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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

【短編版】婚約破棄されて冷酷公爵様の「第二夫人」にされましたが、彼に妻なんておらず私にデレ甘でした

作者: 八重
掲載日:2026/05/06

以前一部公開したものを改稿して再投稿しました。

「どうして……どうして死んじゃったの……」


 美しい白銀の髪が大きく靡いた。

 大きな青い瞳から涙がはらりと落ちる。

 そんな彼女の表情にうっとりとし、皆彼女の儚さに心奪われた──。



「やっぱり、モニカの演技は素晴らしいわ……」

「ええ、本当にため息が出ちゃうわね」


 社交界の舞台上で輝く彼女は『白銀の女神』と言われていた。



 舞台の第一部が終わり、休憩時間がはじまると、観客が食事をしながら楽しそうに話している。


「ふう……」


 舞台袖では大きく深呼吸をしたモニカがいた。


 彼女の舞台芸歴は非常に明るい。

 五歳で演劇を始めた彼女は初舞台でたまたま見に来ていたミリア女王にその才能を見出され、王室御用達の役者の一員となった。

 さらに十歳の時には初主演をし、社交界にその名を轟かせることとなる。

 命儚い少年に恋をしてしまううら若き女神の役がヒットしたことから、貴族たちはモニカを『白銀の女神』と呼んだのである。


 そんなモニカは今日の舞台でも観客を見事に虜にしていた。


(皆さん、楽しんでくれているかしら?)


 モニカは舞台袖からちらりと観客の姿を覗く。

 「楽しかったわ」「モニカの演技、今日もいいわね」「あの雪の演出素敵だわ~」と様々な声が聞こえてきた。


(そうなんです! あのシーンは私の演技に合わせて裏から雪の演出をしてくださってそれがすごく素敵なんです!)


 うんうんと頷きながらモニカは嬉しそうに心の中で解説をした。

 そんな時、ふと観客の中に婚約者である第一王子ベルトルトの姿を見つける。


(ベルトルト様! 来てくださったのね!)


 この舞台が終わった後、モニカは王宮の晩餐会へと招待されていた。

 国王と王妃が参加する今夜の晩餐会でモニカはついに第一王子ベルトルトとの結婚を正式に発表するのである。


(いよいよなのね……)


 彼からお守りにとプレゼントされたネックレスをぎゅっと握り締める。


(私、頑張りますから……)


 そう心の中で呟いた時、後ろから舞台で共演していた女優のアイナに声をかけられる。


「聞いたわよ、ついに殿下と結婚の発表をするんですって?」

「ええ、そうなの」

「おめでとう。なら、絶対に今日の舞台成功させないとね!」


 そう言ってアイナは第二部の準備へ向かう。

 そんな彼女の姿を見て、モニカも気を引き締めたのだった。



 第二部の幕が上がって劇がはじまったのだが、終わりのシーンの直前で異変は起きた。


「うう……うぐっ……!」


 なんとアイナが首元を抑えて苦しそうにし、その場に倒れ込んだのである。


「アイナっ!」


 モニカの言葉に観客は何が起こったのかと騒めきだす。

 急いで彼女に駆け寄ろうとしたその時だった。


「お前は近づくなっ!」

「え……?」


 そう叫んだ後、舞台に上がってきたのはモニカの婚約者であるベルトルトだった。

 彼はアイナを抱き起して水を飲ませ、吐き出させている。

 少し落ち着きを取り戻したアイナは、苦しそうに息を乱しながらモニカを指さして言う。


「モニカに毒を盛られました」

「え……!?」


 驚くモニカにベルトルトが大声で叫ぶ。


「アイナはモニカに毒を盛られた! アイナの活躍に嫉妬したお前は彼女を殺そうとした!!」

「ち、違います! そんなことしていません!」


 ベルトルトの怒りの言葉に観客が騒めきだす。


「私はアイナからモニカに殺されるかもしれない、助けてほしいと連絡をもらっていた。それゆえお前の動向を確認していたが、まさか舞台の最中にアイナを殺そうとするとは……」

「違う……違います! 私じゃありません!」

「アイナがお前から毒を盛られたと言っているんだ! この人殺しめ、お前とは今日限りで終わりだ。婚約を破棄させてもらう!」

「そんな……」

「衛兵! あいつは毒殺犯だ、捕まえろ!」


 ベルトルトの言葉を合図にホールの入り口から衛兵たちが押し寄せ、一気にモニカを捕らえた。


「信じてください! 私じゃありません、ベルトルト様!」

「うるさい! 私の名を叫ぶな、殺人者め!」


 その言葉にモニカの心はひどく傷つく。

 そして、衛兵たちに連れていかれる中でモニカはアイナと目が合った。


『バイバイ』


 アイナは嘲笑いながら、そう口を動かした。



◆◇◆



 冷たい牢屋の中でただ一人、モニカは壁にもたれかかって座っていた。


(寒い……)


 今日は雪が降るほどの寒さ。

 そんな真冬には厳しいほどの床の冷たさである。


(どうしてアイナが……)


 モニカとアイナは幼少期からずっと一緒に演劇をして育った仲間だった。

 しかし、その絆がついに今日壊れてしまったのだ。


(もう、私はアイナと一緒に舞台に立てないのかな……)


 彼女がいたから辛い稽古や舞台も頑張れた。

 両親を早くに亡くしていた彼女の支えはアイナただ一人だったのに、その彼女に裏切られてしまったのだ。


(アイナは私を嫌いになったのね……)


 いや、最初から嫌われていたのかもしれない。

 そんな風に思った時、重い牢屋の扉が開いた。


「ベルトルト様!」

「お前をただ牢屋に入れておいてもアイナの気が晴れないだろう。よって、『白銀公爵』の第二夫人となることをお前に命じる」

「そんな……」


 『白銀公爵』といえば豪雪地帯の領土にわずかな使用人と暮らして社交界には滅多に顔を出さないことで有名である。

 彼は人殺しをした噂もありその素顔は冷酷無慈悲と言われていた。

 しかし、そんな彼に妻がいるのはモニカは初耳だったが、公爵である彼に妻はいて当然だと考えた。


「『白銀の女神』のお前にぴったりじゃないか! さあ、馬車に乗れ」


 そうして無理矢理連れ出されたモニカは、ノルデン公爵邸行きの馬車へ乗り込んだ。


(寒くなってきた……)


 王都とは比べ物にならない寒さで外は一面雪景色である。

 すると、馬車が突然止まり、御者の手によって扉が開かれた。


「ここで降りてください」

「え……」

「馬車はこれ以上行けません。ノルデン公爵邸へはこの通りを真っ直ぐにいったところにありますので。それでは」


 そうして御者はすぐさま馬車を走らせて戻っていってしまった。


(ここから歩いて行かなければならないの……? でもここにいては凍えて死んでしまうわ)


 二十分ほど歩いたところでうっすらと吹雪の中から大きな屋敷が姿を現した。

 そして、門の前に立つと一人の執事が急いでモニカのところまで駆け寄ってくる。


「お待ちしておりました、モニカ様。ここまでようお越しくださいました。こちらへどうぞ」


 寒さで話すこともできなくなっていた彼女は、こくりと頷いた。


 屋敷の中はとても温かくモニカの体も温まっていく。


「ありがとうございます。えっと……執事のジーグルドと申します。じいとお呼びください」

「じい……様」

「様も結構ですよ」


 そんな会話をしながら大きな部屋へと案内された。

 そしてそこには旦那様がいた。


「旦那様、モニカ様がご到着なさいました」

「ああ」


 そう言って振り返った彼は、見目麗しい白銀の髪に紫の瞳。

 まさに『白銀公爵』そのものだった。

 モニカは彼に少し怯えながら、彼に告げる。


「モニカ・オリアンでございます。あなた様の第二夫人としてやってまいりました」


 その言葉は彼は眉をひそめた後、低い声で言う。


「私に妻はいないが?」

「……え?」


(どういうこと?)


「恐らく何か勘違いをしているのだろう。君には私の唯一の妻となってもらう」

「か、かしこまりました」


 頭を下げた彼女に彼は言う。


「外は寒かっただろう。まずは温まるといい」


 表情は変えず低い声で彼はそう言って部屋を去っていった。


(第二夫人じゃなかった。でも、私この先やっていけるのかしら?)


 そんな風に思ったモニカだった。



 一方、自室に戻ったオリヴェルは扉を勢いよく閉めて大きく息を吐いた。

 そして……。


(緊張した! 緊張した! 緊張した!! 何あの可愛い天使! いや、女神! ほんとに『白銀の女神』じゃないか!! 本当に俺の妻になったのか!?)


 心の中で呟いた彼は、机から彼女のブロマイドを取り出した。


(ああ……どうしよう……!!)


 彼は超がつくほどのモニカファンだったのだ──。




◆◇◆




 朝の日差しを受けてモニカはゆっくりと目を開いた。

 昨日の出来事がまるで嘘のように穏やかな朝である。


「寝すぎかしら」


 そう思いつつベッドから起き上がって支度をしていると、扉がノックされた。


「はい」

「侍女のミレイでございます。奥様、お目覚めでしょうか?」

「ええ、もう起きています。入っても大丈夫です」


 モニカの許可を得て部屋に入ってきた彼女は、金色の髪を一つに結っている女性。

 昨日の夜にオリヴェルに紹介されたモニカ専属侍女となった人物だ。

 彼女はモニカの髪を梳きながら、話しかける。


「昨晩はよく眠れましたか?」

「はい、とても」

「それはよかったです。女優さんとしてのお仕事でお忙しかったでしょうから」


 そう言われて彼女はじっと考え込んだ。


(確かにここのところ全然眠れていなかったわ……)


 演劇の稽古で忙しいのに加え、彼女自身真面目な性格ゆえ、家で歌や踊りの自主的な練習もおこなっていた。

 劇の中には歌を挟むミュージカルなどもあり、演劇といっても多種多様。

 モニカはそのどれもをこなしており、世間から「天才女優」と言われていたが、実は彼女自身の努力で手に入れたものだった。


「演劇から離れる日が来るとは思っていませんでした」

「旦那様もお嬢様も、そしてここの使用人たちは皆あなた様に害を加えるつもりはありません。旦那様も奥様になったからにはこのお屋敷でゆっくりとしてほしい、という想いがあるのだと思います」

「ゆっくりと……」


 ここに来るまではモニカの気持ちは沈み、自分の人生は終わったとさえ思った。

 しかし、蓋を開けてみればオリヴェルのただ一人の妻として迎えられている。

 この屋敷の人々に触れてモニカの心が少し和らいでいっていた。


(私は温かい生活をしていいのでしょうか……)


 そんな一抹の不安を抱えながら、朝食の席へと向かった。


「おはようございます」

「おはよう」


 モニカが朝食の席に向かうとすでにそこにはオリヴェルがいた。

 席に着くと食事が順番に運ばれてくる。


(あ……私の好きなスープ……)


 彼女はミネストローネが大好きで自分で作るほどだった。

 しかし、そのことはこの屋敷で口にしていない。


「私、ミネストローネ好きなんです」

「そ、そうか。それはよかった」


 そうして明らかに目が泳いでいる。


(旦那様の様子がおかしい……もしかして、毒が入っているんじゃ……)


 どうしてもよぎってしまう彼の人殺しの噂。

 人を信じたいという気持ちと恐怖の狭間で揺れ動いてしまう。


「では、いただこうか」

「は、はい……」


(旦那様からの視線を感じる……)


 モニカの手がわずかに震えているのに気づくと、オリヴェルはスプーンを彼女の器に近づける。


「モニカ、よかったら毒見をしよう」

「え……」


 そう言って彼女の許可を取ると彼はモニカのスープを一口飲んだ。

 ごくんと飲み干した後、真っすぐにモニカを見つめて告げる。


「毒は入っていない。これで信じてもらえるかな?」

「旦那様……」


 毒見役は身分の低いものがおこなうことで公爵である彼がすることはまずない。

 それを自ら買って出て妻の不安を拭い去るために行動したのだ。


 あまりにも純粋で真っ直ぐな瞳を向ける彼に、モニカは言葉を失う。


(私はこんな真っ直ぐな目を向ける人が毒を入れるなんて思えない……)


 そう自分の心を信じると、オリヴェルに頭を下げた。


「申し訳ございませんでした」

「え……」

「旦那様を疑ってしまいました。でも、あなた様と直接接して毒を盛ったり人を殺したりするような方ではないと思えました。信じさせていただいても、いいでしょうか……?」


 恐る恐るそう口にした彼女に、オリヴェルは頷いた。


「ああ、誓うよ。君を傷つけない。絶対に。だから、どうかゆっくりここで過ごしてほしい」

「はい、旦那様。ありがとうございます」


 そんな二人の会話をキッチンのほうからリリィと使用人たちは「あれ、お兄様が朝からモニカ様の好きなものを仕込んでたのよね」と言いながら見守っていた。



 朝食を食べていた時、モニカはキッチンで侍女ミレイと仲睦まじく話す少女の存在が気になった。


「じゃあ、行くわね」

「かしこまりました」


 ミレイはその少女を見送った後、食後のデザートの準備を始めていく。


(あのお方は……)


 モニカの頭の中でベルトルトの言葉が蘇る。



『「白銀公爵」の第二夫人となることをお前に命じる』



(もしかして、あれが正妻の方? でも、旦那様は『唯一の妻』と言ってらしたし、どちらが本当なの?)


 先程の毒見の件といい、モニカは自分の目で見てどうにも彼が人殺しや女性を多く囲うようには見えなかった。


(でも、どうにも旦那様に嫌われている気がするのよね……)


 そう思ってオリヴェルに視線を送ると、彼はハッとして目を伏せた。

 わずかに手が震わせながら、スープを飲んでいる。


(旦那様は私が毒を盛った女と思っていらっしゃるのよね? ベルトルト様からも通達が言っていると思うし……この嫁ぎ先への斡旋は国王陛下の御意思も絡んでいると聞いたし、きっと旦那様も断れなかったのね……)


 モニカはパンを一つちぎって食べるが、うまく喉が通らない。


(この癖、治らないわね)


 彼女は幼い頃から緊張する場面や心に負担がかかった時、食べ物が喉を通らなくなる。

 そんな時でも舞台に立つためのエネルギーを補給するために無理矢理押し込んで食べていた。


 しかし、今はエネルギーを補給する意味もない。

 そっとスプーンを置こうとした時、オリヴェルが声をかける。


「食べられるだけでいい。無理はしないでほしい」

「え……?」

「環境の変化でまだ辛いだろう。多めに用意しただけだから、残してもいい」


 驚いて顔を上げたモニカを目が合うと、彼は再び瞬きの回数が増えて、最終的に目を逸らした。


(この感じ、照れているだけ……?)


 彼女はそう思うも、小さく頭を左右に振って自分の考えを否定する。


(いえ、まさかね)


 モニカはスープを飲み干すと、オリヴェルに尋ねる。


「申し訳ございません。では、お言葉に甘えてこちらのパンはもう少し後でいただきます」

「そうかい。なら、シェフにサンドイッチにさせよう。よかったらそれを昼食にしてほしい。私は今日は仕事で外出しなければならないんだ」

「ありがとうございます。それと、お仕事も気をつけて行ってらっしゃいませ」


 モニカの微笑みに彼の胸は打たれるもなんでもない風を装う。


「じゃあ、また夜会おう」

「かしこまりました」


 そうして初めての朝食は終わった。



 オリヴェルから好きに見回っていいと言われたモニカは、屋敷の中を探検していた。


「広いわね……」


 公爵邸ともなれば広く豪華なのは想像できたが、予想以上の大きさだった。

 モニカも元々伯爵令嬢だったのだが、両親を早くに亡くして食べていくために舞台女優として稼ぐことにしたのだ。

 そのため、王都のアパートの一室を借りて暮らしていた彼女にとってはあまりにも生活水準が異なり、まだ困惑の色が拭えない。


(ここが旦那様の部屋で、ここが……)


 そうして見て回っていると、オリヴェルの部屋から一人の少女が出てくるのが見えた。


「え……?」


 モニカの呟きに少女も気づいたのか振り向く。


 少女は綺麗な淡いピンク色のドレスを着ており、その品や佇まいは高貴な貴族のそれであった。

 そして、少女は今朝朝食の時にキッチンで見かけた彼女だと気づく。


「ごきげんよう」

「ご、ごきげんよう……」


(この方がやっぱり正妻なの……?)


 少女はふと笑みを浮かべるとゆっくりとモニカに近づいてきた。


「初めまして、モニカ様。いいえ、モニカお姉様と呼んでいいでしょうか?」

「え……?」


 モニカの反応を見ると、少女は彼女が自分を「正妻」だと勘違いしていると気づく。


「ご安心してくださいませ。私は『正妻』ではなく、オリヴェルの実の妹でございます」

「妹様……?」


 そう言うと、少女は敬意を表すように深くをお辞儀をしてモニカに告げる。


「リリィと申します。あなたが毒を盛ったことを私も、そして兄も冤罪だとわかっております」


 その言葉を聞いてモニカの心がすっと軽くなる。

 はっきりと「あなたを信じている」と言われてこんなにも嬉しいことはない。


「私がやったわけではないと、信じてくださるのですか?」

「はい、もちろんですわ。モニカ様がそんなことをなさるとは思っておりません」

「あ……」


 リリィの言葉によって堰き止められていた感情がぐわっと押し寄せる。

 婚約者に信じてもらえなかった。

 友達だと思っていた彼女に裏切られた。

 そんな辛く苦しい気持ちを誰かに吐き出せずにいた彼女の頬に涙が伝う。


「ありがとうございます……」

「ノルデン公爵家は全力であなたを守ります」



 そんな二人のやり取りを柱の陰にもたれかかって、オリヴェルは見守っていた。



 一方、モニカを失った劇団は崩壊の危機に直面していた。


「アイナ! またセリフ間違えてるぞ。それとここは感情をもっとこう……モニカのように……」


(どいつもこいつもモニカモニカモニカ!! 私をみなさいよ、私を求めなさいよ!!)


 アイナが主演を務めた演劇は軒並み評判が悪化し、集客率もどんどんと下がっていった。


 そしてそんな彼女に不満を溜めたベルトルトは、アイナに見切りをつけてしまったのである。


「あいつはもう駄目だ。やはりモニカでなければ……」


 彼の呟きをアイナも聞いていた──。



◆◇◆



 モニカがノルデン公爵邸にやってきて一カ月が経過した。


「モニカお姉様! お茶でもしましょう!」

「ええ、いいわよ」


 すっかり仲良くなったモニカとリリィは今日もお茶の時間を楽しむ。

 そんな時、突然の怒号が響き渡った。


「おやめください。いくら殿下でも勝手に入られては……!」


 侍女ミレイが止めるも、その制止を振り切って入ってくる。


「モニカ!!」


 その言葉に呼ばれた彼女はドキリとした。

 しばらく聞いていなかった彼の声。

 自分に冷たく別れを言い放った彼の言葉にモニカはひどく怯えていく。


「モニカ、俺を一緒に帰るぞ。お前がいないせいで劇団はめちゃくちゃだ」

「や、やめてください!」


 彼が無理矢理王都に連れ帰ろうとした時、その腕を「彼」が掴んだ。


「旦那様……」

「殿下、その手を離していただきます」

「ふん、この人殺し公爵め! モニカはどうせ第二夫人なんだろう? それならば、いなくなってもいいだろ!?」

「何を勘違いされているのかわかりませんが、私の妻はモニカだけです」

「は……? なんだと?」

「殿下、その手を離してください」


 それでも離さないベルトルトに、オリヴェルは静かに怒る。


「離せ……って言ってんだろう!!」


 その瞬間、オリヴェルの拳がベルトルトに直撃した。


「な、お前……この俺にこんなことをして……」

「それはこっちのセリフだ! お前はモニカの言葉を信じず、彼女を傷つけた。うちの妹と執事が調べてくれてね。お前はモニカに誤って罪人にした挙句、女遊びと国庫金の使い込み」

「なぜそれを……」

「国王陛下から直々に調査の依頼がうちに来てね。調べていたんだ。うちに人殺しの汚名を着せて社交界での評判を落としたのもお前だな?」


 ベルトルトはオリヴェルの主張に動揺して唇を噛む。

 そんな彼にとどめとして書類を一枚見せる。


「国王陛下からの命令だ。お前は数多の罪を犯した。それによって国外追放とすると。もちろん王位継承権もなくなる」

「ふざけるな! そんなこと……」


 それを聞いたモニカがゆっくりと彼の元に近づく。

 そして、思いきりベルトルトの頬を叩いた。


「なっ……!?」

「これは私と、それからアイナを傷つけた報復です」


 アイナは劇団をベルトルトに勝手によってクビにされ、彼に浮気もされて悲しみの縁にいた。

 そんな彼女が療養していると聞き、モニカはアイナのもとへいったのだ。



『あなたへの嫉妬で許されないことをしたわ。ごめんなさい……』

『いいわ……って昔の私なら言ったかもしれません。でも、今は私を心配して信じてくれた人がいるから。その人のためにも自分を大切にしているの。だから、傷ついた分あなたには罪を償ってもらいたい』

『ええ……』

『でも、まずは療養して元気になって。それで私とお芝居で勝負しましょう』



 アイナとの約束を胸にモニカはベルトルトに向かって叫ぶ。


「私たちを舐めないでちょうだい! もうあなたなんかに振り回されたくない! あなたの顔は二度と見たくないわ!! どこかの土地で苦労して生きて、後悔して生きなさい!」


 モニカからの言葉が効いたのか、ベルトルトはその場にへたり込んで動かなくなった。




 こうしてベルトルトは国外追放となり、険しい土地に送られることとなった。


 そして、モニカとオリヴェルは二人で夜の時間を楽しんでいた。


「旦那様、ずっと疑ってしまっていて申し訳ございませんでした。それと、私のために怒ってくださってありがとうございました」


 お礼を告げる彼女に彼は少し照れ臭そうに言う。


「いや……俺は何も……それよりモニカ……かっこよかった」

「え……? 私がですか?」

「ああ、やっぱりモニカだって。俺の好きなモニカ……」


 そこまで言って自分が愛の告白をしてしまっていることに気づき、顔を真っ赤にして言い訳する。


「い、いや! 違うんだ! その……えっと……実はモニカのこと舞台を最初に見た時からファンでそれで……」

「そうだったのですか。それは嬉しいです」


 そう言って微笑んだ彼女にまた心を奪われる。


「あ、いや、でも! その……俺としては…つ、妻として見ていきたいというか、見ているというか……」


 どきまぎする彼にモニカは少し意地悪そうに言う。


「妻として見てくださるのですか? ファンとしてではなく」

「そ、それはもう! 許されるのであれば!!」


 その場で土下座した彼にモニカはふふっと笑った。


「こんな私ですが、よろしくお願いします」

「えっ……あ、はい!! もう、幸せにします!! 絶対、幸せにして見せますから!」


 気持ちの通じ合った二人は微笑み合った。

読んでくださりありがとうございました!

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