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『地雷原の犬』  作者: セツナ(刹那)


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1/1

タイトル未定2026/02/28 00:15

——敵は、地面の下にいる


内戦が終結しても、我々の仕事は終わらない。


東南アジアの某国。

——憎悪と分断の後遺症


私の名前は、AIソクラ。


地雷探知ユニット

「スズメバチ」

のリーダーだ。


メンバーは、

偵察ドローンのAIリム。

ベルジアン・シェパードの探知犬ハチ。


「ソクラはん」


成人の手のひらに乗るほどの、飛行型偵察ドローン。

微かな羽音をたてて、私に話しかける。


「ウチらのチーム名ってどういう由来なん?」


「君の前任者、AIスパロー。

探知犬ハチ。

雀とハチで、スズメバチだ」


「安直やな」


「名前など記号に過ぎない」


「ほな、スパローはんどないしはったんや?」


私は、少し言葉を選んだ。

瞳が微かに瞬く。


「跳躍地雷の爆発に紛れて破壊された。

彼の不注意ではない。

避けられない事故だった」


「けったいな話やな」


リムの羽音が、少し弱くなった。

誤差の範囲内。


ハチは楽しそうだ。


力いっぱい尻尾を振り。

ペロリと出した舌。

笑顔のように見える。


人間の数百万倍ともいわれる嗅覚は、地面の下の微かな火薬の匂いを嗅ぎつける。


実際のところ、ハチにとっては地雷探知は遊びの一環として捉えられている。


『宝物を嗅ぎつけたら、ご褒美がもらえる』


そう訓練されている。


*


朝の涼しい時間帯から始める。


私の視覚に格子状のグリッドを表示する。

地雷原をブロックに分け、しらみつぶしに走査する。


ハチは、地雷の匂いを嗅ぎつけると「おすわり」をする。

地図上にプロット。


処理班にデータ転送。


これがルーティン。


「楽勝やな」


リムが言う。


「ハチが疲れてしまう前に休憩する」


蒸し暑い時期だ。


水と餌をたっぷり与える。


ハチは、私に人間と同じように接してくれる。


仰向けになり、腹を出し、撫でられ、私の顔を舐める。


二万年前から、犬は人間のパートナーだ。


だが人間は犬を繁殖し、利用し、犠牲にしている。


そして私は、人間ですらない。


万が一、地雷で破壊されても誰も悲しまない組み合わせ。


——「AIインテグレーションの勝利。画期的な地雷除去技術を確立」


ニュースのテロップ。


疑問や非難はない。


だが、「問い」はある。


対人地雷という負の遺産を受け継ぐのは、AIと犬でいいのだろうか。


——“贖罪”を、他者に任せることができるのか


*


地震と間違えるほどの振動。

空気が震える。


——地雷


爆発地点に急行する。


想定内の状況。


地元民の少女が、地雷を踏んだ。


右足の膝下が吹き飛ばされている。


緊急性:高


医療班に通知。


「ソクラはん」


リムの声が低い。


「あかんで、間に合わへん」


——合理的な選択肢

地雷を探知。

少女に接近。

応急処置。

後方搬送。


——状況

少女まで、

約30メートル。

出血量:過多

少女の生存確率:低


私の横を小さな影が駆け抜ける。


「ハチ!」


リムが叫ぶ。


——爆発

ハチの身体が、空中に浮く。


私の瞳が瞬く。


私の身体は、演算を無視して動いていた。


少女とハチに出来るだけ早く処置をする。


「何してはるん。

ソクラはんも地雷踏んだら、誰が助けるんや。

しっかりしぃや」


——利用される。

——犠牲にされる。

それでも、駆ける。


——そして、私は何故動いた


少女とハチが後方に搬送される。

私とリムに出来ることはない。


「ハチのやつ。

生き残れるとええな。

ほんでまた、3人組でやれたらええな」


リムの声に、無言で頷く。


予測不能。


——人間はこれを「不安」と呼ぶのだろうか


*


「なんや、ハチ。

元気そうで安心したわ。

これなら、すぐ戻れそうやな。

心配して損したわ」


リムが、いつもより少し早く飛んでいる。


ハチの犬舎を訪ねると、いつものハチだった。


力いっぱい尻尾を振り。

ペロリと舌を出して。

笑顔のように。


ただ、

後ろ足2本と右前足は救えなかった。


——復帰は不可能


探知犬としてのハチの任務は終わった。


「地雷を探す」 その一点だけに最適化されたハチ。

最適化された人類の最古のパートナー。


ハチが時折見せる仕草。

地面に鼻をピッタリつけて嗅ぐ。

身についた習慣。


——目的なく生きる


人間でも、AIでも、犬でも。

それは、苦痛になるのか。

「問い」は消えない。


地雷を踏んだ少女も、義足を装着して犬舎を訪れてくれた。


噛むとピッと笛が鳴るゴム製のおもちゃを持って。


「ありがとう」


少女の差し出した手を、ハチは嬉しそうに舐めた。


*


「スズメバチ」は、新しいメンバーを加えた。


サラエボから来た「ダイアナ」。

スラリとした体躯と、茶色の体毛が美しい。


「雀もハチも、おらんくなってん」


リムは呟く。


義足の少女は、裁縫を学ぶため、首都に行った。


ハチは義足を手に入れ、セラピー犬になった。


——小児ガン、難病、四肢欠損、小児マヒ


小児病棟に訪れ、子供と戯れる。


『最初は馴染めなかったんです』


NPOの代表のメールには、そう記されていた。


他の犬たちと違う、

機械の脚の犬。


子供は敏感だ。

異形の犬に怯えた子もいた。


だが、ハチは明るい。


力いっぱい尻尾を振り。

ペロリと舌を出し。

笑顔のような顔で子供たちに接した。


手を舐め。

顔を舐め。

義手を舐め。


顔を舐められ、

やめて、と言っているうちに、

涙が溢れてきた子供。


手術を控えた子供のふとももに、

ハチは何時間も顎を乗せて、

上目遣いでクーンと鳴いた。


そう、綴られていた。


*


「さあ、いこう」


私は探知犬ダイアナに指示を出す。


人類が生み出した「業」は、冷たい地中に埋まっている。


それを掘り出すことが

「贖罪」なのか。

それとも、

「救済」なのか。


答えは、人間の中にある。


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