。当然のことながら住人もいない。世界で見ても中心に位置し、ウィオラとビルラの最後の戦いの地としても知られている。

胸元に入れた黄金の剣となるべき羽根を握り締めた。

「これで最後なんだ…。」

胸がどきどきする。

わくわくするのと緊張するのがごっちゃごちゃに入り交じってしまった。

「アキラー、シンジー。」

後ろで突然声がした。

とっさに二人は振り向いた。

「着いたの?」

マサキが甲板に立っていた。

「マサキ。大丈夫か?」

「うん、だいぶ平気。」

マサキがにっこりと笑う。

「…マサキ、ここに来て…よかったのか?」

「何でそんな事聞くの?」

マサキはきょとんとした眼をアキラに向けた。

「だって…お前…死ぬかもしれないんだぞ?ここには、ビルラの影がいる。何が起きるのかは分からないが、戦いは避けられないだろう。それでも…。」

「いいよ。」

マサキは屈託のない笑みを見せた。

「だって、ここに来なくちゃ終わらないでしょう?」

「そりゃそーだ。」

アキラも笑った。

事態を深刻にとらえてもらうより、こっちの方がずっと気が楽だ。

「行くか。」

「ああ。」

3人はビウィーラ島に上陸した。



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