呪いの消しゴム
ベッドの周りには、消しゴムのカスが小さな砂丘のように積み上がっていた。薄暗い部屋の空気には、ゴムと埃が混じり合った、鈍く重たい匂いが染みついている。爪はほとんど剥がれ落ち、血が滲んだ指の腹は、もう感覚がなかった。
彼女が手にしているのは、36個目。最後の1個だった。
「これで、終わり……」
掠れた声が、喉からかろうじて漏れる。
彼女は「呪いの消しゴム」の噂を信じていた。好きな人の名前を書けば恋が叶う、というありふれたおまじないの裏にある、もう一つの話。嫌いな人の名前を書いて使い切れば、その相手がこの世から消え去るという、おぞましい呪い。
この一週間、彼女は眠ることも、食べることもほとんど忘れていた。ただ、一心不乱に机に向かい、一つ、また一つと消しゴムをすり減らし続けた。最初に名前を消したのは、いつも彼女の教科書を隠した男子だった。その次が、彼女の悪口をSNSに書いた女子。3ダースの消しゴムは、まるで彼らの存在を、この世から少しずつ消し去るための砂時計だった。
そして、今、最後の1個。そこには、彼女を見て見ぬふりをした、あの担任の名前が書かれている。
ガリ、ガリ、と削るたび、彼女の体は限界を迎えていた。視界が白く霞み、頭がずきずきと痛む。それでも、彼女は手を止めない。残るは、あとほんの少し。
「これで、もう……っ」
かすかな光が見えた。扉の向こうに、彼女の居場所がなかった世界が、もうすぐ終わる。
最後の力を振り絞り、消しゴムを紙に押し付ける。
その瞬間、血に染まった指が、ぷつりと音を立てて感覚を失った。
彼女の体は、音もなく机の上に崩れ落ちた。握りしめた手から、まだ少しだけ残った消しゴムが、床に転がり落ちる。
誰にも気づかれることなく、彼女の息は静かに止まった。
その部屋には、もう彼女はいなかった。ただ、使い切られることのなかった最後の消しゴムと、血のついた小さなカスの山だけが、残されていた。
ーーーーー
「ねぇ、聞いた? ブス山、死んじゃったんだって」
「なにソレ?ウケる。自殺?」
「餓死らしいよ。今どき。ヤバいよね」
ガラリとドアが空き、担任が教室に入る。
「うるさいぞー、席につけー」




