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EYES  作者: 早村友裕
12/16

12.トリニダ

船の中のマサキは、いつもと様子が違っていた。

船の舳先に座りこんでぼーっと海の彼方を見つめては、悲しげな瞳を空に向ける。そんなことを繰り返していた。

「アキラ・・・。」

航海2日目、マサキはやっと重い口を開いた。

「どうした?マサキ。」

「お前の知ってる<マサキ>は、どんなやつだったんだ?」

「どんなやつって・・・お前だろ。」

「そうじゃない。」

マサキは首を横に振った。

「俺は、どんなことをお前たちと話して、どんな風に生活してたのか・・・。」

「どんな風に・・・。」

「お前が言うことが本当なら、俺は元に戻りたいよ。記憶を無くしてるって言うんだったら、思い出したいよ・・・。」

マサキの瞳が悲しそうな色に変わった。

マサキは苦しんでる。自分が自分ではなくなったことで、今まで以上に精神的にショックを受けている。

「マサキ。そんなこと考えるなよ。お前はお前でしかないんだから。」

アキラは慰めるように言った。

「じゃあ、違うこと聞く。俺の中には、ビルラがいるって言ったよな?」

「ああ。」

「じゃ、ビルラを滅ぼすときは、俺も殺すのか?」

マサキの碧い瞳と漆黒の瞳がアキラに向けられた。

アキラは思わずかっとなった。

「ばか野郎!」

マサキはびくっとなった。

「俺がお前のこと殺せるわけないだろう?!馬鹿なこと聞いたら殴るぞ!」

「いいよ、殴って。」

「はあ?」

マサキは半分泣きそうな目でアキラを見た。

「殴られても仕方ない。俺、二人に迷惑ばっかかけてるし、馬鹿だし・・・。」

アキラは愕然となった。

これが、マサキ?いつも元気で、明るくて、強かったマサキなのか?俺を王宮の外へと導いてくれたあのマサキなのか?

「マサキ、お前・・・。」

「アキラたちに必要なのは、俺じゃない。俺の中にいるウィオラだ。だから俺は、ここにいてもしょうがない。」

「・・・。」

「だって俺、役立たずだもん・・・。」

マサキの頬を涙が伝っていった。

ああ、そうか。アキラは妙に納得してしまった。

握っていたこぶしをほどいて、肩の力を抜いた。ゆっくり息を吐いたら、かっとなっていた頭の中がすっきりした。

「マサキ。泣きたいんなら、思いっきり泣けよ。泣くのは我慢しない方がいい。」

マサキは仮面の下に弱い一面も持ってたんだ。それを今までは必死に隠してた・・・。

「お前、役立たずじゃないよ。俺のこと、何回も助けてくれたんだから。少し・・・休むといいよ。マサキ、疲れてるはずだから。」

「ん・・・そうする。」

マサキは涙の後をゴシゴシぬぐった。

「ありがとう。」

マサキはアキラに向かって微笑むと、中へと入っていった。

かわりに出てきたのは、シンジだ。

「あれ?舵はいいのか?」

「風向きがいいんだ。さわらない方がいい。」

「そうか。」

アキラはさっきまでマサキが座っていたところに座った。

「マサキ、何て言ってた?」

「ん・・・。<俺は役立たずだ>ってさ。」

「はあ?」

シンジは思いっきり顔をしかめた。

「だろ?俺もそう思った。でも・・・今のあいつ見てたらさ、何も言えないんだよ。完璧に心閉じてるって言うかさ、俺の言葉が届いてないって言うか・・・。」

「はは・・・。」

シンジは苦笑い。

「マサキがあんなだと、すごく辛いんだ。」

これはアキラの正直な気持ちだった。

「マサキに・・・戻ってきて欲しいか?」

「そりゃあ・・・。」

言いかけて、アキラは口をつぐんだ。

マサキにこれ以上無理させたくない。

「戻って・・・欲しいけど、無理に戻そうとは思わない。」

「そうか。」

しばらく時が過ぎていった。アキラは海の彼方を見つめて言った。

「俺さ・・・そろそろ逃げるのやめようかと思うんだ。」

シンジは驚いたようにアキラの顔を見た。

「ただ普通に旅してるんじゃなくて、ビルラを倒すような力をつけたい。今となってはもう遅いかもしれないけど・・・。でも、次の島は、トリニダだから。何か学べるかもしれない。」

「<WARRIORS IN TORINIDA(トリニダの戦士たち)>か・・・。」

「そういうことだ。マサキにはまた迷惑かけるけど、ちょっと長めに滞在したいんだ。いいかな?」

「・・・マサキに聞いてみろ。」

「えっ?」

シンジの口から、思わぬ言葉が発せられた。

「あいつもばかじゃないなら自分の限界くらい分かるだろう。あいつに聞いてみろ。その答えを出すことは、俺には難しすぎる。」

シンジはお手上げのポーズ。

「俺は今、GOLDEN EYESと導きの龍のおともをしてるだけだ。進路を決めるのも、これからどうするか決めるのも全部お前たち次第だ。俺は、別に口出ししようとは思わない。」

「シンジ・・・。」

「どうした?行ってこいよ。」

シンジの青い瞳がにいっとわらった。

「ああ・・・。」

アキラの背中がドアの内側に消えた。


「マサキ。」

「何?」

アキラはベッドにボーっと座っていたマサキに声をかけた。

「あのさ、マサキ。今度、トリニダって島に止まるんだけど、ちょっとだけ長く滞在していいかな?」

「何で俺に聞くんだ?」

「・・・。」

そんなこと聞かれても。

悩みだしたアキラを見て、マサキは言った。

「俺はいいよ、別に。何に支障があるわけじゃない。」

まるでそんなことどうでもいいような口調。

こっちまで気が抜けてくる。

「そうか。ありがと。」

アキラはすぐにシンジのもとへ戻った。

「やっぱ変だよ、マサキ。」

「そりゃあそうだろ。今までの記憶ねーもん。」

そうじゃないって・・・。

「あれ、マサキじゃないよ。」

「は?何言い出すんだ?お前。」

「だってさあ・・・変なんだよお・・・。」

俺にだって、説明できない。マサキなのに、マサキじゃない。この気持ちを説明するのは難しい。

「なあ、アキラ。」

「何だ?」

「今のマサキだって、マサキには変わりないだろう?あいつだって自分が誰なのか分からなくて不安なんだから、そんなもっと不安にさせるようなこと言うなよ。お前がマサキのこと助けてやらなかったら、誰が助けるんだ?」

「・・・。」

「しっかりしろよ、GOLDEN EYES。もう・・・逃げないんだろう?」

逃げない・・・。そうだ。さっきそう決めたんだ。

今の状況から、先を考えなくちゃいけないんだ。これが違う、あれもおかしいなんて言ってる暇、ない。つじつまの合わないことを考えるのはやめよう。

「わかった。」

アキラはマサキが記憶を無くしてからずっと心の中にわだかまっていたものが、なんとなく吹っ切れた感じがした。

金色の瞳でまっすぐに前を見つめた。

「がんばるよ、シンジ。ありがとう。」

シンジも笑った。


トリニダは、軍人の島。王家直属の軍人たちがこの島に住んでいる。デルタスの国領のほとんど端に位置するこの島は、ほかの国からの侵略を防ぐための砦でもある。

五十数年前ミラジアリナが攻撃を仕掛けてきたときは、トリニダよりも先に敵の軍を進めさせることはなかった。それが<WARRIORS IN TORINIDA>と呼ばれる由縁である。

「確か北東の海岸に港があったはずだ。」

「何で知ってんだ?そんなこと。」

「ミーアの家にトリニダの地図があった。なぜかは知らないけど。ま、何にしても見といてよかったよ。」

シンジは方位を確かめた。

「もうすぐだ。マサキを起こしてこいよ。」

「ああ。」

マサキは朝からおきてこない。まったく。

アキラは階段を降りた。

「マーサキー。」

「うにゃあ?」

寝ぼけ眼のマサキがベッドから起き上がった。

「起きろ。もうすぐ到着だ。」

「ふあーい。」

あくびをしながらマサキは階段を上ってきた。

「マサキ、目覚めたか?」

「ああ。」

マサキは思いっきり伸びをした。

「なんかすっきりした。」

「そりゃあよかった。」

マサキの表情が、今までと打って変わって明るい。

何か吹っ切れたようだ。

「でさ、どんな島なんだ?トリニダって。」

「軍人の島さ。」

シンジが答えた。

「王家直属の軍人たちが住んでる。そんなに大きくない島だ。」

「軍人か・・・面白そうだ。」

マサキの青い瞳と黒い瞳に光が戻ってきた。

よかった。元気になってる。

「俺、今より強くなりたいからさあ、ちょっとだけ長く滞在しようと思ってるんだ。」

「アキラって、今でも強いんじゃないのか?」

「お前よりはな。でも、まだだめだ。もっともっと強くなりたい。」

強くならなくちゃ、運命を乗り越えられない気がする。

アキラの金色の瞳が強い意志を持って輝いた。

「あ。」

「どうした?マサキ。」

「なんかねえ・・・今、アキラがすっげえかっこよかった。」

「は?」

何言ってんだ?

「うん。かっこいいよ、アキラ。」

マサキが笑った。

なんとなく顔が火照る。何で?

「よかったなあ、アキラ。かっこいいってさ。」

シンジは横でにやにやしてるし。

わけ分かんねえ。


「到着ー。」

マサキは真っ先に船から飛び降りた。

「おい、待てよ。」

一応舗装された港。そんなに広くはない。

にしても人っ子一人見当たらないのは、なぜ?今、もう昼近いのに。

「待て。」

「?!」

突然どこかから声がした。

と同時に上から人が降ってきた。

「ダンッ」

大きな音を立てて着地する。

「?!?!」

どうやらすぐそこにある物見台のような所から飛び降りたらしい。

といっても物見台の高さは目分量でも5~6メートルほど。簡単に飛び降りられる高さではない。

「誰だ。今日は小型船が入港する予定は聞いていない。お前たちは何者だ。」

細いからだつきに似合わぬ、低い声。金色の短髪に赤のバンダナ巻き。背丈はアキラとそんなに変わらない。意志の強そうなきりっとした瞳に、怒りの色が現れる。接近戦用の短槍を手にしている。歳は、20前後といったところだろうか。

その男がじりっとにじり寄る。

いつものマサキなら、真っ先に何か言い返す所だが、今日はシンジの後ろに隠れて、そっと様子を伺っている。

「えっとお・・・俺たちはあ・・・。」

「見た所、デルタスの者ではないな。どこから来た?目的は?」

「どこからって・・・キチ島から。目的はぁ・・・えーっとお・・・。」

「キチ島?嘘をつくな。金色の瞳のデルタス人がいるか?黒い髪のデルタス人がいるか?」

その男はアキラとシンジの後ろに隠れたマサキを交互に見ながら言った。

「そーゆーこといわれてもー。」

アキラは困った。

ここは王子だっていうべきか?それとも、隠しておくべきか?

「黒い髪・・・ミラジアリナの者か?!」

「違う。マサキはれっきとしたデルタス人だ。」

ミラジアリナの人間だなんて、とんでもない。

「では、ここに来た目的をいえ。」

「目的は・・・。」

困った。どうしよう。アキラは困った顔をシンジに向けた。

シンジもお手上げ。

「お前たちは、敵とみなす。」

男は首にかけていた笛を吹いた。

「ピィーーー」

鋭い音が響き渡り、一分もしないうちに3人は兵士に囲まれた。

シンジはとっくに諦めたようだ。抵抗する様子もなく周りじゅうを囲んだ兵士たちを見まわしている。

「はあ。」

アキラはため息をつく。

なるようになれ、だ。


3人は縄できつく縛られて、連れられていった。

「どこいくのかなあ・・・。」

アキラの後ろを歩くマサキが不安げな声を出す。

語尾がちょっとだけ震えていた。

「ま、何とかなるさ。」

さらに後ろのシンジが答える。

アキラも、後ろ手に縛られた手で、Vサイン。

「ごちゃごちゃ言わずに歩けっ。」

今怒鳴ったやつは、気に食わない。身分の高い兵士らしいが、もうかなりの年を食っているだろう。さっきからずっと偉そうにしている。

背中に矢を担いでる所をみると、シンジと同じ弓矢の使い手か・・・?

「おい、じーさん。」

シンジがそいつに声をかけた。

「・・・。」

無視かよ。ほんっとに気に食わねえやつだな。

「お・じ・い・さ・ん!」

「何だ!うるさいぞ!」

「聞こえてんじゃん。なあ、それさ・・・その矢。ちょっと見してくんねえか?」

「・・・。」

また無視。

「おいこら!じーさん!」

「うるさい。」

「!」

その<じいさん>の目を見て、シンジは固まってしまった。

鋭い目。本気でシンジを睨んでいる目だ。ふとすれば憎しみすら感じられるほど・・・。飛び上がるほどの恐怖がシンジを襲う。こんなこと初めてだ。

「黙っていろ。本当なら港で斬り殺されてもおかしくない立場なんだぞ?」

「・・・。」

今度はシンジが押し黙る番だった。シンジにも、<自分より強い人間>くらい分かる。逆らったらどうなるか・・・。そんなこと、考えるまでもない。

青い顔をしてうつむいたシンジに、マサキが声をかける。

「大丈夫?シンジ。」

「あ、ああ・・・。」

横にいたアキラにさえその<恐ろしさ>が伝わってきたのだから。シンジにどれほどの恐怖を与えたか、アキラには知るよしもない。

そんな間にも、3人は島の中央にある大きな建物へと向かっていた。


「これからどこへ行くんだ?」

アキラは縄を引く若い兵士に尋ねた。

「総隊長のテミストクレス様の所だ。」

「テミストクレス?!」

思わずアキラは大声を上げた。

はは、テミストクレス、ね。

「異国の者なのにテミストクレス様を知っているのか?」

「だから俺たちはデルタス出身だって言っ・・・」

「シンジ。」

ごちゃごちゃ言うシンジをアキラが止めた。

「もうすぐその総隊長が俺たちのこと助けてくれるさ。」

「はあ?」

シンジは眉を寄せた。

それからアキラはさっきからずっと押し黙っているマサキに向かって笑いかけた。

「マサキ。大丈夫だ。俺たち、助かるぞ。」

「えっ・・・?」

マサキが小さく声を漏らしたとき、若い兵士はドアの前で立ち止まった。

「静かにしろ。着いたぞ。」

兵士はゆっくりとそのドアを開けた。


中には、おそらく身分の高いであろう軍人たちが5人座っていた。その中には、さっきの弓矢のじいさんも混じっている。

若い兵士は3人を中へ引き入れた。

「頭下げてろ。」

無理矢理3人の押さえつける。

「先ほど捕らえましたミラジアリナの者共にございます。」

「なるほど、髪が黒いな。」

5人のうちの一人が言った。

「ご苦労であった。その者たちを置いて、退出するがよい。」

「はっ。」

兵士は下がっていった。

3人は頭を下げたまま。どうにもしようがない。

「3人とも、顔を上げろ。」

さっきの弓矢のおっさんの声。

アキラは恐る恐る顔を上げた。正面に座っているのは、総隊長のテミストクレス。目が合った。途端・・・!

「ガッターン!」

「アキリア王子!」

「えっ?!」

椅子を倒して立ち上がったテミストクレスの言葉は、その場にいた全員に同じ事を連想させた。

アキリア王子=GOLDEN EYES=導きの龍=黒髪

「王子!なぜここに!」

慌ててテミストクレスが駆け寄ってアキラの縄をほどく。

「久しぶりだな、テミストクレス。」

「ア、アキリア王子だって?!」

うろたえる軍人たち。

アキラは当然国軍の隊長であるテミストクレスと面識があった。これじゃあ素性を隠すもくそもない。

「ご無礼をお許しください。」

テミストクレスが膝を突いて深々と頭を下げた。

「いいのだ。警備が厳しいのはとても良いことだ。ただ・・・。」

アキラは腰に差していた短剣を抜いた。

「捕獲するのなら、相手の武器くらいは取り上げるものだぞ。」

その剣でマサキとシンジの縄を切った。

「助かった。一時はどうなるかと思ったぜ。」

シンジは肩をまわした。

マサキは目を丸くしている。

「アキラって・・・王子なのか?」

「ああ。・・・言ってなかったか?」

「聞いてない。」

マサキはほっぺたを膨らませた。

「知らなかった。そしたら、お前アキラじゃねーじゃん。<アキリア>ってんだろ?」

「でも今は・・・アキラなんだよ。」

旅してる間は、アキラのまま・・・。

「しかし王子、なぜこのような所へ。王宮からの連絡は受けていませんが。」

テミストクレスは不思議そうな顔をしている。

確かにアキラは本来ならこんなところにいるはずのない人間だ。

「龍に導かれて、ここまで来た。私はもっと力をつけなくてはいけないようだ。」

アキラはちらっとマサキを見ながら言った。

「そうですか・・・。」

「テミストクレス。またいつかのように稽古をつけてはくれぬか?」

「ええ。もちろんですとも。」

テミストクレスはその厚い胸板をどん、と叩いた。


「アキリア王子。まずここの隊長たちを紹介しておきます。」

3人の前に4人の男が並んだ。

「まず、剣士隊長のデモクラート。その隣が弓兵隊長のランダム。それから槍兵隊長のクロウ。そして水兵隊長のディオソニー。」

あのじいさんは弓兵隊長だったのか。

「ところで、そちらの方たちのお名前は・・・?」

「あ、ああ。」

アキラはずっと後ろに隠れているマサキを前へと引き出した。

「これが導きの龍。<マサキ>という。それから、こちらは・・・。」

「シンジだ。よろしくな。」

「・・・。」

弓兵隊長、ランダムがシンジを睨んだ。なんでだ?

「あのー、俺なんか悪いことしました?」

シンジは自分よりさらに背の高いランダムを見上げるようにして言った。

年の割にがっしりした体型のランダムと並ぶと、シンジが細く見える。

「・・・。」

返答がない。

いったい何なんだ。

「おい、ランダム。どうしたんだ?お前らしくないぞ。」

テミストクレスが声をかけるが、まったく聞いていない。

「まあ、いい。では、アキリア王子。今からどうなされますか?休まれるのなら、すぐにお部屋を・・・。」

「剣の練習がしたい。相手をしてはくれぬか?」

「今から、ですか?」

「そうだ。今すぐに、だ。」

アキラの金色の瞳がテミストクレスに向けられた。本気だ。

「・・・分かりました。演習場へいきましょう。マサキさん・・・とシンジさんでしたか?どうしますか?」

マサキはアキラに助けを求めるような視線を送った。

「マサキ、一緒に行こう。」

「・・・うん。」

「シンジはどうする?」

「取り合えず船に行って弓を取ってくる。俺も練習したいし。」

シンジはそう言って弓を射るまねをした。ランダムの冷たい視線が注がれる。

何でこいつは俺にこんなにも敵意を持ってるんだ?

「じゃ、行ってくる。」

「待て。」

部屋を出ようとしたシンジをランダムが引き止めた。

「ここに・・・ある。」

「えっっ?」

「コトン」

ランダムが机に置いたのは、紛れもなくシンジの弓。

「なっ、お前・・・!」

「悪いが、船から持ってきた。」

するとランダムはシンジの手を引いて強引に外へ連れ出した。

「来い!」

「いってえ!何すんだよ!」

「シンジ!」

ランダムを止めようとしたアキラをテミストクレスが制した。

「王子。大丈夫です。悪いようにはしません。」

「だがっ。」

「信じてやってください。あいつのことを・・・。」

テミストクレスの瞳がアキラの瞳に写った。

「・・・。わかった。」

マサキはなすすべもなく立ち尽くしている。まるで何がなんだか分からない、という顔をしている。

「行こう、マサキ。」

アキラはマサキを促して、テミストクレスの後に続いた。


「しかしお久しぶりですな、王子。」

「そうだな。もう数年来会っていなかったからな。」

テミストクレスに剣の使い方を叩き込まれていた頃が、懐かしい。

「あの頃よりだいぶ上達したでしょうな、王子。」

「まあ、な。」

少なくともあの頃よりはずっと強くなっているつもりだ。

「そうだ。マサキもやるか?・・・あ、剣置いてきたのか。」

マサキの背に、剣はない。

「マサキさんも剣が使えるのですか?」

「えっ?」

急に話し掛けられてマサキは慌てた。

「使えるよな、マサキ。」

練習したんだから。しかも異常にうまかった。

あ、でも、今は?今はどうなんだ?

「やってみようぜ、マサキ。」

「う、うん・・・。」

ま、戻ってたら最初っから教えればいいや。



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